宇宙刑事ギャバン全話解説
第31話 天使の歌が聞こえる 人形にされた王女
脚本:上原正三
監督:小林義明
サイミンダブラー登場
冒頭、前話である第30話に登場した宇宙刑事アランと同じ服装をした少女(ポーラ・エドワーズ)が半透明の円盤に追われ、逃げ惑っていた。他にも宇宙服のヘルメットみたいな仮面に赤フード・黒フードを纏った二人組が彼女を追っていた。
場面は替わって魔空城。そこでは魔女キバが少女の名―リン王女が逃げたとの報告を受けていた。キバによると、彼女の出身地であるビーズ星は「ダイヤモンドの宝庫」とのことで、そのビーズ星を意のままにするには何としてもリン王女を活かして返さないことが必要で、その為にキバはワーラなる人物を召喚するよう告げた。
そのワーラ(潮健児)とは、例えて云うなら中世ヨーロッパの少々裕福な旅人風のいで立ちをした、顎髭面の怪人物で、その名が出たときは巨大な廃タイヤの中で寝ており、身分・技量・目的が何とも読み辛い者だった。某暗黒結社の幹部に似ている気もするが、気のせいだろう(笑)。
そしてワーラはキバの呼び掛けが聞こえていたようで、気怠そうに起き上がると、自分が行動を起こせばリン王女を捕らえることなど容易いとして、大きな頭陀袋をぶちまけるとその中からは遊園地に居そうな犬・ウサギ・パンダの着ぐるみが現れたのだった。
一方、そのリン王女だが、彼女を保護する事こそがアランの使命だった。
だが、逃げる王女の所在をアランも掴んでおらず、その捜索にギャバンも協力していたが、容易な話ではなかった。何せリン王女の叔父、つまり父王の弟がマクーと結託し、自分の息子を次期王に据えようと画策しており、そこから思うに、身内が信用出来ない状態に置かれている故に王女は唯一人で逃げ惑っているのだろう。そういう人物の捜索は敵にとっても味方によっても容易ではない。
ともあれ、このままではビーズ星はマクーの意のままに操られることになると危惧するアランは王女を保護するまでビーズ星には帰れないとしていた。
そして場面は替わって富士急ハイランド。特撮番組御用達遊園地である(笑)。
園内をリン王女は見慣れない乗り物に戸惑いながら、時折赤装束・黒装束の姿を見掛けては設備の陰に隠れる様にして移動していた。しかし、リン王女にしても、追手の二人組にしても、その一般人離れしたいで立ちを周囲の観客が誰も気にしていなかったのが凄かった(笑)。
程なく、ミラーハウスに逃げ込んだリン王女だったが、そこにはワーラが召喚した着ぐるみ達が待ち構えていた。そして遂にワーラに捕らえられ、催眠術の様な物を掛けられると王女の姿は木偶の様に変化したのだった。
ワーラは人形化した王女を着ぐるみ倉庫のような場所に安置すると、その目が赤く光ったのを見て、アランが近くに迫っていることを察知した。魔女キバとも旧知なだけあって、宇宙刑事であるアランのことも知っていた訳で、宇宙をまたにかけた犯罪者の中でもかなりの立場にいる者と伺えた。
そしてワーラはクラッシャー達と共にアラン、及び彼に同行していた烈を襲撃した。それはジープ目掛けて爆薬を投げ付けると云う強襲で、クラッシャー達が次々と二人に襲い掛かった。
勿論、クラッシャーなど何人いても、それに遅れを取る宇宙刑事たちではない。ましてアランは銃器まで駆使していた。だが、ワーラ御用達の着ぐるみ達が姿を見え隠れさせながら取り押さえに掛かり、そこにワーラが短剣を投げ込むと云う攻撃にはアランも手を焼き、やがてワーラの投げたマントが絡みつくようにしてアランの動きを封じると、ワーラの放ったクロスボウの矢が命中した。
矢が当たったのは大腿部で、致命傷となる様な個所ではない。だが、毒物でも塗ってあったのか、矢が当たると丸で電流でも走ったかのような赤く細い線が体中を蛇行するエフェクトが為され、アランは苦悶の表情を浮かべた。
とどめとなる一射は横合いから烈が飛び込んだことで回避されたが、そのまま戦う訳にはいかないと見たものか、烈は抱き合うように坂道をアランと共に転げ落ちるとそのまま戦線離脱してアランをドルギランに連れ込んだのだった。
さて、ここで少し余談。
第13話(声のみ)、第14話に続いてこの『宇宙刑事ギャバン』に客演した潮健児氏が『仮面ライダー』の地獄大使を初め、特撮番組を初め幾つもの番組で悪役をこなしてきたのは周知の通り。そして前話である第30話の解説でくどいぐらい触れた様に、宮内洋氏は幾つものヒーローを歴任した。
その日本特撮界において、名高い善玉俳優と悪玉俳優は昭和51(1976)年5月8日『秘密戦隊ゴレンジャー』第50話おけるアオレンジャー・新命明VS鉄ワナ仮面人間態の対峙以来、6年半振りの対峙となった。
だが、何と云っても特撮史における両者対峙の恒例は、昭和48(1973)年8月25日『仮面ライダーV3』第28話における仮面ライダーV3と地獄大使の対峙であろう。このとき、地獄大使は拘束されたV3の観察をデストロン戦闘員に強要し、逆にV3に捕らえられて人質にされ、V3解放の要因を為してしまい、同じ幹部仲間からも「何という様だ!」、「このおっちょこちょいが!」と痛罵されていた。
謂わば、「地獄大使」にとっては、9年3ヵ月越しで、「V3」に一泡吹かせたことになる。こういうのを、「江戸の敵を長崎で討つ。」と云うのだろうか?(←道場主「云わへん、云わへん。」)
閑話休題。ドルギランに連行されたアランの矢傷は致命傷ならずとも、痛みがひどい様で、リン王女救出に逸るアランは何度も床から立ち上がろうとしたが叶わなかった。勿論烈もリリー求めたが、「じゃあ、頼む…。」という様なキャラクターを宮内氏が演じたら、多くの特撮ファンが顎を落とすだろう(笑)。
「私の使命…。」として何とか立ち上がろうとしながら気絶してしまったアランだったが、やがてその脳裏には人形にされて尚助けを求めるリン王女の念波がテレパシーとなって届き、遂には烈とリリーの目を掠めてドルギランを脱していたのだった。
その後もリン王女は木偶状態になったり、寂しく人形を抱きながら故郷の歌を歌ったり、といった動静を繰り返したのだが、その背後にはワーラの目が光っていた。そしてそこにキバとサン・ドルバもやって来て、アランが近づいていることをワーラから知らされたキバは何か悪企みを思いついたように木偶状態のリン王女の鼻を突きながら下卑た笑いを浮かべていた。
一方のアランはテレパシー頼りに再度富士急ハイランドにやって来た。開演時間前か、休演日かは不明だが、観客が一人もいない園内にて王女の行方を求めてさまようアランだったが、メリーゴーランドに乗るリン王女を見つけたと思った次の瞬間、ワーラ&クラッシャー達の襲撃を受けた。
例によって、雑兵であるクラッシャー達に遅れを取るアランではなかったが、棒術や怪光線を駆使するワーラには(負傷していたこともあるとは思われるが)明らかに劣勢に立たされた。
だが、そこに烈が乱入。これに対してワーラは念動力で烈の体をお化け屋敷に放り込み、人形に扮したクラッシャー達が襲い掛かったが、まあ、時間稼ぎが関の山だったな(苦笑)。
一方、加勢を断たれたアランだったが、早川健風の衣装を脱ぎ捨て、宇宙刑事のいで立ちになるとサーバルを抜くや、それまで劣勢を強いられていたワーラに対して互角に渡り合う様になった。まあ、仕事し易いスタイルがあるという事だろう。
程なく、烈も戻って来た再加勢し、2対1の有利になるとワーラはジェットコースターに拘束されたリン王女の身柄を指し示した。コースターの席上で助けを求めるリン王女は別段縛られてもおらず、ただ座らされているだけに見えたが、後から現れたキバによるとコースターはそのまま魔空城に行くとのことで、上空にはマクー関係者が魔空城との行き来に使用している宇宙船が浮かんでいた。
アランが狼狽える横で烈はコースターに飛び移ってリン王女を助けんとしたが、それを阻止すべくキバが念動力を放った。前話でギャバンを金縛りにすることも可能とした念動力は強力で、烈の体のみならず、それを取り押さえんとしたアランの体までキバとサン・ドルバの元に引き寄せて行った。
アランは片手で烈の体を掴み、もう片方の手で遊具の柱にしがみつき、念動力に必死に抵抗した。
二人の宇宙刑事が身動き出来ずにいる様を見たキバはワーラを促すと、ワーラはダブルモンスター・サイミンダブラーとなって二人に襲い掛かったが。それにより、烈はアランと引き離されることで振り解かれたが、ギャバンに蒸着し、白い球体となってキバ、サン・ドルバ、クラッシャー達の体を掠めるとコースターに飛び乗り、木偶化したリン王女を保護するとその体をアランへと投げ寄越したのだった。
王女の身柄が奪われて一瞬悔しそうな顔をしたサン・ドルバだったが、気を取り直したように、サイミンダブラーを倒さない限り王女の体は元には戻らないと云い放った。まあ、ただこのワンパタはヒーローの戦意を高揚させると云う逆効果しか産まない(笑)。ギャバンは次々にクラッシャー達を蹴散らし、サイミンダブラーとの一騎打ちとなった。
サイミンダブラーは強いとも弱いとも云えなかったが、程なくドン・ホラーは魔空空間発動を下知。例によってギャバンはサイバリアンを召喚して魔空空間に降り立ち、サイミンダブラーが円盤群に搭乗して襲撃すれば電子星獣ドルを召喚してドルレーザーでこれを円盤外に叩き落した。
そのまま戦うのを不利と見たものか、サイミンダブラーは岩に擬態する能力を駆使し、落石となってギャバンに体当たりしたり、採石場内に身を潜ませたりした。レーザースコープでサイミンダブラーの所在を見破ったギャバンは最近出番の増えてきているギャビオンを召喚。それに登場して残る円盤群を一掃すると岩に擬態したサイミンダブラーにも光線技を浴びせた。
これを受けて岩山内に遁走するサイミンダブラーだったが、ギャバンはキャビオン内から第10話以来のスクーパーを召喚し、岩盤を掘り抜いてサイミンダブラーを追い詰めた。そして両者は撃剣を展開。剣による撃ち合いはどちらが優勢とも劣勢ともつかなかったが、ギャバンがレーザーブレードを発動するとその後の勝負はー互いに剣を構えた睨み合いも挟まれたが−一貫してギャバン優勢で進み、ギャバン・ダイナミックでサイミンダブラーは粉砕されたのだった。
サン・ドルバが云っていた通り、サイミンダブラーが斃れるや、リン王女は木偶状態から生身の体に戻り、アランの名を叫んで駆け寄るとアランはこれを優しく抱き留め、両者はハグを交わしたのだった。
そしてラストシーン、二人の宇宙刑事は互いが世話になったことに礼を述べつつ固い握手を交わし、リン王女も烈に礼を述べるといつかは自分の星に来て欲しいとした。
程なく、アランは王女をエスコートする様にメリーゴーランドに乗り込み、丸でそれが宇宙船への登場であるかのように二人はビーズ星に向かっていき、かくして二人の宇宙刑事が友情と熱き思いを交わした前後編は終結したのだった。
次話へ進む
前話へ戻る
「宇宙刑事ギャバン全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る
令和六(2024)年四月一七日 最終更新