宇宙刑事ギャバン全話解説
第34話 思い出は星の涙 父のない子 母のない子
脚本:上原正三
監督:小笠原猛
ドクターダブラー登場
冒頭、宝石店の支配人・岩井(水村泰三)が道を尋ねているのを装った女―恐らくダブルガールに毒針で刺されてマクーに拉致された。
岩井支配人が意識を取り戻すと、妙な椅子に拘束され、眼前には医師風の男(太刀川寛)と女医風の女が不気味に笑っていた。自らの置かれた境遇に狼狽する岩井支配人は何者かと問うが、医師風の男はそれを無視して何らかの機械を発動させた。
機械から放たれた怪光線には自白効果があるようで、苦悶の中、岩井支配人は問われるままに自分の身元身分を応え、医師風の男は満足気に頷くと、「お前はマクーだ。」と云って、岩井支配人にマクーの一員であり、マクーに忠誠を尽くすことを暗示した。
場面は替わってとある河川敷。そこでわかばと陽一が愛犬・シローを散歩させていたのだが、陽一は途中で立ち止まると野球に興じる仲の良い親子を羨ましそうに見つめていた。陽一が亡き両親を思い出し、寂しい想いに囚われていたのは明らかだった。
うちの道場主は小学校一年、中学校二年、高校一年時に同級生が父親に死なれるという不幸に見舞われたことがあった。母方の叔母の旦那が事故死した際、従弟妹達はそれぞれ六歳、四歳、三歳で父を失っている。勿論そんな例は世にごまんとあるのだが、小学校低学年と見られる年齢で両親双方に死に別れている不幸と云うのはチョット想像がつかない。
両親(五代俊介・松山薫)とともに一家でボートに乗っているシーンを思い出していた陽一は、仲の良い親子を見ている内に八つ当たりで犬に石を投げ付け、それを咎めるわかばにも反抗的な態度を取っていた。既に全話解説を制作済みだから余計にそう思うのかも知れないが、『ウルトラマンレオ』にて、幼い身で両親にーそれも惨殺されると云う形で死に別れた梅田兄妹を思い出すと言葉も無く、陽一が親に甘える同世代の子を見て、羨ましさから多少感情が暴走するのも止むを得ない気もする(勿論だからと云って何をしても良い訳ではない)。
ちなみに全然関係ないが、陽一が羨んでいた一家の母親を演じた女性は太地琴絵さんで、普段ホラーガールの声を当てている。チョット想像つかんな………(苦笑)。
その後、わかばを振り切って駆け出した陽一だったが、散歩途中だったシローの姿を求めて走り回っている内にマクーの車に乗り込もうとしていた岩井支配人を見掛けた。岩井支配人の子と偶然友達だった陽一は声を掛けようとして、横合いから出来てた例の医師風の男に取り押さえられてしまったのだった。
かかる展開を受けると、普通は拉致されると想像するところだが、陽一はアバロン牧場に帰宅した。だが、茫然自失状態で、豪介によると、突然(既にこの世を去った筈の)両親が何処かと尋ね、両親と一緒に映っている写真を引っ張り出して来たのだと云う。これが故志村けんの「飯はまだか」コントなら、いしのようこさんの「三年前に死んだでしょ。」が連想される訳だが(苦笑)。
まあ、それはさて置き、二年前に両親に死なれた陽一は、年齢からして既に両親が死んだことを理解出来なかったり、忘れたりする年齢でもない。
にもかかわらず、写真を見ては両者が早く帰って来ないかとぼやき、わかばが二人は二年前に死んだと云っても「嘘だ!」と反論する。視聴者的にはマクーに記憶操作されたことが想像出来るが、烈達には訳が分からない。
そしてしまいに陽一は泣き出し、それを見たわかばも、自身小学生の身で両親を失った悲しみを思い出し、泣き出さずにいられなかった。それを見ていた豪介は、「いい加減にしろ、二人とも!儂ゃメソメソする奴が大嫌いじゃ!」と云って二人を叱りつけたが、居た堪れない様子だった(豪介とて息子夫婦に若くして先立たれていると云う事実がある)。さすがにこれがマクーによって意図的にプロデュースされたものだと云うのであれば、この第34話におけるマクーに対しては数々の特撮番組に登場する悪の組織と比しても底なしの怒りを感じずにはいられなかった。
ともあれ、陽一の台詞から、烈は陽一の記憶が過去のある地点を境に、現在までのそれが失われていると見た。
ドルギランに戻り、陽一の様子が解せない烈にマリーンは、父母に遇いたい気持ちが昂じて、それが、二人が既に死去していると云う記憶を消したのでは?と推測していた。
そんなシンキングタイムは事件発生を知らせる警報音で中断され、出動した烈が見たのは逮捕され、パトカーに連行される岩井支配人の姿だった。何でも店の宝石をすべてマクーに渡してしまったとのことで、罪状は業務上横領という事になるのだろう。
マクーの為にそこまでする岩井は完全に洗脳されており、連行される途中、手錠を架けられた両腕を挙げて「マクー万歳!」と叫んでいたのだが……………犯罪組織が公衆の面前で組織名を叫ぶような洗脳をしちゃいかんだろうに(苦笑)。
ともあれ、烈は野次馬の中に怪しい男―岩井を洗脳した医師風の男―がいるのを見止めて、尾行した。男は烈の視線に気づいて目を逸らすことで烈に怪しまれていたので、「阿呆か…。」とも思ったが、云い換えれば烈に気付いていた訳で、公園のような所で烈は撒かれてしまった。
そして気が付くと前後を四人の浮浪者風の男に挟まれ、四人は突如として武器を取り出すと烈に襲い掛かって来た。まあ、正体はクラッシャーだろうから(笑)、烈が遅れを取る気遣いは無いのだが、そこに物陰からドクターダブラーが10本近い吹き矢を縦一列に吹き付ける攻撃を仕掛けて来た。これを受けて烈はギャバンに蒸着したのだが、ドクターダブラーはサン・ドルバの合図を受けて即座に撤収したのだった。
場面は替わって魔空城内。そこにサン・ドルバとドクターダブラーが現れ、ドン・ホラーに、岩井支配人を専横しての宝石奪取の成功、如何なる人間もマクーに有利な記憶へ改竄することが可能で、これにより更なる利益が生めると報告した。
ドン・ホラーもこれには満足な様で、更なる利益をマクーにもたらすように命じると、そこに魔女キバが現れ、作戦のせいかは自分の立案によるものであると自慢したのだった。
Bパートに入り、場面はアバロン牧場。
相変わらず陽一は父母の写真を前に父母に会いたがっていた。その想いを直接口に出す訳では無く、ひたすら寂しげに童謡を口ずさむだけなのだが、恐らくは亡き両親との想い出の曲なのだろう。それを遠巻きに見ていたわかばの方が居たたまれなくなって、「止めて!」と叫ぶや陽一を抱いて滂沱に暮れるのだった。そしてそれを遠巻きに見ていた月子と当山も辛そうだった。直接的な死を描いた訳ではないが、悲しみの描写としては『宇宙刑事ギャバン』の中でもっとも悲しい場面の一つではなかろうか。
そしてその頃、豪介は川で釣り糸を垂れていたのだが、様子を伺う烈に豪介は祖父である自分が料理や授業参観に尽力しても代理に過ぎず、親にはなれないことを嘆いていた。豪介を演じる多々良純氏は、所謂「年寄りが五人いれば必ず一人はいる頑固爺い」を演じさせるにぴったりの俳優さんで(笑)、実際この作品でも孫を甘やかすシーンは殆んどなく、鍛えようとしている描写の方が多いのだが、その反動か、多々良氏が寂しさを演じるときは得も云えぬものがある。
烈は例え代理でも豪介は二人の為に出来る限りのことをし、二人の孫もそれを慕っているとして豪介を励ますのだった。
豪介は、「儂だってもう一度会いたい。息子や嫁にな。」としていた。恐らく一人河原にいたのも、そんな寂しげな姿を周囲に見られたくなかったからだろう。
そしてそんな烈達の悲しみ・寂寥感を他所に、マクーの暗躍は続いた。否、暗躍の域を出ていた。マリーンが提示した新聞には国防軍の警備隊長がマクーと結託して武器を横流しして逮捕されたという物で、実行犯は逮捕されたものの、洗脳された下っ端に過ぎず、肝心の武器はマクーの手に渡ってしまっているのだろう。
印象的だったのは、新聞にはっきりと「マクー」の名が書いてあることで、岩井支配人が逮捕された際、「マクー万歳!」と叫んでいたことへの揶揄を上述しているが、これを見るともはやマクーが自分達の存在を隠す気が無く、隠さずともやっていける組織力を持っていることが伺えた事である。それとも、地球を略奪源としか見ておらず、歯牙にも掛けていない故、組織名が出ることを意に介していないという事だろうか?
警備隊長もまた岩井支配人同様、「マクー万歳!」を叫んでいた。考えて見りゃ、第2話の段階で国際機関を相手に脅迫をしていたのだから、地球なんてマクーに従って当然と思っているのかっも知れない。服従する相手に名前を伏せる必要など無い訳で、いずれにしても地球人としては随分見縊られた、面白くない話である。
そして烈は、岩井支配人と警備隊長の二人がマクーに記憶を操作されたと踏み、陽一もまたそうではないか?と捉えた。
烈は陽一を異変を起こした直前に来ていた河川敷に連れ出し、シローを追う時に何があったのか思い出すよう促した。何も思い出せないと頭を抱える陽一だったが、犬の吠える声を聞くと、シローを追っていた記憶と繋がったものか突如歩き出し、やがて科学医療センターなる場所に辿り着いた。
ここで余談だが、人間の記憶について。
昔読んだある書籍によると、人間は見たこと、聞いたことを一生忘れないらしい。これは能力に関係なく万人共通とのことである。
だが、実際に所謂、「記憶の良い人」と「記憶の悪い人」は存在し、思い出したいことを思い出せずに苦しんだ経験のない人はまずいないだろう。その違いが生まれるのは、厳密には「覚える力」ではなく、「思い出す力」とのことである。
「記憶」とは、謂わば「棚」の様なもので、この「棚」は生きている限り増え続ける。そして「棚」から必要なものを取り出そうとしたとき、頻繁に取り出すものなら「棚」が何処に在るか、容易に思い出すが、滅多に使用しない「棚」であれば、何処に在るか思い出すのに時間が掛る傾向が強くなる。
「記憶の良い人」とは、この「棚」から引っ張り出す力が優れている訳である。それゆえ、能力に関係なく、忘却の彼方にあった記憶をある日突然ついさっき見たことの様に思い出したり、記憶喪失だった人がと突如治癒するなんてことが現実に起こり得る訳である。
余談ついでだが、そんな人間の記憶のメカニズムを知る故に、シルバータイタンは「記憶に御座いません。」的な台詞で云い逃れを図ったり、捜査や取り調べに非協力的だったりする者に対し、「記憶にないんじゃなくて、都合の悪いことに触れたくないだけだろうが!」と捉え、疑惑の目を向けたくなるのである。
閑話休題。科学医療センターを前に烈は陽一にここに来たことがあるのかを尋ねた。思い出せないのか応えない陽一だったが、そこに一台の車輛が通りがかり、後部座席にドクターダブラーの人間態が乗っているのを見るや、「怖いよー!!」と叫び、恐慌状態に陥った。いくら表面上の記憶を操作しても、トラウマ的な恐怖を心から消し去ることを出来ないということだろうか。
ともあれ、センターが怪しいのは確定的で、烈は物陰に陽一を隠して駆け出すと、ロープすら使わず、壁を駆け上がる離れ技でセンター内に潜入した。丸で特撮を見ているみたいだった(笑)。
程なく烈は岩井支配人を洗脳した拘束具を見つけ、これがその装置かと訝しがっていたところに、装置は烈にも牙を剥いた。岩井支配人が装置に架けられた時同様、烈の動きを封じ、空中に浮かばせ、その間烈は悶絶した。描写は無かったが、陽一が同じ苦痛を味わっていたとしたら、そりゃ少々記憶をいじられたからとって完全に忘れることなどあり得ないことがよく分かる。
やがて烈の体は医師に腰掛けた状態で両手両足に枷が架けられ、そこに笑いながら人間態のドクターダブラーと、女医が出てきて、烈を洗脳してマクーの用心棒にすると宣言した。確かに何体ものダブルマンやダブルモンスターを屠って来た難敵を味方にすることが出来れば心強い。が、殺さずに利用しようとするのは悪の組織必敗パターンである(笑)。
烈を洗脳せんとエネルギー波が流し込まれる中、烈の記憶を反映したものかは定かではないが、烈の頭上になるモニターには原爆のキノコ雲、ED映像、母・民子との回想シーン等が流れていたのだが、洗脳されまいとする烈は精神を集中することで逆に自分の念波を送り込み、その力、つまりは精神力が洗脳マシーンの性能を上回ったことで逆に装置を破壊したのだった。
些か御都合主義っぽく見えなくもなかった(苦笑)が、マクーの人の恐怖や悲しみ、多大な苦痛で人の記憶を都合よく改竄することへの怒りを想えば、かかる展開も個人的には「有り」かと思ってしまうのであった。
装置を破壊した烈は同時に拘束具も引き千切るとその場を飛び出し、眼前の壁を体当たりで破壊しながらギャバンに蒸着。これを受けてドクターダブラーは正体を現し、女医もダブルガールの姿になった。勢い、大立回りが展開されることになったが、概してかかる陰謀を巡らすタイプは武よりも智に偏るようで、格闘では明らかにギャバンが勝っていた。撃弱とまでは云わないが、手槍を投げ付けてはそれを投げ返されてどてっぱらに食らっている様では豪傑と呼ぶにはほど遠いと云わざるを得ない。
殴り合いにおいてそれなりに反撃もしていたが、ギャバン優勢は明らかで、壁穴に頭を突っ込んだところで尻を殴られまくる体たらくでは、ドン・ホラーが早々に魔空空間発生を命じたのも無理ない話だった。
この後は恐ろしいまでのワンパタである。サイバリアン召喚で魔空空間に降り立ち、円盤群の加勢には電子星獣ドル召喚でドルレーザー&ドルファイヤーで壊滅。まあサイバリアン上でギャバンとドクターダブラーが殴り合いを展開したり、円盤群による加勢が二度あり、二度目に対してはギャビオンを召喚したりしてもいたので、全くのワンパタとするのは些か過言ではあった。
ともあれ、魔空空間におけるホームレンジの優位性で少しはマシな殺陣を展開していたドクターダブラーだったが、やはり格闘ではギャバンの方が上回っており、徒手空拳状態のギャバンと曲刀を振るうドクターダブラーでは、剣道三倍段の優位性もあってかそれなりに見られる白兵戦ではあったが、ギャバンがサーベルを抜くとそれも失せた。
幾度かの斬撃には耐えたが、ドクターダブラーの曲刀自体は一度もギャバンの体を捕らえることはなく、前方宙返りからのギャバン・ダイナミックで粉砕されたのだった。
そしてラストシーン。豪介・わかば・陽一は笑顔でジョギングに勤しんでいた。陽一の記憶はナレーションで戻ったことが言及されただけで、両親を失ったことを再度突き付けられた陽一がどんな想いをしたかは触れられなかったが、バテた豪介をわかばと共に助け起こし、足腰を鍛えないと長生き出来ないぞと促す様を見ていれば、祖父を親代わりとして仲良く暮らす日常が戻ってきたのは見て取れ、それをマリーンと共に安堵しつつも、人の記憶を都合よく操作したマクーへの怒りを新たにして第34話は終結したのだった。
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令和六(2024)年四月一七日 最終更新