キカイダー01全話解説

第32話 地獄に呼ばれるビジンダー

脚本:長坂秀佳
監督:畠山豊彦
インクスミイカ登場

 この第32話より、オープニングにマリがビジンダーに変身するシーンと、シャドゥマン達と対峙するビジンダーの殺陣が加わった。こりゃ、放映当時の視聴者にもビジンダー・マリが仲間入りすることになるのがバレバレだな(苦笑)。
 ともあれ、冒頭にて、ビジンダーが作られたシャドゥの意図と、前話にてイチローがビジンダーに良心回路を埋め込んだことと、それを快く思わないビッグシャドゥの命令でザダムが爆破に見せかけて彼女を回収したことがナレーションで説明された。

 ビジンダーと共にハカイダーも回収されていたのだが、ビッグシャドゥハカイダーをそのままにして(笑)、ビジンダーは即座に手術室に連れて行くよう配下に命じた。勿論目的はイチローによって取り付けられた良心回路を外し、彼女を完全な悪のロボットに作り直す為だった。
 だが、大型の電動ドリル三台を突き付けるような荒療治を行う直前にビジンダーは意識を取り戻し、ザダムによるコントールに苦しみつつも耐えて抵抗を続けた彼女はシャドゥとの決別を告げてアジトを脱した。

 期待を掛けていたビジンダーに逃げられたのは大きな痛手だったが、ビッグシャドゥはそのことを言及はしたものの、さしてザダムを責めるでもなく、ザダムも謝罪しつつすぐに次の作戦に移る準備が出来ていることを告げるとビッグシャドゥもそれを受け入れた。
 それは「万年筆インクによる大量殺人計画」なるもので、それは色も匂いも万年筆用インクとしか思えない液体爆薬で、普通に瓶や万年筆内にある分には何ら危険もないものだが、一文字でも書こうとすると忽ち発火・爆発するもので、その威力はニトログリセリン以上の爆発力を有するものだった。
 その破壊力にビッグシャドゥも、日本中の文房具店に流通することで大量殺戮が為されることを期待し、ザダムの求めるままにインク爆弾を体内で製造するインクスミイカを労うのだった。

 労いと、即座の作戦開始をビッグシャドゥより命じられたインクスミイカなんだが、その見てくれははっきり云って、カッコ悪い。寸胴なイカの頭上に巨大なペン先を載せたその容姿は、迫力も威厳もカッコ良さも皆無だったが、インク爆弾を製造する能力を思うと、破壊ロボットの恐ろしさは見てくれで判断出来ないことを教えられる気がする。
 ともあれ、インクスミイカは行動を開始し、パイラーインキ株式会社のインクを運ぶトラックを襲撃し、同社の製品と偽ってインク爆弾を大量に各地の文房具屋に卸した。
 シャドゥの狙い過たず、インク爆弾は万年筆で文字を書こうとした児童達の手元で次々と爆発を起こし、爆発した場所には人の死体も残らなかった(←何故か机や家屋は無事だったのだが)。

 既に流通した後とあっては、さしものイチローも犠牲が出るのを完全には抑えられなかった。それでも文房具店を巡っては少なからぬ量のインク爆弾をダブルマシンに積載して人里離れたところに集荷したそれらを01に変身後、ゼロワンファイヤーで発火させて爆破・処分したのだった。
 そして尚もインク爆弾をばら撒かんとしていたインクスミイカだったが、トラックに積載しているところを数人の少年達に目撃され、その口を封じんとしたところにイチローが乱入した。
 鈍重そうな体格故か、白兵戦は得意そうに見えないインクスミイカは口吻より炎を吐いてイチローを迎撃(←殆んどデストロンのイカファイアやな(苦笑))。この攻撃にそのままの姿では抗し得ないと見たイチローは01にチェンジすると優勢に転じたが、そこにハカイダーが乱入してきた。
 冒頭で人事不省のままビッグシャドゥに捨て置かれたこいつがどうやって復活したのか、全くの謎だったが、乱入の意図は01打倒ではなく、シャドゥの作戦の為にインク爆弾を守らんとする、ハカイダーにしては珍しい傾向だった。
 これにインクスミイカが加勢し、01を取り押さえたため、珍しい悪の好連携に01は危機に陥った訳だが、そこに今度はビジンダーが乱入した。

 二転三転する戦いの中、戦いは01とハカイダーの一騎打ちがメインとなったが、明らかに01が優勢だった。だが、ハカイダーがビジンダーに01への攻撃を命じると、不完全な良心回路が仇となって、プロフェッサー・ギルの悪魔を食らうキカイダーほどではないが、ビジンダーは苦しみながら01への攻撃命令に従わざるを得なかった。
 もっとも、良心回路も不完全なら、回路の邪魔を受けたシャドゥへの服従も不完全で、そんな状態で01への攻撃が功を奏る筈もなかったが、その隙にハカイダーには逃げられてしまったのだった。

 戦いが中断し、ビジンダーを追ったイチローは、インク爆弾を満載したトラックの横に佇むビジンダーを見つけた。シャドゥの命令を発する者がいない状態なのでイチローへの敵意を持たないビジンダーは、しかしシャドゥに完全に逆らえない自分を不完全な存在として疎ましく思う旨をイチローに告げた。
 そんなビジンダーを励まし、心をしっかり持てばシャドゥに操られないとする01だったが、ビジンダーは苦悩しながら立ち去るだけだった。

 ビジンダーも気掛かりだが、目下01としては危険極まりないインク爆弾を処分することの方が急務で、トラックを人気のない場所に運ぶと先ほど同様01にチェンジしてゼロワンファイヤーで炎上させて処理した。
 大事なインク爆弾を燃やされたのはインクスミイカにとって大きな痛手だったが、燃え残りからでも7000人を殺害出来る程の分量は確保出来る(←阿片だな、丸で)として、インクスミイカは文房具屋の店主(杉義一)に化けてばら撒きに掛かった。

 その文房具店でそれと知らずインク爆弾を購入したのはミサオだった。
 話は前後するが、ケンジと云う少年がいじめっ子から父親の形見である万年筆を取られそうになっていたのをミサオが助けたのだが、ケンジを励ますミサオは手紙を書いて彼を励まし続けることを約束し、住所をメモろうとしてケンジの万年筆のインクが切れていることを知り、インクスミイカが潜む文房具店に来ていたのだった。
 インクスミイカ自身は人間に化けていることをあっさりイチローに看破され、イチローは「何をお求めで?」と店主らしく振舞うインクスミイカに「インク爆弾、全部!」と突き付けて爆弾の処分と本物の店主を助けることに成功したが、インク爆弾を購入したミサオは立ち去った後だった。

 幸い、マリがミサオの危機を察知し、インク爆弾の爆発を阻止したのだったが、爆発阻止の為に知らないとは云え、マリはケンジの―それも死んだ父親の形見である―万年筆を池の中に投擲してしまった。
 万年筆がケンジにとって如何に大切なものかを知り、一方でインク爆弾のことも、マリがそれを阻止したことも知らないミサオは怒り心頭でマリに平手打ちを食らわし、親を思う気持ちが分からないか?と彼女を詰った。
 雰囲気から、心ならずもしまったことをしてしまったことは察するマリだったが、当然のことながら人造人間である彼女には親の記憶もなければ、親を思うこの気持ちも知る由なく、彼女が人造人間であったことを思い出したミサオもマリに悪いことを云ったのに気付き、気まずさに囚われた。

 少し話が逸れるが、前作の『人造人間キカイダー』から本作の『キカイダー01』まで視聴し、人造人間というもの、良心というものを多少なりとも考察してきた視聴者であれば、ビジンダー・マリがシャドゥを嫌悪し、自らの至らなさを苦悩している段階で彼女が人造人間であっても、下手な人間以上に人間の心を持っていることが分かる。
 ただ、ビジンダー・マリの在り様が確立していない段階でそれを察するのは、子供にはいささか難しいのではないかと思う。それを示すマリとミサオのやり取りについていけないものか、ケンジはマリが万年筆を奪って爆発させたことへの怒りを示すこともなければ、この後にマリが池の中に入って、バラバラになった万年筆を組み直して、接着剤で固めて返したことに複雑そうな表情を浮かべるだけだった。

 幸いなのは、マリの本当の優しさを察したミサオが、マリの気持ちを察し、最善の云い過ぎを詫びて、ケンジの代わりにマリの想いに応えんとしていたのだったが、ここでマリの所在を知ったビッグシャドゥが、制裁とばかりに激痛回路のスイッチを入れ、マリは激痛にのたうち回った。
 激痛に正常な判断を狂わされたマリは、彼女を心配して介抱せんとするミサオとケンジに服を緩めて欲しいと懇願し、第三ボタン取り外しによる核爆弾爆発の恐怖が再度迫ってきたのだったが、そこにインクスミイカが割って入り、マリは応戦せんとして立ち上がり…………ビッグシャドゥの目論見、ぶち壊しやんけ、インクスミイカよぉ(笑)

 勿論、激痛に苦しみ、背後にミサオとケンジを庇う状態のマリがインクスミイカに抗し得るとは思えなかったが、そこはイチローが乱入してきて、シャドゥマン達との大立ち回りに入った。
その合間に激痛を逃れたマリもイチローに加勢してビジンダーにチェンジ。それに続くようにイチローも01にチェンジした。
やがて戦いは01VSインクスミイカ、ビジンダーVSシャドゥマン達にシフトしたが、前述したように、インクスミイカの格闘能力は大したものではなく、火炎放射が僅かに01を苦戦させたが、致命的なことにインクスミイカは打たれ弱かった。
 火炎放射を躱されると、もはや優位に立ちようのなかったインクスミイカゼロワンドライバーからゼロワンカットを受けると左腕をもがれる体たらくで、この時点で「勝負あり」状態で、ブラストエンドで息の根を止められたのだった。

 そしてラストシーン。幸いにもマリの奮闘はケンジに大きな勇気を与え、強く生きることを誓うケンジにイチローは「いじめっ子も悪いが、いじめられっ子もめそめそしているからいけないんだよ。」とした。
 個人的に、いじめに苦しんだことのある道場主からすれば、「いじめられっ子にも問題あり。」という論に一定の理解は持ちつつも、やはり比較の上では「いじめっ子の方が悪い。いじめを正当化する理由にはならない。」と常々考えているので、イチローのこの論をそのまま受け止めることは出来ないが、ケンジに強く生きることの大切さを諭す言としては「有り」と受け止められる。
 そしてイチローは、苦闘を乗り越えたマリに対しても、「立派な人造人間」とした。どう足掻いても人間になれないが、それでも人間以上に人間らしい心を持ちえた彼女を称えるからこそ、敢えて「立派な人造人間」としたことが重くて、深い一言だった。

 かくしてイチローとマリは言葉少なながらも各々の道に挑む事を決意し合い、既にいくつもの作戦を打ち破られたザダムが復讐を誓って第32話は終結した。深い命題に切り込んだいい話だったが、冒頭で放置プレイを受けたハカイダーが何の脈絡もなく復活していたり、ビッグシャドゥが起動したマリの激痛回路がいつの間にか影響しなくなっていたり、といった消化不良が珠に瑕な回でもあった。



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日