人造人間キカイダー全話解説

第16話 女ベニクラゲが三途の川へ招く

監督:北村秀敏
脚本:長坂秀佳
女ベニクラゲ登場
 冒頭、夜の河原を何組かのカップルがイチャついていたところに川面にボコボコと大きな泡を立ててダークの女ベニクラゲが現れた。
 シリーズを問わず、クラゲ型の悪役キャラクターはグロいのが多いのだが、女ベニクラゲもまた御多分に漏れずグロ系であった。川面に現れた巨大頭頂部だけで既に女性に悲鳴を上げられていたが、首から下もイボイボが多く、クラゲというより毒キノコ、マタンゴに近かった。

 姿もグロけりゃ、性格も綺麗とは言い難く、「私は幸せそうなアベックを見ると我慢出来ないのよ!」と叫び、頭頂部を回転させながら触腕からクラゲミキサーなる赤い水を放出して襲撃した。馬鹿ップルが襲われるのはホラー映画の常識だが(笑)、厳密には特撮であって、ホラーではない子供番組でひねくれ性格でアベックに対する敵意を剥き出しにされてもなあ……(苦笑)。

 一夜明け、事件現場の橋の上に光明寺博士が立っていた。
 川原では現場に散乱したごみを一人の女性・川辺ミキが片付けていたのだが………おっ!松谷紀代子さんだ(嬉々)、後年『ウルトラマンタロウ』でZATの紅一点・森山いずみ隊員を演じたのは特撮ファンには説明不要ですね(笑)。その彼女を見ていた光明寺博士は川原に降り立つと、「ずっと見てたでしょ?」と笑いながら問うてきた。
 視聴者的には同年代の娘を持ちながらその記憶を失っている光明寺博士がミキに気になるのを感じていたのはすぐ分かり、実際に光明寺博士もその旨を口にしていたのだが、切り出し方が、「許してくれたまえ。失礼な奴だと思われるだろうが、私は君ぐらいの年頃の女の子を見ると何故か気になってねぇ〜……。」では危ない奴と思われかねんぞ(苦笑)。

 ともあれ、ミキが膨大な量のごみをたった一人で片付けるのは、6歳で川に転落して水死した弟の遺志を継いだものだった。かつては鮎まで取れた川がすっかり汚れたこと憤りを感じた亡弟は一人で川原を掃除していて不慮の死を遂げたと云うのである。
 しかも川の水が余りに汚かったために遺体発見まで3日の時間を要したことからミキは自分一人の力が小さいの承知の上で弟の代わりを買って出たというものだった。私事だが、うちの道場主はそのミキの弟と同じ年頃に幼馴染を水の事故で失っているので、胸が痛かったな…………。

 ともあれ、ミキは程なく叔父であるボート屋・和田浩平(太宰久雄)に呼び出されて光明寺博士と別れた。何でもミキは叔父宅に居候し、養われているらしく、ボート屋で仕事を手伝っており、叔父はミキがゴミ拾いしていることにも「役所に任せればいい。」と否定的だった。ま、お客様を待たしているから早く戻れという叔父さんの言い分は正論だったがね。

 場面は替わってダーク基地。
 そこでは女ベニクラゲプロフェッサー・ギルの前で毒子クラゲの殺傷能力を披露し、それを生物兵器として外国に売りつけることに対して協議していた。
 毒子クラゲは水質汚濁の酷い当時の汚れた河川で培養されたもので、蛍光灯の光が当たると狂暴化して、実験用に連れて来られたアベックを襲い、体に貼り付くや殺害しただけでなく、その体すら跡形も残さなかった。『仮面ライダー(スカイライダー)』に出ていたクラゲロンの毒子クラゲ作戦を彷彿とさせる恐るべき計画と云えた(勿論、時系列的には『人造人間キカイダー』の方が先)。

 殺傷能力は充分として、次にプロフェッサー・ギルはこれを諸外国に売るための宣伝方法を女ベニクラゲに問うた。
 女ベニクラゲは毒子クラゲをアベックの集まる河川に放ち、街灯の光を浴びた毒子クラゲがアベックを次々と襲う惨事になれば、それが宣伝になる、と笑いながら主張した。やっぱり、こいつアベックに妙な逆恨みを持っているとしか思えん(苦笑)

 だが、作戦会議は急遽打ち切られた。突然の注進が30匹ばかりの毒子クラゲが河川に流出されたと告げて来たのである。女ベニクラゲは逃げた毒子クラゲが事件を起こせば作戦が明るみに出ると焦った…………騒ぎを起こしたいのか、起こしたくないのか分からん!(笑)
 人を殺して騒ぎを起こす目的を持っている筈なのに、こいつにとっては殺す対象がアベックでないと気が済まないのだろうか? (苦笑)

 場面替わって、とある橋の上。
 半平の車に乗っていたミツ子とマサルは川原でゴミ拾をしている父を見つけた。すぐさま急行せんとしたが、半平の車がエンスト(←走行中にエンストしたのだから相当整備不良だな)している間にまたも父は姿を消した。
 半平を見捨てて(笑)姉弟が川原に駆け付けると、川岸では数人の子供達がクラゲを見つけて騒いでいた。川にクラゲがいることを訝しがるミツ子だったが、彼女は淡水に暮らす「ミズクラゲ」の存在を知らないのだろうか?だとしたら、ミツ子は同じ理科にあっても、科学や物理学には強くても、生物学には弱いに違いない(笑)。

 ともあれ、ミツ子・マサルが川岸に駆け寄ると中から女ベニクラゲとその専属戦闘員(女性で、網タイツ着用、薙刀を装備。後の方で、ジローは「女アンドロイド」と呼んでいた)が姿を現し、急襲した。
 勿論、そこにはギターの音が鳴り響き、橋の上にジローが立っていた。橋から飛び降りて女ベニクラゲと対峙したジローは、ミツ子に子供達を連れての避難を促し、そこにタイミングよく半平が駆け付けたのは良かったが、ミツ子を含め、総勢8人の一行では半平の軽には乗り切れず、1人の少年を取り残して走り去る体たらくだった(その間も半平は加勢すると見せながら腰を抜かしたり、業を煮やしたマサルに蹴られて腰が戻ったり、と相変わらずだった)。

 結局、この少年が女アンドロイドに襲われたため、ジローはキカイダーに変身し、勝負を預ける形でサイドマシーンに少年を乗せてその場を脱したのだった。
 しかし、このシーン、少年がジローに助けを求めるのは良いのだが、その際にジローを呼び捨てにしていた。恐らくはマサルがその名を呼び、呼び捨てにしていたことからそう呼んだのだろうけれど、少年がジローを人造人間と知っていた様子はないので、初対面の大人を呼び捨てにしていたのは頂けなかった。
 ま、ジローを人造人間と知っていたなら知っていたでジローを頭から物扱いしていることもまた悲しい演出なのだが。

 ともあれ、少年=タカシはジローによってボート小屋に保護された。
 ボート屋はタカシが川で遊んでいることを叱ると、タカシは川をきれいにしているだけだと反論。それを聞いた親父はミキに要らざることを吹き込まれた、と軽く悪態をついていた。ふむ、このタカシはミキの従弟という訳か。年齢的にもミキの亡き弟と近いだろうから、気持ちは分からなくもない。
 一方、親父は本業がおざなりになることを愚痴っていただけで、元々は気の良い人物らしく、タカシを助けてくれたジローに愛想よく礼を述べていたが、その裏でタカシは川で捕まえた毒子クラゲを水槽に放っていたのだった‥‥………女ベニクラゲに襲われ、女ベニクラゲの口から子クラゲが女ベニクラゲの所有であることがはっきり告げられていたのにこっそり所持していたのだから、どうもこのタカシ、余り頭は良くなさそうだ(苦笑)。

 直後、半平に連れられたミツ子・マサルも駆け付け、2人の口から光明寺博士らしき人が川を掃除していたことが告げられ、一同は俄然色めき立った。
 そしてその頃、光明寺博士は川を掃除しつつ、汚濁・悪臭が上流に行くほど濃くなっていることに気付き、訝しがっていた。なし崩し的なボランティアだが、ナレーションによるとそんな活動でも光明寺博士には束の間の幸せだったらしい。
 もっとも、その幸せは長続きしないこともまたナレーションによって告げられていた。丸で『知ってるつ●り?』だな(苦笑)

 ともあれ光明寺博士は直後に合流したミキに川の様子を伝え、上流にある家が怪しいとした。それを見たミキは断然抗議に行くとしていたが………否々、見た目一発、「家」じゃないだろ、どうみても「建築途中で中断・放棄された工場かマンション」で、そこが公害を出しているなら相当怪しい存在であるとの判断は働かなかったのだろうか?(苦笑)
 特に光明寺博士!普段はダークの影に脅え、ミツ子・マサル・ジローを間近にしてもすぐに逃げ出すのに、そんな怪しい場所にたった2人で赴く神経が分からん!(苦笑)

 案の定、2人は女アンドロイド達に取り囲まれた。するとそこに高所からやって来たのは鳴り響くギターの音色………ではなく、ギターそのものが飛んできた(笑)。
 博士に手出しは許さないと息巻くジロー。さすがにのんびりギターを弾いている暇はないとの判断か?(笑)
 ともあれいつもより素早く地面に降り立ったジローは女アンドロイド達を蹴散らしながら、光明寺博士に自分が博士に作られた人造人間であることや、ミツ子・マサルが無事であることを告げ、記憶をよみがえらさんと必死に呼び掛けた。しかし光明寺博士は弱々しく頭を振るだけで、結局ジローが女アンドロイド達を蹴散らして駆け付ける前にその場を逃げ去ってしまった。第11話で自分がジローを修理した経緯からも、もう少しジローに心を開くか、それが無理でも手掛かりを求めての接触を図ってもよさそうな気がするのだが………。

 結局再会はお預けのまま、Bパートに入った。
 場面は替わってボート小屋。タカシはミツ子・マサル・半平に例のクラゲを披露していた。女ベニクラゲに襲われてから大した時間が経ったとは思えないのだが、タカシは子クラゲが海水や綺麗な真水の中ではすぐに弱り、汚い水の中ではぴんぴんしているという生態を把握しており、このクラゲを題材に世に水質汚濁の愚を訴える、としていた。うーん………少し見直した。それなりに川のことや水棲生物に詳しく、何より川をきれいにしたいという純粋な気持ちは本物だった。
 それを聞くミツ子・マサルも感心。「自分のことしか考えない大人達」の1人と見られたものか半平は「耳が痛い……。」としていたが、お前ら全員、ついさっき女ベニクラゲに襲われたことを忘れたのか?!?(苦笑)

 ともあれ、そこに川で取れたクラゲに興味を示したボート屋が入って来た。親父が興味を示したのも「川にクラゲがいる訳がない。」との思いからで、それに対して半平も「ごもっとも」と言っていたが、ミズクラゲというクラゲはプールに生まれるほど身近で、知名度もそこそこあるのになあ(苦笑)。
 そしてまんの悪いことに、汚い水中にいるのではよく見えない、と考えた親父が蛍光灯の光を当てたために毒子クラゲは凶暴化して水槽を飛び出して一同に襲い掛かった。ただ、何故か空中を浮遊して上昇下降を繰り返すだけで、直接攻撃には出ず、直後にジローが駆け付け、その特性に気付いたことで事なきを得た。まあ、しかしなんだ……当時の特撮技術ではやむを得ないのだろうけれど、毒子クラゲを吊るすピアノ線が見え見えなのが少し物悲しかった(苦笑)

 毒子クラゲの特性を掴んだミキ・タカシはこのことを街の人々に訴え、川を汚すことの非と危険に警鐘を鳴らさんとして屋外に飛び出し、伯父もそれに続いた。
 小屋に残ったミツ子はジローが時折左腕を押さえていることから負傷に気付いた。負傷はタカシを連れて戦線離脱する際に女ベニクラゲが投げた槍を食らってのものだったが、ジローはそれを隠そうとした。
 その心境はマサルが代弁したところによると、「姉さんに人間じゃないことを見せたくない」からというもので、ミツ子もそれには気づきつつも、口に出すのは躊躇っていた。だが、怪我がはっきりした以上、治さない訳にはいかない。ミツ子は即座に修理にかからんとしたのだが、その為の部品調達の対象は、タカシのラジオだった。ビスや配線やバネならあらゆる家電品に入っていてもおかしくないが、キカイダーの部品がラジオと共通しているというのは、何だかなぁ…………(苦笑)

 一方、ミキとタカシは上流の怪しい建物に来ていた。一応、先の一件もあってか、ジローはこれに近寄ってはいけないことを告げており、ミキはタカシを止めようとしたが、タカシはクラゲを証拠に、川を汚したことへの責任と罪悪感を問うとして躊躇わなかった。純粋と言おうか、無謀と言おうか…………現実の悪徳企業だって、子供にそんなこと言われて責任を感じて行動を改めるとは思えない(公害問題の歴史を振り返れば一目瞭然ですよね)。
 まして、怪しい建物に潜んでいたのはダークである。必然、2人は女ベニクラゲに襲われた。だが、それ以前に息子・姪と一緒に飛び出した筈の親父が小屋に戻って、2人が怪しい建物に向かったことをジロー達に告げていたことで、救助の手は間に合った。

 2人が特撮界お約束の「放せ!」を叫びながら(笑)建物内に連れ込まれようとしたところ、修理を終えたジローが中から現れ、女ベニクラゲと対峙した(しかも既に実験室の装置を破壊済みという早業(笑))。
 さすがに何度も邪魔される形になった女ベニクラゲも怒り心頭、いよいよ最終決戦の火蓋が切られようとしたところでプロフェッサー・ギルの悪魔の笛の音が鳴り響き、ジローは悶絶した。
 遠巻きに様子を見ていたミキとタカシは明らかにジローの様子がおかしいのを見て、程なく鳴り響く笛の音が原因とみて、これを阻止せんとした。ただの人間によるこういう活躍はシルバータイタンの好むところで、2人の物の考え方も合理的だったのだが、笛の音を発つための手段が、クラゲをジローの両耳に投げるというものだったのには爆笑した(笑)
 うーん………この従姉弟、賢いのか阿呆なのか分からん(苦笑)。

 ともあれ、ジローの両耳に貼り付いた子クラゲは見事に笛の音を断ち(笑)、ジローはキカイダーに変身。かくして本当に最終決戦が始まった。女アンドロイド達は通常のアンドロイドマン達よりは強い様だったが、それでも(当然ながら)キカイダーに抗し得なかった。
 例によってキカイダーと女ベニクラゲの一騎打ちとなったのだが、ダーク新破壊部隊という名の格の違いももはや失せたのか、格闘において女ベニクラゲは明らかにキカイダーに劣っていた。
 そのままでは敵わじと見た女ベニクラゲはホームレンジである水中に逃げ込んでキカイダーを迎撃戦としたが、そこでもやはりキカイダーに劣っていた。クラゲ幕なる目眩ましを放って、闇中に若干の優位を得るも、キカイダーは両腕を旋回させるスーパークリーンなる技で闇を払われ、「最後の手段」とした槍型の武器を投げつける攻撃も功を奏さなかった。

 そして戦いの舞台は再度地上へ。「最後の手段」もかわされた女ベニクラゲは触腕でキカイダーを締め上げたのが最後の抵抗となり、腕尽くで振り解かれるとダブル・チョップ大車輪投げデンジ・エンドの3点セットを食らっておくたばりになったのだった。

 ラストシーンにて、親父・タカシ・ミキは改めて川をきれいに保つことの大切さを噛み締めていた。特に親父はいつの間にか川の汚さに慣れっこになっていた我が身を恥じていた。見た目にはコミカルな三枚目風ながらも、なかなかに理解のある人物だった。
 今回は川の問題、特に放映中は公害問題の真っただ中の時代もあってか、そこに重点が置かれたためか、ジローが一人走り去る中、いつものナレーションで終わり、ミツ子・マサル・半平の出番は無し。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日