キカイダー01全話解説

第34話 呪いの大時計 ビジンダー危機

脚本:長坂秀佳
監督:畠山豊彦
キチガイバト登場


 冒頭、夜中(午前0時30分)のとある公園でミサオ、ヒロシ、アキラは野宿していた。
 ふとした気配から公園の大時計が爆発したのを見たミサオはそのまま気を失い、翌朝目覚めた際に自分を起こすヒロシ・アキラにそのことを告げたが、大時計は無傷で、兄弟には寝惚けているとして取り合われなかった。
ちなみにこの第34話が放映されたのは昭和49(1974)1月5日………3人身を寄せ合っていたとはいえ、何も被らず、普段着で寝ててよく無事だったものだ………うちの道場主が真冬(大晦日)に野宿した時には自販機の温風口に体を近づけたり、新聞紙を体に巻いたりしたものだが…………(←注:同様の方法で野宿して体調を崩されても当道場当房は一切責任を持てません)。

 ともあれ、傷一つない大時計だったが、鳩をあしらったデザインのその目の部分が光るとミサオは催眠状態に陥り、ヒロシ・アキラを殴りつけた。当の本人には催眠術にかかった自覚は無く、兄弟にはミサオが寝惚けている様にしか見えず、いつもの醜い争いが展開されるのだった。

 だが、3人に及んだ影響など軽微なもので、大時計の鳩の目が怪しい光を放つとその光が道行く人々の腕時計に照射されるや人々は狂乱状態に陥って周囲にいる人々を誰かれなく殴り付け出し、その酷さはミサオの比ではなかった。
 暴動は公園、バス車内、商店街、と至る所で起き、駆け付けたイチローは止めに入ったが、理由はどうあれ暴徒が言葉で止まる筈なく、人間に暴力を振るわないよう作られているイチローには為す術がなかった。

 報道によると暴動による死者は13人、病院に収容された者は3万5千人とのことだったが、フィクションとはいえ、亡くなった方に申し訳ないが、致死率0.037%に命中するとは凄まじい運の悪さである
 ともあれ、報道では城南大学のシラカワなる心理学の権威である教授が現代人のストレス爆発よるものと分析しているとしていたが、何万もの人々を一斉に暴動に駆り立てるストレスとは恐れ入る(苦笑)。  勿論、特撮の定番で、一連の暴動はシャドゥによるものである(大時計が怪光線を発する際にキチガイバトがその姿をだぶらせていた)。アジトではビッグシャドゥが更なる暴動と犠牲の拡大を期待してほくそ笑んでいた。

 場面は変わってとある時計店。一連の暴動における犠牲者にとって、標的とされていたのは腕時計だったが、時計店ではダイスケと云う少年がショーウィンドウに並ぶ数々の腕時計に見入っていた。少し前のシーンで、ダイスケは友達の中で一人腕時計を持っていないことに劣等感を抱いていた。
 僅かな秒の違いをもって自前の腕時計を自慢し合う仲間(←嫌なガキどもだ)の前で、自分も腕時計を買ってもらうことになっていると告げていたダイスケだったが、明らかにそれは出まかせで、とうとう店主の隙を見て万引きに及ばんとしたが、寸前でマリに止められた。
 少年が犯罪を犯すのを止められたマリだったが、落ちた時計を拾おうとしたところで店主に盗もうとしていると疑われた。勿論そんな気はないマリが「買う」と云えば、店主は一転してにこやかになったのだが、人造人間で、突然の犯行を防がんとしたマリが都合よく金を持っている筈もなく、「やはり泥棒じゃないか?!」と激昂した。
 それに対して「代金分だけ働いてお返しします。」としたマリに店主は「事情がありそうだな…。」として時計の修理が出来るかをマリに確認すると、店にある要修理の時計をすべて修理したら拾い上げていた腕時計(35,000円)を無料で渡すとした。
 理解があるのか、分からず屋なのかよく分からん親父だ(苦笑)。まあ30分番組という限られた時間の中で様々な見解を見せないといけないからこうなったのだろう。

余談だが、店にある商品を自分の懐やポケットやカバンに入れない限り万引きは成立しない。それゆえ、少年が止められた際に落とした腕時計を拾っただけのマリに対して万引き行為と見做しても、立件は不可能である。

 ただ、現実世界にて、万引きやスリが現行犯のみ逮捕可能であるこを逆手にとって、防犯カメラに映っていても、現場での取り押さえがほんの少しタイミングがずれただけでも、「現行犯でない。」と云い張って罪を認めない厄介な輩までいる(病的に盗癖を持ってしまった常習者に多いそうだ)。

 念の為に記載するが、この文章を見て、「現行犯じゃなければ大丈夫!」と阿呆な安心感を抱くことは大間違いである。それどころか、警察に突き出せない、或いは突き出しても面倒なだけと見て、私的制裁(早い話その場での暴力)に走る店舗や個人も存在する。
 勿論私的制裁としての暴力は犯罪だが、自分が犯罪をしながら相手の犯罪を詰るのは恥の上塗りになり、それこそ相手の暴力は大した罪にならない可能性も高い。
 警察に突き出されないからと安心していると、それ以上のリスクに曝されることも有り得るのだ。

 ともあれ、前話でミニゴリラの改造を行っていたビジンダーにとって機械修理はお手の物のようで、マリは僅か10分ですべての時計を修理すると(店主に無断で)店を後にした。
 そしてマリは代価として手にした腕時計をもってダイスケの下に向かった。自分を捕まえに来たと思い込んで周章狼狽するダイスケは必死にもう二度としないと云って謝罪し、警察にだけは突き出さないで欲しいと懇願。それに対してマリは、腕時計をプレゼントしにきただけで、遠慮なく受け取る代わりに、彼が誓ったことを忘れないよう云い聞かせた。

 だが、このマリの優しさは裏目に出た。
 鳩型大時計からの怪光線はダイスケの腕時計にも照射され、ダイスケと仲間達はたちまち殴り合いの乱闘となった。その様子をアジト内でモニタリングしていたビッグシャドゥは「実に愉快。」と云ってご満悦だったが、子供同士の乱闘をそれこそ子供のように喜ぶ悪の組織の首領………………そりゃ、世界征服が成功する訳ないわな(苦笑)。
 まあ、ビッグシャドゥの器は小さくても、セコンドサイクル作戦と呼ばれる悪巧みによる被害は甚大で、A地区からG地区で作戦が成功していた。
 ここの地区における規模は不明だが、報道で云われていた被害が一地区のものなら、単純計算で作戦による被害が25万人近くが病院送りにされたことになる。たとえそこまでいかなかったとしても、同じ作戦が7回も成功しているのは特筆に値する

 幸い、少年達の殴り合いは駆け付けたマリが腕時計を外したことで収まったのだが、マリは遅れて駆け付けた少年達の母親達に子供達を怪我させた上、時計まで盗もうとした女と誤解され、先頭にいたおばはんにビンタされた上、警察に突き出されようとした。
 マリがそんな人物ではないことを少年達は証言せんとしたが、彼等には怪光線で暴徒状態にされた時の記憶がなく、おばはん達の誤解は解けなかった。
 そして暴動中は少年達が「何人死ぬか?」と楽しみにしていたビッグシャドゥはマリがおばはん達に吊し上げられている見て、「ははは〜面白くなった……ますます面白くなったぞ〜!!」と大はしゃぎ……………お前が面白いわ(呆)

 首領がとんちきなら幹部も同じ様で、ザダムビッグシャドゥの機嫌を取るように、激痛回路の発動を進言し、苦しむマリを見かねた子供がブラウスの第三ボタンを外せば、マリも子供達もおばはん達も木端微塵になることを期待してビッグシャドゥはますます大はしゃぎ……………いや、悪の組織の人間だから、どんな悪辣なことに喜びを感じても個人の資質だが、本来01を倒す為の水爆を10人前後の少年とおばはん達を殺す為に浪費するのを、組織の長として勿体ないとは思わないのだろうか?

 ついでを云うと、如何に核爆発と云えども地表で起こしては然程甚大な破壊は為せない(らしい)。広島・長崎での原爆投下では原子爆弾は上空500メートルの高さにて炸裂したが、それもその高さがより大きな破壊をもたらす故だった。
 そんな核爆弾を「面白そう」と云うだけの動機で、宿敵を倒すのではなく、無力な女子供をいたぶるのに使おうと云うのだから、世界犯罪組織を名乗るシャドゥともあろうものが器の小さいか悪事にはしゃぐ様には開いた口が塞がらなかった………。

 ともあれ、ブラウスの第3ボタンが外されるのは駆け付けたイチローによって止められた。イチローが現れただけですべてが終わったかのようにがっかりしたビッグシャドゥザダムハカイダーを現地に急行させ、イチローを襲わせた。
 イチローはハカイダー及びシャドゥマン達と対峙し、マリに少年・おばはん達の避難誘導を託した。ちなみにマリが激痛に苦しんだ際には逮捕逃れの仮病と見做していた分からず屋なおばはん達も、避難時には皆で子供達を庇うように囲んでいたし、彼等及び彼女等を守る為に身を挺することを嘲笑うハカイダーの台詞に、マリが本当に子供達を守ろうとしていたことを理解したのは触れておきたい。
 とりあえず、全くの分からず屋じゃなかったことにほっとした(苦笑)。

 自らを人々を守る為に作られた存在と自認するマリは死んでも悔いがないことを宣し、ダイスケが逃げるよう促しても人々の盾となる姿勢を崩さなかった(実際に、ハカイダーショットを我が身で受けて人々を守っていた)が、これは01が助けに入った。
 ともあれ、何とかハカイダーを追い払い、人々の誤解を解いたイチローとマリ(←おばはん達も謝罪していた)は、一連の暴動事件をシャドゥの仕業と断定し、セコンドサイクルが腕時計に照射されることで人々の血液に影響を与え、凶暴化させていると見て、その発信源を追うことを確認し合った(余談だが、それを遠くから見ていたミサオには二人がいちゃついているように見えたらしい)。

 ダブルマシンに乗るイチローは移動することで怪電波が強くなる方角を見極め、遂に件の鳩型大時計が元凶と見て、イチローの姿のままゼロワンチョップを食らわすと、キチガイバトがその正体を現した。
 ふざけた口調のキチガイバトだったが、意外に理知的かつ任務に忠実で、自分にはやるべきことがあるとして01との戦闘を回避(←任務的には正しい)。アジトに戻るとビッグシャドゥに対し、01に見破られた報告とその責任が自分にあり、責任を取ることを宣言していたから、状況判断能力も悪くなく、責任感も強い奴で、悪の組織には少々勿体ない気もした。

 これに対してビッグシャドゥは言葉の上ではキチガイバトが01に見つかったことを「失敗」として咎め、セコンドサイクル作戦をそれ以上遂行するのは不可能であるとして、その責任をどうやって取るかをキチガイバトに問うた。
 キチガイバトは自分に残されたサイクル光線をビジンダーに浴びせることで、ビジンダーの自爆を促し、彼女を抹殺することで責任を取るとし、ビッグシャドゥもこれを了承した。
 早速、キチガイバトは不完全な良心回路によって不完全な自己を振り返っていたビジンダーを強襲した。強襲と云っても、サイクル光線を物陰から浴びせるだけなのだが、サイクル光線は目に見えず、音も無いとのことで、ビジンダーは何も気づかないまま爆死する運びとなっていた。
 だが、済んでのところでトランペットの音が鳴り響き、サイクル光線は止められた。トランペットの音で阻害されると云うことは、サイクル光線の効能は高くても、簡単に妨害される脆弱なものだったのかもしれない(苦笑)。

 ともあれ、恐るべき光線を駆使し、一般ピープルの間に万単位の被害者を出したセコンドサイクル光線を放つキチガイバトだったが、格闘能力は大したことなかったようで、これと云った善戦もないまま、ゼロワンカット2発→ゼロワンドライバーブラストエンドを立て続けに食らわされた爆死したのだった。

 そしてラストシーン。
 ダイスケはマリにもらった腕時計を返し、他人が何を持っていようと気にせず、ビジンダーのように正しく生きることを誓って去っていった。
 それは、自らの良心を不完全と思い悩んでいたマリにとって何より嬉しい且つ勇気づけられる言葉だった。
 そんなビジンダーが少しずつ正義への道を進んでいることを喜ぶイチローを遠巻きに見ながら例によってハカイダーが両者の打倒を宣していたのだが、今回は「ハカイダーショットで倒す!」と妙に具体的だった(笑)。



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日