人造人間キカイダー全話解説

第19話 死神獣 カブトガニエンジ参上!

監督:畠山豊彦
脚本:長坂秀佳
カブトガニエンジ登場
 冒頭の舞台は宝石店。身なりはそこそこでも髭面の怪しい男(エディ・アラブ)が50カラットものエメラルドを探し求めていた。
 それに対して女性店員・三森令子(松沢のゝ)は店には40カラットまでのものしかないと告げたが、男はエメラルド探知機なる機械を示してそんな筈はない!と激昂した。
 令子の言は全くの嘘ではなかった。実際に店内には50カラットのエメラルドは有ったのだが、それは令子の私物にして、彼女の母の形見で、売り物ではなかった。だが、予想通りダーク破壊ロボットが正体であるその男が納得する筈なく、彼女の指輪を強奪せんとした。

 その騒ぎを聞きつけて店長らしき男性が助けに入った。彼は花瓶を闖入者の頭部に叩き付けてまで自店の店員を救わんとする硬骨漢だったが、如何せん正体を現したカブトガニエンジの敵ではなく、放たれた手槍の餌食になってしまった。それにしてもカブトガニエンジか………うーん………動物がカブトガニで、色がエンジか………色ネタが尽きて来たのは仕方ないにしても、特別天然記念物は大事にしような(苦笑)。

 ともあれ、この間に令子は店外に逃れていた。そこで偶然半平と遭遇した。
 例によって調子の悪い愛車のため、危うく女性を轢き掛けた半平は女性に助けを求められるといつもの調子良さで、救助を求める令子の懇願にも関わらずいつもの似非ジェントルマン振りを見せていたのだが、その間にも背後からカブトガニエンジはどんどんせまっており、殆ど「志村!後ろ後ろ!」状態だった(苦笑)。
 ただ、話数を重ねることでこういった事態に多少は慣れたものか、脅すカブトガニエンジ相手に媚びると見せかけた半平は一瞬の隙を突いてカブトガニエンジを突き飛ばすや、令子を車に乗せてその場を離れるのに成功した。だが、逃れたと思うのも束の間、車の屋根にはしっかりカブトガニエンジが貼り付いていた。

 途中で遭遇した光明寺姉弟の指摘で屋根にカブトガニエンジがいることに気付いた半平はそのまま襲撃を受け、逃げ惑ったが、カブトガニエンジの吐くカブトガニ砲なる泡攻撃を前に4人とも気絶に追いやられた。
 相手の抵抗力を奪ったカブトガニエンジは本来の目的である令子だけを拉致し、後の3人は殺害せんとしたが、そこに例によってギター音色が鳴り響いた。

 カブトガニエンジ及びアンドロイドマン達と白兵戦を展開したジローは間隙を縫って半平を覚醒させると他の面子を率いての避難を促した。それに対して意識朦朧状態だった故か、半平か愛車を駆って逃れるのに伴ったのは令子1人で、ミツ子とマサルはその場に残された。
 そんな状況下にあって、変身したキカイダーとカブトガニエンジ一味の格闘が続く中、倒れたままの姉弟を心配して一人の人物が声を掛けた。声の主は何と光明寺博士。
 いまだ覚醒せぬまま、うわ言で父の名を呟くミツ子に、「可哀想に…兄弟で家出でもして来たのか……。」と呟く大ボケ振りの光明寺博士(失笑)。いや、おかしいだろ………記憶を失ってから(放映時間換算で)約5ヶ月だが、その間何度となく光明寺博士は気付かずとはいえ遠巻きに何回か姉弟を目の当たりにしている。だが、光明寺博士がそれに気付いた風もない。
また、そもそも姉弟で家出するとあればその家庭環境は相当劣悪で、そんな家庭を逃げた人物が「お父様…。」と呟くなどかなりピンポイントな状況下に限られる(例:母親の再婚相手に相当な虐待を受けて逃げる途中で実の父を懐かしむとか)。

 その間、アンドロイマン達を蹴散らし、カブトガニエンジと一騎打ちを展開していたキカイダーは空中での衝突時に相手の両足をもぐという大ダメージを与えた。通常ならこれで最期を遂げてもおかしくないのだが、カブトガニエンジは捨て台詞を残すと腕のハサミの力だけで地面を掘り、地中に遁走した。凄いのか凄くないのかよく分からん奴だ(苦笑)

 場面は替わってダーク基地。
 通常、かかる惨敗を受けて逃げて来た者は処刑されるのが悪の組織の相場だが、カブトガニエンジには両足の再生手術が施されていた。プロフェッサー・ギルによるとどうもカブトガニエンジには新兵器開発任務が残っており、それに期待されていたようで、それゆえに再生が許されたと見える。新兵器の名は死神破壊光線というダッサダサなネーミング(苦笑)で、キカイダーを瞬殺する為に開発されたその兵器の実験を披露したのは良いのだが、実験台が通常のアンドロイドマンで、絶命までに散々苦悶の声を上げていたのを見ると対して期待出来そうになかった(苦笑)

 そんな見た目にも大したことなさそうな新兵器をプロフェッサー・ギルはいい出来だと褒めていたが、当のカブトガニエンジは満足していなかった。死神破壊光線銃の威力を最大限に発揮するにはレンズ部分に最高級のエメラルドを使用する必要があり、それゆえにカブトガニエンジは冒頭で玲子の店から50カラットのエメラルドを強奪せんとしていた。
 勿論そんな目的があるゆえカブトガニエンジは玲子のエメラルドを諦めていなかった(←ちなみにこの時点で初めて彼女の名前が出た)。逆を言えば、基準値を満たすエメラルドを用いない段階では死神破壊光線は只の破壊光線に過ぎず、真価を発揮すれば照射した対象をそのまま爆弾化し、対象のみならず、その周囲にも大きな破壊をもたらすことが出来ると云うのがカブトガニエンジのこだわりだった。

 確かにこの発想は面白く、プロフェッサー・ギルも散々ダークの破壊活動を妨害してきたキカイダーがそのまま爆弾となって大破壊をもたらすことに感心し、カブトガニエンジに件のエメラルドの強奪を命じた。

 場面は替わって玲子宅。半平は玲子から母の指輪を守るという依頼を快諾。それをきっかけに玲子と仲良くなることを目論んでいたが、玲子は出勤してしまった。泊まり込むことでまだまだ好機は有るとほくそ笑んでいた半平だったが、入浴中をカブトガニエンジに襲われ、金や女よりも我が身可愛さの方が上回り、逃げ惑う中、預かり者の指輪を手放そうとする始末だった。
 命を何より大切に考えるなら全く理解出来ない行為でもないが、私立探偵としては完全失格と云える醜態だった(嘆息)。

 一方、光明寺博士に救われたミツ子とマサルは病院で息を吹き返した。カブトガニエンジの発泡は単なる麻酔で、命や身体に別状をもたらすものではなかった。ただ、姉弟が目を覚ましたり、ジローが駆け付けたりする前に光明寺博士は病院に2人を託すや、またも姿を消してしまった後だった。

 ともあれ、姉弟の無事を見届けたジローは玲子の宝石店を訪ね、エメラルドが半平に預けられたことを知り、半平に危機が迫っていることを察知した。
 そしてその半平は追われる恐怖に耐えかねて途中で遭遇したミツ子に指輪を「進呈」し、逃げ続けたが、結局はカブトガニエンジに捕まってしまった。指輪を手放したことで知らぬ存ぜぬを通そうとした半平だが、やはり根の臆病は如何ともし難く、指輪をミツ子に渡したこともゲロってしまった。
 折悪しく正にその場にミツ子とマサルが現れ、カブトガニエンジは矛先を姉弟に転じた。放置された半平は脅えながらも姉弟に詫び、「上手く逃げてくれよ……しばしの我慢だ。必ず、必ずお助け申すぞ!」と口にしていたので、幾許かの責任感・使命感は有ると思われたが、直後の「ミスター・ジローが(助ける)。」の一言がすべてを台無しにしていた(苦笑)。
 人間、ここまで他力本願で生きられたら、或る意味、幸せかも知れん(←直後、半平は自分のことを思い切り棚に上げてタイミングよく駆け付けて来ないジローを詰る言葉を口にしていた(嘆息))。

 結局姉弟はカブトガニエンジに追い付かれ、指輪を奪われ、用済みとばかりに殺されようとした。だがそこへジローが駆け付け、指輪を奪い返したジローは後からやって来た玲子に指輪と姉弟を連れての逃走を託した。
 カブトガニエンジは死神破壊光線銃を駆使してジローを襲い、更にはいつもの悪魔の笛の音までがジローを襲った。悶絶するジローを見ていたカブトガニエンジはジローが苦しむのは良心回路を持つ故で、自分がその宿命=命を終わらすと宣し、死神破壊光線銃を持ち出した。
 それを物陰から見ていたミツ子は先に誤爆で死神破壊光線銃に壊されたカーブミラーを用いることを助言。辛うじてカーブミラーを持ち上げたジローは光線を反射させて光線銃を破壊することに成功した……………ちなみに鏡をいくらピカピカに磨いてもレーザー光線を反射出来ず、即座に壊れてしまいます

 しかも反射によって光線銃を破壊した爆発音で悪魔の笛の音までが断たれるというひどい展開を経てジローはキカイダーへの変身を遂げた。
 かくして最終決戦となったのだが、こだわりの強かったカブトガニエンジの戦闘能力は大したものではなく、回転アタックでマウント・ポジションを奪われてしばし殴りつけられると、そのまま為す術なくダブル・チョップ大車輪投げデンジ・エンドの三点セットで秒殺に等しい最期を遂げた。どうも新破壊部隊にあって、カブトガニエンジは力よりも智で動くタイプの様だった。

 そしてラストシーン。ミツ子から玲子に無事にエメラルドは返され、両者は各々の親を想う気持ちを讃え合って第19話は終幕した。
 全体的なストーリーとしての不満はなかったが、半平の身勝手が不問のままだったのは頂けなかった。命惜しさは完全には悪くないが、私立探偵として廃業物ともいえる背信行為には何らかのしっぺ返しがあってしかるべきだとシルバータイタンは思う。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日