キカイダー01全話解説

第25話 悪魔の子ザダム 月世界基地発進

脚本:長坂秀佳
監督:畠山豊彦


 今話より、前話で名前と、ラストに容姿の披露された最高幹部ザダムがレギュラーとなる。冒頭、そのザダムを召喚すべく、ビッグシャドゥが赤い満月に呼び掛けていた。
 呼び掛けられた月面にはシャドゥの月世界基地がそこそこの規模で存在しており、そこに立つザダムは西洋風の赤鬼と青鬼の2体が体の側面で合体して1体となる悪の人造人間で、各々がトライデント(三又鉾)を得物として直立し、2つの頭はそれぞれが異なる声を出していた。

 ビッグシャドゥをして「最鋭の戦士」と呼ばしめるザダムはシャドゥの科学陣が月世界基地にて長い時間を掛けて開発したらしく、かなり期待されている人物(?)の様だった。ところが、ビッグシャドゥの召喚を受け、地球に向かったこのザダムだが、余りに堂々と飛来した姿を多くの天文学者・天文マニアに目撃されまくっていた。何とも秘密結社の最高幹部に相応しくないスタートを切ったものである。

 そんな目撃者の中に、天文学者らしい仲のいい父娘(高島稔・中川和代)がいて、飛来するザダムを新彗星と見ていた。そこに偶然通りかかったミサオとヒロシ。相変わらずスリ家業が不調の様で、二人とも腹を減らしており、ミサオは丸で無関心だったのだが、ヒロシが娘に一種の一目惚れをした様で、夜空を見上げる彼女にかぐや姫の姿を重ね見る程だった。
 まあそれでもミサオは食と寝床にありつけると思ったのか、父親に話し掛け、その間ヒロシは娘に自己紹介していたのだが、新彗星の命名者になれるかも知れないと興奮する父親と娘・チコは人当たりが良いのか、愛想良くミサオとヒロシに応待していた。

 その頃、ザダムは地球のシャドゥ基地に到着し、これを歓待したビッグシャドゥは即座にザダムを最高幹部に任じ、ハカイダーシャドゥナイトを彼の下に就けると宣言した。それに対してザダムは礼も云わずハカイダーシャドゥナイトに「第一の命令を与える。」と尊大に切り出した。
 二人はザダムが上官となることを知らなかったのか、それとも尊大な態度が気に食わなかったのか、勝手なことを云うなとばかりに突っ掛かっていったが、シャドゥナイトの剣撃はあっさりとトライデントに弾き返され、ハカイダーショットも聞かず、トライデントから出す光弾らしきものの前に呆気なく屈服せしめられてしまった。

 打ちひしがれた二人にザダムが出した第一命令とは目撃者を消す事だった。
前述した様にザダムの月から地球への飛来は多くの天文学者に目撃されており、このことから月世界基地の存在が世間に知られることを懸念したザダムハカイダーシャドゥナイトに目撃者(←それも多数存在!)の口封じを命じた訳だが、着任早々の第一命令が己の迂闊さに対する尻拭いなのだから、ビッグシャドゥは本当にこんな奴に期待をしてるのだろうか(苦笑)。 ともあれ、こんな阿呆みたいな命令に逆らうことも出来ず、ハカイダーシャドゥナイトは天文学者らしき人々を次々と殺して回った。

 やがてその魔手は同様にザダムの目撃者だった父娘にも迫るのだが、人の好さそうな父親は「新彗星発見」に上機嫌なこともあってか、突然現れた流れ者のミサオとヒロシを怪しむでもなく、二人に食事を提供していた(宿泊もさせてあげたようだ)。
 来週学界にて新彗星発見を発表することで偉い先生方の度肝を抜けるとして上機嫌な父親だったが、燻らそうとしたパイプから激しい炎が上がるとそこにハカイダーがいた。

 目撃者口封じの行きがけ駄賃にミサオとヒロシも殺れることにほくそ笑むハカイダー。一飯の情けに報いんとしてか、父娘を背後に庇い、巻き込むなと叫ぶヒロシだったが、ハカイダーにしてみれば4人とも抹殺対象で、愛銃が四人まとめて殺せると豪語した。
 だが、そこへ鳴り響くいつものトランペット。任務や積年の目的を重視するならさっさと四人を撃てばいいのに、即座に窓外に向けて盲滅法に銃を放つハカイダー間抜け過ぎ(苦笑)
 案の定、ハカイダーショット及び目視がイチローの姿を捉えることなく、「四人を殺してからだ!」と室内に戻った時には四人の姿は消えていた。明らかに優先順位を間違えたな

 勿論、四人は屋外に避難しており、それをイチローが誘導していた。その間もトランペットは鳴り響いていたのだが、それは木に縛り付けたトランペットをアキラが木の下で演奏していたものだった。
 百歩譲って、ピストンを紐で操作出来たとして、吹くのはどうしたと云うのだろう?と云うか、陽動なら第21話でやった様に、テープレコーダーじゃダメだったのか? (苦笑)

 ともあれ、四人を避難させたイチローはアキラの元に戻り、それを追ってシャドゥマン達を率いたハカイダーもやって来た。
 だが、四人の避難はまだ終わっておらず、チェンジした01はその体を張って四人をハカイダーショットから守らなければならなかった。避ければ四人の命が無く、ひたすら耐えるしかない状況に、「何発耐えることが出来るかな?」と意地悪くほくそ笑みながら連射するハカイダーだったが、それをシャドゥナイトが止めた。
 銃撃を「手緩いぞ!」としたシャドゥナイトはマジシャン風(詐欺師風?)の人間体から本来の姿に戻ってシャドゥマン達と共に01に斬り掛かったが、これは却って四人を逃がすだけに終わってしまった。
 ハカイダーもこれに加勢し、しばしの白兵戦が展開されたが、そこにギターの音色が鳴り響いた。勿論奏者は第20話以来にその雄姿を現したジローである。

 高所から飛び降りつつチェンジしたキカイダーは主にシャドゥナイトと、01は主にハカイダーと戦いつつ、シャドゥマン達を何人もなぎ倒したのだが、形勢不利と見たものか、程なくハカイダーは忍者の煙玉の様な方法でシャドゥナイトとともに姿を消して戦線離脱した。
 タイミングよく現れてくれた弟に握手を求める01と、それに両手で応じるキカイダー…………大袈裟過ぎるって(苦笑)。

 だが父娘の危機は去っていなかった。
 ダブルマシンに乗るイチローに果実を投げつけて自分の居場所を知らせたミサオは、父娘を上手く匿った、と得意満面でいたのだが、イチローが声を掛けた二人はマネキン。
 アキラが見張っていたものの、何時の間にやら二人はシャドゥに拉致されており、チコを憎からず思うヒロシは弟を怒鳴りつけるほど狼狽していた。

 その父と娘はザダムビッグシャドゥに謁見した建物の中に監禁されていた。
 だが、父娘は後ろ手に縛られてこそいたものの、牢獄でもない普通の部屋に座らされているだけで、見張りも付けていなかった。
 恐ろしいまでの詰めの甘さだと云いたいところだが、二人をそんな中途半端な監禁状態に置いてあるのはイチロー達を誘き寄せる罠だとミサオは推測したが、チコを想う余り冷静さを欠くヒロシは罠でも構わないから突撃すると喚く始末。
 勿論、ヒロシを火中に飛び込ませる訳にはいかず、イチローがその役目を取って代わった。それに対してミサオもアキラもシャドゥの罠を懸念し、イチローを眼前にした父娘もイチローを止めた。

 父親曰く、「私達はどうせ助からん。君まで巻き添えを食うことはない。」とのことで、どうもこの人の善人振りは根っからのものと見えた。勿論、そう云われたからと云って「はい、そうですか。」と引き返すイチローではない。
 イチローが父娘に返した言葉は「命を賭けても人を助ける。それがキカイダー01の使命です。」と云う、正義の人造人間を端的に云い表したものだった。

 だが、案の定、父娘が監禁されていた部屋及び建物そのものが罠で、シャッターが下りて三人を閉じ込めると建物はロケットとなって月世界に向けて飛び立ってしまった。
 これは勿論ザダムの張った罠で、宿敵である01と目撃者である父娘をまとめて月世界に飛ばし、死の砂漠にて野垂れ死にさせんとするものだったが、ハカイダーシャドゥナイトはこれを批判した。
 ハカイダーは01を「只の人造人間ではない。」として、知恵を絞って地球に戻ってきかねないとした。その難詰に、死の砂漠である月で三人とも野垂れ死ぬに決まっていると嘯くザダムだったが、今度はシャドゥナイトが「もしお前の目算が外れたら、どうする?」と詰め寄った。それに対してザダムは云い放った。
 「良かろう。それほど心配ならお前達も月世界基地に送り込んでやろう。この俺は超能力者なのだ。」………………最初からその超能力でテレポーテーションしてくれば、大勢の天文学者に目撃されることもなく、その後始末に追われることも無かっただろうに(呆)

 ザダムの大惚けはさておき、宇宙服も着ず、ただ座らされているだけの父娘は地球脱出時のGに苦しんでいた。ロケットが地球を飛び出すのには秒速8qの速度が必要で、11Gという圧力が乗組員には掛かるため、訓練を積んだ宇宙飛行士が宇宙服を着て、不自然なスタイルで席に着いて発射時の衝撃に備えると聞いたことがある。
 また、マッハ3.4の爆撃機の速度の前に、ベテランのパイロットでも鼻血を出して気絶することがあるらしい。かように地球の引力を振り切る程の速度は体に過酷な負担を掛ける。普段着の天文学者父娘が少し苦しんだぐらいで耐えていたのは丸でフィクションだった(笑)。

 ともあれ、月面に着陸したことに三人は一様に愕然とした。
 差し当たっての問題は呼吸である。室内の酸素が亡くなるのは時間の問題で、イチローは体内から超小型酸素吸入器を二人分出して父娘に渡すと、自分は外に出てロケットを調べるとした。
 勿論月面には酸素どころか大気が無い。早急に地球に戻らなければイチローはともかく父娘の命は風前の灯火である。まあ現実に即するなら、地球と月面の大気・気温の違いの前には、生身の父娘は呼吸以前に気圧や気温の問題から即死しかねないのだが、そこまで言及するのは野暮だろう。

 ともあれ、酸素吸入器が呼吸を確保する時間は3時間で、ロケットの性能から地球に戻るには2時間半掛かるため、30分以内に月面を脱しなくてはならない状況に三人は追い込まれていた。
 30分以内に何とかロケット発射させると宣言したイチローはドアを蹴り破って機外に出た‥‥………そんなことしたら、機内の空気が真空の機外に向けて勢いよく飛び出す衝撃で機体が破裂してしまうのだが…………まあ、この手のツッコミは切りが無いので、この辺りで辞めよう(苦笑)。

 扉を閉め、引力調整スイッチで月面で最適な行動を取れるようにしたイチローだったが、即座にシャドゥマン達が襲い掛かってきた。こうしてみると、こいつら結構優秀なアンドロイドなんだな(笑)。
 勿論、イチローの敵ではないのだが、キカイダーシリーズの雑兵は弱くても、数に物を言わせて次々取り縋ることで時間稼ぎを行うことに関しては割と優れている。今話の様な時間に追われるケースでは有効だ。
 しかもザダムを信用せずに送られてきたハカイダーシャドゥナイトは父娘が生きていることに憤慨し、二人が苦しんで死ぬよう、扉を破壊してしまった。

 扉が閉まらないと、生身の二人は月世界夜間の酷寒に曝され、それだけで命の危機に陥る。幸い、父親は何とか扉を閉めるのに成功し、イチローもまた短時間の内に調査を終え、ロケットを再び地球に向かわしめる目途をつけた。
 だが、それを指を咥えてみているハカイダーシャドゥナイトでは勿論ない。修理完了直後に襲ってきた二人のため、止む無くイチローはロケットを発射させ、父娘を地球に向かわせ、自分は月世界に取り残されることとなった。

 地球に帰る術を失ったイチローに、その絶望的状況をせせら笑いながらにじり寄って来たハカイダーシャドゥナイトは「ここを貴様の墓場としてやる。」と云って襲い掛かってきたが、ある意味開き直ったイチローは「その前にお前たちの墓場を作ってやる。」と返し、01にチェンジした。
 父娘が酷寒に苦しんだことを鑑みると、01達がいた場所は夜だったことになり、太陽電池のパワーは著しく落ち込む筈なのだが、もうこの辺りいい加減だな(苦笑)。

 ともあれ、月世界で死ぬしかない身となった01は逆に力を出し惜しみする必要がなくなり、全力を発揮すれば普段の10倍のパワーを発揮出来るとして、ハカイダー達を迎撃した。  そんな01の獅子奮迅振りに、このままではハカイダーシャドゥナイトが殺られると踏んだザダムは一応の上司らしく、二人を助けんとした。
 その助力によるものか、01はハカイダー達を取り逃がし、上空に浮かぶ地球を眺めるイチローは自分の体内に残されたエネルギーでは地球に帰れないと断じ、地球に居るアキラやヒロシに別れを告げた。

 だが、次の瞬間ダブルマシンがイチローの下に飛来した。座席にはジローからの手紙が添えられてあった。敵のコンピュータからイチローの危機を知ったジローがダブルマシンに充分なエネルギーを満載させて月まで送ってくれたものだった……………ダブルマシンの性能凄過ぎるだろが(笑)!!

 バイクが空を飛ぶことや、真空中を航行すること等、もはやその辺りのツッコミは行わないが、ともあれイチローは脱出と共に月世界のシャドゥ基地破壊にも成功し、人手の及ばない姿を取り戻した月にいついつまでも夢とロマンを抱かせる場であって欲しいとの思いを馳せながら地球に戻った。
 そしてイチローの月世界脱出を知ったザダムは自分の最初の作戦を妨害されたことに地団駄踏み……………否、「作戦」じゃなくて「尻拭い」だろうが(爆笑)。

 かくしてツッコミどころ満載の第25話は終結した。
 イチローは地球に戻る途中の姿しか描かれなかったので、アキラ、ヒロシ、ミサオ、チコ、その父は月を見上げ、イチローに想いを馳せ、悪の組織側ではハカイダーではなく、ザダムが自分の超能力で必ず01を打倒することを宣うのだった。



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日