キカイダー01全話解説

第41話 天下無敵 空中戦艦爆破!!

脚本:曽田博久
監督:畠山豊彦
サタン登場


 冒頭、海面に巨大なキノコ雲が立ち上ったかと思うと巨大な飛行物体が露わあれ、光線や突風で地上を襲撃し始めた。2話前の円盤を思わせる破壊活動で、一度ヒーローに阻止された作戦を丸ごと中止して二度と用いない悪の組織には珍しい傾向である(笑)。
 この空中戦艦による作戦を主導していたのはザダムで、地上を大旱魃に陥れる程の熱波と風速500mの大風を操れるその破壊振りを賞賛するビッグシャドゥだったが、やはり第39話と同じ結末を辿ることを懸念していた。

 それに対してザダムは同じ轍を踏まぬよう、空中戦艦には件の円盤の一万倍の性能を持たせるとのことだった。ここで「0を何倍しても0は0。」と突っ込むのは野暮だろうか?(苦笑)
 ただ、「長所は短所」とはよく云ったもので、そこまで高性能化した故に複雑な仕組みを持つ空中戦艦をシャドゥマンで使いこなせるかどうかをザダムは危惧していたのだった。
 案の定というべきか、操縦室内のシャドゥマンは強力なパワーを発揮する余りに生じた火花や振動に耐え切れず、一体が船外に放り出され、墜死した遺体を見つけたイチローによると電子頭脳が木端微塵になる程の衝撃を受けていた。
 それをモニタリングしていたビッグシャドゥは、やはり空中戦艦はシャドゥマンには任せられないとして、優秀なパイロットの拉致を命令されたザダムはそれに従事するシャドゥロボット・サタンを召喚した。

 その間も、空中戦艦は地上に突風を撒き散らしていた。そしてそのあおりで不幸に見舞われた少女(小坂智佐子)は運搬していた花を満載したワゴンを倒され、更にはシャドゥマンまでが頭上から降り注いだ。
 シャドゥマンは偶然通りすがったマリが排除してくれたのだが、丹精した花々は痛手を受けたようで、マリに礼を言う笑顔は良いものだったが、それに前後した表情は暗かった。しかも、弱り目に祟り目とでも云おうか、直後に脇道から飛び出してきたヒロシとアキラが衝突して再度ワゴンは倒されてしまった。
 不注意による事故なのだが、この後の兄弟の対応はチョット感心出来なかった。自分達が飛び出しでワゴンにぶつかりながら「ついてない。」とぼやき、花が完全に駄目になったことを悲しむ少女に初めは何で泣いているのか分からない様子で、丸で自分達のやらかしたことが分かっていなかった。
 さすがにしばらくすると状況を察してアキラは弁償すると口にしたが、ヒロシが金のないことを口にして止める始末。確かに懐具合や、壊した者が極端に高価なものの場合は弁償が不可能な場合もあるし、子供の身の上(←しかも善意とはいえ、スリに食わしてもらっている)では迂闊なことを云えないとヒロシが考えるのも分からないではないが、身近な大人に相談することを申し出るなりして、善処する姿勢を見せることが大切だろう。
 ともあれ、人が良いのか、少女は売り出し前の花が全滅したことを悲しみつつも、幼い兄弟を攻めるでもなく、「あの雲が悪い。」と云い出し、花畑に残る花が全滅しないかを憂えていた。

 話の展開からバレバレだが、花畑を荒らすトップを呼ぶ雲は空中戦艦のもたらしたもので、花畑では妹の桃子(柿崎澄子)が突風に曝される花を守りつつ、姉に助けを求めていた。
 そんな桃子をひょんなことから守ったのはワルダー。相も変わらず空中戦艦から弾かれたシャドゥマンをワルダーつばめ返しなる剣技で一刀両断にすると何故か突風は止んだ。
 桃子はワルダーに礼を述べ、引き続き花畑を守って欲しいと懇願した。ワルダーは自分が殺し屋であることを理由に「花畑の用心棒」を断るが、桃子はワルダーが殺し屋であることを信じず、自分と花畑を守ってくれたワルダーを「良い人」とした。
 この桃子の行動を信じた発言は、自らが正義を介し得ない存在であることにコンプレックスを抱くワルダーを苦しめるものだった。結局、桃子の自分への評価を遮るように、「善悪の見境がつかない殺し屋」と自嘲してマシンでその場を去って行ってしまった。
 しかし、第39話のクソガキ三人組との対話シーンでも云えることだが、好敵手と見定めたイチローのみならず、通りすがりの子供が相手でも一定の礼儀で真面目に相対するワルダーの態度には好感が持てて良いのだが、子供の方がワルダーの容姿に何の疑問も抱かずフツーに接しているのが違和感が拭えない。この辺りのリアリティの無さを「いいかげん」と云っては酷だろうか?

 ともあれ、桃子の元を去ったワルダーは荒野を走るイチローに勝負を挑み、「今日こそ決着を付ける。」としたが、イチローは空中戦艦による参加を見過ごせないとして、その場での決闘を拒絶した。
 だが、この拒絶はワルダーの怒りに火をつけた。ワルダー曰く、私闘よりも万民の被害を防ぐことを優先する01の「その正義面が憎い。」とのことで、これはもう完全なコンプレックスの裏返しと云えた。
 それゆえワルダーは「問答無用」とばかりにイチローに斬り掛かり、やむなくイチローも01にチェンジして応戦せんとしたが、そこに空中戦艦の発する竜巻地獄なる竜巻に両者は巻かれ、「体がバラバラになりそう」なほどの衝撃に襲われて身動きもままならず、勝負はまたも水入りとなった。

 Bパート冒頭にてこの様子を見ていたビッグシャドゥによると、竜巻地獄は秒速1万キロあるとのことで、これに巻き込まれては01もワルダーも命はないと確信し、01の死を喜びつつも、一応は契約関係にあったワルダーに対しては「可哀そうなことをしたが仕方ない。」とほんの僅かだが罪悪感を滲ませていた。チョット悪の組織の首領らしくないが、正義は知らずとも、契約は多少なりとも重んじていると云ったところだろうか?
 ビッグシャドゥの言に対してザダムは、空中戦艦のこの成果は自分のリモートコントールよるもので、遠隔操作でもこれだけのパワーを発揮出来る上は、用意した5人のパイロットが加われば「鬼に金棒」と自負していた。
 そしてその5人のパイロットとは、サタンによって拉致されてきたところに催眠術で完全にシャドゥの手下と化した優秀パイロット達だった。

 だが、ろくに死体を確認もせずに死んだと決め付けるのは「悪の組織あるある」で、かかる状況で主人公が死んでいた例がない(笑)。少女のワゴンを押していたヒロシとアキラは小道に倒れ伏したイチローとワルダーを発見した。
 慌ててイチローに駆け寄り、胸に耳を当てるヒロシだったが、その胸から心音(モーター音?)は聞こえなかった。イチローが死んだと早合点したアキラはそばに倒れていたワルダーのせいだと思い、ワルダーの仕込み杖でもってその身を何度も打擲したが、そのワルダーを庇って桃子が乱入してきたことで二人は姉妹の部屋に連行されることとなった。

 しばらくして両者は僅かに意識を取り戻したが、イチローはしばし冷静さを失って雲を、空中戦艦を追い求めたが、しばらくすると自分が空中戦艦の手掛かりを求めてシャドゥマンの死体を探していたことを思い出した。
 それを聞いていた桃子は、ワルダーが倒したシャドゥマンのことを告げ、単身花畑に倒れたままのシャドゥマンの死体の元に駆け付け、その電子頭脳を持ち帰らんとした……………ロボット相手とはいえ、死体に全く物怖じしない女の子…………ワルダーとも普通に接せられる訳だ(苦笑)。
 だが、桃子の動きはモニタリングされており、電子頭脳が持ち帰られることをまずいと捉えたビッグシャドゥの命で、サタンが桃子に襲い掛かった。

 ちなみに一般に「サタン」と云えば、「魔王」とも訳されるように、巨大な体躯に大きな角やこうもりを連想させる翼を持つ姿がよくイメージされるが、ここでのサタンは黒装束に歯並び丸出しの口腔から2本の犬歯が出た他は詐欺師的な髭二本が左右に飛び出すと云うスタイルで、「サタン」よりも「バ●キン■ン」に近かった(苦笑)。
 話し方は上品だったが、さすがにこれには桃子も悲鳴を上げずにはおれず、ここからの展開は乱入のオンパレードとなった。
 まずは桃子の悲鳴を聞きつけたイチローが駆け付けた。直後、ワルダーも駆け付けたが、目的は01との決着を付けることだった。勿論ワルダーを「良い人」とする桃子が必死に静止したが、自らが殺し屋であることにこだわるワルダーはその声に耳を傾けなかった。
 隠して再度の一騎打ちが始まらんとしたが、二人のやり取りを見てはいられないと揶揄しながらハカイダーが乱入し、両者に殺意を向けたが、するとそれを迎撃してビジンダーが乱入してきた。忙しい展開だな(笑)。

 ビジンダー登場以来、叩きのめされることの多かったハカイダーだったが、この回ではやや劣勢ながらも互角に渡り合っていた。だが、この間に桃子と電子頭脳を押さえたサタンが高笑いしつつ空高く飛び上がってしまった。予算不足のちゃちな衣装でも、設定的には飛べるらしい(苦笑)。
 ビジンダーがハープを弓として放った矢がサタンの肩に命中して取り落した電子頭脳を確保出来たものの、桃子はそのまま拉致されてしまった。

 目の前で妹が拉致されたことに姉はすべてワルダーが悪いとして、ワルダーに詰り寄った。詰り口調こそ半狂乱だったが、内容的には思った程は冷静さを失っておらず、ワルダーが乱入しなければ(イチローによって)妹が助かっていたこと、ワルダーを信じていた妹がワルダーに裏切られる形で拉致されたことを的確に詰っていた。
 もっとも、怒りの感情自体も相当なもので、ワルダーを「犬にも劣る」との罵声まで浴びせた。勿論これは正義感を持ちえないことで犬に劣等感から恐怖心まで抱くようになっていたワルダーには大きな精神的痛手だった。
 姉の難詰に、「拙者間違いなく犬にも劣る男で御座ろう………。」と呟き、項垂れ、膝を折ってその場にいない桃子に力なく詫びるワルダー…………数ある特撮作品にあって、卑怯な手段を嫌う好漢的な敵役や、悪ではあっても自己の持つ美学に忠実な敵役はそれなりに散見されるが、正義への理解にここまで苦悩するキャラは極めて稀有である。可能であるなら、ワルダーはもう少し早く出てきて欲しかったキャラクターであった。まあ、その性格から長期的に出すのは難しかったとは思うが。

 そうこうしている内に、空中戦艦の接近を目視したイチローはビジンダーからシャドゥマンの電子頭脳を受け取ると、自らの体内に押し込んで、その内容をスキャニングした。これにより空中戦艦の全貌を掴んだイチローだったが、それでも敵の攻撃力は強烈で、ビジンダーに命懸けの決戦になり変えないことを告げた。
 これに対してビジンダーは、いつかは命を懸けて戦わなければならない日が来ることを覚悟していた旨を告げ、ワルダーに対してもし自分が死んだら自分の良心回路を譲ると申し出た。
 ビジンダーの申し出を理解はしていた様だったが、最善の苦悩に打ちひしがれていたワルダーは茫然自失状態が続いており、ビジンダーはワルダーのマシンを借りると告げてイチローと共に出撃した。

 5人の優秀パイロットによる操作を受けて突風を発する空中戦艦にダブルマシンとワルダーマシンをもってしても容易に近づけない01とビジンダーだったが、覚悟を決めると01はブラストエンドの力を、ビジンダーはビジンダーレザーの力を足裏に集中させてロケット噴射の推進力にすることで二人して空を駆けて空中戦艦内に突入した。
 そしていざ二人が突入するとその後の展開は呆気なかった。尺の都合もあってか(苦笑)。  サタンは01とビジンダーの姿を認めると勝負など度外視するかのようにスイッチの一つをひねり、桃子と5人のパイロットを落とし穴で船外に落とすと云う意味不明な行動に出た。これは01がゼロワンネットなるパラシュート付きの網を発することで6人の命は救われた。
 勿論、その後01とビジンダーはサタンに挑みかかったのだが、サタンはろくに戦わず船外逃亡。そこを桃子への贖罪意識を抱えるワルダーの放ったワルダーつばめ返しで瞬殺されたのだった。どうやら短時間で5人の優秀パイロットを拉致し、催眠状態にするという優秀な能力を持ったことで、戦闘能力の大部分をそっち方面の能力に持っていかれてしまったようだったな(苦笑)。
 そして01とビジンダーは共同で放つブラストレザーで空中戦艦もまた木端微塵にされたのだった。

 かくして桃子は無事助けられ、やはりワルダーは良い人だとして、姉もこれを認めた。だが、ワルダーは桃子を助けたのは01とビジンダーだとして、立ち去って行った。
 そしてラストシーン。ブラストレザーで多大なエネルギーを失ったものか、マリはかなりふらつき、疲労感を漂わせまくっていた。そんなマリとダブルマシンで疾走するイチローにナレーションはシャドゥとの更なる戦いを督していた(それは良いのだが、死んでもいいから戦えみたいな物云いが気になったな………)。
 そして今回走り去るイチローにリベンジを誓っていたのはザダム。次の作戦で必ず世界を征服する旨を宣言していたが、空中戦艦を壊されたのが相当悔しかったのかな?



余談 この第41話で、薄幸の姉を演じたのは当時16歳の小坂智佐子さん。「小板チサ子」、「小坂知子」、「久永智子」等の芸名を持ち、最終的には仁和令子と名乗られ、多くのドラマに客演された女優さんである。
 特撮ファンにとっては、『仮面ライダーX』にて中盤から最終話まで立花コーヒーショップのアルバイト女子大生・チコ役が有名と云えよう。この『キカイダー01』第41話がTV初出演で、直後に『仮面ライダーX』のチコを演じた訳だが、当時女子高生だった彼女の演技は子供っぽさを残しつつ、『仮面ライダーX』では実年齢よりもやや年上となる女子大生を演じていた訳だから、初々しさの中にも将来性を感じさせる演技が光っていた。

 誠に残念ながら平成30(2018)年7月5日に癌による肝不全で60歳の若さで鬼籍に入られている。「過去のフィルム」と云えばそれまでだが、あどけなさの残る面影と演技が印象的だった故に既に故人であることが信じられない気持ちである。
 当時の世間的には小坂氏が世を去る三日前に『笑点』で超高名だった桂歌丸師匠が亡くなっており、翌日には麻原彰晃を初めとするオウム事件の死刑囚達が一斉に死刑執行されると云う衝撃的な出来事があったため、小坂氏の逝去はそれらの衝撃ニュースの陰に隠れてしまった感があり、恥ずかしながらシルバータイタン自身、小坂氏が故人であることを知ったのはその死から2年も経過してからだった。
 勿論人間誰しもがいつかはこの世を去る訳で、『キカイダー01』的には主演の池田駿介氏からして既に故人である(平成22(2010)年6月11日没)から云い出せばキリがないが、それでも幼少の頃から夢を与えてくれた番組関係者には一日でも長くご存命でいて欲しいものである。



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日