キカイダー01全話解説

第38話 必殺の仕掛 血闘三つ巴!

脚本:曽田博久
監督:松村昌治


 冒頭、荒野をバイクで疾走するワルダーを見掛けたイチローはその後を追った。ワルダーがやって来たのはマリの下で、訝しがるマリの誰何の声に応えず、ワルダーは一通の書状を差し出した。
 白い(時代劇に出てくるような)書状に「ビジンダー殿」と書いてあるだけでは、それが果たし状なのか、恋文なのか、請求書なのか、召集令状なのか判然とせず(←道場主「召集令状なら赤いだろうが」)、訝しがって受け取りを躊躇うマリに、ワルダーは「お読み頂ければ御理解頂ける。」として受け取りを求めた。

 その様子を木陰から見ていたイチローだったが、堪りかねてその場に割って入った。するとワルダーは「01殿ともあろう御方が他人の秘密を盗み見するとは…許せん!」と怒り出し、その怒りは頭頂部のパトランプの回転に連れてヒートアップし、殺意も露わにイチローに斬り掛かった!
 だが、一触即発はマリによって止められた。マリはワルダーがイチローと戦うと云うならこの手紙を破り捨てなくてはならないと告げ、それに対してワルダーは剣を鞘に納めた。

 ワルダーは改めて、自分がシャドゥに雇われている身ではあっても卑怯な振る舞いを嫌っていることと、戦う前には必ず書状を認め、尋常の果し合いをする旨を告げて立ち去った。さすがにこうも堂々と出られてはイチローも後を追えず、マリもまた手紙を持ったままイチローが止めるのも聞かずその場を立ち去った。

 手紙の内容はイチローが推測した様に、前話におけるビジンダーの横槍に関するものだった。ワルダーはビジンダーによる妨害が無ければ自分が01に敗れてスクラップになっていたことを認めた上で、何故に彼女があのような行為に及んだのかが理解出来ない事と、今後は(惨めになるので)そのような情けを掛けないことを要望していた。
 それに対してビジンダーは矢文で返書した。手紙の内容は、ワルダーが彼自身のことを惨めに思い込み過ぎていることを指摘していた。ビジンダーもワルダーも作られた存在であることを述べた上で、今のビジンダーは希望を持っており、いつかは01の様な良心回路を持った人造人間にならんとしていることを告げていた。

 だが、ワルダーには理解し難い境地だった。彼は人造人間である自分には「夢」や「希望」は「虚しいもの」としか捉えられず、「正しい心」は「及びもつかぬこと」としか思えなかった。恐らくこの辺りが忠実に善悪に臨む犬への強力な劣等感にして弱点に繋がっているのだろう。
 結局ワルダーは、自身には「殺し屋に過ぎない。」と捉えていたが、互いに思うところがあったのか、二人は交換日記のような文通を続け、このことはイチローもビッグシャドゥも知らない内に続けられたのだった。

 場面は変わってとある郵便局。そこに自転車のパンクで遅刻した人の好さそうな郵便局員がやって来ると、「閉鎖されました」との額が掛かっていた。驚き、訝しがる局員が中をのぞくと2体の白骨死体が座していた。
 当然、シャドゥの仕業で、ハカイダーが指揮するシャドゥ部隊が別の場所に「松山町郵便局」という名の偽郵便局を作って、郵便業務を横取りしており、局員達はシャドゥマンの変装だった。しかし、荒野の中に不自然にデカい灰色の建物で、シャドゥのロゴを付けててよく怪しまれないものだ(笑)。
 まあ、佇まいの怪しさはさておき、目的は郵便局に集まる手紙という手紙を改竄し、手紙と送り手と受け手の不和を呷り、日本社会をいがみあいの渦中に叩き込むことだった。たった一つの郵便局でどこまで世間に不和の種を蒔けるか極めて疑わしいが(苦笑)ビッグシャドゥは作戦自体を面白いものとし、珍しくハカイダーを褒め、作戦も功を奏し、偽手紙は社会に喧嘩・不破・いがみあいの種をばら撒いた。
 ちなみにミサオ・ヒロシ・アキラの側では手紙を巡って一組のカップルが喧嘩を展開し、女性が男性にビンタしていたが、ビンタされていたのはJACの一員で同番組のスタントをしている高橋健二氏だった。
 勿論、後々、「大葉健二」を名乗り、『バトルフィーバーJ』のバトルケニア・曙四郎、『電子戦隊デンジマン』のデンジブル―・青梅大五郎、『宇宙刑事ギャバン』を初めとする宇宙刑事シリーズで、宇宙刑事ギャバン・一条寺烈を演じ、主演とスーツアクトの双方をこなす稀有な特撮俳優となる方で、この『キカイダー01』放映時は弱冠18歳の少年……………に見えんな(苦笑)。まあ、若い頃老け顔に見られる人は年を食ってから逆に若く見られることが多いから、今も大葉氏は渋さを保っていると云うことで、ファンの方々はお許し下さい(苦笑)。

 ともあれ、せこい内容ながら作戦は功を奏し、偽郵便局内ではハカイダーがシャドゥマン達と共に悦に入り、更なる作戦展開に臨まんとしたところで、シャドゥマンの一人がワルダーがビジンダーに宛てた手紙を見つけた。
 一読したシャドゥマンはそれを「恋文」とし、ハカイダーはそれを取って読み、その手紙を悪用して、01・ビジンダー・ワルダーが三つ巴の殺し合いを展開する様企み始めたのだった。

 一方、冒頭で遅刻したことで難を逃れていた初老の郵便局員は、孫娘と共に暴徒に襲われかけたところをミサオ達に助けられていた。老局員は自分が半世紀に渡って真面目一筋に、手紙と云うものが人々に笑顔をもたらすものと信じて務めて来た仕事が人々の争いの種になっていることに愕然としていた。加えて、局が閉鎖され、仕事仲間が殺されていたこともその意気消沈に拍車を掛けていた(←警察に届けないか?普通)。
 するとそこに郵便局員(←勿論シャドゥマンの変装)が通り過ぎ、ミサオ、ヒロシ、アキラ、老局員、孫娘はこれを尾行した。

 荒野にシャドゥのロゴの入った偽郵便局を見つけた五人は、巨大な建物が地下に沈むのを見て驚愕し、自分達では抗し得ないと考えてその場から逃走に掛かった。だが、当然の様にシャドゥマン達が追ってきて、手紙を手裏剣の様に投げつけると五人は火焔に巻かれた。  だがそこに第34話以来、約一ヶ月振りにトランペットの音色が鳴り響いた。

 崖の上に現れたイチローは、「シャドゥよ、手紙は人の心を託す尊いもの。その手紙を悪用する貴様達の悪事、許す訳にはいかん!」と云い放った。手紙やEメールで架空請求や詐欺メールを乱発してる現代の下衆どもに聞かせたい台詞である
 ともあれイチローはミサオ達の元に飛び降りると、彼女達を避難させ、シャドゥマン達と大殺陣を演じた。

 シャドゥマン達は仮面ライダーシリーズで云うところの戦闘員で、一言で云うなら「雑魚」である。だが、この第38話におけるシャドゥマン達はかなり善戦した方だった。
 火炎手裏剣や機銃を備えた自転車による攻撃はそれなりにイチローを苦しめ、さしものイチローも01にチェンジして応戦した。自転車のタイヤは炎を纏った円盤として01に投げ付けられ、さすがに01を倒すに至らないとはいえ、今回のシャドゥマン達は得物をかなり駆使していた。
 武器を使い果たし、いつもの殺陣となると01相手には手も足も出ないかに見られたが、ここで地下に潜っていた偽郵便局が再び姿を現し、中から大砲でもってシャドゥマン達が援護砲撃を行った。

 ここまで来ると偽郵便局は要塞を通り越して一つのシャドゥロボットに等しく、01はブラストアタックで砲撃機能停止に追いやり、ブラストエンドで偽郵便局を大破せしめた。
 ハカイダーは機能停止を悔しがりつつ、ここから01の最後の戦いが始まり、彼の死に場所は自分が用意してやるとの捨て台詞を残した撤収した。
 偽郵便局は全焼し、焼け跡にて老局員と孫娘が元の業務に戻れることを喜び、イチローに礼を述べた。するとそのイチローの側に矢文ならぬ、手裏剣文が投げ込まれた。
 内容はワルダーからの果し状で、「行くの?」と問うアキラに、「いつかは決着を付けなければならない相手」としてイチローはダブルマシンに乗ってその場を去った。

 その頃、マリは手にした手紙がワルダーが送ったものでは無いことを看破していた。勿論各手紙にはハカイダーによる改竄が加わっており、シャドゥ基地では01からの果し状(勿論偽物)を受け取ったワルダービッグシャドゥに堂々と戦ってくる旨を述べて出立し、絡繰りを知るビッグシャドゥは真摯にワルダーの出立を見送ったと見せ、ハカイダーの悪巧みを褒めていた。

 場面は変わってとある林の近く。そこには果し合いに応じんとしてイチローが待機しており、そこにワルダーもやって来た。二人は尋常なる果し合いであることを確認する様に正面から相対すると、互いに隙を伺い、迂闊に動けない睨み合いに入った。
 物陰から様子を見ていたハカイダーは戦いが進まないことに苛立っていたが、やがて両者は激突。鎖分銅を駆使して戦うワルダーはイチローが01に変身すると仕込み銃を放っての攻撃を展開した。
 だが、この一騎打ちはビジンダーが割って入ったことで止められた。ビジンダーは二人が受け取った果し状がハカイダーが送った偽手紙であると告げ、隠れているハカイダーに出て来るよう促した。
 バレちゃあ仕方ない的に出て来たハカイダーに対し、ワルダーは自分とビジンダーの手紙が盗み見されていたことや、尋常な果し合いが偽手紙によるものであることに怒りを露わにしたが、勿論それで非を認めて謝罪するようなハカイダーではない。
 果し合いを「茶番」として戦意喪失したワルダーを尻目に、お前がやらないなら俺がやるとばかりにハカイダーショットを01に向けたが、これは卑劣な手を怒るビジンダーに蹴り飛ばされた。

 さすがに01・ビジンダー・ワルダーに囲まれてはハカイダーも煙玉を放って遁走する他なく、ワルダーは茶番によって作られた一騎打ちではなく、改めての尋常な果し合いで決着を付けること、今回の戦いで01の力を見届けた事を告げて立ち去らんとし、ビジンダーにももう手紙を送らないことを告げた。
 元の関係に戻ることに頷くビジンダーに対し、ワルダーはやはり自分は作られた存在で、その中でも「最低の殺し屋」と自認し、せめてマリの心根を理解せんとして文通をしていたことを告げ、自嘲気味に笑って立ち去ったのだった。

 マリは文通の日々に別れを告げるように悲しみながらワルダーからの手紙を燃やし、イチローは来るべきワルダーとの想いを馳せ、例によってそれを見送るハカイダーは01打倒を口にするのだが、前話では汚い手も辞さないとしていたのに対し、今話では「もっと汚い手を使う」としていた。
 ただ、今回手紙を悪用する悪辣さはともかく、イチローとワルダーに出した偽手紙に関しては良く分からなかった。最終的には一騎打ちが偽手紙で作られたものであることがバレ、それを良しとしないワルダーが「茶番」として戦いを打ち切ったことで終わってしまった訳だが、そもそもシャドゥとワルダーの契約は、シャドゥが01抹殺をワルダーに委託するもので、両者を果し合いの場に臨ませるのならそもそも改竄の必要は無かった訳で、ハカイダーが何をしたかったのか?それに対してビッグシャドゥが何を褒めたのかが消化不良だった。
 ハカイダーの「汚い手」に「???」な念を残し、第38話は終結したのだった。



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日