人造人間キカイダー全話解説

第8話 カーマインスパイダーが無気味に笑う

監督:北村秀敏
脚本:長坂秀佳
カーマインスパイダー登場
 冒頭、カーマインスパイダーは塾帰りと思しき少年を口から吐き出した糸で襲って雁字搦めにするとその生き血を啜った。そして次のシーンではぐみの木学園なる孤児院で一人手旗信号の練習をしていた少年・研一(田村円)も襲わんとしたが、人が近づいてくるのを感じて樹上に隠れた。どうやらこのカーマインスパイダー、他のダーク破壊ロボットよりは用心深いらしい(笑)。
 直後、研一は女性教諭・雪村アキ子(藤山律子)に皆と遊ぶよう促されてその場を離れ、姿を隠していたカーマインスパイダーは必ず研一の血を吸わんとの決意を固めていた(注・アキ子の名が出たのは番組終盤だったが、便宜上最初からのその名を記します)。

 そしてそのぐみの木学園には服部半平と光明寺姉弟が来ていた。相変わらず自分がいれば安心との大言壮語を吐く半平だったが、その実態は他力本願且つ楽観的なものだった(苦笑)。
 そもそも半平が学園に迎えられたのは連続子供失踪事件を懸念してのもので、いざとなれば「吾輩の部下であるキカイダー」も協力すると嘯く。勿論これにはマサルが出まかせを言うなとこぼし、ミツ子も、ジローの現在地さえ把握出来ていないことを論って半平を批判した。
 それに対して、半平はジローなら連続子供誘拐事件を放っておく筈が無いと嘯く。ジローの人格はともかく、すべての犯罪に向き合う余裕はないんですけど(苦笑)。

 ともあれ、事件の状況を尋ねる半平。その質問内容からすると研一は既に3回襲われているとのこと………ん?3回?1人の子供を襲って血を吸うのに3回挑んでまだ未達成?カーマインスパイダー早くも「駄目だこりゃ。」な予感(苦笑)
 だが、そんなダーク破壊ロボットでもやはり一般人にとっては非常な脅威で、この時既に半平の背後に迫っていた。勿論対面にいるアキ子にはその姿が見えているので、「志村!後ろ後ろ!」状態なのだが(笑)、恐怖のあまり声が思うように出ない。
 程なく、状況と展開から背後のカーマインスパイダーに気付いた半平は相も変わらず姿を見ただけで失神(失笑)。ない力を振り絞って必死なアキ子の抵抗も空しく研一は襲われた。

 研一を拘束し、目的をほぼ達成したカーマインスパイダーは目撃者の口封じにかからんとしたが、そこに鳴り響くギターの音色。音色の主であるジローに対して、「キカイダー。」と呼び掛けていたカーマインスパイダーだったが、ミツ子やマサルにとっては「ジロー」でも、同じ光明寺博士の作ったロボットであるカーマインスパイダーにとっては同族(?)としての「キカイダー」であることが伺えて興味深い。
 ともあれ、ジローはキカイダーに変身し、邂逅戦となったが、はっきり言ってカーマインスパイダーは弱かった。最終戦にて牽制技程度にしか過ぎないダブル・チョップの前に両腕がもげて、捨て台詞&逃走となったのだからお話にならなかった。
 カーマインスパイダーが逃走したとあっては、当然キカイダーの関心は研一の介抱となり、気絶した研一の下にミツ子・マサル・半平もやって来たのだが、その様子を物陰から見つめていた光明寺博士はジロー達に見覚えがあるような感覚に捉われていた。まあ、実際に肉親なのだから当然なのだが、これが現実なら親子の顔が似ているところに気が付くんだがな(苦笑)。


 場面は替わってダーク基地。そこでは科学者と思しき一人の女性(藤江リカ)がプロフェッサー・ギルに詰め寄っていた。いつになったら彼女の弟を探してくれるのか?というのが彼女の要求なのだが、それに対してプロフェッサー・ギルにはまともに答えず、側近くに侍立していたアンドロイドマンを杖で殴って怒りを露わにし、XR4号なるものがいつになったら出来るのかと問い返した。
 プロフェッサー・ギルによると既存のXRは使い物にならず、4号の開発が急務とのこと。だが博士に言わせるとそれには「無気力な子供の血」が必要とのことだった。言われてみれば、カーマインスパイダーが執拗にその血を狙っていた研一は陰があり、無気力に見えないこともない。
 条件に適合する子供の血を確保すべく、既に何人もの子供がダークに誘拐されており、カーマインスパイダーの暗躍の目的を裏付けていたのだが、科学者に言わせると既存の血はどれも使い物にならないらしい。というのも、血の条件が、Rhマイナスの上、スモールS型で、ラージQ型でならねばならず、その様な血液は100万人に1人の割合とのこと。
 そんなあんまりな条件にキレそうになるプロフェッサー・ギルだったが(苦笑)、そこへ両腕を失ったカーマインスパイダーが帰還して口論は中断された。

 その頃、ぐみの木学園では切断された筈のカーマインスパイダーの両腕が暗躍し出していた。発熱し、人事不省の研一のために医者を呼びに行った半平は途中でその腕に襲われた。
 もう片方の腕も研一を介抱するジローを背後から襲わんとしたが、これはミツ子の警告により失敗した。ちなみにその間、研一はうわ言で生まれてすぐに生き別れになった姉の名を連呼していた。「女性科学者=姉、研一=弟」の図式が見え見え(笑)

 一方、散々な醜態を晒していたカーマインスパイダーだったが、先の襲撃の際に多少は研一の血を吸っており、採取した血を元に開発が進んでいた。Rhマイナスという最低条件は端からカーマインスパイダーに伝わっていたようで、カーマインスパイダーは既に38人の子供から血を採取しており、となると、戦闘能力は糞でも、必要物資の調達という意味ではカーマインスパイダーは優れているのかも知れない(笑)。
 ともあれ、17番である研一から採取した血はXR4号の開発に最も適合していたことが分かり、傍らで報告を聞いていたプロフェッサー・ギルも改めて研一再襲撃を下知した。

 場面は替わって、ぐみの木学園。研一の容態を心配する一同の元へ、襲われた筈の半平が平気な顔をして、女医を伴い戻って来た。ちなみに女医は最前の科学者の変装なので、半平がダークのコントロール下にあることが伺える。
 前回はジローに「服部さん」と呼ばれていたのに、「はんぺん」と呼ばれたことを愚痴りながら入室してきた半平の(聞かれもしない)説明によると、女医・星村ユカは一流の内科医とのこと。そんな人物を連れて来たことを誇示する半平の口調は普段通り過ぎるほど普段通りだった(笑)。
 そしてそのユカは研一が毒物を盛られており、緊急入院が必要と告げて、屋外に連れ出さんとした。勿論目的は誘拐である。不安がるミツ子達に事は急を告げるとして有無を言わせまいとしたが、ジローにサイドカーに研一を乗せて連れて行って欲しいと要請したことでダーク関係者であることが露見した。
 ユカをダーク関係者と看破したジローは更に彼女が付けていたペンダントが盗聴カメラ兼マイクであることを見破り、それに向かって卑怯なことをせずに正々堂々と来いと告げるとそれを破壊した。

 Bパートに入ると、ジローはユカを締め上げ、研一に解毒剤を射つよう強要した。だがユカは鞄から注射を出すと見せかけて拳銃を取り出してこれに抵抗。
 一同(特に半平(笑))が拳銃にたじろぐ中、ジローは研一が苦しんでいることや、ダークの研究の為に多くの子供が犠牲になっていることを詰ったが、ユカはこれに逆ギレ。自分にも研一ぐらいの弟がいて、生まれてすぐに生き別れになり、名前すら知らないという。そんな境遇に置かれた彼女は境遇の根本原因となった貧乏を憎み、金の為にダークに協力して来たことをべらべらと喋った。先の失言を全然反省していないな、この女(笑)。

 だが、そのとき、うなされる研一が助けを求める声を発した。それを見たジローはユカに、彼女の弟の血液型はRHマイナスではなかったのかと問うた。
 その問いが意味するところを悟ったユカは「まさか!」と驚愕…………あの〜単にRhマイナスの子供というだけなら既に38人もいた訳で、研一に生き別れの姉が存在することと、Rhマイナスの血液型というだけで「まさか!」となる思考回路の方が「まさか!」何ですけど(苦笑)

 ともあれユカが驚愕した隙をついて拳銃をディザームしたジロー。その拳銃を素早く拾い上げ、ユカにつき付ける半平。こういう機を見るに敏なところは確かに忍者の子孫かも知れない(笑)。戦闘能力や人格に問題があり、臆病でもあるが、そもそも忍者は勇敢である必要はない(それどころか、目的達成のためにはどんな恥をも「忍んで」生き残る執念深さの方が大切)。
 万事休すと見て逃げようとするも、ジローと半平に取り押さえられた(←やはり半平は機を見るに敏だ(笑))。
 するとそこへ屋外からの銃撃が一同を襲った。勿論室内にユカがいるのを承知の上で、仲間をも一緒に撃つダークにユカは激昂した。ジローはダークがそんな組織であることに今頃気付いたのか?と呆れ、そんな組織の一員だったことを詰ったが、そんなもんにした方が良いぞ、ジローよ。強要されて不承不承とはいえ、光明寺父娘もダークに協力していた時期があったのだから(苦笑)

 ともあれダークの襲撃は続行され、アンドロイドマン達は室内に雪崩込んで来た。既にミツ子とマサルは屋外へ避難させていたが、数を頼みにアンドロイドマン達はユカを拉致せんとした。ついさっき、銃撃したばかりなのに、何故?と思い掛けたが、連れ出す途中でユカを殴りつけていたことを見ると見せしめ処刑が目的だったかもしれない。
 いずれにせよ、アンドロイドマン達は全員叩きのめされ、そこにミツ子・マサル・女性教諭も駆け付けて来た。だが、肝心の研一の姿が無い。
 マサルの言によると、半平は半平なりに責任を感じていたようで、研一の安全を守る為に山中の自分の隠れ家に避難させるとして彼を連れて行ったのだという。研一の容態を心配するジローに、研一も熱が下がったことで意識が戻り、半平への同行に同意したとのことだった。
 だが、その容態を聞いてユカが驚愕した。高熱にうなされた後、一時的に熱が下がるも、その後血液が凝固して死に至るというのが毒薬の特徴で、それを免れるためには30分以内に彼女の持つ解毒剤を注射しないといけないと云う。
 半平のらしくない責任感が裏目に出てしまったが、それを愚痴るよりもまずは手分けして研一を探すこととなった。

 だが、手掛かりなしに隠れている相手を見つけるのは容易ではない。おまけに研一を追っているのはダークも同様で、それがために大声で呼び掛ける訳にも行かない。刻一刻と時間が過ぎる中、一計を案じたジローはアキ子に、研一にはボーイスカウトの経験があることを確認した。
 確かに冒頭で手旗信号を振っていた際に研一はボーイスカウトの制服を着ており、アキ子も去年まで所属していたことを証言した。どうしてそれを?と問うアキ子に、ジローはボーイスカウト特有の道標が置かれていることを告げた。

 それを手掛かりに研一と半平を追う一行。だが、先にカーマインスパイダー達の方が研一と半平を捕らえるのに成功していた。直後に追い付いたジローはカーマインスパイダーに襲い掛かり、その隙にユカは研一に解毒剤を注射せんとした。
 だが、カーマインスパイダーは糸を吐いてユカを拘束。それを救わんとしたジローにはプロフェッサー・ギルの悪魔の笛が襲った。続々とピンチが訪れる中、何とかユカを拘束する蜘蛛の糸に取り縋ったジローだったが、それを阻止せんとしてカーマインスパイダーは別の赤い糸でジローを絡め取らんとしたが、結果、これが「余計な手出し」になってしまった。

 ジローの頭部をぐるぐる巻きにしたカーマインスパイダーの赤い糸はジローからプロフェッサー・ギルの悪魔の笛の音を遮断(笑)、ジローはキカイダーに変身し、アンドロイドマン達を蹴散らす隙を突いて、ユカは何とか研一に注射を為した。
 研一と半平を襲撃したときには既に両腕が元通りとなっていたカーマインスパイダーだったが、サイドマシーンに乗ったキカイダーを絡め取った筈が、その旋回運転で自分がぐるぐる巻きにされていたから、やはり戦闘能力は弱かった(笑)。
 後はいつものように、ダブル・チョップ大車輪投げデンジ・エンドの3点セットを食らい、崖下に落とされて昇天するカーマインスパイダーだった。

 戦い終え、ジローが一行の元に戻ると、研一は命を取り留めたものの、何故かユカが虫の息だった(カーマインスパイダーに絞め上げられた際に毒物でも撃ち込まれたのだろうか?)。
 研一の危地脱出を告げたユカは、研一は自分の弟なのか?と尋ねた。それに対してジローは、真相は不明としながらも、「困っている子供は皆弟だ。そう思っても良いんじゃないですか?」と投げ掛けた。
 その答えに満足したかのように微笑むとユカは息を引き取った。

 姉弟の実態が謎のまま、世と金を怨み続けた1人の女性は息を引き取るという遣り切れないラストだったが、それを引き換えにしたかのように研一は元気に生きることをキカイダーに約束し、ジローはサイドマシーンを駆ってぐみの木学園を後にした。
 ちなみにこのとき、研一はジローに向かって、「キカイダー。」と呼び掛けていた。ヒーロー番組に有り勝ちな「正体を隠す。」というケースがキカイダーには当てはまらず、一方でキカイダーの存在が「人」としては希薄な方であることが伺えて興味深い一コマだった。



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 最終更新令和元(2019)年一二月四日