人造人間キカイダー全話解説

第27話 バイオレットサザエの悪魔の恋

監督:北村秀敏
脚本:長坂秀佳
バイオレットサザエ、アカオニオコゼ、カイメングリーン登場
 冒頭、舞台となったのは河津温泉郷の七滝温泉なるところ。一人の白衣の男性(小山源喜)が逃げ惑っていた。彼を追っていたのは色取り取りの服装を纏う5人の無表情な女性。
 滝まで逃げたところで安堵したのも束の間、四人の女性は女アンドロイドマン達で、リーダー格の女性(進千賀子)はダーク破壊部隊のバイオレットサザエだった。尚、男性−荒木博士はダークのことを既知だった模様。

 バイオレットサザエ一行の狙いは博士が密かに完成させた設計図とのことで、当然の様に荒木博士は惚け、バイオレットサザエは殺害をほのめかして脅迫したのだが、そこに鳴り響くギターの音色……まあいつものパターンなのだが、滝の上にいるジローを見て、「あぁ、ジロー君!」と嬉しそうな声を上げる荒木博士は何者なのだろうか?
 ま、そのまま視聴していれば程なく分かるのだろうけれど。

 いつもの如く、女アンドロイドマン達相手の立ち回り後、キカイダーに変身せんとしたジローだったが、そこにプロフェッサー・ギルの悪魔の笛の音がジローを悶絶せしめた。
 そしていつもならダーク破壊ロボットの攻撃が「要らんことしい」となって悪魔の笛の音を遮断するのだが、今回のバイオレットサザエの攻撃は笛の音を阻害せず、必殺サザエ車なる棘飛ばし攻撃はジローの腕に命中して内部メカの一部をショートさせ、続く必殺サザエ焼きなる攻撃は回転する単眼が更にジローを苦しめた。
 悪魔の笛の音を阻害せず、効果的な攻撃を加えるバイオレットサザエだったが、技名と実際の攻撃形態が全く一致しないのは何故だ?(笑)

 ともあれ、危機的状況に陥ったジロー。そこに助け舟を出したのは荒木博士だった。荒木博士はバイオレットサザエに、要求に応じて設計図を渡すことを告げて、ジローへの攻撃中止を要請した。となると荒木博士は前々からジローと知り合いだったということだろうか?
 背景はさておき、バイオレットサザエは荒木博士の要請に応じ、博士が宿泊していた大家荘に案内させた。
 だが、脅しに屈したと見えたのは荒木博士の一芝居。設計図をしまってあるとして押し入れから取り出した金属製の箱はアンテナを延ばすやバイオレットサザエと女アンドロイドマン達を忽ち行動不能に陥らせ、荒木博士はバイオレットサザエを作り変えるとほくそ笑んだ。なかなかに強者である。
 だが、室内にあったサボテンが白煙を上げたかと思うとそれはダーク破壊ロボットのカイメングリーンに変じ、形勢は逆転した。さすがにダーク破壊ロボットを二体も封じる術は荒木博士にもなかったようで、博士はカイメングリーン強いるままにバイオレットサザエを解放した。

 この間、キカイダーは放置状態か?と思われたが、実際にはずっと悪魔の笛の音に悶絶していた。画面上に手悶絶していた時間は決して長くなかったが、ストーリー展開からかなり長時間苦しんでいたことと推測される。
 しかし、苦しみの余り、滝から転落したことで笛の音が途切れるというあんまりな理由でジローはキカイダーへの変身に成功した(苦笑)。

 だが、キカイダーが荒木博士の元に駆け付けたとき、荒木博士は拘束されたことに激昂したバイオレットサザエによって殺されてしまっていた。当然キカイダーはバイオレットサザエカイメングリーンの2体を相手に戦うこととなったが、バイオレットサザエダブル・チョップ一発でKOされた。
 悪魔の笛の音に苦しむジローを、笛の音を阻害しない攻撃で更なる苦しみを与えつつ、取引に応じていたことから理知的なロボットか?と見られたバイオレットサザエだったが、まだ設計図を手に入れていないことを理由にカイメングリーンが止めるのも聞かずにキレて荒木博士を殺した上に、ダブル・チョップ一発でKOされたのだから、結果としては何ともトホホな破壊ロボットだった。
 一方のカイメングリーンだが、バイオレットサザエが敗れた途端に逃走を図るも、忽ち追いつかれ、巨頭を転がして攻撃するも、回転アタック&大車輪投げの前に五体バラバラとなった。ま、擬死だったんだがね。

 戦い終えて荒木博士の部屋に戻ったジローだったが、博士は既に意識がなかった。
 直前まで介抱に努めていたミツ子の台詞から、荒木博士が光明寺博士と同じく人造人間の良心回路を完成させていた人物であることが明かされた。成程、そうなると荒木博士がジローを知っていて、荒木博士のことをジローやミツ子が知っていて、荒木博士がダーク破壊ロボット相手にそれ相応の抵抗を為していたことも納得である。
 ミツ子は荒木博士から良心回路の設計図を渡したいとの手紙を受けており、ミツ子もジローが苦しむことなくダークと戦うためにもジローに完成された良心回路の組み込みを望んでいる旨を告げた。

 だが、ジローは自分の為に荒木博士が被害に遭ったと捉えており、自分の為に誰かが傷つくぐらいなら今のままでいい、と第3話とは少し違った形で完全な良心回路の組み込みを拒絶した。
 するとその時、荒木博士が最後の力を振り絞って設計図が博士の娘の元にあることを告げた。「お嬢様は何処に?」と問うミツ子はもう声が声にならない状態の博士の口元に耳を近付け最後の言葉を聞き取るや、荒木博士は今度こそ息を引き取った。

 場面が変わるとスバル360からバンカラ学生風の服装をした半平が現れた(←ちなみに放映時の植田峻氏は29歳(笑))。どうやら舞台が伊豆であることから名作『伊豆の踊子』の主人公に扮しているようだが、ほなら、オホーツク海に行ったら、蟹工船の船員のコスプレでもするのだろうか、この男は?(笑)
 ともあれ、伊豆の湯煙を堪能しつつ可愛い踊り子を探さんとする超単純男だったが、突如最前のキカイダーとの戦いでバラバラになっていたカイメングリーンの体にぶち当たった。

 蘇生したカイメングリーンは基地に戻ると、バイオレットサザエが短慮により、設計図の在り処を聞き出さないままに荒木博士を殺害してしまった事を報告。さすがこれにはプロフェッサー・ギルは怒り、2体も居ながらそうなったカイメングリーンの体たらくを責める一方で、キカイダーが良心回路を手に入れない為にももう1体の破壊ロボットを出すと告げた。
 1話で3体のロボットを新登場させるとはかなり稀有な例だが、プロフェッサー・ギルはキカイダーが完全な良心回路を入手したら「ダークは壊滅させられる。」としていたから、相当な危機感を抱いていたのだろう。プロフェッサー・ギルカイメングリーンには荒木博士から設計図の在り処を聞きだしているであろうミツ子を見張るよう命令した。

 一方のミツ子は、ジローの手当てをしつつ、ジローが良心回路を手に入れることで無敵となって対ダーク戦が有利になるよう説得したが、当のジローはやはり拒否した。
 最前、良心回路を巡って荒木博士が殺されたことが引っ掛かていたようで、博士の娘・タエ子の元に向かえば、幼子を養育中のタエ子を危険に曝すともしていた。

 直後、何かの匂いを嗅ぎ取ったジローは屋外に飛び出し、耳のダイヤルを回すことで嗅覚を5倍にすると重傷を負って動けないでいる女性を見つけたのだが、これが何とバイオレットサザエの人間体。ともあれ、ジローは彼女を宿屋に連れ込んだ。
 ジローが若い女を連れ込んだことに妙な気持を抱くミツ子だったが、程なく女がアンドロイドであることが分かった。アンドロイドをダーク破壊ロボットに違いないと見たミツ子は何故ダークを助けるのか?と訝しがったが、ジローは「壊れかかった人造人間の気持ちは人造人間にしか分からない。」として、介抱を続けた。

 少し回復したバイオレットサザエは何故(敵である)自分を助けるのか?と訝しがった。
 それに対してジローは、悪い奴の命令に従うように作られたからであって、彼女自身に罪はないと答えた。この命題はキカイダーのみならず、仮面ライダーシリーズにおける改造人間という存在を考察するにおいても実に重い。
 キカイダーの話を聞き、バイオレットサザエは良心回路が欲しいと訴えた。すると次の瞬間、屋外から槍が飛んできて、「君は狙われている。」と告げてジローはバイオレットサザエを避難させんとした…………否、狙われたのはお前である可能性も充分だぞ、ジローよ(苦笑)

 自分が彼女を避難させるまで何処へも行かないようミツ子に告げて発つジロー。それを複雑な表情で見送るミツ子。人造人間同士仲がいいのかと推察するマサルを大人気なく怒鳴りつけ、ジローの指示も無視して何処へともなく歩き続けるミツ子‥……はい、きっちり女アンドロイドマン達に尾行されています。
 それにしても嫉妬とは厄介な感情である。それでも美女の軽い嫉妬は時に絵にもなり、時に可愛らしくも映るが、男の嫉妬はみっともないだけだもんなあ、うちの道場主なんかギリシャ神話の女神ヘラ並みの嫉妬深さが本当にみっともなく………ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!(←道場主のテリブル・ペイン・クラッチを食らっている)

 いずれにせよ半ば自棄糞状態のミツ子はダークに狙われても構わない気持ちで自分が先に設計図を手に入れんとした。
 だがその頃、カイメングリーンアカオニオコゼに追い詰められたバイオレットサザエは、ダークを裏切っておらず、あくまで設計図を手に入れる為にジローを欺いているだけだとした。
 三者は協力して一人海岸を歩くミツ子を襲って妙子の居場所を白状させようとしたのだが、この間、ミツ子は必死にジローに助けを求めていたのだから、言っていることとやっていることが滅茶苦茶である。嫉妬という感情は本当に厄介でしかない………。

 だがそこへいつものギターの音色を鳴り響いた。タイミングよく表れたのはバイオレットサザエを信じずにこっそり見張っていたからか?と思ったが、シルバータイタンの推測は外れ、ジローはバイオレットサザエを信じていたらしく、それが裏切られたことへの怒りを露わにしたが、バイオレットサザエから返って来たのは逆ギレだった。

 かくして1対2のハンディキャップマッチとなったのだが、キカイダーは然して苦戦せず、カイメングリーンを投げ飛ばすや、カイメングリーンは先程と同様に体をばらばらにして戦線離脱。1対1になっては勝負を決まったも同然と思われたが、キカイダーはバイオレットサザエが改心する望みが捨てきれない様で攻撃の矛先を鈍らせていた。
 逆ギレの態度を取るバイオレットサザエは非情になり切れないキカイダーの隙を突いて、眼部を焼きゴテのようにして押し付けてキカイダーを苦しめたが、意を決したキカイダーは手刀打ちで眼部を断ち切り、回転アタック大車輪投げデンジ・エンドで致命傷を与えた。
 今際の際にバイオレットサザエはジローの前で言ったことこそが本音だと言い出した。今更な台詞に何故自分の言う通りにしなかったか?と憤るキカイダーに、バイオレットサザエプロフェッサー・ギルに逆らえない苦しさ、出来るなら美女の姿で死にたかった等の想いを振り絞るや爆発し、無惨な残骸に変わり果てた。

 様々な想いを抱え、荒木博士とバイオレットサザエの死を看取り、周囲の者が自分の指示通りに動いてくれない遣り切れなさにジローは、力なく詫びるミツ子をも怒鳴りつける程、激情の渦中にあった。
 だが、そんな気不味い空気は半平によって断たれた。一大事を告げる半平が指さす方を見ると、そこではマサルがアカオニオコゼに追われていた。勿論かかる状況を見て指を咥えているジローではなく、即座にサイドマシーンに搭乗した。

 走り去るジローを見て、ジローを苦しめているのは自分だとの自責の念から半平に縋ってすすり泣くミツ子。さすが意に雰囲気を察してか、いつもの助平根性を出さずミツ子の肩を優しく叩く半平だったが、その背後ではカイメングリーンが五体を復元させていた。

 かくして様々な想いと危機を抱えて第27話は終わりを告げたのだった。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日