人造人間キカイダー全話解説

第29話 カイメングリーンは三度甦える

監督:永野靖忠
脚本:長坂秀佳
カイメングリーン登場
 冒頭、第27話、第28話の経緯と、マサルがカイメングリーンに追われていることがダイジェストにて語られた。
 必死に逃げ惑うマサルだが、前話のラストにてトラックの荷台に乗り、それをカイメングリーンが(光明寺博士の運転する)タクシーにて追っていたのを丸で忘れたかのように、両者ともに徒歩だった(苦笑)。
 ま、この後の展開から、マサルが東京でトラックから降り、トラックが東京行きであったことを当てにジローとミツ子も東京の旧光明寺邸に戻っていたことが分かったのだが。

 ともあれ、助けを求めて交番に駆け込んだマサル。だが交番で待ち構えていたのは警察官に変装したアンドロイドマン。何とか電灯を振り回してその魔手を逃れたマサルだったが、人間不信を募らせ、助けようとした本物の警察官を頭から信用しない始末だった。
 ちなみに、職務に忠実でマサルを助けんとした本物の警察官は拳銃を駆使して対峙するも、カイメングリーンに殺されてしまった。その際に、カイメングリーンは「そんなおもちゃがカイメングリーンに通用するか!」と言い放っていたが、前話で半平に突き付けられたコルク銃に諸手を挙げていたのは誰だ?!? 

 まあ、前話がどうあれ、目の前で拳銃を持った警察官が惨殺されたとあってはマサルの直面した恐怖は尋常ではない筈。偶然再会した半平が車に乗るよう勧めても(カイメングリーンの追跡を恐れて)ジェスチャーでこれを拒絶するほどだった。
 一方、派手派手な趣味の悪いモザイク模様のブレザーを着ていた半平はマサルの危機の程が丸で分かっておらず、カイメングリーンに気付かれぬよう、必死にジェスチャーで自分の存在を知られぬようにして欲しいと訴えるのを「ブロックサインごっこ」と見做す愚かさだった。
 結局、マサルは車に乗るよう促す半平よりも、偶然通りかかって、「チンドン屋に追われているのでしょ?」として助けを申し出た見知らぬ少女・カオル(斉藤浩子)を頼ってその場を去った。
 言うまでもないと思うが、「チンドン屋」と呼ばれたのは半平で、マサルに逃げられた後のカイメングリーンにも「チンドン屋」と呼ばれていた。半平をそう呼ぶカイメングリーンの人間体もステッキを持って、爪先がくるんと曲がった靴を履いた相当怪しいものだったのだが(笑)。
 ちなみにマサルが辛くも虎口を脱出出来たのには、自分が乗せて来た男を怪しいと見て様子を見ていた光明寺博士が妨害したからというのもあった。勿論光明寺博士はマサルが我が子だと知らずにやったのだが、その名前を聞いて、引っ掛かりを覚えていたのだった。ま、視聴者には「当たり前」と言いたくなる話ではあるが。

 一方、その頃のジローとミツ子だが、ジローがマサルを探す一方で、ミツ子は様々な想いに苛まれていた。
 ミツ子は今回の話で(独り言であったが)はっきりとジローへの恋心を口にしており、弟よりもジロー=男を優先した自分を責める一方で、それを自然な感情として受け止めてもいた。勿論マサルへの姉弟愛やその身を案じる気持ちがない訳ではないが、それゆえに苦しみ、行方の分からぬ父に知らず知らずの内に助けを求めていた。
 子供番組として見ていた時分には大して気にも止めなかったが、今この年齢で人造人間に対するミツ子の想いを見ていると、宇宙人や改造人間といった元々命を持った者ではない人造物への愛に複雑なものを感じるものである。

 場面は替わって車中のマサル。マサルを助けてくれた少女カオルはかなりのお嬢様で、学校の良き帰りも専属の運転手が送り迎えする生活で、彼女はそんな自由の無さから追われているマサルを家出して来たと思い込んでいた。
 カオルを演じる斉藤浩子さんは特撮番組にゲスト出演する子役の常連で、偉い学者の娘が多かったのだが、今回の役どころでは運転手を「青木」と呼び捨てにする「身分」で、その思考はかなり世間離れをしていた。

 自分の身の上を基準にするゆえ、マサルの逃走を「家出」と思い込み、「私も家出する。」と言って、運転手を困らせたと思いきや、マサルに助けた御礼を要求し、前話で半平がマサルに買った女物の靴を自分に寄越すよう要請し、一方でマサルに新しい靴を買うといって、青木運転手に靴屋への急行を命じるのだから、世間一般の少女と比べるべくもなかった。
 二人は手を繋いで牧場と思しき野原を駆け巡り、自分達を束縛する大人達を「勝手」として嫌い、大人のいない場所に行きたいとの一念で意気投合した。まあ、シルバータイタンとて子供の時分はあったから、束縛する大人からの解放を求めるマサルとカオルの気持ちが全く分からなくはないのだが、良く良く耳を傾けると二人の言い分が「大人への甘え」に裏打ちされたものであることが分る。
 カオルはカオルで世間一般よりも遥かに恵まれた環境にある故にそれ等の環境がもたらす制約のみに反発し、マサルはマサルでジローとミツ子の愛情が自分を優先したものではないことに不満を抱いていての物だから、カイメングリーンに襲われた二人が助けを求めた相手は自分達が反発している相手だった(笑)。
 ま、子供ってそんなもんか………(苦笑)。

 大ピンチの2人がBパートに入ったとき、助けの手が差し延べられた。勿論いつものギターの音色である。ただ、いつもは高所にてギターをかき鳴らすジローだが、今回は舞台がだだっ広い平原だったので、ジローはサイドマシーンを駆りながら現れた………って、どうやってギターを弾いていたんだ???
 ともあれ、ジローはカイメングリーン及びアンドロイドマン達と大立ち回りを演じたのだが、カイメングリーンは前2話同様、体をバラバラにさせて戦線離脱し、マサル達もキカイダーとカイメングリーンが戦っている間隙を縫って逃げてしまった。

 自分の行方を探すジローからも逃げつつ、それでも互いに本当は保護者の元に帰りたがっていることを指摘したり、それに意地を張ったりするマサルとカオル。
 結局、大人への反発は捨てられずとも現状に疲れ果て、カオルは一先ずマサルの旧宅に向かいたいと言い出し、青木にマサルに道を聞いて旧宅に向かうよう命じた。
 このお嬢様もお嬢様なら、謂われるままに車を走らせる青木も青木だと思っていたら、なんとこれがいつの間にかカイメングリーンに取って代わられていた。

 今度こそ絶体絶命かと思ったら、半平の愛車と遭遇。相手が危険運転したと思って文句を付けに半平が降りて来ると、カイメングリーンは最前邪魔した「チンドン屋」であることに怒りを露わにした。
 またもその隙を突いて逃げたマサルとカオルを追わんとしたカイメングリーンに殴られた半平は取り残された車中に残された赤い靴の中に件の設計図があるのを見つけ、設計図が手元に在ればダークに襲われる恐怖と、ジローの為にもこれを持ち帰らねばならないという使命感に(文字通り)右往左往したのだが、その間、半平の様子をうかがうアンドロイドマン達は半平の体の動きに応じて姿を隠したり表したりの「達磨さんが転んだ」状態(笑)。

 結局、カイメングリーンに追われたマサルとカオルも、アンドロイドマン達に追われた半平も旧光明寺邸に逃げ込み、助けを求めるマサルの声を聞き付けて飛び出したミツ子も交えてドタバタする中、設計図はカイメングリーンの放った粘液を受けて燃えてしまった…………。
 怒り心頭のカイメングリーンはミツ子、マサル、半平、カオルを皆殺しにせんとしたが、そこへ再度響き渡るギターの音色。今度は平原ではない故、高所から現れたジローだった(笑)。

 今度こそは許さないと息巻くジローに、自分は不死身だと嘯くカイメングリーン。ここに3週に渡った戦いも最後を迎えた。
 例によってプロフェッサー・ギルの悪の笛の音に苦しめられるも、カイメングリーンの放った火炎で音色が遮られるという展開(苦笑)を経てジローはキカイダーに変身。回転アタック、マウント・パンチ連打、大車輪投げを経て、体をバラバラにされるも、不死身を嘯いてバラバラの体を駆使してキカイダーを攻撃するカイメングリーンだったが、キカイダーがデンジ・エンドを繰り出すやあっさり戦死した。バラバラになっても戦えた身体能力は何だったのやら。

 戦いが終わり、良心回路の設計図が燃えたことにジローはそれで良いとして、後はマサルとの和解だけとなった。
 マサルは尚も意地を張らんとしたが、仲間と見ていたカオルはうち続いた恐怖に既に戦意(?)を喪失しており、父親が駆け付けるやその胸に飛び込んで号泣した。そしてそれを目の当たりにし、ある種の失望に囚われたマサルだったが、ミツ子がその肩を抱くと堰を切った様に泣き出し、姉弟の仲は元の鞘に納まったのだった。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日