宇宙刑事ギャバン全話解説

第36話 恨みのロードショー 撮影所は魔空空間

脚本:上原正三
監督:田中秀夫
ウラミダブラー登場


 冒頭はドルギラン内で始まった。そこで調べ物をしていたマリーンはフランス語で書かれたギャバンの写真入り記事を見て驚いていた。うちの道場主はフランス語がほとんど分からないので、記事を読む烈の云う、「ギャバンへの復讐堂々完成 本日東都映画撮影所にて特別試写会」という言に頼るしかないのだが、まあ、不可解である。
 単純に、「何故フランスの新聞?」と云うだけの話で、いくら大人気で話題性の強い作品だとしても、ある国の映画が別の国で紙面一頁丸々掲載した例は見たことも聞いたことも無い。仮にこれがギャバンを誘き出す為の罠だとしても、フランスの新聞に掲載することはますます解せない。
 第一、日本にて試写会が「本日」行われるとフランスで知っても、まず参加は不可能だろう(苦笑)

 ともあれ、烈は東都映画撮影所にやって来た。所内には出演者・役者と思わる(と云うかそういう風にしか見えない)人々が何人も闊歩していたのだが、そこに「お待ちしていました。」と云って一人の女性(東まり子)が声をかけて来て、烈の返事も待たず道案内を始めた。
 烈が取材の申し入れでもしたのならともかく、そうでないなら「お待ちしてました。」は怪しいし、申し入れしていたのだとすれば、相手が何者かも尋ねない案内人はこれまた怪しい。

 勿論、烈が油断する筈はなかった。建物の中に入る直前で時代劇役者と思しき四人の男達とすれ違ったが、烈はその直前無表情の四人から殺気を感じ取っていた。だが、四人は何をするでもなく、殺気もすれ違うときには薄れていた。
 そして試写室に案内された烈だったが、室内に入るや念動力みたいなものに弾き飛ばされる形で着席したところで席から飛び出した胴枷で拘束された。次の瞬間室内にベルが鳴り響き、スクリーンには音声付きで「ギャバンへの復讐」というタイトルがおどろおどろしい書体で映し出された。
 勿論その内容はギャバンをディスるものだった。映像は過去話からの流用で、ナレーションははっきりと「我々マクー」と云い、ギャバンを一貫して「卑劣漢」としていた。
ギャバン・ダイナミックレーザーZビームを駆使して戦うギャバンの映像を流し、それに対して自分達は生体合体装置を駆使してダブルモンスターを繰り出すも次々と敗れ、甚大な損害を被った、と被害者面し、電子星獣ドルやギャビオンによる攻撃も「卑劣」としていた。

 程なく、プロパガンダにしても阿呆みたいな映像は終わり、烈の背後にはサン・ドルバ魔女キバがいた。サン・ドルバは映像を「力作」として感想を求めつつ、「プロローグに過ぎない」としていた。勿論本番は現実におけるギャバンの抹殺である。
 映像に対してか、サン・ドルバに対してかは不明だが、呆れ果てた烈。すると母子の姿は消え、入れ替わりにウラミダブラーが襲い掛かって来た。だが、どうも初っ端からコイツの強さは期待出来なかった。丸腰どころか、座席に胴体を固定された烈にいたぶる程度の攻撃しか出来ず、終いには錫杖が胴枷を打って壊し、烈を自由の身にしてしまっていたのだから(呆)。

 烈とウラミダブラーは大立ち回りを演じ、撮影所各建物の屋根の上を渡り歩く形で渡り合ったのだが、ウラミダブラーは錫杖を得物としながら、徒手空拳で蒸着もしていない烈相手に殆ど互角だった。やがて烈は建物と建物の間に張られたロープを伝って地面に降り立ったが、ウラミダブラーを初めとするマクー一同の姿は消えていた。
 マクーが何処に行ったのかを無言で訝しがっていた烈だったが、そこに烈を呼ぶ声が聞こえた。声の主は小次郎で、「ドラゴンの逆襲」なる作品の撮影を見せると云って誘った月子と共に同所に来ていたとのことだった。

 烈も一緒に見ようと誘っていた小次郎はやがて少し離れた位置を歩く女優・高月あずさ(麻丘あゆみ)を見つけ、興奮状態に陥っていた。まあ、好きな歌手・女優を見掛けた際の興奮は分からないでもない。シルバータイタンにも経験はあるので。
 小次郎はあずさにサインと握手を求め、あずさはそれに快く応じたのだが、握手した瞬間小次郎は彼女の手がダブラーのものになっているのを見て腰を抜かした。だが、次の瞬間あずさの手は普通の手に戻っており、彼女は笑顔で、「あら、どうなさいましたの?」としていた。
 小次郎は目の錯覚だったか、と捉えたが、この時多くの視聴者が思ったことだろう。「この女、ダブラーか……。」と……………って、誰でもそう思うか(苦笑)。

 場面は替わって撮影所の一室。そこでは二体の怪獣の着ぐるみが殴り合う様子が撮影され、小次郎と月子は大喜びだった。後々の映画監督(栗原敏)の台詞によると本番撮影中だったから、これは小次郎がルポライターとして職業柄マスコミや映像制作関係者ともコネクションを持っていると云う事だろうか?
 ちなみにこの映画監督、やはり第2話のダブルマン同様口髭を生やしていた。やはり栗原氏の髭は自前なのだろうか?(笑)

 一方、別室では壁に掲げられた烈の立体写真をサン・ドルバキバウラミダブラー、ダブルガール(←烈を出迎えた女)が取り囲んでいた。烈を「敵ながら良い男。」とするキバとは対照的に、同じ女でもウラミダブラーはかなり憎々しげだった。まあ、名前の通りそれが持ち味で、能力の源泉でもあるのだろう。
 「呪い殺せるか?」と問うキバに対し、ウラミダブラーは立体写真にギャバンの生霊が封じ込めてあるので可能だとした。成程、こういう異能タイプは得てして白兵戦は苦手な者が多いが、ウラミダブラーもその口と思われる。そして云うが早いが、ウラミダブラーは丑の刻参り宜しく、ハンマーでもって烈の立体写真に五寸釘を打ち付け始めた。

 現実の丑の刻参りに超常現象的効果があるにせよ、依り代への攻撃が即時的な痛みを呼ぶとは思えないが、フィクションではまず効く(笑)。撮影室にいた烈に激しい痛みが襲い、撮影見学に夢中になっていた小次郎と月子がすぐに気づく程だった。
 苦痛から置物の山を崩してしまい、監督から本番中であることを指して咎められた烈は謝罪して屋外に出ると心配してついて来た小次郎と月子に、「この撮影所にはマクーが巣食っているんだ。」として逃げるよう促した。
 恐らく、小次郎がマクーの名前を聞いたのはこの時が初めてだと思う(間違っていたらごめんなさい)。マクーの名に小次郎は無反応だったが、月子は驚いた。いずれにせよ、「引き揚げろ!」と云われても苦痛にのたうち回る烈を放っては置けない。
 するとそこへ撮影所の係員と思しき2人組が現れ、「どうしました?」と尋ねて来て、烈を医務室に連れて行くとした。その様子を物陰から映画監督と男が一人見ていたことから、視聴者的には撮影所全体がマクーの手に落ちていて誰一人油断出来ないと推認出来るのだが、現実に即するなら係員の申し出を渡りに船と思ってしまうんだろうなあ………。

 医務室に連れられ、ベッドに横たわらされた烈は心配する2人に自分は大丈夫だから早く撮影所から退去するよう促した。勿論「大丈夫。」と云う台詞が丸で信用出来ない程苦しむ烈を置いて自分達だけ引き揚げることに逡巡する小次郎と月子だったが、烈は執拗に退去を促し、最後には「出ろ!」と命令形を発した。
 それを受けて渋々二人は退去したのだが、それにしてもこの医務室怪し過ぎた。烈が小次郎と月子に退去を促していた時、すぐ傍に医師と看護士がいたのだが、この二人、全くの無表情で無言だった。小次郎と月子が退室してから姿が映されたのだが、云わば、それまで医師と看護士がいたことは視聴者には全く分からなかったのだが、普通、患者がここまで苦しげな声を発していたらなにがしか声をかける筈である。
 しかも、烈の枕元には何故か金魚鉢が置いてあった。時代劇ならずとも「この金魚、殺されます。」と云っているに等しかった(苦笑)

 別室で烈の様子を見ていたサン・ドルバは展開に云っていの満足を示しながら、ウラミダブラーにさっさととどめを刺すよう促した。だが、ウラミダブラーは積年の恨みを晴らすが如くじわじわといたぶり殺す、とし、それにキバがあっさり殺しては面白くないと同意した……………出ましたね、悪の組織必敗パターン(笑)
 そして場面が医務室に戻ると、苦しんでいる烈の枕元に高月あずさが現れた。あずさは懐から薬を出すと烈に飲むよう促した。「楽になりますよ。」という台詞はある意味嘘ではないのだろう(笑)。そしてこの状況で、「押忍!ごっつぁんです!」と云って服用するのは余程の馬鹿だろう。
 当然、烈は「薬を飲むほどではない。」と遠回しに拒んだが、あずさは強引に烈の口腔内に放り込もうとし、烈がそれに抵抗したことで薬は弾かれ、予測通り金魚鉢の中に放り込まれた
 案の定、金魚は毒殺されることになった訳だが、水面を赤いエフェクトを掛けて「如何にも毒に覆われました。」的な表現を示しただけで、実際に金魚が殺された訳では無かった。やはり時代劇よりは子供番組の方が残虐描写は軽減気味にあると云う事だろうか。
 ともあれ、毒効果を目の当たりにした烈は「貴様!」と悪態を突いて振り返るとあずさの姿はウラミダブラーのそれに変じていた。ついさっきまで別室にいたのに烈の元に来ていた早業を驚かれた視聴者もいると思われるが、シルバータイタン的には、「じわじわ殺すんじゃなかったのか?」とツッコミたい(笑)
 ともあれ、勢い、白兵戦となったが、やはりウラミダブラーは取っ組み合いが苦手な様で、ついさっきまで激痛にのたうち回っていた烈を相手に然程優位に立てなかった。勿論この間釘打ちは為されていないので、烈は徐々に痛みから解放されて本調子に近付いたようで、ウラミダブラーは押され気味となった。
 するとそこへ役者・医師・看護師達が次々とクラッシャーの姿となって加勢してきた。その間にウラミダブラーは立体写真の元に戻り、釘打ちを再開すると烈は苦しみ出した。延々と釘打ちをして、他の者に烈を襲わせたら良かったんじゃないか?ツッコミどころ満載なダブラーである(苦笑)。

 実際、苦しむ烈はフォークリフトに轢殺されそうになった。何とかジャンプ一番それをしのぎ、建物の屋上に難を逃れたが、そこに再々度ウラミダブラーが襲い掛かった。すると初っ端こそ激痛が残ることで劣勢だった烈が時間と共に優勢を取り戻した。やはりウラミダブラーは自分では動かず、延々と釘を打っておくべきだった。
 それでも何とか屋上から烈を投げ落とすことに成功したウラミダブラーだったが、落下の途中で烈はギャバンに蒸着して難を逃れた。つまり本当のギリギリまで蒸着を見送っていた訳で、この流れからもウラミダブラーが格闘においてギャバンに劣っていたのは明らかだった。

 蒸着し、光の玉状態のギャバンによって逆に自分が地面に叩き落されたウラミダブラー。撮影所のあちこちを移動しながら大立ち回りを演じたが、やはり格闘でもギャバンに劣っていた。撮影所全体がマクーの支配下にあったのだから、本来なら地の利がある筈なのにこの体たらくだったから、くどいがウラミダブラーは格闘に出るべきではなかった。
 またも大量のクラッシャー達をたてにし、その間に立体写真の元に戻ったウラミダブラーは烈ではなく、ギャバンの写真に釘を突き立てた。どうやら、烈への呪いはギャバンに蒸着すると関係無くなる様であった。
 今度は右膝に釘を打ち付け、足の自由を奪われたギャバンは、負けこそしないもののクラッシャー達にも苦戦していた。うち箇所に確実に痛みと不具を与えるその効果をサン・ドルバも褒めていたが、クラッシャー達が全員撃退されたところで、よせばいいのにまたもウラミダブラーは自ら出撃した。結局、片足の効かないギャバンに組み付いて振り解かれ、ボイラーに叩きつけられて自分がダメージを追う体たらくだった…………。

 もうこうなるとドン・ホラーが採択した道は一つである。ギャバンもいつも通りサイバリアンを召喚したが、これに対してマクーはサイバリアンからギャバンが降りない内から円盤群に襲撃させ、ギャバンは電子星獣ドルを召喚した。ギャバンはスクリューアタックドルファイヤーで円盤群を一掃すると素早くギャビオンに乗り換え、ギャビオンレーザーでもってウラミダブラーの搭乗した一機を含む円盤群を一掃させ、ウラミダブラーは廃車置き場の様な所に叩き落された。

 叩き落されたウラミダブラーにギャバンはギャビオンからの砲撃で追撃。散々翻弄されたウラミダブラーにギャバンは肉弾戦を仕掛けた。こうなると勝負は時間の問題だったが、ここに意外な加勢が現れた。
 ウラミダブラーが必死の力を振り絞ってギャバンを撮影室に投げるとそこには撮影に参加していた二体の怪獣がいて、ギャバンを取り押さえに掛かった。更には撮影に携わっていた面々も全員クラッシャーとなって襲い掛かって来た。魔空空間でダブルマン、ベム怪獣、ダブルモンスター、円盤群以外の者が出て来るのは珍しい。

 勿論、雑魚は雑魚に過ぎないのだが、それでも通常空間よりは魔空空間の方がショートテレポートなどを駆使してギャバンを苦戦させてはいた。やがてクラッシャーは一掃されたのだが、入れ替わりに四人の素浪人風の男が日本刀を振りかざして襲い掛かって来た。
 同時にウラミダブラーはギャバンの立体写真に釘を打っていて、ギャバンはまたまた苦しみに襲われ……………だから、最初っからそうしとけって!!!(怒髪天)………あかん、ここまで来るとだんだん腹が立ってきた………。

 四人の素浪人はさすがにギャバンを倒すまでには至らなかったが、それでも一人が日本刀の斬撃を浴びせ、ギャバンのコンバットスーツから火花を散らしていたのだから善戦したと云えるし、恐らくはクラッシャーが正体と思われるものをここまで善戦させたウラミダブラーの呪術自体は本当に大したものだった。
 やがて四人は一列に並ぶとその姿はウラミダブラーのそれになった。「いい加減にしろ!」と云いたくなったが、すぐに姿を消し、入れ替わりに現れたサン・ドルバがギャバンに大きな恨みに曝されていると宣言した。
 驚いたギャバンが背後を振り返るとシャコモンスターを初め、初期に登場したベム怪獣達がギャバンを取り巻いていたが、結局これは虚仮脅しの域を出なかった。亡霊怪獣達は何をするでもなく、「うらみ〜うらみ〜。」と呟くだけですぐ姿を消し、サン・ドルバも姿を消してただただ笑っているだけだった。
 そして尚も苦痛に見舞われていたギャバンはレーザースコープを発動。空間内に一枚の扉を見つけ、ぶち破るとそこにウラミダブラーと呪いの依り代にされている自分の立体写真を見つけたのだった。

 尚も立体人形に釘を打ち続けるウラミダブラーだったが、どんな阿呆でも目の前で自分の人形が叩かれる度に同じ個所が痛めばそれを何とかしなくてはならないことぐらいわかる。当然ギャバンは妨害に出て、とうとうウラミダブラーは釘打ち続行が不可能となり、姿を消した。
 ギャバンはすべての元凶である自分の人形にシルバービームを浴びせ…………それで自分がダメージを負う事は考えなかったのか?とツッコみたくなったが、そう思う暇も無く、散った火花の中からウラミダブラーが現れた………こいつの生態、本当に訳が分からん(苦笑)。

 その後、ウラミダブラーはそれまでの格闘におけるヘタレっぷりが嘘みたいにかなりの善戦を見せたのだが、それもギャバンがサーベルを抜き、レーザーブレードを発動させるまでだった。レーザーブレードは忽ちウラミダブラーの錫杖を叩き折り、×印状に斬撃を、そして刺突を浴びせ、最後は横回転から脳天唐竹割りに打ち下ろされたギャバン・ダイナミックの前に粉砕されたのだった。

 かくして事件は解決した。「恨み」と云う概念に彩られた第36話だったが、一つだけほっとさせられたのは、マクーによって乗っ取られた東都映画撮影所の人達が別箇所に監禁されていただけで殺されていなかったことだった。
 悪の組織が残忍な組織であるゆえに、時に悲惨な犠牲者が出るのは避けられないが、悪の組織でも犯罪による「利益」というものを重視しているマクーには、所謂、「特にならない無駄な殺し」はして欲しくないものである。
 一つの会社が丸々乗っ取られた際、関係者が皆殺しにされたとすればその被害者数計り知れず、その家族の悲しみまで考えると大変な悲劇である。さすがにそれは頻繁に描かれて欲しくはない。現実の世界でアニメを制作している会社が放火されて36人も死に至らしめられた事件を知っているだけに…………。

 ともあれ、第36話は、烈とマリーンがどの映画を見るかで云い争う平和の内に幕を閉じたのだった。


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令和六(2024)年四月一七日 最終更新