宇宙刑事ギャバン全話解説
第41話 魔空都市は男の戦場 赤い生命の砂時計
脚本:林強生
監督:小笠原猛
ジゴクダブラー登場
冒頭、ギャバンは片田舎と思しき車道にてジープを走らせ、マリーンからの定時連絡に応じていた。どうもパトロール中らしい。かといって事件が起きている訳では無い。マリーンはこっそり載せておいたサンドイッチを烈が食べてくれたと期待し、実際には気づかずに尻の下に敷いてしまっていた烈が苦し紛れについた「とても美味しい。」と云う嘘に大喜びする等、彼女には稀有な女の子らしいシーンが描かれていた。
だが一見、平和に見えるほのぼのシーンにも直後に烈への魔手が潜んでいた。走り続ける烈のジープの前に主婦とその娘が立ち塞がった。当然烈は危ないと窘めたのだが、女子供に助けを求める為に止めたのだと云われては何事かと応じずにはいられない烈だった。
母娘の懇願は、板切れに乗った状態で川に流されている子犬を助けて欲しいという物で、女子供のみならず動物にも優しい烈は即座に河原に飛び降り、子犬を助け上げた。だが、この間、少女は妙ににやけており、母親に至っては一瞬ダブルガールの顔を表しいてた。
そんな悪巧みがある訳だから、ようやくにして烈が助けた子犬を連れて来ても母娘の姿が見えない。終いには駆け出した子犬まで妙な悲鳴を残して姿を消し、追っていった場所で烈は大きな砂時計(フレームが赤で、砂の色は緑)を見つけたのだが、それをひっくり返した途端、突如起きた地割れに飲まれたのだった………。
その頃、魔空城内では同じ砂時計を弄びながらキバが高笑いをしていた。彼女の持つ砂時計が何なのかを訝しがるサン・ドルバに、赤い「生命の砂時計」であると告げ、これを駆使すればギャバンを永遠に生きたまま魔空空間に閉じ込めることが出来ると云う、「そんな便利なものがあるなら最初から使え。」と云いたくなる代物で、普段息子に対する態度巡って彼女と意見の対立することの多いドン・ホラーも、今回ばかりはキバに対して、「さすがだ。」と賛辞を送っていた。
勿論、物語的にはこんなものであっさり主人公が死んではお話にならない(笑)。当然烈は生きているのだが、意識を取り戻した時、彼は自分が海岸に横たわっていたのに気付き、そこに海賊風の男達が襲い掛かって来た。問答無用で襲い来る男達に話し掛けは通じず、時に抵抗し、時に逃げた烈は海岸で落とし穴の様な場に落ちたかと思うと次の瞬間にはビルの壁にぶら下がっており、そこに二人の虚無僧がやってきて襲い掛かって来た。
それもぶら下がり状態の烈に尺八を装った火砲を放つもので、堪らず地面に降り立った烈の周囲には多くの人々がいたのだが、彼等は烈が虚無僧に追われると云う異常事態に平然としていた。
やがて烈を追う虚無僧の数は十人程に増え、気が付けば再度人っ子一人いないビル街にいたのだが、意を決して抵抗は始めるとさすがに抜刀した虚無僧10人が相手で、烈が丸腰でも後れを取ることはなかった。
だが、虚無僧達を蹴散らした烈の足元から突如間欠泉の様な者が吹き上がると烈の体はそれを受けて宙に浮き、闇の中天井の様な物を抜けたと思うと、今度は時代劇に出て来る夜の静まり返った江戸の町にシーンチェンジしていたのだった。
そしてそこでは、烈はバイクに乗った二人の鎧武者に襲われると云う何とも場違いな襲撃を受けた。早々に一人を倒し、バイクを奪い、もう一人とバイク勝負を展開し、一時は時代劇で馬に引き摺られる罪人宜しく、縄に継がれてバイクで引き摺られもしたが、何とか体勢を立て直し、もう一人も倒したが、更なる襲撃を避けんとして一件の宅内に入ったところ別のシチュエーションに襲われた。
扉も窓もない白一色の世界に待ち受けていたのはブルース・リーを彷彿とさせる、上半身裸の拳法使いで、見事な体格をしていた。演じていたのは往年の名スタント・高橋利道氏………おおっ、高橋氏対高橋氏だ(笑)(※大葉健二氏の本名は「高橋健二」なので(笑))
さすがに名スタントマン同士による高橋対決(笑)は、見応え充分で、派手さこそ少なめだったが、格闘的には堅実さに裏打ちされた打ち合いが応酬され、最後は憲法使いがアイアン・クローから烈の体を壁に叩きつける様に投げ飛ばしたことで終わった。
というのも、叩きつけられた烈の体はそのまま壁を破り、もんどり打って飛び出たのはまた別の場所=寺の前で、二つの短槍を得物とする拳法家と、二人の棒術使いが新たに襲い掛かって来たのだった。
息つく間も無いとはこのことで、披露した上に三人がかりに苦戦し、二人の棒術使いに投げ飛ばされるとそこは日本家屋内で、壁から出た手や、ポルターガイスト現象の様に襲い来る畳やふすまに苦しめられ、曲芸師の様な少年に救い出されたかと思うとそこにはネイディブ・アメリカンと、今しがた自分を連れて来た曲芸師を脇に侍立させて、烈とそっくりな男が立ちはだかった。
何者かと問われた相手は当然、「一条寺烈」と名乗り、その容姿は丸で大葉健二氏が演じているみたいだった(笑)。偽物烈はどっちが偽物なのか?と問い掛ける様にネイディブ・アメリカンに烈を襲わせた。
するとネイディブ・アメリカンはいつの間にか二人になっており、それを蹴散らすと今度は曲芸師がやはり二人になって襲い掛かり、途中で装束を脱ぐとピーターパンのスタイルで襲い掛かって来た。
こうなると5人を相手にするプレッシャーに加えて、自分と同じ容姿の敵や、途中で数が増えることから与えられる心理的負担も馬鹿にならない。辛うじてジープの奪い合いを制すると脱兎のごとくその場を飛び出し、短いトンネルを潜って離脱せんしたが、気づけばジープは崖から飛び出していて、烈は何を逃れるためにギャバンに蒸着した。
だが、蒸着によって得られたのは転落危機からの脱出だけで、地面に降り立つとそこにはジゴクダブラーが待ち受けていて、異空空間のもたらす罠も次々と襲ってきた。
ミサイルが飛び、戦闘機から機銃が掃射され、戦車からの砲弾が次々と降り注ぎ、鉄砲隊から火縄銃による一斉射撃まで浴びせられた。はっきり云って、地獄の様なシチュエーションの前に。ジゴクダブラーどころではなかった。
やがて、疲れ果てたギャバンが辿り着いたのは大江戸八百八町の様な所で、キバはその空に自分の姿を映し出すとギャバンに赤い命の砂時計を見せ、その砂が落ち切る前にジゴクダブラーを倒さないと、未来永劫に魔空空間から出られないと告げた。
とはいうものの、次々と新手の敵が現れる状態ではジゴクダブラーの姿を捉えることすらままならなかった。ナレーションによると魔空空間での時間の進み方は通常世界の5000分の1とのことで、本当にそんな世界に放り込まれたら、空腹や疲労に対する感覚も狂い、正気を保つのすら大変だろう。だが、幸いと云っては変だが、襲い掛かってきた4人の迷彩服忍者の正体はジゴクダブラーその人(?)だった。
ギャバンを永遠に魔空空間に閉じ込めるのが原因なら、次々と部下にギャバンを襲わせ、ジゴクダブラー自身は時間切れまで身を隠しておけばよかったと思うのだが(笑)、何故そうしなかったのだろう?
まあ、もしかしたら連戦に次ぐ連戦で疲弊し切ったギャバンに負けないとの自負か、思い上がりがジゴクダブラーにはあったのかも知れない。実際、互角以上の格闘を展開していたが、やがて門構えの様な物を持ち出し、その中に身を潜めた。
門構えはレーザーZビームも効かない堅牢なものだったが、さすがにギャバンがギャビオンを召喚してギャビオンミサイルを放つと門構えは壊れ、岩石となって転がり出て来た。
円盤群の加勢を受けたジゴクダブラーだったが、円盤群もギャビオンに撃滅され、結局はいつもと同じダブラーの持つ曲刀と、ギャバンの抜くサーベルとの撃剣に展開した。
撃剣は互角で、例によってレーザーブレードが発動したことでギャバンが優位になったのだが、それでも徐々に徐々に優位に転じたもので、ジゴクダブラーもそれなりに頑張った方だった。だが、やがてギャバンの斬撃がジゴクダブラーの体を捉え出し、腹部を一貫するとそこから前方宙返りからのギャバン・ダイナミックを食らわせてギャバンは勝利をものにしたのだった。
だが、今回戦いはこれで終わらなかった。ジゴクダブラーが死して尚、赤い命の砂時計は消えず、ギャバンはこれを潰す為、電子星獣ドルを召喚した。サン・ドルバは砂時計が壊されるのを防ぐべく円盤群にドル迎撃を命じたが、これははっきり云って無駄な抵抗だった。普通に考えてこれまで円盤群がドルを倒すどころか、大きめのダメージを与えたことすらなかったのだから。案の定、ドルファイヤー、ドルキックの前に円盤群は蹴散らされ、最後はドルレーザーで砂時計も破壊されたのだった
かくして、ギャバンが最も長く魔空時空に滞在し、ドルが最も長く暴れた時間は終わったのだった。
通常世界に戻ったギャバンは、足元に子犬がいるのに気付くと、「お前の御蔭で危ない所だったぞ。たっぷり礼はさせてもらうからな。」と告げた。
勿論、こんなセリフを云ってはいても、子犬相手に報復する訳では無い。辛い戦いを終え、その癒しを求める様に烈は海岸にて第11話以来となる「父よ」をBGMにひたすら子犬と遊び続けた。
この第41話において、烈は恐らく肉体的にも、そしてそれ以上に精神的にこれまでになく披露する戦いを強いられたことだろ。だが、その間一度も父に関する話は出て来なかった。だが、戦いを終えた烈は子犬を抱いて今にも泣きそうな表情で海に向かって「父さん!」と叫んだ。
かつてない心身共に消耗する戦いを終え、何処にいていつ会えるか分からない父を探しての戦いにすぐに身を投じなくてはならない、そんな烈が得た僅かな休息がこの第41話のラストに、父への想いと共に凝縮されたように見えたのだった。
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令和六(2024)年四月一七日 最終更新