人造人間キカイダー全話解説

第36話 狂ったジローが光明寺をおそう

監督:畠山豊彦
脚本:長坂秀佳
クワガタブルー、ヒトデムラサキ登場
 冒頭、とある銀行地下金庫の壁を破って、ダーク破壊ロボットクワガタブルーが現れた。クワガタブルーは自分がダークにいれば、ダークが資金に困ることはないと豪語した(←誰に言ってんのだろう?)。
 確かに地下を自由に潜行して建造物への侵入が容易となれば金庫破りとしての腕は一流で、その才を自慢したいのだろうけれど、聞かれもしないのにべらべら喋っていては、隠密としての資質には大難ありだな(笑)

 案の定、騒ぎを聞きつけて警備員が2名駆け付けたのだが、必然、哀れにも警備員達はクワガタブルーの大顎に挟み殺されて殉職した。その際にクワガタブルーは目撃者を生かしておけない旨を口にしていたが、目撃を恐れる割には口数の多い奴だ(苦笑)。しかも声を潜めない地声で、殺害後に「馬鹿め!」と言って高笑いしていたのだから、その台詞はそっくりそのままクワガタブルーに返さざるを得まい

 ともあれ、行動時の在り様に問題大有りのクワガタブルーだったが、金庫破り・資金強奪は次々に成功し、事件は新聞紙上を賑わせ、それによると被害総額は五千億円に及んだ。
 プロフェッサー・ギルとしても、成果が伴っているのだからクワガタブルーの働きに満足していた。曰く、クワガタブルーの御蔭で研究に莫大な資金を要する悪魔回路の開発が進むとのことだった。
 この悪魔回路はキカイダーの持つ良心回路とは正反対のもので、その完成によって、悪の精鋭サイボーグが完成することへの興奮と期待を隠せない様子だった。
 だが、その為には莫大な資金だけではなく、光明寺博士の頭脳も欠かせないものだった…………。

 場面は替わって明和銀行東ヶ丘団地支店。
 折しも、クワガタブルー一行が大金を強奪して引き揚げに掛からんとしていたところを女性カメラマン(小田まり)がフォーカスしていた。だが、女性は見つかり、当然の様にクワガタブルー達は彼女の口を封じんと襲い掛かって来たのだが、そこにいつものギターの音が鳴り響いた。
 例によってダークの悪事を看過出来ない旨を大上段に宣って臨戦態勢に入るジローだが、その際にジローはいつもダーク破壊ロボットの名を口にする。些細な事なので今まで突っ込まなかったが、何で知っているのだろう?

 ともあれ、女性カメラマンに逃げるよう促すジローだが、特ダネを狙って自己の安全も顧みない彼女は余計なことをするなと反発し、ジローの当身を食らう始末。
 一方のクワガタブルーだが、女性カメラマンを取り押さえておきながら、キカイダーの登場に驚いて振り解かれてしまうような、駄目だこりゃな奴だが、クワガタスパークなる恐ろしい武器を備えていた。
 目から発射されるその怪光線はありとあらゆる機械の動きを停止してしまう、という人造人間同士が戦う同番組に在っては反則の様な存在で、キカイダーもサイドマシーンごとその動きを止められ、大顎に挟み込まれ、プロレスで言うところのリバース・カナディアンバックブリーカー状態にされた。

 さしものキカイダーも投げ飛ばされて大顎から解放されるや即座にエアクラフトを駆使して戦線離脱を試みる程だったが、上空に逃れるも再度クワガタスパークを食らい、重傷を負って墜落した。
 その容態は、腹部から内部メカが露出し、同時に潤滑油が漏れ出していた(そうなると、勿論ジローは動けなくなる)。

 場面は替わって再度明和銀行東ヶ丘団地支店。そこに服部半平が現れた。
 壁に開いた大穴を見て、今世間を騒がしている銀行ギャング事件の一つに遭遇したと見た半平はにんまり笑って大穴から行内に潜り込んだ。勿論これは不法侵入罪に相当する。それも、犯行現場内に残された現金を拾うのが目的だから、窃盗罪にも相当する。近々の話ではジロー一行の仲間としての活躍も増しつつあった半平だったが、初期に観られた銭ゲバ振りが浮上することを頭から否定はしないが、レギュラーにあからさまな(正当防衛を除く)犯罪行為をさせるのは如何なものかと思う。
 そしてその際に忍び笑いとともに半平の漏らした台詞が、「三千円ぐらい残っているかも知れませんね。」だったから、どこまで小物感満載なんだこの男(苦笑)

 だが、この犯罪行為は妙な形で成立しなかった。
 地下金庫内は全く金が残っておらず、半平は「せめて250円ぐらい残っていても良いでしょうに…。」と嘆く状態だった(←やはりセコイ……)。また、屋外では女性カメラマンが半平を残党と見做して追って来たのだから、半平は狼狽えるしかなかった。
 サイレンの音(←カメラマンが通報した)聞き付けた半平は、全く説得力の無い自己の潔白主張を行うや逃げ出した。そして近づくパトカーに狼狽えたのは半平だけではなく、クワガタブルーとアンドロイドマン達も同様だった。
 キカイダーを破って尚、まだ現状にいた間抜け振りも驚きだが、キカイダーを撃退する力を持ちながらパトカー相手にビビっていたのだから、どうにも良く分からないキャラクターである。
 ともあれ、カメラマンはクワガタブルー一行に気付いていなかったので、駆け付けた警官隊に逃げる半平を指し示し、半平は必死になって逃げ惑った。そしてマンホールに逃げ込んだのだが、慌てて蓋を閉め忘れる始末。もはや半平が捕まるのは時間の問題かと思われた。

 だが、場面が変わると、そこはあるマンションの一室で、気絶から目覚めた半平は悪夢から目覚めたのかと安堵したが、顔面は煤けており、夢ではなかったのは一目瞭然。
 部屋は女性カメラマン−マリの部屋で、マンホールに逃げ込んで転落した際に気絶した半平はミツ子・マサル姉弟に助けられ、半平を介抱する姉弟にマリが半平の保護を申し出たという経緯があった。
 半平を犯人と見做していたマリが何故?と思うところで、半平も「アイ アム マリちゃん」とほざきながらにこやかに近づくマリに狼狽えていたが、半平の身元をミツ子が保証してくれたことで誤解が解けたと云うものだった。
 確かに半平はギャング一味ではない。しかし、火事場泥棒的に金を盗もうとしたのは事実だったのだが‥‥………(結果的に金は盗んでいないが、明和銀行の地下金庫に不法侵入した事実は動かない)。

 ともあれ、タイミングよく光明寺姉弟が現場に現れたのは光明寺博士が見つかったからだった。
 ミツ子曰く、光明寺博士は銀行近くの農協で守衛をしているとのことで、交代制勤務で午後三時に出勤して来ることまで掴んでいたので、時間に余裕がある分、半平への介抱に努めていたとのことだった。
 だが、姉弟が目指す農協にもクワガタブルーの魔の手が迫り、光明寺博士に危機が迫っていた。

 光明寺博士が出勤すると行員達は皆倒れており、そこにクワガタブルー一行が待ち受けていた。最初は守衛が光明寺博士であることに気付かなかったクワガタブルーだったが、程なく、自己に内蔵されたデータベースから眼前の人物が光明寺博士であることに気付き、自らの幸運にほくそ笑んだ。
 だがそこへ特ダネを狙うマリが乱入。クワガタブルーの姿を捉え、自らが一流の職業人となれることへの喜びを露わにしていたが、当然の様にクワガタブルー達が襲い掛かって来た。この女、ターゲットを追及する根性は見上げたものだが、身辺に対する警戒心の無さは呆れるしかない。
 ともあれ、光明寺博士とマリは屋外に逃れ、両者は二手に分かれた。そこへミツ子・半平・マサルがやってきたのだが、三人が視界に捉えたのは長く探し求めてきた光明寺博士ではなく、マリの方だった。
 マリを救わんとする一心で、クワガタブルー一行を「ヘボアンドロイド諸君」と挑発する半平も半平なら、挑発されるままに「あのヘボ探偵をぶっ殺せ!」と激昂するクワガタブルークワガタブルーである(苦笑)。
 丸で子供の喧嘩の様な展開だったが、クワガタブルー達はミツ子・マサル・半平を追い、かくして父子はまたも再開のタイミングを逸してしまったのだった。

 「北北西に進路を取れ!」とアメリカ映画のタイトルみたいなことを口走りながら逃げる半平達だったが、それに挑発される様に半平に総がかりで襲うクワガタブルー一行も大概である(苦笑)。
 総がかりを受けてあわや囚われそうになった半平だったが、別方向に逃げたミツ子とマサルが挑発するや、それに翻弄され、終いには「俺の頭のコンピューターが狂ったぁぁ!!」と叫び出すクワガタブルー…………否、絶対に最初から狂っていただろう?(笑)

 一方、ミツ子達を囮にする形で逃げていたマリは重傷のままいまだ動けずにいたジロー(途中ですぐ近くに現れた半平に助けを求めることも出来ない有様だった)に遭遇した。
 そしてその頃、ダーク基地内ではプロフェッサー・ギルクワガタブルーから光明寺博士の行方を掴んだとの報を受け、悪魔回路が使える時が来たとほくそ笑んだ。
 プロフェッサー・ギルはダーク破壊部隊ヒトデムラサキの名を呼び、光明寺博士の連行を命じた。「他のことには目もくれるな。お前の任務はそれだけだ。」と釘を刺していたところを見ると、こいつも頭の程は期待出来ないと云うことだろうか(苦笑)。実際、クワガタブルーは光明寺博士のみならず、目撃者であるマリ・ミツ子・マサル・半平の全員に逃げられているようだし(苦笑)。

 ダークを裏切った(と一方的に自分が見做しているだけの(笑))光明寺博士を悪の化身戦士とすることに初めて言及し、ほくそ笑むプロフェッサー・ギルに承知の旨を返したヒトデムラサキ。そしてその横であれ程の目に遭った光明寺が農協に戻ってくる訳がないとちゃちゃを入れるクワガタブルーだったが、これは完全な藪蛇で、光明寺博士を逃がしたクワガタブルーに余計な口をきく資格はないと叩き切られた。繰り返すまでもないが、コイツの馬鹿は疑いようがない(苦笑)。
 実際のところ、プロフェッサー・ギルは光明寺博士が警察から事件の重要参考人と見做されているため、犯人扱いはされていないものの、農協に釘付けであるとの事実を掴んでおり、重ねてヒトデムラサキに光明寺拉致を命じた。

 場面は替わってマリのマンション。そこではミツ子がジローの修復を終え、ジローを保護してくれたマリに礼を言っていた。それに対して、英語混じりに大げさなアクションで自分のせいでこうなったから当然と照れ隠しに弁明するマリ。常識は無くても良識はあるようだ(笑)。
 だが、修復を終えたジローは新しい潤滑油が全身に浸透するまで意識が戻らないらしく、その間隙を襲うかのような異音が室内に轟いた。すわ、クワガタブルーの襲撃か?と見たミツ子達の眼前に現れたのは予想通りのクワガタブルーだった。
 クワガタブルー曰く、ミツ子達の陽動に遭って光明寺博士を逃したことでプロフェッサー・ギルに罵られたことへの報復にミツ子達を殺さんとしてやって来たとのことだった。

 場面は替わって、農協。そこでは光明寺博士が事情聴取を受けていた。警察も光明寺博士が現金強奪に関わったとは見ていなかったものの、逃げ出そうとした光明寺博士に一抹の怪しさを感じていた(←無理のない物の見方である)。
 巨漢の刑事(大前均)記憶喪失を訴えながら、自分の名前は覚えていることを怪しんだが、博士自身は自分が何度も「光明寺」と呼ばれていたから、と証言した。ただ、それを「誰に?」と問われた際に、「ダーク」や「破壊ロボット」と答えるしかない状況では怪しさは拭い様がなかった。
 そして事情聴取から解放された光明寺博士の背後にはヒトデムラサキの影が迫っていた…………。

 場面はミツ子一行をクワガタブルー追うにシフトした。
 逃げ惑うミツ子達だったが、そこへサイドマシーンに乗ったジローが駆け付けた。どうやら潤滑油が全身に行き渡ったようである。となると、逆恨みするミツ子達を追うのに躍起になって、無抵抗状態だったジローにとどめを刺さなかったクワガタブルーはやはり阿呆である(笑)。
 ともあれ、再度クワガタスパークを駆使するクワガタブルーだったが、二度同じ手は食わないとジローはこれをかわし、キカイダーに変身して最終決戦に入った。
 それに対して胸腹中央部から刃の様なものを出して体当たりでキカイダーに襲い掛かるクワガタブルーだったが、有効打は為せず、回転アタック、マウント・パンチを食らい、初公開となるウルトラキック(←早い話、ドロップキック)に目を潰されて悶絶した。
 視力を失って狼狽えるクワガタブルーにもはや勝機は無く、大車輪投げデンジ・エンドを食らい、崖下に投げ落とされて爆死した。
 クワガタスパークは確かに恐るべき武器だったが、それをかわされた後に残ったのは頭の悪い欠陥ロボットでしかなかった。、クワガタブルーいと哀れ………。

 キカイダーとクワガタブルーが死闘を繰り広げている間、農協に忍び込んだヒトデムラサキは光明寺博士の拘束に成功していた。だが、クワガタブルーを破って戻って来たジローが、光明寺博士のSOSを求める脳波をキャッチして、ヒトデムラサキ達の前に立ちはだかった。
 光明寺博士を取り戻さんとしてヒトデムラサキ達と大立ち回りを演じるジローだったが、そこへプロフェッサー・ギルの悪魔の笛の音が襲った。ギルの思念は前35話同様、キカイダーを「ダークに生まれた者」としてダークに服従するよう命じるもので、悶絶するジローは遂に良心を狂わされた!
 そして直後、大立ち回りの途中で農協の壁に頭を打ち付けて気絶していた光明寺博士は、意識と共に遂に失われた記憶を取り戻した!

 九ヶ月振りに記憶を取り戻した光明寺博士はミツ子とマサルの名を口にし、眼前で悶絶するジローの姿に喜び、助けを求めたが、ジローは半ばダークの支配下にあり、光明寺博士を殴り飛ばした!
 ダークの拉致命令を受け、「じたばたするな、光明寺!抵抗すると命を落とすぞ!」と凄むジローに、「ジロー!良心回路を…良心回路を使え!」と呼び掛ける光明寺博士。悪魔の笛の音と、生みの親の呼び掛けの狭間で益々悶絶するジローだったが、何かがショートした拍子に光明寺博士の胸倉を掴み、遂にサブタイトル通りになってしまった………。

 結局、様々な想いの渦中で、ジローの良心回路は混乱・オーバーヒートし、ジローは全機能が完全に停止してしまった。
 そこにアンドロイドマン達を率いたヒトデムラサキがやって来てジローを「よくやったぞ。」と労った。それに対して無表情に立ち尽くすジローと、苦しそうにうごめく光明寺博士を映し、かつてない大ピンチを引きずったまま、第36話は終結したのだった。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日