キカイダー01全話解説

第35話 振袖娘ビジンダー地獄絵巻

脚本:長坂秀佳
監督:今村農夫也
キモノドクガ登場

 冒頭、夜中の道を振袖が舞っているような描写が為されたかと思うとすぐにタイトルが出て、場面はシャドゥアジトに移った。
 アジトでは過去のフィルムを見て、面白い作戦がないことに不機嫌なビッグシャドゥがモニターを壊して不貞腐れて……………最近のコイツの矮小化、深刻だな………。
 余談だが、作戦が「面白くない」と聞いて『仮面ライダーアマゾン』のゼロ大帝を思い浮かべるのはシルバータイタンだけではないと思う(笑)。

 そんな不機嫌な首領に対して、ザダムハカイダーが面白いものを開発していると告げ、作戦の説明を命じられたハカイダーは「俺が作った大傑作だ。」として、白骨標本に着物とかつらを纏わせたようなものを招じ入れた。
 けったいな着物を紹介している様にしか見えないザダムが「ビッグシャドゥ様を馬鹿にしているのか?」と難詰すると、ハカイダーはそれこそ馬鹿にするなとばかりに着物を動かすや、それはザダムの体に巻きつき始め、かつらも浮遊して動けないザダムを小馬鹿にする様に小突き回した。

 「大傑作」を謳いながら、やっていることは拘束と小突き回しで、それしきのことで「分かった!分かったからコイツを引き離してくれ!」と狼狽えまくるザダムも情けなかったが、それを見て楽しげに笑うビッグシャドゥも何だかだった。
 そしてそのビッグシャドゥに問われてハカイダーが問われた作戦名は「大東京襲撃キモノドクガ作戦」………………少なくともこの2、3分でのドタバタ喜劇では凄いのか凄くないのかは全く分からなかった

 ただ、実際に作戦が開始されると、都内はそこそこのパニックに見舞われていた。
 最前ザダムが小突かれたように、着物とかつらは人を拘束し、その自由を奪うと犠牲となった女性は猟銃を手に乱射しまくった。一般ピープルが突如無差別殺人に走り、都内無数の個所でそれが同時多発的に起こればこれはかなり怖い話である。
 猟銃を乱射(←普通途中で弾切れ起こすよな?)していた女性は多少は着物とかつらの支配に抵抗していた様で、銃も大半は上空に向けて撃っていたから、一テロリストとしての技量はさほどでもなかったが、一種のマインド・コントロール下にあるから警察の説得には耳を貸し様が無かった。
 駆け付けたイチローに取り押さえられ、動きを止めたその女性は程なく意識を取り戻したが、操られていた間の記憶はないようで、イチローの顔を見て悲鳴を上げる始末だった。

 ほっとする間もなく、事件を目撃していたミサオに案内された場所では柴〇理●さんにそっくりな容貌と眼鏡の女性がやはり着物に操られて出刃包丁を振り回していた。
 これまたイチローによって簡単に取り押さえられ、包丁を取り上げられるや意識を取り戻したが、彼女もまた操られていた間の記憶がなく、人を殺そうしていたと告げるイチローを馬鹿にした様に笑い、「まさかぁ、私これでもPTA副会長を務め、分別ある善良な市民ざますのよ!」と云って立ち去って行った。
 ストーリーに関係ないが、道場主にとって、実写で語尾に「ざます。」を付けるおばさんを見たのはこれが初めてだった気がする(笑)。
 まあ、PTAの会長・副会長をしているかどうかは分別とは関係ないと思うな、千葉県松戸市ではPTAの会長を務めていた男が女子児童に猥褻行為を働いた果てに虐殺した事件もあったし………(←尚、被告は一貫して無罪を主張し、判決は無期懲役だった)。
 ともあれ、イチローは事件にシャドゥの影を見るのだった。

 場面は変わってとある呉服店の前。
 そこでは一人の少年・サブ(野口秀行)が高価そうな和服を見つめていた。サブにはパン屋で働く姉・かおる(小林さち子)がいて、姉弟は他に身寄りがなく、互いに助け合って生きていた。
 サブはパン屋に着くやアルバイトとして行商に出、かおるはまだ小学生であるサブがそこまでする必要はないと窘めたが、姉に成人式ぐらい一張羅の着物を着せてあげたいと考えるサブはその声を振り切って、小学校の校門前でパンを売りまくった。

 かおるを演じる「小林さち子」とは、勿論誰もが知る大演歌歌手の小林幸子さんのことである。視聴中、「この時の小林幸子が成人式?サバ読んでない??」と反射的に思ったが、小林さんは昭和28(1953)年12月5日の生まれで、この『キカイダー01』の放映が昭和49(1974)年1月12日………物凄くドンピシャだった!!
 一瞬とはいえ、サバ読みを疑ったのは小林さんに申し訳なかったが、彼女は10歳でデビューしており、それゆえの貫禄で20歳に見えなかったと見るべきだろうか?

 ともあれ、サブはパンをほぼ売りつくしたが、一個だけ売れ残り、それも何とか売り切らんとして偶然マリと遭遇した。
 ただ、人造人間であるマリは人間と同じ食物を必要とせず、金銭の持ち合わせもなかった。サブは金がないならただで云い、と云ったが本当に必要としないマリは好意だけ感謝し、そこから二人は会話に入ったのだが、姉と同じ年頃のマリ(志穂美悦子さんは昭和30(1955)年10月29日の生まれで、第35話放映時18歳)に成人式ぐらい着飾りたいであろう女心について意見を求めたが、勿論マリには判然としない世界だった。
 姉弟で必死に働いて生きる現状では高価な着物を買うのは到底無理な話なのだが、それでも姉が一張羅の着物を着る姿を夢想−小林幸子さんが和服を着ている姿は何百回も見ているから全然普通にしか見えなかったが(苦笑)−し、その後も姉のため、パン売りから戻ると新聞配達に走り、貧しくともその闊達な姿にパン屋の主人(相馬剛三)も相好を崩すのだった(ちなみにかおるはサブが何故にそこまで稼ごうとしているのか全然知らなかった)。
 俳優さんの年齢に触れたついでと云っては何だが、パン屋の主人を演じた相馬剛三氏(『特捜最前線』に何度も客演し、『宇宙刑事シャリバン』にもレギュラー出演していた)は昭和5(1930)年2月10日の生まれで、第35話放映時43歳………………全然そうは見えねぇ………平成16(2004)年5月21日に74歳で没するまで半世紀以上も俳優として活躍された方だが、その間殆んど風貌が変わっていなかったのが凄かった………。

 ともあれ、サブ少年の健気な行動は続く、彼は必死に貯めたお金で呉服屋に交渉するのだが、如何せん所持金は1万9857円しかなく、呉服屋には鼻で笑われた。確かに昭和40年代末期の物価を考慮しても、サブの所持金は一張羅の着物を買うにはほど遠い。
 世間知らずの小学生が現実離れした交渉を持ち掛けているのは分からないでもないが、それでも呉服屋の対応は大人げない。小学生が必死に貯めたお金を「はした金」と罵り、「ドけち!がりがり亡者!」と罵倒されたこと、「嘘だと思ったら、他の呉服屋を回って御覧!」と返していた言葉の内容は正論だが、子供相手にもう少し云い様というものがあるだろうに。まあ、初登場時のテリーマンよりはマシか……(苦笑)。

 ちなみにこの呉服屋、金持ちにはとことん媚びる様で、金持ちらしき母(由紀艶子)と娘・ミヨコ(川越たまき)には客商売を考慮に入れてもやたらへーこらしていた。
 そしてこの母娘、お目当ての着物に襲われ、偶然通り掛かったビジンダーに助けられたのだが、危険を感じたビジンダーがビジンダーレザーで焼き払ったため、全く彼女に感謝せず、非難と弁済要求をビジンダーに浴びせまくった。
 まあ、着物の襲撃は命の危機を感じさせるものでは無かったので、ビジンダーの「危険を感じた」だけを理由とした焼き払いには浅はかなものを感じないでもない(←マリも後悔していた)し、高価な着物が一瞬で灰になったことに対して非難の声が出るのは全く分からない話でもないが、ビジンダーの風貌から彼女を「チンドン屋」と決め付け、自分達の危機的状況を全く顧みない罵倒振りには眉を顰めずにはいられなかった。
 恐らくはかおる・サブ姉弟の健気さを引き立てる為に嫌なキャラとして、呉服屋ともども設定されたと思われるが、少し極端だったな(苦笑)。

 ともあれ、失意のサブだったが、偶然遭遇した和服姿の女性が風呂敷包みを差し出して、サブの持ち金でこれを譲ると持ち掛けた。普通に考えて怪し過ぎる展開だったが、夢が叶ったことですべての思考が吹っ飛んだのか、サブは持ち金を渡すと風呂敷包みの中身も見ずに自宅に駆け戻った。
 だが、婦人の正体はハカイダーで、当然風呂敷包みの中身はキモノドクガだった。ために、途中で移動しようとしたキモノドクガを捕まえんとしたサブは公園の池に転落。幸い、マリとミサオに助けられ、怪我もなかったが、直前に(マリに傘を譲ったこともあって)長時間雨に打たれていたこともあったため、高熱で寝込んだ。
 マリとミサオによって自宅に連れ帰られたサブは、だがそんな状態にありながら半ばうわ言でもかおるの振袖姿を喜ぶ言葉を発し続け、かおるも弟の想いに感謝しつつ、振袖は弟が一番その姿を見たいと思っている女性=マリが着るべきだとした。

 サブの日々の尽力を見ればかおるが着るべきなのだが、成人式に着れば良い訳で、マリに対する感謝もあったのだろう(←哀れにもミサオを完全に蚊帳の外だった(苦笑))。些か変な譲り合いだったが、これはシャドゥにとって嬉しい誤算だった。
 と云うのも、マリが振袖を着る為には着用している服を脱がねばならず、それは第3ボタン=小型核爆弾の起爆スイッチを起動させることを意味していた。当然これをモニタリングしていたビッグシャドゥ一味は高笑い。だが、これは何の脈絡もなく飛び込んできたイチローが着物がシャドゥロボットであることを告げて排除に掛かったことで事なきを得た。

 そして場面は荒野に移り、そこにシャドゥマン達も続々と現れてイチローとキモノドクガが対峙した訳だが、このキモノドクガの容姿……………振袖を着た人物が般若面を付けて、両手に武器となる巨爪をつけたもの……………第26話の解説でも触れたが、どうやらこのキモノドクガ『怪獣VOW』で語られていたところの、「衣装倉庫にあるものを全部引っ張り出してきた」系の怪人と思われ(苦笑)、同書においても実例に挙げられていた。
 恐らく、小林幸子さんや相馬剛三氏と云った名優へのギャランティに予算を奪われ、怪人製造にまで充分に回せなかったのではあるまいか?

 ただ、外観に予算を掛けられなかった(と思われる)分、アクションに力を入れてカバーせんとしたものか、キモノドクガは3体現れ、「1対1では勝負出来ないのか?」とイチローに詰られても、悪者らしく「勝負は勝てばいいのだ!」として三位一体攻撃を繰り返した(ちなみに後から現れた2体は巫女さんスタイルに般若面を被せていた)。
 外観上は爪以外にこれと云った武器を持たないキモノドクガだったが、炎を操る力を持つようで、巫女スタイルの2体が髪を振り乱して01を苦しめたが、如何せん耐久力は全くなかったようで、ブラストエンド一発で何故か3体まとめて爆死した

 直後、ハカイダーが現れ、自らが立案した作戦を台無しにされたことへの怒りも露わに01に勝負を挑んできた。一般ピープルが突如無差別殺人鬼と化し、世を混乱に陥れるコンセプトは悪くなかったが、作戦に従事するロボットが3対1でも01に勝てないようでは、どんな作戦も早晩潰されてはいたな(苦笑)。
 ただ、作戦を台無しにされた怒りが戦意を盛り立てたものか、昨今戦闘ではいいところが余り見られなかったハカイダーがここではなかなかの善戦を見せた。

 勝負はビジンダーが加勢したことで決着した。
 ただでさえ2対1では不利は否めないところに、01はブラストエンドを、ビジンダーはビジンダーレザーを発したとあってはさしものハカイダーも一溜りもなかった。だが、派手な爆発を起こしながらそこにハカイダーの死体は無く、ブラストエンドビジンダーレザーのぶつかり合いが互いの威力を相殺していたことが分かり、ハカイダーは高笑いを残して遁走した(←さすがにそのまま継戦するほど馬鹿ではなかったね)。
 自分がハカイダー討滅を邪魔してしまったと詫びるビジンダーと、彼女のせいではないと諭す01は握手を交わしていたのだが…………台詞と行動が妙にミスマッチしてないか?(苦笑)
 そして二人の握手を「ラブシーン」として嫉妬と、イチローの女見る目の無さ(と自分で思い込んで)苦悶するミサオ…………まあ蛇足かな(苦笑)。

 そしてラストシーン。イチローはかおる・サブと別れの挨拶を交わし、シャドゥとの更なる戦いに戦意を燃やすイチローと、自らの不完全な良心にまだまだ悩み深きマリをザダムが必ず殺害する旨を呟きつつ見送り、第35話は終結した。
 ちなみにサブとイチローが顔を合わせていたのは僅かな時間でしかなったが、サブはイチローに向かって終始「01」と呼んでいた。多くの特撮作品においてヒーローは周囲にその正体を伏せていることが多い(平成・令和ではそうでもないが)中、01がその正体を特に隠そうとする様子が無いのも彼が無から作られたこととの関連であろうか?



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日