人造人間キカイダー全話解説

第34話 子連れ怪物 ブラックハリモグラ

監督:永野靖忠
脚本:島田真之
ブラックハリモグラ、子ハリモグラ登場
 冒頭、舞台は警察署内から始まった。
 ダークが横浜の金保管所を襲撃するという通報を寄せた女性(森秋子)に対して、警察のお偉いさん(長沢大)は信用しないどころか、「いい加減にしたまえ!」とつっけんどんに対応した。ま、お約束ですな(苦笑)。
 女性は襲撃時間が夜9時であることも掴んでいたのだが、やり取りしていた時間は既に9時10分。話は終わったとばかりに呆れ顔したお偉いさんだったが、そこに女性のタレコミ通り、横浜の金保管所が襲撃されたとの報せが入った。


 急ぎ警官隊が駆け付けると、そこには襲撃中のアンドロイドマン達がいて、警官隊は拳銃を抜いて襲い掛かった。実に珍しいシーンだ(笑)!!
 これを基地内でモニタリングしていたプロフェッサー・ギルは、ダークの情報が洩れていることを訝しみ、警官隊に包囲されたアンドロイドマン達の自爆装置を作動させ、口封じ・証拠隠滅を敢行した。
 嗚呼、もう少しで警察が悪の組織の構成員を逮捕すると云う稀有なシーンが見られたのに、残念 (苦笑)………ん?何で、普段、アンドロイドマン達がジローと対峙した際にこの装置を使わないんだ??

 ともあれ、アンドロイドマン達の口を封じたプロフェッサー・ギルは、情報漏洩者の手掛かりを求めて、ブラックリストの検索を命じ、その結果、通報した女性はかつてダークの爆薬研究班に在籍していた桃山博士の妻・桃山カズ子であることが判明した。
 その名を聞いて激昂したプロフェッサー・ギルの述懐によると、森山はダークに反逆する意を見せたために三ヶ月前に処刑されており、彼の手から妻の和子にダークの犯罪計画書が手渡されたことで計画が漏れた可能性が濃厚となった(カズ子は金保管所に駆け付けた際に、同行した警察幹部に原子力研究所爆破作戦の存在も仄めかしていた)。

 事態を憂慮したプロフェッサー・ギルは側にいたブラックハリモグラの名を呼んだ。
 呼ばれたブラックハリモグラは、プロフェッサー・ギルが命じる前にすべてを承知していると言わんばかりの勢いで犯罪計画書の奪取を誓い、頼もしさを感じさせたのだが、即座にパンダのぬいぐるみを抱きながらハンモックで寝そべる、全くもって子供子供な子ハリモグラに同行を命じた。
 何でも、この子ハリモグラがいないとブラックハリモグラ何も出来ないとのこと。最前の勇ましさが何だったのかと言いたくなるほど頼りない在り様だった………。

 場面は替わって、とある喫茶店。
 そこにやって来たのはカズ子だが、カズ子はバーテンに対して店を辞めると告げた。その理由を「自分にはやらなければならないことがある。」という曖昧な言葉で表現していたが、それに対して、「ダークですね?」と声を荒げたのは何と光明寺博士(笑)。記憶がないなりに本人はあくまでダークに関わるまいとして逃げ続けているのだが、行く先々にダーク(及びジローや子供達)が現れるのだから、因果な話である。フィクションと分かっていても(苦笑)。
 当然、記憶が無くても(厳密には潜在意識で覚えている)ダークの名に対して光明寺博士はカズ子にそれと関わるのを止めるのだが、漠然としたイメージだけで語るので説得力は乏しいものだった。

 勿論、夫の仇討ちの為にダークを世間に公表する覚悟を固め、その為に娘のマユミを育児院に預けているカズ子は光明寺博士の制止に応じる筈もなかった(断り方は丁寧だったのだが)。
 カズ子は光明寺博士に自分に替わって娘に雛人形を届けて欲しいと託して店を後にしたのだが、引っ掛かりを覚えた光明寺博士が雛人形を調べると、果たしてそこにはマイクロフィルムが隠されていたのだった。そして光明寺博士は約束通り雛人形を育児院に届けたものの、貴見を呼び込むと判断したマイクロフィルムは自分が隠し持つこととした。

 一方、カズ子は二人の警察官を伴って何処かへ向かったのだが、そこにブラックハリモグラが立ちはだかった。カズ子を守らんとして拳銃で応戦した二人の警察官は哀れにもブラックハリモグラの殺人針で殺され、アンドロイドマン達に追われて逃げ惑うカズ子を物陰で見ていた光明寺博士は無力感に打ちひしがれるしかなかったのだが、そこへ何の脈絡もなくジローが助けに入った

 程なく変身したキカイダーとブラックハリモグラは格闘に入り、しばし互角だった。見た目鈍重そうなブラックハリモグラは機敏さではキカイダーに抗し得ないようだったが、それでも幾許かのタフネスを見せて応戦した。しかしダブル・チョップが決まり、わき腹から機械部分を露出したブラックハリモグラは即座に撤収した。

 基地を脱したブラックハリモグラ子ハリモグラの修理を受けていた。親子の会話から、子ハリモグラブラックハリモグラの修理専用アンドロイドとのことで、ブラックハリモグラはその存在を大切に思い、愛でていた。
 その間流れていたBGMは、『子連れ狼』で有名な同名の曲で、並んで歩くその姿はほのぼのとしたものがあった。それを考えると、大五郎を演じた当の人物が殺人の無期懲役で服役しているのは何ともやり切れ…………あっ、全話解説には関係なかったか………。

 その頃、ダーク基地ではプロフェッサー・ギルが、カズ子に娘がいることを把握していた。ギルはカズ子が身の危険を感じて、ダークの犯罪計画書を娘に預けていることが考えられるとして、子ハリモグラを育児院に潜入させるよう命じた。
 そしてその育児院では、ジロー一行がマユミに危険が迫っていると告げて警護を申し出ていた。だが、育児院の先生にしてみれば、何故にマユミが狙われるかが分からない。そしてそれ以上にカズ子を助けたジローがどんな経緯でマユミが危険と判断したのかが分からなかった(危ないところを助けられたことを考慮に入れても、マイクロフィルムを送ったマユミの存在をカズ子が誰かに喋るとは思えない)。

 Bパートに入ると、寝室でマユミと、新入院生のナナコという少女が会話していた。
 ただ、このナナコ、Aパート終了直前にジロー達を監視しており、雛祭りを巡る会話の途中で「人間っていいなあ。」などと口走っていたりするから、視聴者には子ハリモグラであることが丸分かり(笑)。
 どうも子ハリモグラは、修繕要員としては優秀でも、潜入捜査官としては優秀とは言い難いようだ(苦笑)。そして年齢的にも、当時の子役レベル的にも無理ないのは百も承知だが、マユミとナナコの会話は恐ろしい程の棒読みだった(苦笑)。
 そんなマユミの様子や、周辺状況からも何故にダークがマユミを狙うのかを掴みかねていたジロー達だったが、手掛かりを求めて、ここ数日マユミに変わったことが無かったかを尋ね、それに先生が雛人形が送られた旨を答えたため、それを聞き付けたブラックハリモグラ親子は雛人形を調べに掛かった(←おっ!意外と有能だ(笑))。

 だが、視聴者には周知の様に、雛人形に隠されたマイクロフィルムは光明寺博士が持ち出していたから、ブラックハリモグラが犯罪計画書を見つけることは能わなかった。
 報告を受けたプロフェッサー・ギルは強硬手段として、マユミを拉致して人質に取り、カズ子に犯罪計画書の在り処を白状させんとした。しかしブラックハリモグラが人間体(演・平松慎吾)としてマユミ拉致に動いたのを妨害したのは子ハリモグラだった。どうやらダークとしての使命感よりも、子供としての価値観の方が上回ったようである。

 そしてそこにジローも駆け付け、「娘に会いに来ただけだ。」と惚けるも、影の形がブラックハリモグラそのものというベタなばれ方をした(笑)。ミサイルを放ち、地に潜り、キカイダーの追撃を振り切ったブラックハリモグラだったが、程なく、娘が殺されかけようとしているという危機に遭遇した。
 マユミを連れて逃げていた子ハリモグラは、プロフェッサー・ギルによって裏切り者と見做され、抹殺命令を受けたアンドロイドマン達によって包囲されていた。そこに駆け付けたブラックハリモグラは身命を賭してキカイダーを倒すので、娘を殺さないで欲しいと懇願した。
 それに対して何の反応も見せないアンドロイドマン達だったが、何故かそれを「分かってもらえたか!」とブラックハリモグラは判断(笑)。改めてマユミを拉致せんとしたが、そこへギターの音色が鳴り響いた。

 例によってアンドロイドマン達相手の大立ち回りの途中でプロフェッサー・ギルの悪魔の笛の音が鳴り響いて悶絶。その隙を突く様に、ブラックハリモグラは「ブラックハリモグラ土砂吹雪」なる技で、口から大量の土砂を噴出してジローを生き埋めにせんとした。
 だが、まあ………同作品をこの第34話まで視聴したような方には丸分かりだろうけれど、案の定、土砂に埋められたことが悪魔の笛の音を遮断した(笑)
 ジローは土砂の中でキカイダーに変身して脱出。いつもの展開になるかと思われたが、この後、戦いは同作品にあって極めて稀有な展開を辿った。

 いつもならアンドロイドマン達を蹴散らした後に一騎打ちになるのだが、キカイダーは丸でアンドロイドマン達を無視するかのようにブラックハリモグラ対する攻撃に専心し、回転アタック、マウント・パンチで忽ちブラックハリモグラを劣勢に追い込んだ。
 これを少し離れた場で見ていたナナコは子ハリモグラの姿に戻って父の元に駆け寄ると、ブラックハリモグラに戦線離脱を促し、ブラックハリモグラも娘に従った。
 父娘は協力して穴を掘り、地中に遁走した。これをキカイダーはサイドマシーン前面に巨大ドリルを装着させて地に穴を掘ることで追跡した。ブラックハリモグラ父娘は何処からか地面に出て逃げていたが、見つかってしまっては追い付かれるのは時間の問題だった。
 というのも、破壊ロボットの一員とはいえ、子ハリモグラは子供で、逃げるには明らかに足手まといだった。意を決したブラックハリモグラはアンドロイドマン達を率いてキカイダー迎撃に出た。
 だが、ミサイルを駆使しての前線も束の間、戦闘能力は明らかにキカイダーの方が上で、程なく大車輪投げデンジ・エンドの炸裂を受けてブラックハリモグラは崖下に転落して、爆死。父の最期に狼狽した子ハリモグラも足を滑らせて崖下に転落して爆死した。
 子ハリモグラの残したパンダのぬいぐるみを抱いて子供だけでも助けたかった、と悔しそうにしていたキカイダーだったが、マユミが求めた救出要請において、父親はどうでもよかったのかね?(苦笑)

 ともあれ、桃山母娘に平和が戻り、育児院では雛祭りが開催され、当初参加しない予定だったカズ子も参加した。祭りではナナコに対する言及は無かったが、どこか寂しげな表情で歌うマユミが印象的だった。
 そんな場で、ジローは見つからないマイクロフィルムの存在を他に誰か知らないかをカズ子に尋ねていた。カズ子はダークという言葉に只ならぬ反応を示したバーテンが持ち去ったかもしれない旨を口にしたが、それだけで「光明寺博士……。」と呟くジロー………正解なんだが、どんな推理能力してんだ(苦笑)。

 そして問題のマイクロフィルムはいつものように逃走した光明寺博士によって焼却されていた。計画されていた分のダークの犯罪計画を頓挫させ、桃山母娘の平和を守るためにはこれで良かったのかも知れないが、ダークの悪事を世に暴く道が断たれたことを考えると何とも複雑なラストだった。

 かくして何とも人間臭さ溢れるダーク破壊ロボットブラックハリモグラ子ハリモグラ父子の登場した第34話は終結した。そして第35話の予告が流れたのだが、その予告には一切のナレーションが無く、ハカイダーのテーマソングがBGMとして流れ、来る大きな急展開を暗示していた。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日