人造人間キカイダー全話解説

第38話 ハカイダーがジローを殺す!

監督:永野靖忠
脚本:長坂秀佳
 前回の続きで分解されんとしていたジローは、結局、その膂力で自分を戒める鎖を引き千切り、周囲の警察官や大学教授達を殴り飛ばして牢を破った。
 前37話の終盤で、罪もない教授達を傷付けて逃げる訳にはいかないと考えていたのは何だったのか…………(苦笑)
 ジロー分解を認めないと抗議するミツ子達に、「あいつはポンコツ気●▲いロボット」としてその分解を揉んだ因子との押し問答を展開していた熊野刑事は、ジローの牢破りを知るや、即座に非常線を張るよう命じた。

 とある建物の屋上に降り立ったジローだったが、そこへハカイダーが襲撃して来て、宿命の好敵手同士は初めて対峙した。
 独自のテーマソングをBGMに、高周波弾を射出する大型拳銃をぶっ放しながら襲い掛かるハカイダーにジローもキカイダーに変身して応戦。即座に回転アタックからマウント・パンチ攻撃に出たが、これはあっさり振り解かれ、大車輪投げも軽々と受け身を取って着地された。

 ライバルキャラらしく、万全ではない弱い状態のキカイダーに興味はない、としたハカイダーだったが、キカイダーが戦線離脱して空中に飛び出すとそれを喜んだかのようにハカイダーも空を飛んで追跡に掛かった。
 万有引力や自由落下を無視するように両者は空中で殴り合った後、大地に降り立ったキカイダーがサイドマシーンで退却するとハカイダーもバイクに搭乗してこれを追い、カーチェイスとなった。
 ハカイダーのマシーンは機関砲を備えており、その砲撃でキカイダーは左上腕を負傷。追い付かれての格闘も不利に転じ、叩きのめされたキカイダーは正に高周波弾を突き付けるハカイダーの手に掛けられようとしたが、突然頭部に変調を感じたハカイダーは次の再会時に必ず殺すと告げて、絶好の機会にとどめを刺さずに去った。
 だが、キカイダーの危機は続き、彼はハカイダーに続いて警察に追われることとなった。

 場面は替わってダーク基地内。
 そこでは光明寺博士とハカイダーの頭部を繋いでの血液交換が行われていた。プロフェッサー・ギル曰く、一定時間内に両者の血液交換を行わないとハカイダーは死ぬ、とのことで、この唯一のウィーク・ポイントの為に時間切れの形でキカイダーを討ち取り損ねたことに切歯扼腕するプロフェッサー・ギルは、ヒトデムラサキに負傷中のキカイダーを倒すため、光明寺姉弟の拉致を命じた。

 その頃、とある公園の噴水前でミツ子・マサル・半平は項垂れていた。どこまでもジローを信じたいミツ子だが、眼前で少女の首を絞めたところまで目撃したとあって、マサル・半平ですら、ジローが壊れて以前のジローではなくなったことで光明寺博士をその手に掛けたのでは?と思い掛けていた。
 するとそこへビルの側面を垂直に立って歩くと云う人間離れをした動きで1人の黒ずくめの男が現れた。男の名はサブロー(真山譲次)といい、「ジローの弟」と名乗った。
 勿論、その存在を知らず、ナイフを振り回しながら近づくその男をミツ子達は露骨に怪しんだが、サブローは自分のことを、ジローが壊れれば永い眠りから覚醒する様にプログラミングされた存在であると述べた(つまり、それゆえにミツ子達にもその存在が知らされてなかったという訳)。
 とはいえ、状況が状況だけにいきなり現れた見ず知らずの男の、驚愕な自己紹介をすんなり受け入れられる筈がないのはミツ子達に限った話ではないだろう。身元が事実である証拠を見せろというマサルに対し、サブローは答える代わりに彼等の背後に迫っていたヒトデムラサキに飛び掛かった。

 ミツ子達をダーク基地に連れて行くと宣するヒトデムラサキにサブローはナイフを投げつけただけで撤退に追いやった。キカイダーでも抗し得なかったヒトデムラサキの空中攻撃だったが、人体で言えば頸部に刺さったナイフはヒトデムラサキをあっさりと戦意喪失状態に追いやった訳だが、空に舞い上がったサブローはほうほうの態で敗走するヒトデムラサキの前に先回りした。
 眼前に現れたサブローに対してヒトデムラサキはダークを裏切るのか?と詰問したが、サブロー=ハカイダーは自分の戦いを邪魔するなと言わんばかりに、ヒトデムラサキは勿論、プロフェッサー・ギルに対しても同じスタンスであることを伝えるよう命じた。

 Bパートに入ると、ジローは電材店で口が利けない旨を記したメモを提示して修理に必要な部品を求めた。女性店員は普通に応じていたが、何故これを刑事達の前で行わなかったかは激しく謎である

 場面は替わって警察署内。
 そこにはマリがジローの疑惑を決定づける写真の現像を持ってきていた。視聴者はジローがどういう性格か知っているし、光明寺博士に対する蛮行も悪魔の笛の音によるものということが分っているが、周囲の人間には悪魔の笛の音は聞こえず、ジローが光明寺博士に暴力を振るった行動事実だけが映る。
 それゆえ、熊野刑事が写真に対してジローへの疑惑を決定づけるのに非は感じないが、自分の写真が決定的な証拠となることを手放しで喜ぶマリには正直眉を顰める。
 半平を助けたり、ミツ子の父親への想いには理解を示したりしていたから、悪女とは思わないし、カメラマンとして仕事への成果を喜びたい気持ちも分からないではないが、ミツ子が何処までもジローを信じたいと思っているのは一目瞭然で、そのミツ子を前にしてのはしゃぎ振りはデリカシーが無さ過ぎる。

 ともあれ、九ヶ月に渡って行動を共にしてきたミツ子、マサル、半平はショックを隠せなかった。自分達の推測が正しかったと悦に入り、ジローを「キチ●イ」呼ばわりするマリと熊野刑事の前に居た堪れなくなったマサルは部屋から飛び出す程だった。
 この時のマサル役の神谷政浩氏の演技振りは子役レベルを凌駕していたと思う。

 心配して駆け付けたミツ子と半平にマサルは複雑且つ様々な想いを抱えていることを吐露した。マサルはジローが狂わされたのが悪魔の笛の音に寄るのを知っているから、ジローが悪者・狂人呼ばわりされていることを不憫に思いつつも、ジローが父の仇であることを受け入れざるを得ない心境に陥り、涙しながら仇討ちを誓っていた。
 それに対してミツ子は、ジローが本当に狂ったかどうか本人に会って確かめるべき、としたが、マサルは写真の内容やサブローが登場した事実から、父を攻撃したジローよりも自分達を助けてくれたサブローの方を(芝居であることに気付いていないとはいえ)信用するとし、半平もこれを支持した。

 そのジローは某所に潜んで自己修理していたが、そこにマサルが飛び込んで来た。
 被害者遺族の常で、何故に父を殺めたのか?と問うマサルに対し、いまだ声の出せないジローは必死に口を動かすも弁明が出来ない。そこへ半平も鎖を用いてジローの拘束に掛かった。
 首尾よくジローを捕えて探偵事務所に連行したマサルと半平に対し、尚もジローを信じようとするミツ子。二人はジローに光明寺博士殺しを白状させた上で警察に突き出そうと考えていたのだが、ジローが何も話さないと項垂れる。ていうか、ジローが喋れない状態にあるのは先刻承知だった筈では?と思いたいところだが、マサルはそんな状態を指して「キチ●イロボット」としていた。

 そしてそんな一行の背後にヒトデムラサキの影が迫り、ジローは声が出せないながらも必死に「志村!後ろ後ろ!」的な警告を発っさんとし、ヒトデムラサキが飛び込む直前になってようやく声が出た。
 逃げ惑う三人を無視し、半拘束常態にあるジローへの戦意を燃やすヒトデムラサキだったが、壁を破って飛び込んだ際に頭頂部に引っ掛かったブラインドをぶら下げての啖呵切り…………はっきりいって、格好悪い(笑)
 そんな無様を証明するように、ヒトデムラサキは上半身の自由が利かないジローの体当たりに弾き飛ばされる始末(苦笑)。屋外にジローを追うも、ジローはあっさり鎖を引き千切り、キカイダーにチェンジしない状態にもかかわらず圧倒されるヒトデムラサキハカイダーの引き立て役すら務まっていなかったかも知れない。
 そしてそこにサブローが現れるや、ヒトデムラサキはトラウマ大暴露の果てに飛んで逃走した。ジローはサブローよりもヒトデムラサキ追跡を優先し、ダークアジトに辿り着き、ダークの紋章がキーになっていることをあっさり見破って潜入した。
 そしてジローは遂に光明寺博士を発見した!
 光明寺博士は頭に包帯を巻いて巨大なカプセルの中に眠っていた。その痛ましい姿に憤ったジローは、即座に光明寺博士を助けんとしたが、そこへ室内にプロフェッサー・ギルの高笑いが響いた。
 「光明寺を殺しに来たのか?」ととう不可解な問いにジローがどういうことかと問い返せば、返って来たのは、眠る光明寺の体には脳がなく、カプセルから出せば光明寺博士はたちどころに死ぬというショッキングな事実。
 勿論、ジローは脳の在り処を問うた訳だが、プロフェッサー・ギルから返って来たのは「お前はもう光明寺の脳を見ている筈だ。」という、不気味で不可解な台詞だった。そして言われたジローが思い起こしたのは、ハカイダーの頭部に透けて見えていた脳髄だった…………。

 自らの推測を口にするジローに、それを肯定するプロフェッサー・ギル。そして畳みかけるようにプロフェッサー・ギルは「ハカイダーは光明寺の天才的頭脳を持った、ダーク戦闘用のサイボーグなのだ!」と言い放った。
 ハカイダーの中に光明寺博士の脳があるという事実は、カプセル内の光明寺博士の体を出せないことと、同時にハカイダーを殺す訳にはいかないことを告げていた。切歯扼腕するジローに対してダークは室内に鉄格子を下ろして閉じ込め、更に悪魔の笛の音が追い打ちを掛けた。
 そしてこの部屋が自分達のデスマッチリングであると告げつつ、ヒトデムラサキが乱入して来た。光明寺博士を捉え、ハカイダー製造に成功した今、もはやジローに用はないとばかりにプロフェッサー・ギルはジローの最期を念じつつ笛を吹き続け、ヒトデムラサキも最前の情けなさを忘れたかのように悶絶するジローをボコボコにした。

 だが、ヒトデムラサキの間抜け振りが解消した訳ではなかった(笑)
 ヒトデムラサキがジローを配電盤らしきものに打ち付けたところで吹き上げた火花が悪魔の笛の音をカットし、ジローはキカイダーにチェンジした。
 変身してくれた方が戦い甲斐があると戦意を燃やすヒトデムラサキだったが、情けなさは変わらず(苦笑)、比較的有効だった空中殺法も功を奏さず、ほんの一時優勢に立っただけで、ダブル・チョップに耐えるも得意の空中においても殴る蹴るの連打でボコボコにされ、デンジ・エンドを食らって戦死した。

 だが勝利の余韻に浸る間もなく、ハカイダーが襲ってきた。だが、事情を知った今、キカイダーはハカイダーを倒す訳にはいかない。
 かくして、ジレンマを抱えながらハカイダーと対峙しつつ、第38話は終結したのだった。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日