キカイダー01全話解説

第36話 四次元の怪 恐怖のタイム旅行

脚本:曽田博久
監督:今村農夫也
シャドウ忍者部隊登場

 冒頭、放浪生活における寝ぐらを探していたミサオはとある廃ビルを好条件として探索している途中、とある扉を開けたところで異空間の様なものに呑み込まれた。直後虫眼鏡をもって現れたのは服部半平(植田峻)!!
 前作『人造人間キカイダー』の最終回以来実に9ヶ月振りに同役で再登場を果たした訳で、ミサオの悲鳴を聞きつけ、「悪の匂い」を感じて現れたとのことだった。そしてこの番組には珍しく、「永らくご無沙汰していました。」と視聴者に向かって挨拶していた(笑)。

 そのキャラ、立ち居振る舞いは相変わらずで(まあ変わっていてもつまらんが(笑))、ミサオが消えた扉を怪しいと見たのはさすがだが、扉を開く手段を何故か合言葉に求め、「開け、豆」、「開け、麦」、「開け、米」等とこの時代の駄洒落に照らしてもひど過ぎるボケをかました果てに、「開け、胡麻」の言葉を発するや、ミサオ同様に異空間に呑まれた。

 しばらくして、ミサオと半平の声を聞きつけてイチローとビジンダーも同所にやって来た。ミサオと半平には「立入禁止」の札しか見えなかったが、イチローの目にはシャドゥのロゴが見えるらしく、侵入しようとしたビジンダーを止め、透視能力を発動させた。
 果せるかな、そこには異空間へのゲートがイチローの目に映ったのだった。

 異空間に呑まれたミサオと半平が辿り着いたのは江戸時代で、異空間はタイムトンネルだった。勿論それを開発したのはシャドゥで、ザダムによるとかなり長い時間が掛かった苦心の賜物だったとのことだった。
 特撮作品にはタイムトラベルを扱ったものも決して少なくはないが、過去と未来を自由に行き来できると云うことはタイムパラドックスを初めとする影響力がとても大きく、悪用すればストーリーそのものを崩壊させることも可能である。勿論、そうなっては作品自体が成り立たないから、世界の在り様を大きく変えるような使用は慎まれる訳だが、シャドゥの目的ははっきり云って、ぶっ飛んでいた
 と云うのも、天才学者・平賀源内を召喚してその頭脳を利用すると云うものである
 『怪獣VOW』でも突っ込まれていたが、実際にタイムトラベルが可能になったとしても、エジソンやアインシュタインやアルキメデスやニュートンや聖徳太子を連れてきても、現代の方が科学は遥かに発展しており、連れてきた者達を現代の言葉を初めとする環境・状況に馴染ませることから始めなければいけないし、彼等が悪の組織に服従するとは限らない。
 まあ、一応真面目に考察すると、天才に求められるのは知識よりもその発想、ひらめきである。前述した歴史上の科学者達も、現代に召喚された直後はカルチャーショックに苦しみ、テクノロジーのギャップを埋めるのに多少の時間は掛かるかも知れないが、それらを吸収した暁には史実以上の科学力を発揮する可能性は充分にある。
 史実の平賀源内はエレキテルを発明した人物として注目されがちだが、本草学者、地質学者、蘭学者、医者、殖産事業家、戯作者、浄瑠璃作者、俳人、蘭画家として様々な顔(とペンネーム)を持ち、シャドゥがそのオールマイティさや発想力に目をつけたのなら、逆にその遠大な視点は大したものである。

 ともあれ、ミサオと半平が呑まれる前には既にシャドウ忍者部隊が源内拉致に動き、多くの捕り方達が殺され、ミサオと半平は死体の山に腰を抜かすのだった。
 一方シャドゥでも、シャドウ忍者部隊の動きと首尾を探るべく四次元テレビを駆使していたのだが、ここでザダムはボケをかましまくった(←こいつのキャラも段々痛くなってきたな………)。
 最初は1780年にセットしたが、この年は源内の没年で、源内は既に墓の中で骨になっていた。勿論ビッグシャドゥは激怒。ならばとばかりに次にザダムがセットしたのは1734年で、一気に46年も遡った時の源内はまだ4歳(注:史実の源内は1728年の生まれで、1734年時点では数え年で7歳だった)。既に書物を読む幼年期の源内を見て「さすが天才。」とのたまうザダムだったが、当然ビッグシャドゥからは「馬鹿め!若過ぎる!」との叱責が飛んできた。
 次いで映し出されたのは長崎留学中の少年期と見られる頃の源内で、カピタン(エンゼル・アルテンパイ)とオランダ語で会話を交わしていたが、オランダ語の知識を丸で持たないシルバータイタンには何を云っているかさっぱり分からなかった(苦笑)。だがシルバータイタン以上に苛立っていたのはビッグシャドゥで、ようやくここでザダムは1776年、48歳で最も脂が乗っていた頃の平賀源内(野々浩介)を映し出した。

 この年は源内がかの有名なエレキテルの修復に成功した年で、実際に映し出されていた源内はエレキテルを駆使していた。だがエレキテルの発動はそれを促した役人からは悪魔の技術としかみなされず、彼は出入り禁止となっていた。ちなみに役人を演じたのは打田″アポロガイスト″康比古氏。かかる名優を客演させるなら、もう少し出番を多く割いて欲しかった(嘆息)。
 ともあれ、源内は自分が時代に対して早く生まれ過ぎたことを愚痴っており、それをモニタリングしていたビッグシャドゥは自らの人選が正しかったことをほくそ笑んでいた。確かにこの時の源内の心境に則せば、時代の求めにそぐわず、意気消沈しているところを巧みにつけば、源内にシャドゥが彼の能力を発揮する最適の場と思い込ませることで、その才能を組織の為に十二分に発揮させることも見込める。まあ、言葉だけを聞いていれば、自分の周囲を愚者と見下して、愚痴っているだけに見えなくもなかったが(苦笑)
 ただ、何故に歴史上数多存在する科学者の中で平賀源内が選ばれたのかについては上手く考察・構成していたと思われる。

 ともあれ、ビッグシャドゥは源内拉致に本腰を入れるべくハカイダーをタイムトンネルに派遣。だが、この動きは張り込んでいたイチローとビジンダーに目撃されていた。ビッグシャドゥは早くも二人に嗅ぎ付けられたことに臍を噛んでいたが、タイムトンネルを自分しか操れないとするザダムは二人を現代に戻さない好機と捉えていた。
 そして江戸時代にて、ばったり遭遇したミサオと半平は程なくイチロー&マリとも再会出来た。一瞬イチローをジローと見間違え掛けた半平だったが、そこにジローと同じ匂いを感じてのもので、指摘されたイチローは改めて自分がジローの兄であることを名乗っていたが、そんな会話を交わし、とにかく一刻も早く元の時代に戻りたいと訴えるミサオと半平だったが、気が付けばマリが姿を消していた。

 四人が辿り着いた江戸の町はシャドウ忍者部隊によって多くの人々が惨殺された屍が累々山をなし、その脅威に八丁堀の同心達も逃げ出し、人っ子一人居ない荒涼とした世界だったが、マリはそんな場所を自分の良心回路の出来不出来を気にせず自由に振舞える場として定住したいと考えていた。マリは「この気持ちは誰にも分からない。」としていたが、正直、シルバータイタンには分かる。
 誰だって対人関係が嫌になるときは有り、その問題解決の為に自己の人格形成を志し、分かり合えない人間とは極力関わり合いにならないよう図っても、突き詰めてそれを可能にするなら陸の孤島とも云える山奥か、絶海の孤島で一人隠棲するしかなくなってしまう。そしてそれが可能な世界となれば、そこに定住永住することを誰しもが一度は真剣に考えてしまうのではなかろうか?
 イチローはそんなマリの気持ちを分かるとし、それでも彼女は必ず共に元の世界に戻るとしていた。

 そして変わり果てた大江戸八百八町にあって、役人にも認められない源内はすっかりやさぐれて酒浸りになって、息子・源太郎(梅津昭典)にも愛想尽かされていた(注:史実の平賀源内は男色家で、生涯妻帯しなかったので、子供は実在しません)。
 そんな源内にシャドゥの魔手が迫り、シャドウ忍者部隊はたった二人江戸に残った岡っ引き・銭山平佐(平松慎吾)、六五郎(山田貴光)を襲っているところをビジンダーに蹴散らされ、その間隙を縫って源内を拉致せんとしたハカイダーも01に阻止された。

 作戦の失敗を悟ったハカイダーはタイムトンネルに駆け込むとその入り口を閉ざしてイチロー達を江戸時代に閉じ込めんとしたが、駆け付けた源内が鍵穴を見て未知の物としながらもミサオのヘアピン一本で開閉可能とすると、「開け胡麻」の一言で扉は開いた。
 例え未知の物が相手でも、直感と発想で対処出来る能力をシャドゥは見込んだのだろう。かくして元の時代への一行が帰還すると、自分の運命は自分で切り開くことを決意したビジンダーが未練断ち切る様にタイムトンネルを破壊したのだった。

 かくして第36話は終結。マリは自分の運命に抗うことを決意したもののまだその表情は暗く、ザダムは改めてシャドゥの帝国を築くことを宣言するのだった。



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日