人造人間キカイダー全話解説

第30話 アカネイカ 美人女子大生を狙う

監督:永野靖忠
脚本:長坂秀佳
アカネイカ登場
 冒頭、サブタイトル通りの展開が為された。
 空手部に所属する腕利きの女子大生がダーク破壊ロボットアカネイカに襲われた。アカネイカは「アカネイカドクロ飛行」なる、イカ特有の槍型の頭部(正確には腹部に当たるのだが)を飛ばして女子大生を呑み込んだ。どうもそうすることでその格闘能力を吸収出来るらしく、女子大生はチップの様な物に姿を変えられ、アカネイカはそれを頭部に埋め込んだ。

 次いでアカネイカはバイオリンを奏でる女子大生を襲い、更にコンピューター技師、薬物学において天才との誉れ高い女子大生達が犠牲になった。
 プロフェッサー・ギルによると、アカネイカが次々と天才女子大生を襲うのはキカイダーに勝てる能力を得る為だった。ダーク破壊ロボット達が次々とキカイダーに敗れるのも、良心回路の優劣でキカイダーに劣っているためで、既に多くの天才女子大生の能力を吸収して尚、アカネイカのそれはキカイダーに劣っているとのことだった‥‥………てことは、これまで破壊ロボットをキカイダーに戦わせたのは、勝ち目のない勝負で犬死させていただけじゃんかよ!!(苦笑)
 実際、アカネイカがまだまだ良心回路性能でキカイダーに及んでいないことを言及したときに、プロフェッサー・ギルは「言うな!」と叫んでおり、相当痛いところを突かれていたと見える(苦笑)。哀れなるかな、これまでのダーク破壊ロボット達………。

 ともあれ、キカイダーと勝負し得る能力を得る為にも次なるターゲット=ロボット工学に優れた城南大学二年生・島村ちどり(松木聖)に白羽の矢が立てられた。やはり石ノ森作品の優秀な大学生は城南大学なのね(笑)。
 命令を受けたアカネイカはとある神社にてちどりに襲い掛からんとしたのだが、ロボット工学の天才だけあってか、ちどりは丸で動じなかった。どうも正体不明の存在が目に立ちはだかった恐怖よりも、知的好奇心の方が先だったようで、アカネイカのアンドロイドとしての造りに感心し、国産品か、輸入品かを問う始末だった。

 ちどりの品定めするかのような問い掛けが癪に触ったのか、彼女の脳みそを頂くと息巻くアカネイカだったが、やはりちどりは動じず、「『脳みそ』というのは俗語、『脳髄』というのが本当なの。」、「貴方は勝手に「貰う」と決めてても、本人の私は「あげよう」と思ってないの。」と諭しにかかる始末。
 異形の存在を前に淡々と理を述べる姿はどこか世間離れ(?)している。さながら、「天才ときち(ピー!)は紙一重」といったところか?まあ、それに言いくるめられかけるアカネイカアカネイカだが(苦笑)

 その直後、業を煮やしたアカネイカによってアンドロイドマン達に囲まれて尚、「貴方達は下等なアンドロイドの様ね?」と宣うマイペースなちどりだったが、そこにいつものギターの音色が鳴り響いた。
 アカネイカを連続女子大生失踪の下手人と見て怒りを燃やすジローはちどりを庇わんとしてその前に立ち、避難を促したが、ちどりは丸で分かっていなかった。それどころかジローが高所から飛び降りたり、アンドロイドマン達と対峙したりするのを危険と窘める始末で、さすがのジローも調子が狂う感じだった。状況が分かっていないとはいえ、ここまで危機感が希薄だと限度を超えており、さすがに苛ついて来た………。

 結局、大立ち回りの最中にちどりは額を鳥居にぶつけて気絶。ジローはキカイダーに変身して白兵戦を続行した。
 勿論、アンドロイドマン達がキカイダーに敵う筈もなく、全員呆気なく蹴散らされたが、アカネイカは口から弾丸を照射した上に、触腕を飛ばして「吸盤絞め」なる技を駆使した挙句、キカイダーがエアクラフトで飛び上がらんとしたのをその体から発する音から察知し、予め張っておいた電磁波網でこれを妨害するといった多彩さを見せた。さすがに数々の能力を吸収しただけのことはある。
 だが吸盤絞めはキカイダーをそこそこ苦しめたが、それを振り解いたキカイダーによって投げ返された途端、自分の武器に絞め上げられたアカネイカは滅茶苦茶弱気になって、ちどりの脳がないと勝てないとの弱音を吐いて撤収した。
 数々の天才脳を吸収したは良いが、弱味をほいほい口にする馬鹿さを見ると、技術や知識は吸収出来ても、思考的な賢さは吸収出来なかったようだった(笑)。

 何とかアカネイカ撃退に成功したキカイダーだったが、その少し前に気絶から目を覚ましたちどりは少し見ただけのキカイダーを「ツートンカラーの人造人間」と呼び、論文のテーマにしようとして好奇心の虜になってしまっていた。
 自分を介抱しようとした半平も、アンドロイドマン達と大立ち回りを演じたジローも相手にせず、2人のせいでキカイダーを見失ったと愚痴る始末だった。
 これには女に甘い半平も聞き捨てならず、ジローとキカイダーが同一人物であることを告げんとしたが、これはジローに止められ、ちどりは2人を無視するように去ってしまった。さすがにマイペースや誤解を差っ引いてもこの女に好感は抱けんな(嘆息)。

 Bパートに入ると、例によって父の行方を探す光明寺姉弟が手掛かりの無さに些か疲れていた。だが姉弟の少し離れた背後にはホットドッグ屋の車が止まっていて、そのホットドグ屋こそが光明寺博士…………いい加減、くどいぞ!このパターン!!(怒)
 ちなみに光明寺博士は常連と思しき初老の女性と話し込んでいたが、その女性はちどりの母親で、車を停めていたのは島村邸の真前。
 光明寺博士とちどりの母との会話によると、光明寺博士と島村母娘は知り合ってからそれなりの時間が立っているようで、母は光明寺が記憶を失っていることも知っていた。
 何か思い出せましたか?と問う母に、何も思い出せず、思い出さずに平凡に暮らしている方が幸せかも知らないと呟く光明寺博士。それに対して島村母は、科学者だった自分の夫は5年前に失踪しており、光明寺博士にも心配して待つ家族がいる筈、と述べて記憶の取戻しを励ますのだが、当の光明寺はもし自分に待っている家族がいなかったら?と思うと微かな期待は葬った方がいいとの心境に在った。
 確かにダークに追われ続け、悪に加担することから逃げてきた記憶と恐怖が潜在意識に眠っていることを考えれば、光明寺博士が期待を抱かず、目前のささやかな平和に依存する気持ちも分からなくはない。
 しかもちづるは光明寺博士にロボット工学の研究を手伝ってもらっていることから光明寺博士を父の如く慕っており、母も今日が偶然ちづるの誕生日であることから光明寺を自宅に招待したいと申し出ていた。
 光明寺博士と島村母娘が知己であることはわざとらしい会話から(笑)分かったが、それにしてもある日突然現れたホットドッグ屋とロボット工学の研究で知遇を得るとはいったいどんな展開を辿ったというのだろうか?

 そしてそんな会話が為されている一方で、マサルは空腹を訴え、ホットドッグ屋を見つけてそれを食べたいと言い出し、ミツ子もそれに応じようとした。となると父子再会が為される訳だが、すぐ近くにいて気付かず、会えそうになると邪魔が入るのはこの作品における腹が立つほどのワンパタなのは言うまでもない
 ホットドッグ屋を訪ねようとした姉弟の前に、ちどりと彼女に付きまとう半平(笑)が現れ、姉弟の視線はホットドッグ屋からちどりと半平にシフトした(嘆息)。

 半平が女性ゲストに鼻の下を延ばし、それが報われないのはいつものことだが(苦笑)、ちどりはミツ子が半平の知り合いと見るや、半平を「痴漢」呼ばわりして、彼を押さえておいて欲しいとミツ子に要請した。
 しかし、酷い女だ。
 ナイト気取りで頼まれもしない護衛を買って出る形で付きまとう半平をちどりがウザがるのは無理もないし、(当時なかった言葉だが)ストーカー呼ばわりならまだ分かるが、指一本触れず、下品な単語を発した訳でもない半平を「痴漢」とするのは酷過ぎる。
 まあ若い女性が「痴漢」と呼ぶのを目の当たりにすれば尋常ではなく、ミツ子も大いに戸惑ったが、さすがに半平がそんな悪人とは思っていないからか、ミツ子は半平を咎めはしなかった。
 直後、光明寺博士の車が自宅前を去るのを見たちどりは、それまでに帰宅出来なかったことを半平のせいにして本で半平を殴る始末だから、この女、勉強は出来ても社会常識のない典型かも知れない。
 シルバータイタンならそんな女を鼻の下を延ばす対象としないのだが、半平はM気があるようで、もっとぶってという始末(←はっきり言って、キショい!)。だが二撃目を半平に食らわしたのはちどりを追って来たアカネイカだった。

 脳を要求し、半平に危害を加えたのを見ても尚、アカネイカに理屈反論するちどりにはもう呆れる他なかったが、ダークの危険性はミツ子達が先刻承知なので、ミツ子達がちどりを庇い、あわやアカネイカに捕食されかけたときにジローも駆け付けたため、大事には至らなかった。
 ちどりの脳がないとキカイダーには勝てないとのアカネイカの認識は変わらない様で、頭部に打撃を受けただけでアカネイカは撤退。さすがに状況からちどりもジローとキカイダーが同一人物であることに気付き、非礼を詫びたから、礼儀知らずではなさそうだ。
 直後、ちどりの母が駆け付けたことで一行は島村邸に招待され、誕生パーティーに出席することとなった。

 バースデーケーキを前に、「これで後、おじ様さえ来てくれれば始められるのだけれど。」というちどりの台詞と、その「おじ様」が如何なる人物とか?とのミツ子の問いから、ロボットに詳しいその記憶喪失の「おじ様」が光明寺博士であることが濃厚となって色めき立つミツ子だった。
 その「おじ様」である光明寺博士が花を持って島村邸にやって来ると、そこにはアンドロイドマン達が跋扈しており、今まさにアカネイカによってちどりらしき人が拉致され、更にそれをジローが追いかけた。
 ところがアカネイカが連行していたのは女装した半平(笑)。これは事前にジローと半平が打ち合わせていた作戦で、渋る半平を「ナイト」とおだててジローが身代わりに仕立てたものだった。
 謂わば、ちどりの身の安全を図ったジローによる苦肉の策だったのだが、ジローに(研究材料として)興味津々のちどりはジローを追って屋外に出たことでジローの策を無にした。

 虚仮にされた形に怒り心頭のアカネイカは偽物で、天才には程遠いのを承知の上で半平の脳を獲らんとし、恐怖した半平が逃げたところにちどり、ミツ子、マサルが鉢合わせたので最悪だった。

 まあ、すぐにジローが駆け付け、ちどり襲撃は阻止された。直後、プロフェッサー・ギルの悪魔の笛の音がジローを襲った。
 悶絶するジロー相手に勝ち誇ったアカネイカだったが、吸盤絞めを駆使し、それも御丁寧にも両腕でヘッドロック状の攻撃をしたものだから、これが笛の音を遮断する展開となったのは一目瞭然だった(失笑)

 かくして最終決戦が始まったが、アカネイカの多彩な攻撃も二度目となると完全に精彩を欠いていた。ドクロ飛行も受け止められた上に蹴り上げられて爆破・炎上。続けざまに回転アタック、マウント・パンチ連打、大車輪投げデンジ・エンドのワンパタで決着した。

 ラストシーンは島村邸の玄関口で、光明寺姉弟は丁寧な御礼を述べて島村邸を辞した。島村母娘は姉弟の父親が早く見つかることを祈る旨を伝え、ちどりはミツ子にジローと幸せになってねと告げ、ミツ子は笑顔を返した。
 勿論ちどりはジローが人造人間であることを知っており、謂わば人間らざる者との幸福を祈念していた訳で、普通なら違和感を感じるところだが、ここまで来ると精神的な結びつきが「人と人造物」という垣根を凌駕しているのかも知れない、と考えさせるようなミツ子の満面の笑みだった。

 その様子をこっそり見つめていた光明寺博士は、ミツ子とマサルに声を掛けたい衝動を抱いていることに疑問を覚えつつ、自分が出て行けばまたダーク一味が自分を襲うことで巻き添えを食うであろうことを連想し、自らを疫病神と自認して寂しくその場を去るのだった………。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日