人造人間キカイダー全話解説

第37話 ジローの弟 強敵ハカイダー!

監督:畠山豊彦
脚本:長坂秀佳
ヒトデムラサキ登場
 大ピンチで終わった第36話の後を受けただけあって、第37話は最悪の展開を辿って始まった。
 第36話のおさらいが簡単に流れた後、当然の様に光明寺博士を締め上げたまま、ジローは完全に機能を停止に陥ったところからストーリーが再開した。
 絞め上げられたと言っても、胸倉を掴まれているだけの光明寺博士は声を出すことは可能で、必死にジローに自分を放すよう呼び掛けた。だが、ジローは完全に硬直。ジローを労いながら後からやって来たヒトデムラサキが光明寺博士を受け取ろうとしても、引き剥がせなかった。
 業を煮やしたヒトデムラサキは光明寺博士の服を引き千切ってジローから引き離して連行した。そして動けないジローを「ポンコツ」と称し、蹴り倒すとその場に放置して引き揚げた。この辺り、悪の組織って、詰めが甘いんだよな………(苦笑)。

 場面は替わって農協。
 ミツ子・マサル・半平から、怪しいと重要参考人と睨んでいた守衛が行方不明の光明寺博士で、ミツ子達がその身内であると聞いた刑事達はミツ子達を光明寺博士に会そうとしたが、当然、待機させていた部屋から光明寺博士は姿を消しており、部屋の壁にはヒトデムラサキの形をした大穴が空いていた。
 一同が驚く中、そこへ緊急事態を告げながらマリが駆け込んで来た。前36話の解説では触れなかったが、マリは終盤で悪魔の笛の音に狂わされたジローが光明寺博士を締め上げるのを目撃し、写真まで撮っていた。カメラマンの鏡だが、人としては人造人間より良心回路に欠陥がある女である(嘆息)。

 まあ、マリは職業熱が行き過ぎるだけで、悪人と云う訳ではない。農協にやって来たのも、ミツ子に彼女の父親の危機を伝える為で、ミツ子・マサル・半平・警察一行はマリの先導で光明寺博士が襲われた現場にやって来た。
 勿論そこには硬直したジローが倒れていた。ミツ子とマサルが必死になって呼び掛けてもジローは反応を示さず、こんなことは初めてだと狼狽するミツ子だったが、そこへマリがバッドタイミングな証言をした。
 一応は親切心で言った事なのはわかるのだが、マリは光明寺博士を襲ったのはジローで、ジローに気を付けるよう告げた。
 それを耳にした熊野刑事(注:「熊野刑事」の名は作中出て来ませんでしたが、「巨漢刑事」では不便なのでWikipedhiaに従って、名前で記述しています)は当然聞き捨てに出来ず、即座にジローの拘束を命じた。
 勿論、それを信じられないミツ子は必死にジローの潔白を訴えるが、肝心のジローは動かないし、マリの証言を受けては警察なら誰でもジローを捨て置かないだろう。ミツ子の必死の訴えを受け、巨躯と厳つい容貌の割には丁寧な対応をする熊野刑事は、逮捕こそしなかったものの、ジローを重要参考人として署への連行を部下に命じた。

 このシーンにおける警察の反応は極めて自然なものである。だが彼等を頼っていられないと見た姉弟は半平の誘いを受け、警察一同が現場検証に熱中する隙を突いてその場から来るまで逃げたので、熊野刑事(←部長らしい)はミツ子達も怪しいとして、非常線を張るよう下知した。
 皮肉にも、この非常線はダークの作戦妨害に貢献した。
 通行車両を検問する非常線は光明寺博士を車で拉致・連行せんとしていたダークにとってもまずい存在だった。検問に気付いた光明寺博士が助けを求める大声を上げたため、ヒトデムラサキが光明寺博士の口を塞いで、横道に逃げるよう下知するも、一行は完全に警察から怪しいと目された。

 2台の白バイに追われたダーク車輌だったが、眼前に飛び出した子供に驚いた運転手が急ブレーキを掛けたことで白バイに追い付かれた。妙なところで人道的な奴だ(笑)。
 勿論、悪の組織ならそのまま子供を撥ね飛ばして逃げることも考えられ、ヒトデムラサキも何故そうしないのかと運転手を詰ったが、白バイに追い付かれてはとにかく誤魔化すしかなかった。
 運転手は、自分達は医者で、重病人を病院に運ぶ為に止む無く検問を無視しようとしたと誤魔化した。救急車でもないのにそれでいい逃れられるのか?と思ったが、提示した身分証らしきものが上手く出来ていたのか、二人の警官は怪しい真似をするなと窘めただけで、「中にお化けが乗っている!」という、轢かれ掛けた少女の証言を、驚いて錯乱していると見做して相手にしない、という特撮によくある子供証言不信で退けてしまった(ま、毎週巨大怪獣が登場するウルトラシリーズで怪獣出現を知らせる子供証言が信用されないよりはましか………)。
 ダーク一行は毛布の下に隠したヒトデムラサキを手術機材と誤魔化し、中にお化け(=ヒトデムラサキ)が入っていると叫ぶ少女も「病院に連れて行く。」とし、警察官達はまんまと騙されてしまった。

 その頃、警察から逃れんとする半平カーの中でミツ子によるジローの応急修理が終わった。だが、揺れる車内での大慌てでの修理が不完全だったためか、意識を取り戻したジローは声が出せなくなっていた。ナレーションによると、ショートによる故障は直ったものの、生みの親である光明寺博士を手に掛けようとしたことへの深い自責の念が良心回路に複雑なショックを与えていたことが声帯回路を麻痺させていたとのことだった。
 程なく、検問に気付いたミツ子一行は半平カーを乗り捨てて、検問所横合いの道を隠れるようにして進んだ。だが、この隠れ逃避行によって一行はヒトデムラサキの元から逃げてきた少女と遭遇した。
 少女は口封じせんとしたヒトデムラサキが車から降ろした一瞬の隙を突いて逃げた訳だが、勿論ダークはドジでも黙って見過ごすわけではない。少女を追いかけていたのをジローは熱センサーらしきものでその動きを捉え、身振り手振りでミツ子達に訴えた。
 マサルは細かい事情は分からないなりに、ジローが丘の上に何かがあるのを訴えていると察知するも、そこへ向かえば警察に見つかるとしてジローを止めた。意思疎通がままならず、業を煮やしたジローは人間の可聴領域を超えた音の指笛でサイドマシーンを呼び寄せ、単身少女の元に向かった。

 サイドマシーンを駆るジローは非常線を強引に突破。これによりジローはこの後様々な意味で警察の嫌疑を受けることとなった。
 Bパートに入り、書状の元に駆け付けたジローはヒトデムラサキと対峙。ヒトデムラサキは鈍重そうな見かけに似合わず、体を水平にして空中攻撃を繰り出した。戦線復帰したばかりのジローでは空中ではヒトデムラサキに翻弄され、キカイダーに変身。発声機能以外は正常なキカイダーは地上戦では有利に戦ったが、空中戦ではやはりヒトデムラサキに分があった。
 互いが互いの有利なポジションを巡る取っ組み合いが続いたが、そこへパトカーのサイレン音が鳴り響くとヒトデムラサキは撤収した。

 何とか少女の保護に成功したジローは、警察に追われているのはヒトデムラサキだけではなく、ジローも同様だったそれでも少女を連れて警戒する警察陣に向かった。
 するとそこへプロフェッサー・ギルの悪魔の笛の音が襲った。プロフェッサー・ギルは光明寺博士を襲わせた時と同様に、少女の口を封じよとの念を送り、笛を吹き続けた。そして今度もジローは笛の音に抗し得ず、少女の首を締めに掛かってしまった!
 勿論、見ていた警官隊は色めき立ち、熊野刑事は警官達に拳銃を構えさせた。熊野刑事はジローに少女を解放するよう命じ、そこへミツ子達も駆け付けて声を掛けたことで、ジローはすんでのところで正気を取り戻した。

 場面は替わって、警察署内。ジローはそこで二人の刑事の尋問を受けていた。その場にミツ子達もいたから取調室に連れられた訳ではなかったが、状況的に現行犯逮捕に近く、刑事はジローに何故少女の首を絞めたのか?光明寺博士をどこに連れて行ったのか?を詰問した。だが、ジローはまだ声を出せない。
 展開的にも、状況的にも二人の刑事はジローを完全に疑っており、熊野刑事は「下手の芝居はするな!」と激昂した。勿論心底ジローを信じているミツ子は刑事を宥めんとするが、刑事にしてみれば、ジローが光明寺博士を手に掛けていることも考えられ、その推測を述べつつ、ジローへの疑いを露わにしていた。
 ジローが声を出せずにいることも立場を不利にしていた訳だが………筆談という手段を誰も思い浮かばなかったのか???

 ともあれ、この様子はダーク基地内でプロフェッサー・ギルにモニタリングされており、彼はこの状況を面白いとしていた。宿敵キカイダーが犯罪容疑で拘束され、その間に光明寺博士を捉え、洗脳並びに悪魔回路の開発も進んでいたのだから、無理もない。
 プロフェッサー・ギルヒトデムラサキを褒め、悪魔回路サイボーグ手術の仕上げを命じた。そして手術の被験者は光明寺博士その人だった………。

 ダークの目論見では光明寺博士の偽死体が警察に発見され、光明寺博士は死人として世に認知されることとなっていた。
 目論み通り、偽死体は警察の手に渡り、湖から発見された遺体は殴り潰された顔を除けば体つきも守衛の服装も光明寺博士と一致すると見做されていた。現実にはあり得ない断定だな(苦笑)。
 いずれにせよ、(事実ではないが)死体発見をもって警察はジローへの疑惑を確定的なものとし、熊野刑事は「あくまでも●●の振りをするならそれも良かろう。筆談といこうじゃねぇか!」と持ち掛けた(←やっと思いついたのか?)。
 ちなみに●●の中身は、喋ることの出来ない状態を指す単語で、『人造人間キカイダー』放映当時にはごく普通にTVでも児童書でも出て来ていた単語だったが、現代では身体の生涯を差別する言葉とされる。こういう流れが過去に放映された番組の民放における再放送を困難にしているんだろうなあ………制作陣に悪意のない作品なら、ケーブルTVがやっているように、番組冒頭に注意テロップでも入れれば充分だと思うが。

 だが、ジローは何故か字を書かず、激昂した拍子に眼前の机を叩き壊した。その破壊力に驚き、ジローの体を叩いた金属音からジローが人間でないことを認識し、その人間ならざる力で光明寺博士を殴り殺したのだな、とした。
 熊野刑事の決めつけに抗議の声を挙げるミツ子達(←半平は「人造人権蹂躙」なる言葉を使っていた)だったが、ミツ子達の意見はジローを信じたいという想いから来るものに過ぎないと一蹴された。
 実際、(悪魔の笛の音に操られた者とは言え)光明寺博士や少女の首を絞めたのを何人もの人間が見ていた事実は動かせず、それを淡々と述べる熊野刑事の説明は理に適ったもので、光明寺博士殺害を確定するのは無理が有るにしても、重要参考人とするには充分で、少なくともミツ子達の否定よりは説得力のあるものだった。
 結局ジローは「狂ったロボット」とされ、手錠を掛けられた上で留置所にぶち込まれた。その際にも警官達を殴って抵抗したのだから、立場は益々悪くなった。

 ここまで、警察のジローに対する対応は別段おかしなものではなかったのだが、ジローが人造人間であることがクローズアップされたことで問題はややこしく、深刻なものとなった。
 当初は腕のいい弁護士を付け、公正な裁判が行われる筈だったのだが、「人造人間=機械」と見做されたことで、ジローは大学教授の手で分解・研究されることとなり、ミツ子達は「話が違う!」と抗議の声を挙げたが、権利の主張は人間であってこそ通る話として一蹴された。
 大学に護送する道中で暴れられては叶わないという理由で、分解は大学教授を留置所に招いて行われることとなった。

 そしてジローに最大の危機が迫る頃、ダーク基地内では遂に悪魔回路改造手術が完了し、特撮界屈指の有名好敵手キャラクター・ハカイダーが悪の雄姿を現した。
 立ち上がったハカイダーは拳銃を抜くや、周囲のアンドロイドマン達を次々に撃ち抜いてその能力を誇示。それでいい、と満悦のプロフェッサー・ギルはキカイダー破壊の理念を刷り込むようにハカイダーに語り続けた。そしてハカイダーの横には数々のチューブを繋いだヘルメットを被せられた光明寺博士が横たわっていた訳だが、このハカイダー製造に光明寺博士が如何様に利用されたかはこの時点ではまだ詳らかにされていなかった。

 次回、遂にキカイダーとハカイダーが対峙する…………。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日