宇宙刑事ギャバン全話解説
第16話 初恋は宝石の輝き さようなら銀河特急
脚本:上原正三
監督:小林義明
カマダブラー登場
冒頭はわかばの学校から始まった。
雨宮三郎なる少年(川崎直也)が転校してきたのだが、母・かすみ(木村有里)に車で送られて学校に来て、眼鏡を掛けた如何にもお坊ちゃんという感じの少年だった。それを強調する為の演出と云うのは分からないでもないが、さされた席(わかばの隣)に向かおうとしたところでいきなり悪ガキ2人に足を引っかけられた。
お坊ちゃんぽい転校生がいじめの標的にされ易いのは現実にもよくある傾向だが、真に子供に見せる番組であることを重視するなら、よくあるいたずらを「子供のやることだから」で終わらせず、叱責や懲罰に値する愚考であることをしっかり言及して欲しいものである。現実の世界でも、フィクションでもこの辺りに甘いことがいじめと悪ふざけの境界を曖昧にし、世の中の「見て見ぬ振り」を助長し、気付いた時には深刻化したり、世間からの非難をかわす為の隠蔽に繋がったりしている様にシルバータイタンには思われてならない。
いじめやいたずらを描くなとは云わない。実際にあることなのだから。ただ、描くなら描くで、それが悪行・愚行であることはしっかりと述べられて欲しいものである。
閑話休題。
実際、三郎は休み時間になっても教室の外に出ず、それを気に食わないとしたものか、からかわんとしたものか、最前のクソガキどもが強引に野球に誘おうとした。案の定三郎はそれを断ったのだが、意外なことに尚も連れ出そうとするクソガキの一人を投げ飛ばした。
経緯はどうあれ、これは先に三郎が暴力を振るったことになり、クソガキ三人と取っ組み合いになった。これを目撃したわかばが他の女児と共に止めに入り、幸い先生も見て見ぬ振りする人物ではなく、止めに入ったのだが、三郎はそのまま学校を飛び出してしまった。
途中、偶然ぶつかった烈を怯えたように一瞥するとそのまま家に帰ってしまった。クラス内で一悶着あっただけで家に逃げ帰る三郎も異常だったが、母のかすみも授業の途中で帰ってきたことではなく、一人で帰ってきたことを咎めていたのが異常だった。
そして家に入ると母は三郎を「ベン」と呼び、三郎は父と未知の言語(←少なくとも、英語・ドイツ語・ロシア語・中国語・ハングル・落語ではなかった)で会話を交わし出したので増々異様だった。
直後、烈が三郎の家にやってきた。自分を見る三郎の怯えに異常なものを感じ、後を追って来たのだが、突然青と白のストライプ模様のシャツを着た、水夫を絵に描いた様な屈強な男(長江英和)に殴られた。
男はかなり腕力に優れ、鋼材を軽々と振り回して烈に殴り掛かり、蒸着していない烈は明らかに腕力では推されていた。何とか蹴りを浴びせたところ、カマダブラーの姿が現れたのだった。
正体を現したカマダブラーは鎖鎌を得物にギャバンに襲い掛かったのだが…………はっきり云って、怪力を駆使した人間態の方が強そうだった(苦笑)。結局、飛び蹴り一発食らうと爆炎を煙幕にして撤収したのだった。
ドルギランに戻った烈はコム長官とマリーンから、三郎がぶつかった際に落とした水晶の様な物がレイク星の物であることを教えられた。レイク星とはバード星から15光年離れたところにある星で、コム長官は三郎がレイク星のドクター・バーンズの息子・ベンではないかと推測した。
名前の通り科学者であるドクター・バーンズは放射能汚染を除去する装置を開発していた。宇宙戦艦ヤマトの乗組員が知ったら、行先をイスカンダルから即座にレイク星に変えることだろう(笑)。
冗談はさておき、その能力故にマクーに狙われ、レイク星は核攻撃を受け、ドクター・バーンズは亡命したとのことで、当然彼は今もマクーに狙われている。故にコム長官はすぐにドクターを保護するよう烈に命じた。
ドクター・バーンズの存在を知った烈とミミーは雨宮邸に向かい、かすみ―三郎の母と思われたが、ドクター・バーンズの妻はレイク星で落命しており、この時点では正体不明となっていたーが外出したのを見計らって邸内に入り込んだ。
完全な不法侵入だが、ドクター・バーンズ自身、地球人ではなく、マクーの魔手から保護する目的から、宇宙警察的には緊急避難なのだろう。宅内にはトラップが仕掛けられており、それを躱してドクター・バーンズの元に迫った烈は宇宙刑事として彼をマクーから守ろうとしている旨を告げたが、バーンズの返答は人間の声に反応して発生するよう仕掛けられた録音データで、当の本人は既に死亡しており、そこにあったのは死体だった。
そしてこの間、ベンはわかばとデートしていた。
経緯は不明だが、ベンはわかばを信用出来る人物と見ていて、河川敷にある廃車に偽装した宇宙船に乗せてわかばに銀河宇宙を見せていた。それは前々からの約束だったらしく、わかばは初めて見る装置や宇宙の景色に喜んでいた。
小学生(にしか見えない者)が車を運転するのなら、クラクションを鳴らして「星君!」と云って欲しい所だが(笑)、三郎の運転も、車が宇宙空間を走行することも極自然に受け入れていたわかばも異様だった(苦笑)。
わかばが三郎と会うことを進一は「デート」と豪介に告げ、偶然出会った小次郎に対してもデートであることを否定しなかった。となると、サブタイトルにある通り、わかばは完全に三郎に対して恋をしており、その好意ゆえにすべてを純粋に受け止めていたと云える。「恋は盲目」と云うのとはチョット違うとは思うが、疑いの概念が全くなくなったとは凄い話である。
だが、そんな淡いロマンスはベンがマクーに襲われことで終わりを告げた。何かにぶつかったかのような衝撃を受けてベンとわかばは気絶。かすみに促されて気付いたベンはハンターキラーとダブルガールが見張っているのに気付き、わかばを置いて隠れ家に戻った。
当然、そこで烈・ミミーと鉢合わせたのだが、かすみは宇宙刑事を名乗り、ベンの名を出して保護を申し出た烈を全く信用せず、烈をそのまま地下室に閉じ込め、爆破してしまう始末だった。
地下室はベンが亡くなったドクター・バーンズの研究を受け継ぎ、続行していた場だったが、何のためらいもなくそれを爆破したのだから、ベンとかすみは余程逃げるのに必死だったのだろう。
幸い、烈はギャバンに蒸着することで爆撃を凌ぎ、ミミーもインコに化けて隙間から屋外に脱出した。それを見届けることなく必死に逃げるベンとかすみだったが、その二人の前にハンターキラー、ダブルガール、カマダブラーが立ちはだかった。
(既に故人であることを知らず)ドクター・バーンズの元に案内しろ、と強要するハンターキラーに呼応して二人を取り押さえに掛かったクラッシャー達だったが、かすみが頑強に抵抗した(ここでナレーションがかすみの名と、彼女が息子を守る為にドクター・バーンズが作ったアンドロイドであったことが述べられた)。
かすみの戦闘能力はかなり高く、クラッシャー達が敵ではなかったのは勿論、目から光線を発してカマダブラーの変身を解除させ、格闘では互角以上に渡り合った。だが、膂力では及ばず、最後には投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる形で破壊されてしまったのだった。
かすみを倒したカマダブラーはそのままベンを捕らえんとしたが、そこに今度はギャバンが立ちはだかった。ギャバンは突進してクラッシャー達を蹴散らすとそのままベンを救い、カマダブラーとの一騎打ちに及んだが、カマダブラーははっきり云って馬鹿力だけのダブルモンスターで、鎖鎌でギャバンの足を絡め捕るも、キック一発で振り解かれ、ぶっ飛ばされ、見かねたドン・ホラーが早々に魔空空間発動を命じる体たらくだった。
例によってギャバンはサイバリアンを召喚し、ナレーションがダブルモンスターが魔空空間では通常の三倍のパワーを発揮することを述べていたのだが、サイバリアンは魔空空間に達した途端に飛び降り、ホームレンジにおける優位さを見せる気配すらなかった。
既に言及している様にカマダブラーは馬鹿力のみのキャラで、鎖鎌を駆使しての攻撃は丸腰のギャバン相手に丸で功を奏さず、組み合ったときや、投げ技を決めた直後に少しだけ優勢を見せただけで、結局はレーザーZビームを食らった後に、レーザーブレード発動後即座に放たれたギャバン・ダイナミックの前に討ち死にしたのだった。
ただ、さすがに今回は勝利の心地良さで話を終わることは出来なかった。
宇宙服らしき装束に身を包んだベンは、追われる日々だった故にギャバンに不信の目を向けたことを詫び、握手を交わすと故郷レイク星を再度綺麗な星に戻す為に地球を去って行った。
勿論、わかばには正体も、地球を去った理由も告げないままである。初めて出会った日と同じ雨の日を最後に三郎に会えなくなったわかばは、三郎が転校したとしか認識しておらず、二人で楽しい時を過ごした廃車を前に静かに涙を流し、烈は同情するかのような笑顔で、無言で早過ぎる初恋を失った少女を慰めるのだった。
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令和六(2024)年四月一七日 最終更新