キカイダー01全話解説

第37話 剣豪 霧の中から来たワルダー

脚本:長坂秀佳
監督:今村農夫也


 冒頭、霧に煙る林の中、ミサオは助けを求めるヒロシとアキラの声を追って彷徨っていた。そしてそのミサオの前に現れたのは黒い帽子、黒いコートに顔面を包帯で覆った、二昔前の透明人間っぽい人物。
 現れた直後、サブタイトルが出て来たから、こいつが新キャラのワルダー?と思った直後、怪人物が指さしたところにはジャングルジムに縛られたヒロシとアキラがいた。止める間もなく二人に長槍が投げつけられ、胸板を貫き……………とここまでくれば大半の方に予想がつくと思うが、これはミサオの夢だった(二人を探しながら林内を走り回るミサオの動きがスローモーションぽかった段階で現実としては疑わしかったが)。

 だが、目覚めた彼女の横に入る筈の二人の姿が無く、ミサオが夢と同じ場所に行くとそこには怪人物が付けていた包帯とヒロシ・アキラの上着があった。
 本当に誘拐されたのか?と狼狽するミサオだったが、結果から言うと二人は無事だった。夜中にシェパード犬に呼ばれて公園に行き、そこで足を怪我した子犬を見つけ、介抱していたとのことだったが、この犬の存在が新キャラへの伏線となっていた。

 場面は変わってシャドゥアジト。そこではハカイダーが思い切り不服を露わにしていた。
 不服は彼に下された命令が、アジト付近一帯の犬を皆殺しにしろと云うものだったからで、そんなものは他の誰かにやらせろ、としてハカイダーは命令を拒んだ。
 だが、ビッグシャドゥは殺し屋ワルダーを雇う為に必要な任務で、首領命令として、服従を強いた。何でもワルダーは腕は超一流だが、犬がいるとアジトに来てもくれない可能性があるとのことで、五時間以内の履行を強要したのだった。果たしてワルダーはオバQの様な犬類恐怖症なのだろうか?

 ともあれ、首領命令とあっては不承不承従わざるを得ないハカイダーは任地内の飼い犬と云う飼い犬を殺害して回ったのだが、殺害自体は嬉々として行っているようでも、やはり取るに足らない任務を強要されていると云う不快感は拭えず、シャドゥマン達に飼い犬殺害を続行させつつ、自分は単独行動に移ろうとしたとこでイチローがやって来た。
 イチローはハカイダーが次々と犬を殺して云えることを先刻承知で、罪のない動物殺害に怒り心頭なのに対し、ハカイダーは戦意が上がらなかった為か、チェンジ前のイチローに後れを取り、停戦を仄めかす有様だった。

 だが、丸でその勝負を中断するかのようにそこに横笛の音色が漂ってきた。そしてサブタイトル通り霧の中から現れたのはワルダー。丸で五条の大橋の上を歩く牛若丸の如く、01・ハカイダーの存在を意に介さず歩み続けるその容姿は…………独断と偏見を承知で言及するが、とてもカッコいいとは云えない。垂れ目がちな赤い眼球を持つのっぺり面の頭にはパトランプを内蔵した丼を載せた、ロボットとも、ミイラ男とも取れないその容姿からは強敵感は伺えなかった。
 やって来たものがワルダーと気付いたハカイダーはイチローがまだ01にチェンジしていない状況を討ち取る好機としてけし掛けたが、「貴殿」・「拙者」と云った古き和風の物云いで話すワルダーは、いまだビッグシャドゥとの正式な契約が結ばれていないことを理由に、遠回しにその場での督戦を断った。

 恐らくは契約前の様子見だったと思われ、イチローを一瞥したワルダーは霧の中にその姿を消したが、気配や佇まいからいまだかつてない強敵ロボット出現に緊張しまくっていたイチローは全身が汗ならぬ油でぐっしょり濡れていた(←人間でいうなら冷や汗と同じだった)。
 だが、ワルダーが去ったことで極度の緊張から解放されたイチローはそこに隙が出来、それを突くようにハカイダーが襲い掛かって来た。

 プロレスで云うところのヘッドシザースの様な足技で投げられたイチローは右腕に火花が噴く程の裂傷を負い、01へのチェンジも叶わず、ハカイダーショットを突き付けられて万事休すかと思われた。
 だがそこにハープの音が流れ、ビジンダーの加勢か?と狼狽えるハカイダーの耳にギターの音色までが流れて来た。キカイダーまで加勢してきては勝ち目はないとばかりに「勝負は預けた!」と云ってハカイダーは撤収せざるを得なかった。
 だが、霧の中から現れたのは器用にも一人でハープとギターをかき鳴らす服部半平(笑)。
 前話同様、視聴者に愛想を振りまき、アンコールに応えて再度登場したことを告げ、自分が出ると画面が引き締まるでしょ?と問い掛けていたが、再登場は嬉しくてもとても「引き締まる」とは縁遠いにやけ顔は相変わらずだった。二度会っただけのイチローに「はんぺん」と呼ばれていたことだしな(苦笑)。
 まあ、半平のおかげで危地を脱したことに間違いはなく、差し出された半平の手を嬉しそうに握るイチローだったが、起き上がるときの反動でギターごと半平が地面に突っ伏していたのはお約束だろうか?

 Bパートに入ると場面はシャドゥ基地。そこではビッグシャドゥと対面しているワルダーが大杯を仰いでいた。
 どうも「ヤ」のつく自営業で云うところの「盃を受けた」を意味していたらしく、ワルダービッグシャドゥの依頼を受けたことを遠回しに肯定していた。01を倒すことに対し、造作も無いとの態度を取るワルダーだったが、それを対面していたハカイダーが嘲笑した。
 最前、契約前を理由に01と戦わなかったことを臆病と罵り、その実力を認めようとしないハカイダーに、あくまで雇用による戦いのみに従事し、無益な戦いを好まないとしてハカイダーの挑発にも乗らず退出しようとするワルダーだったが、ビッグシャドゥが待ったを掛け、ハカイダーに対して腹が立たないのか?と尋ねた。
 それに対し、ワルダーは繰り返す様に、契約のみに従う信条ゆえにハカイダーの挑発を「痩せ犬の遠吠え」として、「気にしないことにしている。」と答えた。勿論こう云われてハカイダーが激昂しない筈がなかった。
 どうやらビッグシャドゥワルダーの腕の程を見たいようで、もし自分がワルダーハカイダーとの戦いを望むと云えば?と問うと、ワルダーは不本意ながらもそれを拒まない旨を返した。

 かくして両雄一騎打ちとなった訳だが、勝負は非常に呆気なかった。
 ハカイダーショットをジャンプ一番躱したワルダーは細剣と鎖分銅を仕込んだ杖であっさりハカイダーを絡め取るや、咽喉元に細剣を突き付け、これ以上の勝負は無益と云い放った。
 ワルダーの戦闘能力に満悦で高笑いするビッグシャドゥに、小手先の見苦しい技を披露したと恥じるワルダー。勿論一部始終を受けて面目丸潰れのハカイダーは鬱々と林の中を歩いている中、遭遇した足を怪我した子犬を惨殺するのだった。

 勿論この子犬は冒頭でヒロシとアキラが介抱していたシェパード犬の子である。ハカイダーの蛮行は直前に歩行者と自転車の正面衝突で偶然知り合ったミサオと半平(←前話で知り合っている筈だったが、何故か初対面の様な会話だった)が目撃していた。

 アキラとヒロシの元に子犬=チビの首輪しか持ち帰れず、言葉もないミサオと半平はチビがハカイダーに殺されたことを述べるので精一杯だった。悲しみの余り、何故助けなかったか?とミサオに無茶振りする兄弟だったが、悲しみに方が勝るのか、ミサオは二人の無茶振りに反論せず、「間に合わなかった。」とし、意外にも半平の方が彼自身に勇気が無かったことを責めていた。

 まあ、さすがに二人がハカイダーと戦うのは無謀だと思うのだが、まだ子供ながら一本気なヒロシにはそんな理屈は通じず、チビの敵を討つとばかりにハカイダーの元に走った。
 そしてそのハカイダーはマリと対峙していた。マリはハカイダーワルダーの一騎打ちを見ており、それに敗れたハカイダーが腹いせに子犬を殺したと見て、そんな心根を許せないとしてハカイダーに勝負を挑んだのだった。
 勿論、ハカイダーがそんな怒りをまともに取り合う訳なく、犬殺しはビッグシャドゥの正式命令だとして(←一応嘘では無い)、対峙したが、マリはビジンダーに変身するまでもなくハカイダーショットの引き金を引く指よりも早く動けるとして余裕を見せていたが、棍棒をもって乱入してきたヒロシが彼女の足を引っ張った。

 ハカイダーショットの照準をヒロシに当てたハカイダーはそれを人質状態としてマリに自分の云うように動くよう命じ、彼女を射殺せんとしたが、そこにワルダーの鎖分銅が割って入り、ハカイダーの動きを封じた。
 契約や己が武士道を重んじるワルダーにはハカイダーの様な卑怯な振る舞いは許せないとのことで、絡め取ったハカイダーをのし倒すとマリに対してビジンダーのことを前々から知っていたことと、いずれ尋常に勝負すると宣して立ち去ろうとした。
 ところがそこへヒロシを追ってアキラが犬と共に現れたから話は終わらなかった。

 犬の吠え声を聞いただけでワルダーは狼狽え、苦悶し、身動きもままならぬ状態に陥り、それを見てほくそ笑んだハカイダーはシャドゥと契約を結んでいる筈のワルダーに嘲笑うようにハカイダーショットを見舞った。
 さすがにこれには今度はマリがビジンダーにチェンジしてワルダーを庇って立ちはだかるとハカイダーを罵り、自分が相手すると告げたが、ハカイダーはこれを相手せず、シェパードを連れて去っていった。

 ハカイダーが去るとビジンダーはワルダーを介抱しながら、彼ほどの剛の者がなぜ犬にかほどまでに弱いのかを訪ねた。それに対してワルダーが話したのは、

 「犬は畜生ながら、物の善悪を見極める心と云うものを持ち合わせて御座る。悪い奴には吠える、泥棒には噛み付く。拙者、それが恐ろしゅう御座る。
 拙者にはその犬程の心の持ち合わせも無い。それが腹立たしく、堪らなく恐ろしいので御座る。」


 との心情だった。つまり犬という種族の持つ忠実性に対する強烈な劣等感で、それが昂じて恐怖心すら生じているのが原因で、悪の組織の協力者とは思えない程正々堂々とした好漢ながら、善に徹し切れないワルダーの、ある意味における純粋さに起因する弱点だった。

 傷を負ったワルダー(と云っても、外観からは何処をどう怪我したかさっぱり分からんが(苦笑))は、彼の身を案じるビジンダーに対して、「01殿との果し合いの約束がある。」としてその心配を退け、赤いバイクで去っていった。そんなワルダーに人造人間故の不完全さからくる苦悩に同情するビジンダーは、01を倒すと宣言するワルダーを敵としつつも、完全な敵視が出来るかどうかを疑問に思い、彼女自身苦悩するのだった。

 そして次の場面では断崖絶壁の上にて01とワルダーが対峙していた。
 だが、ビジンダーが危惧した様にワルダーハカイダーによって負わされた傷で全力が発揮出来ない状態で、それは01の目にも明らかだった。そんな01に同情は無用とばかりに鎖分銅のみならず銃弾まで発する仕込み杖を駆使して戦うワルダー。その戦いを犬を連れて見守り、漁夫の利を狙うハカイダー
 だが、勝負はビジンダーが横槍を入れたことで水入りとなった。ゼロワンキックからとどめのブラストエンドを叩き込まんとした01だったが、そこにビジンダーがビジンダーレザーを放ち、01は崖下に叩き落される形となった。
 勿論、ビジンダーはワルダーを助けたかったゆえの横槍で、01を倒したい訳ではなかった。慌てて崖下に降り、01の安否を確かめんとするビジンダーだったが、その姿は見当たらず、己の所業を激しく悔いるのだった。だが、当然と云うべきか01は死んでおらず、イチローの姿で現れるとビジンダーに気にしない様に告げた。

 安堵し、涙するビジンダーにイチローはビジンダーの気持ちは良く分かり、自分が同じ立場でも同じことをしただろうと告げ、彼女の行動を肯定した。イチロー自身、ワルダーは「殺したくない相手」として、その正々堂々振りを惜しむ一方で、彼がビッグシャドゥに雇われている以上、いずれは倒さなければならないとも告げた。

 結局、水入りの形で第37話は終結。イチローを遠巻きに見るハカイダーはいつものように01とビジンダーに対する殺意を露わにしていたのだが、今回はその為にはどんな汚い手でも使うことも吐露していたのだった。
 まあ、それはいつものことだが、何時の間にやら半平の存在が忘れられたような形になっていたのが難ではあったが。



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日