宇宙刑事ギャバン全話解説
第28話 暗黒の宇宙の海 さまよえる魔女モニカ
脚本:高久進/永井達郎
監督:田中秀夫
ハッコツダブラー登場
冒頭、場面は宇宙の辺境地・レア星から始まった。そのくらい荒野にて一人の老婆(飯田テル子)が十字架に架けられており、そこに不気味な笑い声を伴ってドン・ホラーが声を掛けて来た。
300年以上生きているとされる老婆の名はモニカと云い、宇宙をまたに掛けた殺し屋だったが、マクーの手でレア星に幽閉されていたとのことだった。地球外生命体の寿命が如何程のものかこの作品で語られたことは無い(と思う)が、どうやら魔女の生命力をもってしても寿命は後僅かの様だった。
ドン・ホラーは彼女に対して命の花を用いれば、永遠の若さを保てるとして、その代償にマクーへの協力を要請し、モニカはこれに応じた。まあ、長期間幽閉・拘束され、寿命が尽きようとしている状態に置かれれば、相当怪しい取引でも応じるのが自然だろう。
協力要請の内容は宇宙刑事ギャバンの暗殺である。宇宙刑事の名にほんの一瞬逡巡を見せないでもなかったモニカだったが、これを快諾。ハンターキラーが花弁から滴り落ちる滴をモニカの口腔内に流し込むとモニカは拘束していた鎖を引き千切る程の力と若さを取り戻し、いで立ちも黒衣の老魔女から、若きプリンス(吉岡ひとみ)に変じた。
場面は替わってとある公園。そこでは烈が浮かぬ顔をしていた。その理由はミミーが待ち合わせに遅れていたからで、到着したミミーに一瞬嬉しそうな顔をしつつも、すぐに遅刻を咎める仏頂面になった。
ただ、ミミーが遅れたのはその日誕生日だった烈へのプレゼントを選んでいてのことで、それを聞いた烈はすぐに機嫌を直し、プレゼントである赤いバラの花束を受け取った。
だが、次の瞬間、バラは突然枯れてしまった。驚く烈とミミー。ミミーは不手際(?)を詫びるとすぐに新しいのを買うとしてその場を去った。怪訝な顔をしていた烈は薔薇の中に「ギャバンを愛してます。ミミー」と書かれたメッセージカードを見つけた。
この作品においてミミーがギャバンに(密航して地球について来る程)惚れていたのは明らかだが、ギャバンの気持ちは今一つはっきりしない。ただ、このシーンを見ている限りはまんざらでもない様だった。
余談だが、当全話解説において、シルバータイタンは蒸着前の人間態を「烈」、蒸着後の宇宙刑事スタイルを「ギャバン」と分けて表記しているが、ミミーは牧場仲間を前にしたときなどの僅かな例外を終始、姿に関係なく彼を「ギャバン」と呼んでいる。
表記をややこしく思われる閲覧者の方々もいらっしゃると思われるが御容赦願いたい。
だが、突然瑞々しかったバラが枯れると云う事態からその後何も起こらない筈はなく、花を再度買いに向かったミミーは命の花があるのに気付き、それを(ギャバンへのプレゼントのために)採ろうとしたところで目の前にモニカとハンターキラーが立ちはだかり、自分がいつの間にか古びた洋館の前に立っていることに気付いた。
ミミーに悲鳴を聞いて駆け付けた烈は辛うじてミミーが洋館内に拉致されるのを阻止したが、ミミーはモニカの放ったボウガンの矢を背中に受け、重傷を負った。当然そんなミミーを抱えて戦う訳にはいかず、烈はミミーを連れて撤収。これを追おうとしたモニカを、「またやって来る。」としてハンターキラーが制止した。
ミミーが、娘が重傷を負ったとの報を聞いてコム長官は即座にマリーンと共に地球にやって来た。ミミーは息絶え絶えの意識混濁状態で、彼女の負傷を詫びる烈にコム長官は責めることなくミミーの容態を解説した。
それによると、矢には宇宙トリカブトと宇宙毒蛇の猛毒を混合した猛毒が塗られており、このままではミミーは化石となって死ぬとのことだった。そしてミミーを救う為の方法は、モニカが欲し、マクーとの取引材料とした命の花だった。
モニカが取引に応じただけあって、命の花は稀少なもので、宇宙の辺境に100年に1度しか咲かないとのことで、そんなものをどう入手したものかと顔を曇らせるコム長官だったが、烈は長官がモニターに映した画像を見て、敵の女=モニカがそれを持っていたことを告げた。
驚いたコム長官が、「どんな女だ?!」と問い、それに烈が答えたのが、「黒いマントを着た美しい女です。」……………そんな女、世にごまんといるだろうに………と思っていたら、コム長官はそれだけの手掛かりでモニカを特定した(笑)。
まあ銀河連邦警察には宇宙をまたに掛けた犯罪者のデータベースがあって然るべきだろうし、実際、長官が特定したと云うよりは、考えられる人物の画像を出した瞬間に烈が「この女です!」と証言した訳で、たまたま最初の一人が当りだったと見れなくも無いが、現実の犯罪者が衣装一つで特定出来たら捜査は物凄く楽になると思う(笑)。
ともあれ、マクーが一目置くだけあって、コム長官もモニカのことは知っており、「手強い奴が敵に回った。」と評した。そしてその難敵が持っている命の花を奪う為、マクーに挑むとする烈にコム長官は罠の待ち受ける場に飛び込む行為であることを伝えたが、烈は躊躇わなかった。
まあ、ミミーを救うためのタイムリミットが「日暮れまでだ。」とあっては、さしものコム長官も罠を承知で飛び出す烈を止めることは出来なかった。
果せるかな、洋館に潜入し、命の花を咥えた(文字通り)見え隠れするモニカを追う烈だったが、そこにハッコツダブラーとクラッシャー達が立ちはだかった。
ここまで見て、正直、マクーの立ち居振る舞いにがっかりした。ハンターキラーが推測した様に烈はやって来た訳で、烈が来ると分かる以上罠を張るのが有効な手段で、コム長官もそれを懸念した(それでも行かざるを得ないことも踏まえて)。
だが、マクーのやったことは只の待ち伏せ。落とし穴や釣天井の一つでも仕掛けておいた方が絶対効果的だったろうに………。そして烈がギャバンに蒸着するとハッコツダブラーとクラッシャー達はあっさり蹴散らされたのだった………。
やがて烈は、屋外は断崖に出た。そこで烈に対して「お前が宇宙刑事ギャバンか?」と問い掛けるモニカ。「さっき顔合わせたじゃん。」と突っ込みたくなるが、まあ、蒸着した後の姿を見たのはこの時が最初か(苦笑)。
ともかく、姿を見せたモニカは宇宙刑事が大嫌いだと告げた。というのも、過去に愛した男が宇宙刑事で、その宇宙刑事は自分を人質とした殺し屋を討つ為に彼女を見殺しにしたことがあった。
結局、無我夢中で銃を乱射して抵抗したことで宇宙刑事も殺し屋もその場で落命し、傷心のモニカは殺し屋として宇宙を彷徨う日々を送ったとのことで、それがトラウマで「正義面した宇宙刑事が大嫌い」になったとのことだった。丸で、「教師に信用されなかったから、教師なんて全員嫌い。」と云う現実の不良学生みたいに見えなくもない。
ある職の人に嫌な目に遭わされたからと云って、その職に携わる人全員を敵視するのは考え物だが、分離して考えるのはどうも難しいようだ。現実であれ、フィクションであれ。
ともあれ、モニカは命の花を欲しければ取れ!と烈に云い放って空中に放り投げるとそれを掴まんとした烈にサーベルや鞭やボウガンや銃で攻撃を仕掛けた。そして命の花を奪い奪い返される応酬の果てに烈は足を滑らせ、崖下に転落したのだった。
Bパートに入り、烈の落ちた崖下を眺めて歩くモニカだったが、その顔に喜びの表情は無かった。どうも恋人に裏切られた自分と、恋人の為に命を張った烈に想うところが合った様で、「でかしたぞ!」と云うハンターキラーに「お前達に何が分かる!?」と云って、平手打ちを食らわせた。勿論モニカの気持ちなど知る由もないハンターキラーは戸惑いながらも、ドン・ホラーに忠誠を誓った以上、反抗は許さんとした。それに対しても、「お前など命令される覚えは無い!」とするモニカは、自分の忠誠はあくまでドン・ホラーとの契約で、それ以外の者からの余計な口出しは無用とした。
これを受けてハンターキラーは、モニカが自分に取って代わるのではないかと邪推し、背後から剣を投げ付けると(←さすがはボイザーと銀河連邦警察を裏切った小物だ(苦笑))、マクーに逆らう者は許さないとした(←マクーじゃなくて、自分だろうに(苦笑))。
剣はモニカの背中に刺さり、御丁寧にも毒が塗られておあり、モニカは牢獄に閉じ込められた。その毒もミミーに打ち込まれた猛毒同様、命の花を用いれば解毒出来るとのことだったが、ハンターキラーは牢内のモニカからは手の届かないところにそれを置き、彼女を苦しめた。うーん……外部協力者との対比もあってか、この第28話はハンターキラーの小物振りが顕著な回だ(苦笑)。
そしてモニカ同様、命の花による解毒を必要とするミミー。ドン・ホラーから花が欲しくばギャバン殺せと唆される悪夢に苦しむ娘をコム長官はマリーンと共に見守るしかなかった。
つまりは命の花を取りに行ったギャバンだけが頼りだった訳だが、そのギャバン=烈は勿論死んでなかった(笑)。さすがに高所から転落してそれなりの負傷は避けられなかったようだったが、日暮れのタイムリミットを考えると痛む体を叱咤してでも命の花を求める他なかった。
程なく、烈は牢獄に閉じ込められたモニカと、その傍らにある命の花を見つけた。だが、命の花は烈の位置からも手が届かなかった。自身重傷の身で牢の扉を何とかする烈を見て何故そこまでするのか?と問うモニカ。
それに対して烈は自分の命よりも大切なミミーを助ける為だと答えた。ミミーが聞いたら、泣いて喜んだだろうなあ………(しみじみ)。それを聞いて、モニカは愛と云うものをとっくの昔に忘れてしまっていたとしたが、烈は彼女が今でも昔愛した宇宙刑事を忘れていないとした。確かに一見憎しみに見えても愛しているからこそ忘れていないと云えなくもない。愛と憎しみは表裏一体という事だろうか?別の云い方をすれば裏切られたことで憎しみすらなく忘れてしまうようなら、愛情もその程度だったと云えるのかも知れない。
烈は重ねて「冷酷無惨な女殺し屋なんかじゃない。」と云って、モニカを牢から出そうとした。自分を殺そうとした女を助けんとする烈に驚愕するモニカ。ともあれ、烈は騒ぎを聞きつけて駆け付けて来たクラッシャー二人を張り倒すと鍵を奪ってモニカを連れてアジト外に出た。勿論モニカの手には命の花が握られている。
だが、重傷のモニカを連れての逃避行は容易ではない。自力での身動きがままならないモニカは烈に自分を捨てて命の花をミミーの元に持って行くよう促した。勿論そんなことが出来る烈ではないのだが、モニカは愛の大切さを思い出させてくれた烈に感謝し、思い残すことはないとした。
そして命の花の力でモニカを助けようとする烈を押し留めた。命の花の効果は一回限りだと云うのである。確かにモニカが自分のことだけしか考えていないのであれば命の花を自分に使わせて生き延び、二度使えないことを「知らなかった。」と云えばいい。だが、正直に一回しか使えないことを話し、自分が命を失うことになっても烈にミミーを助けて欲しいと願ったのだから、この時点でのモニカの言に嘘偽りはなく、完全に殺し屋稼業から足を洗っていたと断言出来る。
だからと云って、「はい、そうですか。」と云ってモニカを見捨ててミミーの元に急行出来る烈ではない。そんな烈に対して、追手の気配を察知したモニカは無理矢理烈に花を押し付けて自身は別の方向に駆け出した。そして追って来たハッコツダブラーとクラッシャー達を迎撃した彼女はハンターキラーの投げた頭蓋骨型の爆弾を受けて爆死したのだった………。
怒り心頭の烈は、「マクー!人の命を何だと思ってんだ!?!」と叫び、命の花を口に咥えると蒸着した。マクーと云う組織や、構成員の面々を顧みれば、こいつ等にこんな怒りをぶつけても無駄なのは分かるが、それでも叫ばずにはいられない怒りの声だった。
父を裏切ったハンターキラー、数々の悪事を主導した元締め・ドン・ホラー、と常日頃からマクーは烈にとって不倶戴天の敵で、大いなる怒りの対象だった訳だが、改心したモニカの死は尚大きな怒りを抱かざるを得ない出来ことだったのだろう。
蒸着を終えたギャバンに頭蓋骨型の爆弾を投げ付けたハッコツダブラーだったが、ギャバンを空中でこれをキャッチして投げ返した。当然、爆弾はハッコツダブラー達の側近くで爆発し、クラッシャー達を一掃。追い打ちのスパイラルキックを杖でギャバンを叩き落とすことで防いだのはなかなかだったが、自身も転倒した(笑)。
どうも格闘ではギャバン劣るようで、人櫓を組んでギャバンに突進したハッコツダブラーだったが、シルバービームで崩され、今度はスパイラルキックをまともに食らった。
当然この体たらくにドン・ホラーは魔空空間の発動を下知。そしてこれまた当然の様にギャバンはサイバリアンを召喚して魔空空間に降り立った。うーん、今更だが、サイバリアンが魔空空間に降り立つ為のピンポイント足場的な立場と出番でしかない………OP映像の最後を締め括る存在なのだから、もう少し別の活躍があっても良い気がする………。
まあ、それはそれとして、このハッコツダブラー、やはり格闘は得意ではない様で、ホームレンジである魔空空間に在って尚、自身の得物である棒を掴まれてギャバンに投げ飛ばされるわ、三度目のスパイラルキックを為す術無く食らうわ、でほぼ相手になっていなかった。
円盤群の加勢を受け、自身も搭乗したが、案の定、電子星獣ドルのドルファイヤーとドルレーザーに一掃され、機外に叩き出された。その後、ある程度は骨状の瓦礫で攻撃出来るシチュエーションや骨に化ける特殊能力を駆使する等の方法で抵抗するハッコツダブラーだったが、罠はエレクトロソナーで察知され、レーザーZビームに防がれ、ディメンションボンバーを一度目のスパイラルキック同様に棒で叩き落したのはまだ頑張った方だったが、例によって決定打となる攻撃は為せなかった。
そしてサーベルを抜いたギャバンは、久々にレーザーブレードのテーマ・「襲撃II(BG11)」をBGMに撃剣を展開。忽ちハッコツダブラーの棒を断ち切り、ハッコツダブラーが曲刀を抜くやレーザーブレードを発動し。正眼同士での打ち合いからハッコツダブラーの胴を払い、左肩に斬撃を食らわすとそのまま数秒に渡って押し付け、しばし対峙すると前方宙返りからのギャバン・ダイナミックで粉砕した。
うーん……常々このBGMはカッコ良いと思っていたが、何話か空いて聴くとまた格別だった………このBGMを数多ある特撮番組の中でも屈指のカッコ良さと思うのはシルバータイタンだけではあるまい。
勝利を収めたギャバンの左手には命の花が握られていたが、背景はいつもの青空なので、日暮れはまだ来ていなかったことが分かる(笑)。命の花から搾られた滴はミミーの口腔内に注ぎ込まれ、ミミーの顔色は見る見る良くなると意識を取り戻した。
それを見て安堵のため息を漏らすコム長官…………時代劇客演時の西沢氏では決して見られない笑顔だ(笑)。
烈はミミーの命を救った命の花がモニカから譲られたものであったことを告げ、その途中、命の花は枯れ落ちた。モニカが云っていた様に、命のエキスを使い果たしたのだろう。そしてイルミネーションに彩られた夜景の中、歩道橋の上で夜空を見上げていた烈とミミーは眼前に走った一筋の流れ星をモニカの魂かも知れないと思いつつ感慨に耽って第28話は終結したのだった。
余談だが、このどこかに一途さを捨て切れなかった哀しき殺し屋・モニカを演じた吉岡ひとみさんは、後番組である『宇宙刑事シャリバン』にて宇宙犯罪組織マドーの大幹部・ドクターポルタ―としてレギュラー出演された。レギュラーとしての悪役、単発としての悪役、いずれにもどこか「女」を捨て切れない吉岡さんの演技を比較してみるのもまた一興と云えよう。
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令和六(2024)年四月一七日 最終更新