キカイダー01全話解説

第31話 哀れ人造人間ビジンダー爆死

脚本:長坂秀佳
監督:永野靖忠


 前話である第30話のラストで、イチローはザダムの罠に嵌りつつあった。
 詳しくは冒頭のビジンダーの項目や第30話のラストに記しているが、マリのブラウス第3ボタンを外せば、彼女の体に内蔵された核爆弾が起爆する仕掛けになっていた。
 絶体絶命の大ピンチに直面して始まった第31話だったが、イチローが第3ボタンに手を掛けたところでマリは「もう大丈夫です。」としてブラウスを着直してその場を去り、危機はあっさり回避された。

 だが、シャドゥにとってこれは裏切りに等しい行為だった。
 裏切りへの制裁は死罪であるのが悪の組織の相場だが、ザダムは激痛回路を回し、ハカイダーはマリをぼこぼこに殴りつけ、ある程度痛め付けたところでビッグシャドゥが止めた。  どうもマリの体には相当な資材や労力が注ぎ込まれているようで、本来の目的である「01とともに爆死」をさせない内に破壊しては本末転倒との考えがあるようだった。
 ビッグシャドゥは「二度と失敗を繰り返すな。」と云う、悪の組織にあっては珍しい言葉で、引き続き01の女子供に弱いところを突くべく、ミサオ・ヒロシ・アキラを使って01を嵌めることを命じた。

 そして「お前ならしくじることは無い。」としてビッグシャドゥがマリに呼び掛けた名前は「ビジンダー」で、その名を告げられたマリは変身ポーズをとってビジンダーにチェンジするや、激痛回路や打擲で自分を痛めつけたザダムハカイダーに報復的に殴り掛かり、ビッグシャドゥには自分が01破壊の為だけに作られた存在であることを忘れていない旨を告げた。
 事ここに至って、マリ=ビジンダーであることが明言された訳だが、01を罠に嵌める目的上、マリとビジンダーでは性格も言動も丸で異なることも明らかにされたのだった。

 改めてビッグシャドゥの命を受けたビジンダーはミサオ、ヒロシ、アキラを01打倒の囮にする為に拉致せんとして、三人を襲撃し、矢爆弾による攻撃でミサオは負傷したが、そこにハカイダーが横槍を入れた。
 元より01打倒の野望を誰にも奪われたくないとしていたハカイダーだったが、加えてビッグシャドゥザダムもビジンダーばかりに期待していたのもハカイダーにとって気に食わない話だった。

 だが、ハカイダーはビジンダーのビジンダーキック一発でみっともない程派手に蹴り飛ばされた。前作で醸し出していた強敵感、今作初期に見せた大将感がビッグシャドゥシャドゥナイトザダム達の為に薄らいでいるところに膂力でビジンダーにのされたとあっては執念深さだけが売りの敵役に陥ったことが泣けるが、それでもミサオ達の前に立ちはだかり、これを襲撃せんとしたが、今度はイチローの迎撃を受けた。

 チェンジ前のイチローにあっさりぶっ飛ばされるハカイダーも災難だったが、ミサオ達の災難もまだ続いていた。ハカイダーの魔手から逃れたと思いきや、吊り橋の上でビジンダーが立ちはだかり、ヒロシとアキラを庇ったミサオはビジンダーのビジンダーレザーのために吊り橋から叩き落された。
 そこへイチローが駆け付け、ヒロシとアキラに避難を促すと自らはミサオを追って河原に降り立った。

 一晩掛かって、ようやくイチローは頭と左腕に重傷を負っていたミサオを発見し、彼女が落下途中で大木に引っ掛かっていたのをマリに助けられたことを知った。視聴者的にはマリがビジンダーであり、01への充分過ぎる殺意を持っていることを知っているので、手放しに喜べないが、この時点でイチローは「ビジンダー=敵」と認識していても、「マリ=ビジンダー」であることを知らないから、一先ず心配するアキラ達の元に戻ることとした。
 だが、リエコに続いてミサオまでもシャドゥに殺されたのかとの無念の涙を流しながら就いていた眠りから兄弟は好意に反してミサオに憎まれ口をたたいていたことを後悔し、二人でリエコ・ミサオの仇を取らんとして、置手紙を残して姿を消していた。

 重傷のミサオを残してすぐその後を追ったイチロー。その頃、ヒロシとアキラは果敢にも棍棒を手にシャドゥマン達に立ち向かっていたが、さすがに力及ばずだった。
 だがそこにマリが現れ、シャドゥマンを蹴散らし、次いで現れたイチローはマリがビジンダーであることを告げた。
 自分達を何度となく助けてくれたマリと、眼前でミサオを吊り橋から叩き落したビジンダーが同一人物(?)であることを信じられないヒロシとアキラはイチローに対して、「変なことを云うなよ!」と云ってその論を否定せんとしたが、人造人間であるイチローは最初に逢った時からマリが人造人間であることには気づいていたと告げた。
 決め手を欠かせていたのは、ビジンダーとマリが正反対の人格であることで、そのことがイチローの判断を鈍らせていたのだが、イチローはマリこそが本当の彼女であるとして、彼女の修理を申し出た。
 だが、マリは01を倒す目的で作られた自分=ビジンダーこそが本来の姿で、イチロー達を騙す為に善人にされたマリを身体の不具を示す、現代なら放送コードに引っ掛かる単語で表現した(だから地上波では再放送出来ないのね、この作品………)。

 結局、狼狽える兄弟を尻目にマリはビジンダーにチェンジし、イチローに挑みかかったが、イチローは即座に01にチェンジし、ゼロワンカットゼロワンドライバーの連打でビジンダーを瞬殺でKOした。
 ただ、イチローに云わせると、KOしたものの、ビジンダーはゼロワンドライバーを受けて尚、大したダメージを追っておらず、この能力を敵に回さないために彼女に良心回路を埋め込んだ。
 イチローは自分の技能では完全な良心回路は持たせられないが、せめてジローと同等の良心回路は持たせたいと念じていた。
 だが、そこへ高笑いと共にハカイダーショットが撃ち込まれ、銃撃を避けんとしたイチロー達の周囲を覆っていた爆煙が晴れた時にはビジンダーの姿は消えていた。

 彼女が再度姿を現したのは、ようやく再会を果たしたミサオとヒロシ・アキラを襲うシャドゥマン達をイチローが蹴散らした直後だった。
 イチローは彼女に不完全ながらも良心回路を埋め込んだ意図と、彼女を殺したくない旨を語って、非戦を訴えたが、ビジンダーは自らの出自から、何をしても自分は悪のロボットでしかありえないと反論した。
 それを聞いて説得は無駄だったして臨戦態勢を取ったイチローだったが、そこにヒロシとアキラが割って入り、イチローにビジンダーを殺さないように懇願し、彼女は悪のロボットではないと訴えた。
 ビジンダーはヒロシ・アキラにその場を退くよう強要し、聞き入れなければビジンダーレザーで黒焦げにすると脅したが、イチローはその殺意は嘘だと看破した。
 看破の証拠は、ビジンダーが涙を流していたことにあった。涙を流すビジンダーと涙を流すマリの顔が交互に映され、イチローは彼女を「涙を流すことが出来る唯一のロボット。」として、シャドゥを抜けることも可能だと諭した。

 ちなみに、前作第11話で01の弟・キカイダーも心ならずも良心回路を持つゴールドウルフを助けられずに討ち果たした際に大粒の涙を流していたので、野暮いことを云えば、ビジンダーを「涙を流すことが出来る唯一のロボット。」とする表現は正しくない……………我ながら本当に野暮だな(苦笑)。
 そもそも、前作では01は仁王像の中で眠っていたことから、キカイダーが涙していたシーンを見ていないことだしな(再度苦笑)。

 ともあれ、それこそ良心回路に訴える説得を叫ぶイチローだったが、結局この時点では説得は成らず、躊躇いを見せたもののビジンダーはビジンダーレザーを発し、兄弟を庇いつつイチローは01にチェンジ。対峙する両者だったが、2本の横槍が入った。
 1本は尚も戦いを止めんとするヒロシ・アキラ兄弟の叫びで、もう1本は両者の対峙を「生温い」として割って入ってきたハカイダーだった。
 ハカイダーはハカイダーショットをミサオ達に向けることで3人を人質化し、抵抗したら即座に3人を殺すとして、01を銃撃。これにより01は左足を負傷し、ハカイダーは足、腕、心臓、頭の順に撃って01を嬲り殺しにする、と宣言した。
 だが、この卑怯なやり方を怒ったものか、それとも自分の活動を邪魔されたことを怒ったものか、ビジンダーはビジンダーレザーハカイダーに向けて発射し、戦いはビジンダーVSハカイダーにシフトした。

 ヒロシ・アキラの声援を受けて戦うビジンダーに、今度はハカイダーも最初の様な体たらくは晒さず、ややビジンダー優勢に見えつつも両者は互角に渡り合い、最後には空中で激突、大爆発が晴れた時には両者とも姿を消していた。
 まあ初登場時ならともかく、ビジンダー・ハカイダーが如何なる存在であるかを少しでも知る者なら、これで二人が死んだとは思うまいて(笑)。

 両名の安否や行方が気になる終わり方ではあったが、ミサオ達はようやく虎口を脱し、イチローはヒロシとアキラに二度と二人だけでシャドゥと戦おうなどと思わないことを諭し、ミサオに二人を託してダブルマシンでその場を去った。
 いつもならここでハカイダーが01への再戦と復讐を宣するところだが、今回はビジンダーの空中爆発がザダムの仕業であることだけナレーションで告げられ、去り行くイチローの姿も、アジト内のモニターで見送っていたのはもザダムだった。



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日