宇宙刑事ギャバン全話解説
第40話 死の谷の大決戦 君も宇宙刑事だ!
脚本:筒井ともみ
監督:小笠原猛
ヨウカイダブラー登場
冒頭、山中を歩いて一人男(小笠原弘)が普段は見ないホットドッグ矢があるのに気付き、訝しがりながらも女性店員(植村由美)の勧められるままにコーヒーを注文して一休みしようとした。
だがコーヒーが差し出された次の瞬間、店員の姿はヨウカイダブラーのそれとなり、男を気絶させ、手持ちのケースを奪うと、その中にある石を見て、「デビルニュームの秘密を漏らす訳にはいかん。」と宣った。
一見只の石にしか見えないデビルニュームなる石は一体如何なる存在なのか?そしてそれを持ち帰らんとしていたこの男性は何者か?ま、『仮面ライダーX』で大道寺博士、『仮面ライダーストロンガー』で正木洋一郎博士を演じていた小笠原氏が演じている段階で博士役確定ではあるのだが(笑)。
場面は替わってとある河川敷。そこでジープの整備をしている烈の元に小次郎が泡を食ってやって来た。何でも甥の史郎にUFO研究会を通じて宇宙刑事ギャバンと親友になったとハッタリをかましたら、それを信じて甥が上京してくることになったのだと云う。あながち間違いではないのだが、小次郎は烈がギャバンであることは知らないので、「ギャバンと親友」と云うのは、真実でありながら、嘘でもあると云う奇妙な状態にある(苦笑)。
何とか力を貸してくれ、小次郎にせがまれても、何をどう力になったら良いのか話す間もなく、小次郎の甥・佐々木史郎(田辺潤)はもう背後にいた。
この史郎、恐らく小学生と思われるが、かなりの肥満で、肥満キャラにありがちな恐ろしい腕力の持ち主だった。だが、それ以上に恐ろしいのは好奇心を抱いた物に飛びつく突進力で、「宇宙刑事と知り合える!」と云う期待で小次郎の予想を遥かに上回る早さで上京し、困り果てた小次郎が烈を「宇宙刑事になりがっている人」と紹介して、烈を頼り様云い残して逃げると、驚いた烈が小次郎を追うのを許さず、小学生離れした腕力で引き留め、「お互い同じ宇宙刑事を目指す者」として「仲良くやろうぜ!」と云って、烈を張り倒さんばかりの勢いでその肩を押したのだった。
直後、マリーンからの呼び出しがあり、呼び出し音を何の音か食い下がる史郎。とかく興味を抱くや執拗にくっついて来たのをどうにかまいて、烈はドルギラン内に戻った。
基地内で見ていた報道によると鬼が山で次々にハンターや登山者達が行方不明になっており、マリーンの話ではその中に冒頭でヨウカイダブラーに襲われていた清水博士も含まれているとのことだった。
清水博士の名は烈も知っており、幻の鉱石デビルニュームを求めてあちこちを捜し歩いているとのことだった。デビルニュームには物凄い量の天然ウランが含有されているとのことで、これだけでマクーが独占したがっているが容易に想像出来た。
実際、魔空空間内ではドン・ホラーがサン・ドルバを呼び出して、まだデビルニュームが手に入らないのか?と問うていた。サン・ドルバによると、目下、鬼首鍾乳洞を掘削捜査中とのことで、そこにキバが、ヨウカイダブラーが周囲を警戒して人間を近付けないようにしているので大丈夫、と太鼓判を押したが、ドン・ホラーはデビルニュームを入手することで巨大水爆を大量に手にし、宇宙征服が進むことにかなりの期待を抱き、寸刻も早い入手を改めてサン・ドルバに命じたのだった。
場面は替わって小次郎の下宿。そこでは小次郎がサツマイモをふかしながら史郎に対して両親に心配を掛けないように、と遠回しに帰宅を促していたが、史郎は鬼が山で崖崩れが起きて神隠しの捜索が中止されたと聞き、宇宙刑事になるチャンスとほくそ笑んでいた。
まあ、要するに宇宙刑事になりたい一心で小次郎の話を全く聞いてなかったのだろう。夢を追うのは結構だが、人の不幸をその好機になるとにやけている様では、行動力や熱意はともかく、人として宇宙刑事失格だな、とシルバータイタンは思うのである。
そして場面は鬼が山。捜索に入ろうとした烈は史郎に呼び止められた。思い込みの激しい史郎は、烈も自分同様宇宙刑事を目指す故に探索にやって来たと思い込み、抜け駆けは狡い、とした。
烈にとっては何とも厄介な展開である。自分が宇宙刑事であると云う訳にもいかないので、そこに居る理由もはっきり云えず、危険を訴えて帰らせたいところだが、良くも悪くも一途過ぎる史郎は様々な意味で聞く耳を持たない。
手掛かりを求めて山に入る史郎を捨て置けず、なし崩し的に行動を共にすることになった訳だが、放っても置けないし、かといって何かあったときに下手にギャバンに蒸着する訳にもいかないから本当に厄介だった。
だが、程なく、史郎の勢いは衰えだした。腕力・行動力はピカ一でも、太り過ぎで、常に栄養を求める燃費の悪い体は持久力に掛け、忽ち山道でへたり込み、烈もそんなに太ってちゃあ宇宙刑事にはなれないぞ、と苦笑交じりに窘めた。
烈に手を引かれ、何とか立ち上がった史郎は、次の瞬間ホットドッグ屋を見つけ、『水戸黄門』のうっかり八兵衛と化した(笑)。視聴者的には清水博士が襲われたマクーの出先機関であることが分かっているのだが、それを知らなかったとしても警察の捜索が打ち切られる様ながけ崩れが起きた山中で開店しているとは怪しい話で、烈は史郎が注文したオレンジジュースの発する匂いから薬物の存在を察知した。
烈が、今まさに史郎の口に含まんとしたオレンジジュースを叩き落とすや、ジュースからは白煙が上がり、さしもの恐るべきマイペース人間だった史郎もこれには狼狽した。当然二人はジュースを提供した女性店員の方を見据えた訳だが、店員はヨウカイダブラーの正体を現し、史郎はホットドッグを口に加えたまま気絶したのだった。まあ、烈には都合の良い気絶と云えなくもないな(笑)。
さて、このヨウカイダブラー、『西遊記』の沙悟浄が得物としている降魔杖に似た武器を駆使し、蒸着前の烈相手にかなり優勢に戦いを進めていた。勿論蒸着前の烈を相手に武器を使って優位に立っても大して自慢にはならないが、ヨウカイダブラーの恐ろしさは念動力を操れることになり、こちらの方が降魔杖モドキよりも遥かに恐ろしい武器で、烈は何度も投げ飛ばされ、拘束され、絞め上げられたりした。
一瞬の隙を突いてギャバンに蒸着することが出来、これによって念動力が防げたのかどうかは分からなかったが、クラッシャー達を蹴散らしている間にヨウカイダブラーには史郎を連れ去って逃げられてしまったのだった。
Bパートに入ると、烈は必死になって史郎の行方を追っていた。普段ロープを駆使して高所難所を苦も無く渡り歩く烈が息を切らして走り回っていたので、相当焦っていたのだろう。しばらくしてクラッシャーに見張られていることに気付いた烈は逆にクラッシャーの視界から姿を隠し、追ってきたクラッシャーを逆に利用してマクーアジトに近付き、遂には清水博士を初め、行方不明になっている人々と思しき人達が強制労働に従事させられていた。
思うに、マクーはデビルニューム鉱石を大量に掘り出し、次々運び出しているものの、純粋なデビルニュームとして精製するのに成功していないのだろう。金鉱石を得ても、そこから純金として他の物質と分離しなければ役に立たないのと同じである。
『パタリロ!』という漫画によると、1t辺り200gの金が含まれていれば金鉱としては超優良とのことで、謂わばたった5000分の1の含有量で超優良な訳だから、それを参考にして考えると、大量に鉱石を掘り出しつつも、まだまだマクーは大量のデビルニューム、天然ウランをものに出来ていないのだろう。
強制労働させられている清水博士の側にはサン・ドルバが立ち、魔空城に大量のデビルニュームをもたらせば、巨大水爆を作らせる、として協力を促した。恐らくサン・ドルバ的には好餌でもってマッド・サイエンティストを誘惑しているつもりだったかも知れないが、ブラックサタンから逃げた正義の人正木博士………じゃなかった(笑)、清水博士はデビルニュームから大量の核兵器が生まれ、悪用されれば宇宙が終わる、として協力を拒んだ。
これに対してサン・ドルバは殴りつけて鉱石掘り出しへの従事を強要していたが、恐らく殺してしまっては協力させられないので、強制労働で心身が消耗したところを狙って服従させんとしていたのだろう。
清水博士の辛い姿を居たたまれない気持ちで見ていた烈だったが、そこに息絶え絶えの声で助けを求める史郎の声が聞こえて来た。即座に烈が声のする方に行くと岩と岩の間に閉じ込められるように負傷状態で放置されている史郎の姿があった。
即座に史郎を引きずり出し、背負って病院に運ばんとした烈だったが、これが何とヨウカイダブラーの擬態。二度目の対決でも烈は念動力を駆使し、武器を振り回すヨウカイダブラーに抗し得ず、ギャバンに蒸着した。
緒戦でははっきりしなかったが、やはりギャバンに蒸着すると念動力は通じない様で、ギャバンは互角以上に戦うことが可能だった。そして形勢不利を悟ったものか、ヨウカイダブラーはジープに拘束される形で人質状態になっている史郎を指し示した。史郎の側にはサン・ドルバが立っており、下手に手出し・抵抗出来ない状態にあった。
だが、こういう時、ヒーローは意外と人質がいないと思ってんの?と云いたくなる様な抵抗をする時がある(笑)。ギャバンはヨウカイダブラーに殴り付けられているように見えてしっかりと抵抗してヨウカイダブラーを崖下に突き落とし、ヨウカイダブラーはサン・ドルバと衝突。
そして普通こういう状態では人質に刃でも突き付けて抵抗中止を強要しそうなものだが、サン・ドルバはヨウカイダブラーに攻撃を命じ、人質を一顧だにしなかった。こういう人質の存在が無視されるケースって良くあると思うのはシルバータイタンだけではあるまい。
結局、ヨウカイダブラーが杖を使って、仮面ライダーストロンガーのエレクトロ・ファイアみたいな技を繰り出すとその爆炎に紛れる様にジャンプしたギャバンはシルバービームをサン・ドルバ・ヨウカイダブラー達の足元に放ち、爆炎を挙げると白銀の球体となって史郎の元に飛び、史郎を助け出したのだった。
放映時には存在していなかったが、その後の特撮作品を知る身としては『仮面ライダーBLACK RX』にてバイオライダーがやっていたゲルアタックとどこか似ている様に思ってしまう。勿論『宇宙刑事ギャバン』の方が先に生まれているのだが、何でもあり的に便利に使われている様に同じものを感じずにはいられないのである。あ、そう云えば、『仮面ライダーBLACK RX』には大葉氏も2話、地元四国で客演していたっけ(笑)。
閑話休題。
ギャバンは史郎を介抱すると、清水博士達を連れて逃げるよう促した。憧れのギャバンが自分の名前を知っているだけでも嬉しいのに、その彼に頼まれごとをされては否も応もなかった。
そして改めてギャバンとヨウカイダブラーの一騎打ちが展開されたが、念動力が使えない状態ではヨウカイダブラーが優位に立てる筈も無く、ドン・ホラーは早々に魔空空間発動を命じ、例によってギャバンはサイバリアンを召喚して降り立った。
いつもの様に、ナレーションにてダブルモンスターが魔空空間内では3倍のパワーを得ることが述べられていたのだが、今回のヨウカイダブラーは本当にそれだけの強さを発揮し、徒手空拳で、念動力に頼らない状態にありながら格闘でギャバンと互角に渡り合った。他にも火花を起こす飛び道具の様な物を放ったり、ギャバンに通じない念動力を自分の得物に駆使する変則攻撃でギャバンを苦しめたりしていた。
だが、円盤群に乗り込んでの攻撃を電子星獣ドルのドルファイヤー・ドルレーザーで阻止されてからは精彩を欠き、ギャビオンからのギャビオンミサイルに翻弄され、妖術で身を隠すもレーザースコープで見破られ、スクーパーで周囲の岩盤を崩された。
最終的に曲刀を抜いて、サーベルを抜いたギャバンとの撃剣に及んだ訳だが、レーザーブレード発動まではそこそこ善戦し、ギャバンに斬撃を浴びせてもいた。だが、発動後はその刀身がギャバンのコンバットスーツを捕らえることはなく、逆に二度の斬撃を浴び、秒殺こそされなかったものの、前方宙返りからのギャバン・ダイナミックの前に粉砕されたのだった。ま、終盤が近いだけあってか、こいつもまあまあ頑張った方と云えるのかも知れない。本人にしてみれば、ギャバン蒸着後に念力が効かなかったのが悔しかったことだろう。
そしてラストシーン。烈と小次郎に見送られて史郎は自宅に帰った。
去り際、史郎は烈に宇宙刑事になることを諦めた訳では無いと語り、改めて宇宙刑事になる為に勉強し、体を鍛えて出直す、としていた。恐らくは痛い目を見たことで、まだまだ自分には学ばなければいけないこと、鍛えなければいけないことがあり、想いのままに猪突猛進するだけではいけないことを悟ったのだろう。
それを悟った上で、それでも宇宙刑事になる夢が揺らいでいないと云うのであれば、それはかなりの信念の強さである。来たときは迷惑そうだった烈と小次郎も、そんな史郎の想いを受けて返りは満面の笑みで見送り、第40話は終結したのだった。
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令和六(2024)年四月一七日 最終更新