人造人間キカイダー全話解説

第11話 ゴールドウルフが地獄に吠える

監督:北村秀敏
脚本:長坂秀佳
ゴールドウルフ登場
 冒頭、真夜中の田所邸に電話が鳴り響いた。邸宅の娘・田所京子(金沢ユミ)が電話を取るも相手は無言。そして公衆電話から電話をかけていた主−黒い帽子に裏地が真紅の黒マントを羽織った「怪しい」を絵に描いた男は無言のまま電話を切り、田所邸の庭に忍び込んだかと思うと、特に何をするでもなく壁を乗り越えて庭外に出た。

 ちなみに怪しい男を演じていたのは坂口徹氏。『仮面の忍者赤影』の赤影役として有名だが、『水戸黄門』に親しんでいるシルバータイタンとしては思わず「おお、綱条殿!」(←「つなえだ」と読む。水戸光圀の甥にして養子で、第三代水戸藩主)と言ってしまう(笑)。
 そんな彼が壁を乗り越えて降りたところには警邏中の2人の警察官がいた。勿論警官達は男を怪しみ、男も気まずそうに眼を逸らした。
 余談だが、現実でも警察官は不自然に目を逸らすと職務質問をしてくるから気を付けよう。十数年前頻繁に職務質問にあったことのあるシルバータイタン(実話)は夜中に警察官にすれ違う時は努めて笑顔を前面に押し出している(苦笑)。

 勿論、警察官達は男を誰何した。前方に回り込むとその胴体は計器のようなものがついた金属体だったのだが、それを見た警官の1人が「何だ貴様?!人間じゃないのか?」と宣ったのには恐れ入った改造人間や怪獣や宇宙人の存在を頭から信じない連中が多い中、この警察官の台詞は極めて稀有である(苦笑)
 ともあれ、ダークのアンドロイドロボットが詰問を受けて大人しくしている筈が無く、満月の月明かりが雲に隠れたのを合図としたかのようにゴールドウルフの姿を現し、モーニングスター状の両拳で忽ち2人の警察官を撲殺してしまった。

 場面は替わってダーク基地。そこではプロフェッサー・ギルゴールドウルフの独断専行を詰っていた。命令も受けずに田所邸に行ったことを「偵察の為。」と述べるゴールドウルフに対してギルは「不完全ロボット」との痛罵を浴びせて尚も詰った。
 ギルの言によると、月明りを浴び、月光電池を発動しているときのゴールドウルフは優秀だが、それ以外のときは光明寺博士の作った良心回路で動く不完全な存在とのことだった。つまりゴールドウルフは「光明寺の作ったロボット」であることが明言されまくっていた訳だが、このことは既出のダークロボット達も同様で、やはり彼奴等がキカイダーに対して「光明寺のロボット」と呼び掛けていたことには「お前もだろ!」とのツッコミを入れなくてはならない。「出たなショッカーの改造人間!」と叫ぶ仮面ライダー同様に(笑)。

 場面は替わってとある公道。そこを服部半平の駆る愛車が走っていたのだが、案の定エンストをこいた。半平車のエンストが日常のものであるのは同乗していたミツ子とマサルも認識済みだったようで、マサルは「早く田所博士のところに行きたいのに。」とぼやいていた。
 この台詞から光明寺姉弟がゴールドウルフに狙われている田所博士に関わるのが丸分かりになった訳だが、例によって光明寺博士と田所博士が旧知かと思いきや、さに非ず。
 ミツ子曰く、田所博士は記憶喪失症の研究に関する世界的権威で、記憶を取り戻したいと欲する光明寺博士が尋ねてくるかもしれないと踏んでのことだった。

 姉弟の予想は当たっており、光明寺博士は田所邸を訪ねていた。が、肝心の博士はスウェーデンの学会に出席中で不在。博士の娘・京子の世話を受けていた。
 父親不在中に厄介になり続けることに心苦しそうにする光明寺博士に気兼ねせずに滞在を続けるよう告げる京子だったが、父親不在中に見ず知らずの初老男性を家に逗留させ続けるのは不用心と言っていいのか、親切過ぎると言っていいのか(苦笑)………ま、子供番組なので後者ということにしよう(笑)。
 そんな京子のやさしさに絆された光明寺博士は自分にも京子と同じ年くらいの娘がいたような気がすると口にし、気晴らしの為に散歩に出かけた…………おいっ!自分がダークに狙われている身の上なのを忘れたのか?!

 案の定、厄介ごとがやって来た。
 突然、「お父さん!」と声を掛けて来た少女‥‥…というには少し躊躇いを覚える女性(川瀬ミキ)に遭遇した光明寺博士だったが、即座に娘でないと察知したのか、単純に怪しいと思ったのか、露骨な拒否反応を示して光明寺博士はその場をトンズラした。
 当然女は博士を追ったのだが、しばらくするとその女を追ってミツ子とマサルが現れた。2人が接触したのを遠くから見ており、父に違いないと確信した姉弟が追って来たものだった。
 だが女は笑い出すと「光明寺博士は狙われているんだよ!こんな奴にね!」と言いながらアンドロイドマンの正体を現した。否、明らかに女性の体格だったからアンドロイドウーマンというべきか?(笑)
 ともあれ、光明寺に博士に逃げられたアンドロイドマン達は、今度はミツ子とマサルを拉致せんとしたが、そこにジローが現れた。いつもと異なり、ギターを得物にアンドロイドマン達を張り倒しまくるジローだったが、その間に2人は拉致されてしまっていた。

 2人が拉致されて行くのを目撃した半平は愛車を駆ってこれを追跡したが、途中で見失ってしまった。その場から手掛かりを求めようと何故か耳を澄ませたり、匂いを嗅いだりするアブない半平だった(苦笑)が、そこにジローが合流。
 ここで2人を見失ったと項垂れる半平だったが、ジローは体内にある方向探知機を駆使して2人が連れていかれた方向を探知した…………そんな便利な物があるのなら最初から使わんかい!

 場面は替わってとある山道。そこではミツ子とマサルが目隠しをされて連行されていたが、そこにアンドロイドマン達の姿はなく、人間体のゴールドウルフが1人いただけだった。
 目隠しを取る様促したゴールドウルフは、自分達をどうするつもりか?と訝しがるミツ子に稜線を越えれば逃げられると示唆した。
 ダークロボットの意外な提言に何故自分達を助けるのか?と問うミツ子に、ゴールドウルフは「私は光明寺博士が好きだった。」と述べた。田所邸を探っていたのも、既にそこにいた光明寺博士を安全なところに連れ出すのが目的だったことも口にした。
 このカミングアウトを受けて、ミツ子はゴールドウルフにも父の作った良心回路があることを察知し、父の為に動いているゴールドウルフに一緒に逃げようと誘った。そう、「光明寺の作ったロボット」という台詞を茶化して来たが、ダーク破壊ロボット達は亡き光明寺タローの姿を重ねられたという点を除けば存在としてキカイダーと同様であることが分かる。
 特に良心回路の存在は重要で、ゴールドウルフ曰く、彼の良心回路はジローのそれよりも更に不完全とのことで、その事は彼の立場と思いを非常に複雑なものにしていた。

 一方、アンドロイドマン達の報告から、ゴールドウルフがミツ子・マサルと共に逃げたと聞いて怒り心頭のプロフェッサー・ギルは一旦3人の追跡を命じたがすぐに取り消した。
 慌てずとも間もなく満月が現れ、ゴールドウルフの体内にある月光電池が作動するのをみこしてのことだった。
 そしてギルの読み通り、満月の出現で月光電池が作動したゴールドウルフは怪人体となり、それに続くようにアンドロイドマン達も現れた。何だ、結局出動を命じていたじゃんかよ(笑)。だがこのタイミングで現れたのはアンドロイドマン達だけではなく、ジローも現れた。
 即座にキカイダーに変身し、ゴールドウルフダブル・チョップを決め、マウント・ポジションに移行せんとしたがミツ子が待ったをかけた。実際、戦闘中もミツ子はゴールドウルフに停戦を呼び掛けており、襲われて尚、良心回路のことを知ってもいたからミツ子ならずともゴールドウルフを敵視したくないのは多くの視聴者も思ったことだろう。
 だがこの情は仇となり、この隙にゴールドウルフはウルフバズーカなる技(マ●ンガーZのロケットパンチと思って差し支え無し)を繰り出し、これをモロに食らったキカイダーはもんどりうって地面に倒れた。

 田所邸に収容されたジロー(←どうやってあの状況から逃れたかは全くの謎)は装甲が剥がれ、内部が露出した状態でピクリとも動かなかった。自分がゴールドウルフの命乞いをしたばっかりに反撃を食らってしまったジローを前に力なく詫びるミツ子。
 そんな中、詳しい事情を知らないながらジローを案じたり、医者の手配を申し出たり、人造人間であることを伏せて詳しい事情を話さない姉弟を勘繰りもせず食事の準備にかかったり、と京子はかなりいい人であった。

 苦衷の中、ミツ子は先の戦場に残されたアンドロイドマンの残骸に修理部品を求めることとした。だが、そこにはダークの網が張られていた。
 部品をかき集めていたミツ子とマサルはダークの警戒網に引っかかり、アンドロイドマン達の襲撃を受けたが、タイミングよく駆け付けた半平の愛車で虎口を脱することが出来た。その場の事態に対応する能力に弱くても、絶好の場に居合わせる能力を持っている半平は確かに優秀な忍者であった服部半蔵のDNAを受け継いでいると言える(笑)。
 その頃、田所邸には巨大な彫像が送られていた。スウェーデンにいる田所博士から贈られたものとのことだが、その姿はゴールドウルフそのもので、視聴者にはダークによるものであることが丸分かりだが、ただでさえ疑うことを知らない京子はあっさりその搬入を許した。ま、しょーがないか(苦笑)。
 程なく、室内には光明寺博士が入って来た。直前まで眠っていたらしく、それが京子に与えられた薬によるものだったと云うから、治療の一環だったのかもしれない。ともあれ、そんな誰かに説明してるような独り言(笑)を終えた光明寺博士はベッドに横たわるジローに気付いた。
 おもむろにジローの服をはだけた光明寺博士は露出したメカ部分に訝し気な表情を見せるも、特別驚いた風も見せず、その後夜中までジローの体を修理していた。
 博士はジローの体よりも、自分の体が勝手に動き、ジローの体をどんどん修理していくことの方に驚きを感じていた。勿論、実情を知る視聴者的には全く不思議はない。素人知識だが、記憶喪失症とは記憶しているものを思い出す力が極端に衰えているもので、そもそも人間は一度見聞きしたり経験したりしたことを完全に忘れる事は無いらしい。
 つまり、「忘れた」とは正確には「思い出せない」で、物覚えの良い悪いも厳密には思い出す力の優劣と言える。確かにそうでなければすっかり忘れていたことを綺麗に思い出したり、記憶喪失が治ったりすることも無いだろう。
 この第11話以外でも光明寺博士は記憶喪失状態でも工学博士としての能力を放浪先で発揮し、多くの人々にその能力を称賛されている。ましてや愛息の姿を重ねた苦心の作であるジローへの想いが弱い訳がなく、体が勝手に動き出して、正確な修理を施すのも充分納得がいった。材料無しにドライバー1本で為していることを除けば(苦笑)

 かように自分自身に戸惑いながらジロー修復に没頭していた光明寺博士だったが、時刻は真夜中に達しており、月光を浴びた彫像からはゴールドウルフが現れ、光明寺博士をダークに拉致せんとした。
 そこへ入室して来た京子のあげた悲鳴でようやくジローは覚醒した。ゴールドウルフが光明寺博士を連れて屋外に出たとき、そこには半平・ミツ子・マサルもダークに追われながら田所邸へ戻ってきたところだった。
 姉弟の抹殺を宣言するゴールドウルフに必死に正気に戻ることを訴えるミツ子。更にそこへギターの音が鳴り響き、ジローもまた「止めるんだゴールドウルフ、お前は他のダーク破壊ロボットと違うはずだ!」と訴えかけた。確かにこの展開自体が他の破壊ロボットでは起き得なかったものだ。
 訴えかけられた直後こそ、聞く耳を持たない様に見えたゴールドウルフだったが、タイミングよく満月が黒雲に隠れ、ゴールドウルフ水戸綱条の人間体に戻り、同時に光明寺博士と関係者に同情的な心も取り戻した。
 様子の変化を見たマサルはゴールドウルフに月光の届かない場所に移動するよう促し、ジローがアンドロイドマン達を蹴散らしている間にそうしようとしたのだが、そこにプロフェッサー・ギルの悪魔の笛が鳴り渡り、良心回路を持つ2人の人造人間が悶絶した。

 普段なら、この状況でダーク破壊ロボットが余計な攻撃を加え、その衝撃でギルの笛の音が断たれるのだが(笑)、今回はその相手が一緒に悶絶してた(苦笑)。だがそれも束の間のことで、満月を隠していた黒雲が張れ、ゴールドウルフはロボット体となり、ジローを攻撃し、ジローはその殴り合いを利用して笛の音を断った(笑)。
 かくしてキカイダーVSゴールドウルフの一騎打ちが展開されたが、キカイダーにとって何とも戦意の上がらない戦いとなった。ミツ子もそうだが、キカイダーにとってもゴールドウルフは憎める相手ではなかった。
 戦闘から両者を比較すると、殴り合いは互角、素早さではキカイダーに、腕力ではゴールドウルフに分がある様だったが、何せ戦意の上がらないキカイダーの不利が否めない。キカイダーは何度もゴールドウルフに正気に返ることを求めたが、月光回路がそれを許さなかった。
 結局、降りかかる火の粉を払わない訳にも行かず、キカイダーは大車輪投げからデンジ・エンドゴールドウルフに致命傷を与えた。タイミングの悪いことに、デンジ・エンドが炸裂する直前になって再度満月が黒雲に隠れ、致命傷を負ってからゴールドウルフは人間体と良心を取り戻したが、もう手遅れだった
 ゴールドウルフは今少し早く月光が隠れてくれれば、との無念の声を残してダムから転落し、無惨な残骸に変わり果てた…………。

 通常、ヒーロー番組における敵役は死を遂げるとその遺体はほんの一瞬しか映されないことが多いが、このゴールドウルフは辛うじてその生前の形が分かる状態で残骸と化しており、割と長い時間画面に映され、その死がはっきりと惜しまれていた。
 マサルは父がいればゴールドウルフの悲劇が避けられていたであろうことを述べ、ミツ子もこれに同調。そしてキカイダーは人造人間の体のまま両眼から大粒の涙を流していたのだった…………。
 如何なる存在でもヒーローは血も涙もある。従って、ヒーローが涙すること自体は珍しい事ではない。が、その多くは人間体で、変身体のまま涙を流した例は非常に稀である。そう考えると仮面ライダーシリーズとは違った意味で作られた生命体の哀しさがクローズアップされたこの『人造人間キカイダー』第11話は必見の回と言えよう。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日