人造人間キカイダー全話解説

第33話 兇悪キメンガニレッド 呪いの掟

監督:永野靖忠
脚本:多村映美
キメンガニレッド、カブトガニエンジ登場
 冒頭、夜の郊外で1組のカップルが殺された。男は公衆電話ボックスを出たところで、女は男を待っていた車中で頭の割れるような怪音に苦しめられ、男の身は爆発して白骨と化し、女は悲鳴を上げ、苦しんだ挙句、車ごと爆破・炎上した。
 殺害はダーク破壊ロボットキメンガニレッドの仕業で、蟹鋏をすり合わせて奇怪な音を出していた。

 何とも残酷なシーンから始まったが、プロフェッサー・ギルの言によると、この武器は同じダーク破壊ロボットで、第19話に登場したカブトガニエンジの持つ破壊光線に匹敵する高性能で、武器としてのスペックには申し分なく、ただ一つの懸念は妨害に来るであろうキカイダーだけとされていた。
 過去に登場した敵キャラが再登場するのはたまにあることだが、性能として重視されているのは珍しい。

 ギルの督戦に、自信満々に戦意を燃やすキメンガニレッドだったが、そこへ何と、そのカブトガニエンジ本人がドッグで暴れて困っているとの報がもたらされた。

 アンドロイドマンを張り倒し、怪光線で殺害してまで暴れるカブトガニエンジの要求は基地内から出せ、キカイダーと戦わせろ、と云うものだが、キメンガニレッドは膂力でこれを封じ込めて拒否した。
 この間における両者の会話によると、カブトガニエンジキメンガニレッドの「兄貴分」に当たり、キメンガニレッドカブトガニエンジの進化版で(両者には5倍の格差がある)、荒々しく抵抗するカブトガニエンジに対して力づくで抑えつつも、カブトガニエンジではキカイダーに勝てないと諭したり、「愚か者とはいえ兄貴だ。」との心情を吐露したりしていた。

 ちなみに第19話を振り返ると、カブトガニエンジは「力」よりも「智」を用いるタイプで、格闘に際してはキカイダーに秒殺に近い敗れ方をしていた。それゆえに一概に「愚か者」とするのは適切でない気がする。
 また、カブトガニエンジが多少強化されたとしてもキカイダーに勝てるとは思えない。5倍強いキメンガニレッドに対しても、「0×5=0」と呟きたくなる(笑)。
 ともあれ、基地内に拘束されて尚、カブトガニエンジの執念は尽きない様で、次のシーンでは既に脱走していた。
 基地を脱走したカブトガニエンジは何の脈絡もなく工事現場を襲い、二人の作業員が跡形もなく消された。だが残されたヘルメットを拾い、怪訝に思っていたのは光明寺博士。カブトガニエンジの姿を目撃した光明寺博士はカブトガニエンジを尾行し、更にその後をアンドロイドマン達が尾行していた。
 こりゃまた、ジロー達と再会すると見せかけて、乱闘のゴタゴタに紛れて光明寺博士が逃げ出すパターンかな……(嘆息)。

 カブトガニエンジが工事現場を襲った事件は新聞沙汰になり、現場監督が記憶喪失の男を雇ったとの情報を掴んでいた半平の報せを受け、光明寺姉弟は半平と共に工事現場に向かった。
 だが、その途中三名はカブトガニエンジの襲撃を受けた。カブトガニホーンから発射された泡で車を停められた三人は、怪音波によって気絶に追いやられた。
 どうやら三人を締め上げてキカイダーの居所を探らんとの考えだったようだが、すぐにアンドロイドマン達が現れて、大人しくドッグに戻るよう命じた。カブトガニエンジ脱走の報を受けた直後、プロフェッサー・ギルカブトガニエンジを甘やかしたことを悔いるような発言をしていたが、確かに、一斉攻撃作戦でもないのに敗れた者を甦らせたのは悪の組織としては稀有なことである。即座に討ち取りに掛からなかったのも、第19話でカブトガニエンジのスペックに期待していたプロフェッサー・ギルのこだわりに起因しているとするとこれはかなり興味深い。

 ともあれ、脱走までしたカブトガニエンジが容易に引き下がる筈もなかった。だがアンドロイドマン達を相手にその口調は高圧的でも内容はしばしの猶予を懇願するもので、組織内におけるカブトガニエンジの地位が著しく低下していることが伺えた。
 そしてその押し問答の中、いつものギターの音色が鳴り響き、ジローが現れたことでなし崩し的に戦闘に突入した。

 最初はいつものアンドロイドマン達相手の大立ち回りだったが、自らの手でキカイダーを討ち取ることに執念を燃やすカブトガニエンジが手を出すなと命じると、意外にもアンドロイドマン達は即座に手を引いた。
 そして両者対峙の中、ジローがキカイダーにチェンジせんとした瞬間、プロフェッサー・ギルの悪魔の笛の音が響いた。プロフェッサー・ギルは笛を吹きながら、にカブトガニエンジ対しては最後のチャンスを与えるとの思念を送った。勿論それはキカイダーを討つことだが、確かに今回のプロフェッサー・ギルは悪の組織の首領とは思えない程、平の一怪人に過ぎないカブトガニエンジに対して甘い。

 ともあれ、カブトガニエンジにとっては最大にして最後のチャンスである。悶絶するジローをいたぶり、その命を奪わんとした。カブトガニホーンから泡を噴いて、ジローの動きを封じんとしたのだが、その前に泡はプロフェッサー・ギルの笛の音の方を封じてしまった
 まあ、第3クールもこんなパターンを続けると、悪魔の笛の音が断たれる要因も大体見えてくるのだが、ここで一つの疑問を呈したい。ジローのヘルメットに防音効果はないのか?単純に耳栓では防げないのか?と(苦笑)。

 そしていざ、格闘が始まると第19話同様、カブトガニエンジは丸でキカイダーに抗し得なかった。土手下に投げ飛ばされ、肩口から火花を散らし、それでも後がないカブトガニエンジは戦意を燃やしていたが、とどめを刺さんとするキカイダーを少し前に気絶から目覚めていたミツ子が止めた。
 一度キカイダーに敗れ、後がなく、再度敗れれば待っている運命が分解であることに同情するミツ子。勿論容易には受け入れ難い懇願だが、敵であるダーク破壊ロボットに同情する辺り、やはりミツ子もロボット工学博士の端くれと言ったところだろうか?

 ともあれ、戦傷に苦しむカブトガニエンジは光明寺博士のロボット管理室に連行された。部屋の中の牢獄に閉じ込められ、手術台に拘束されて苦しむカブトガニエンジに詫びるミツ子。父が見つかれば修理が出来ると告げるミツ子に、情不要と強情を張るカブトガニエンジ。そしてカブトガニエンジに情を掛けることを不安がる半平。
 その半平の不安が的中した様に、ロボット管理室はアンドロイドマン達に襲われた。アンドロイドマン達は半平を張り倒し、ミツ子とカブトガニエンジをアジトに連行した。宅内の異変に気付き、難を逃れたかに見えたマサルも、その後の尾行をしっかりダークに監視されており、キメンガニレッドは、マサルの動きがキカイダーを誘き寄せてくれるとして、その行動を黙認していた。

 場面は替わってダーク基地内。
 そこでは同じ牢獄にミツ子とカブトガニエンジが放り込まれていた。鉄格子を挟んで再会した弟・キメンガニレッドに対して赦免を願い出るカブトガニエンジだったが、キメンガニレッドはダークの掟からもそれは出来ない、とした。
 既にカブトガニエンジの運命は極まってしまっていた訳だが、一連の会話によると、キメンガニレッドはこれまでにも何度もカブトガニエンジを庇ったことがあるらしく、処刑にしても、「心残りが無いように」として、キカイダー抹殺後に行うと宣した。
 そしてこの心根は兄弟関係によるものだけではなく、元々のものらしく、即座に処刑すると宣告したミツ子に対しても、死ぬ前に父親に合わせるという情けを見せた(←光明寺博士はカブトガニエンジを追う途中のアンドロイドマン達が偶然見つけて確保していた)。

 思いも掛けず懐かしい父に再会したミツ子は必死にその名を叫んだが、体育座りしたまま無表情の光明寺博士は何の反応も示さず、僅か数秒の再会でシャッターは閉じられ、父娘は再び引き離され、遂にミツ子は処刑されんとした。
 だが、その殺害から身を挺して防いだのはカブトガニエンジだった。ミツ子処刑を止めるカブトガニエンジに「仏心がついたか?」と訝しがるキメンガニレッドだったが、恐らくこれは命を救われた恩義に対するものだろう。
 そしてカブトガニエンジが撃たれる間隙を縫うように室外に逃れたミツ子だったが、父が閉じ込められていると思しき部屋の扉を叩き、父の名を呼ぶ中、アンドロイドマン達に取り押さえられてしまった。
 だが、そこへ鳴り響くギターの音色。即座にジローはキカイダーに変身し、ミツ子を庇いつつ、キメンガニレッドとアンドロイドマン達に立ちはだかった。眼前の扉の中に父がいることを告げられ、その場を離れるに離れられないキカイダーに容赦ない攻撃を加えるキメンガニレッドだったが…………側頭部から飛ばした蟹脚状のブーメランはそれをかわしたアンドロイドマン達の首を跳ね (お約束) 、腹部から打ったミサイルは扉を壊して光明寺博士の脱出を許したここまで数々の攻撃が敵を利した奴も珍しい(笑)。

 光明寺博士を追うように屋外に出たキカイダーは、合流したマサルとミツ子に光明寺博士を追うよう促し、自らはアジト出口での殿軍に努めた。
 追いかけてきたキメンガニレッドは怪音波でキカイダーを苦しめ、これに為す術もない様子のキカイダーだったが、意外にも服部半平が救いの神となった。
 愛車で駆け付けた半平にエンジンを吹かさせ、それによって怪音波の威力を軽減させたキカイダーは半平と共に洞窟外に逃れた。そして当のキメンガニレッドは怪音波の出し過ぎにより肉体に損傷を受けた。

 グロッキー状態で洞窟外にキカイダーを追い、両者は最終決戦に突入した。だが、当然と云おうか必然と云おうか、既にキメンガニレッドはキカイダーと互角に戦い得る体ではなかった。
 格闘で叶わず、数々の飛び道具もすべて躱され、回転アタック、マウント・パンチ連打を受け、辛うじてマウント状態を跳ね返したのも束の間、大車輪投げデンジ・エンドを受けて崖下に落とされ、爆破・炎上してキメンガニレッドもあの世に送られた。

 直後、勝利を収めたキカイダーの元にミツ子、マサル、半平が駆け付け、光明寺博士を見失っていたことが分った。いつものパターンと言えばそれまでだが、それでも肩を落とすミツ子にマサルが「生きていることが分っただけでも。」と励ましたり、カブトガニエンジがミツ子を庇ったことにミツ子の気持ちが通じていたことを述べたり、と言った言及がいつもと少し違ったイメージにしていた。
 マサルの言及に、ミツ子自身もカブトガニエンジに自分の気持ちが通じたと思いたいと述べていたが、それに対して「でもジローにはどうして姉さんの気持ちが分んないのかなぁ?」と触れていたのはチョット蛇足だったかな(苦笑)。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日