キカイダー01全話解説

第44話 ビジンダーの美しく悲しき別れ

脚本:長坂秀佳
監督:今村農夫也


 冒頭、ハカイダーはシャドゥマン達を率いて果物を積載したトラックを次々と襲い、果物を「買い占めた。」と豪語し、高笑いしていた。確かにこれによって市場に果物が流通しなくなり、大正時代の米騒動や、昭和中期の石油ショックの様な買い占めによる市場パニックと同様の現象が発生したが、やっている行為自体はどう見ても「買い占め」ではなく、「強奪」だった(苦笑)。

 たった1本の山道に陣取って貨物トラックを襲うやり口で市場に出回るすべての果物をストップ出来るのか甚だ疑問だが(苦笑)、計画はビッグシャドゥザダムの思い通りに進んでいた。市場に僅かしか出回らない果物を巡って人々の心は荒み、誰もが自分の欲しいものに対して自分の事しか考えない心情に陥り、そんな子供達が大人になった頃には間違いなくシャドゥが世界を滅ぼせるとビッグシャドゥはほくそ笑んでいた。短絡的なのか遠大なのか分からん作戦である(苦笑)。まあ、新型コロナウィルスによるパンデミックに際してマスクを買い占めた輩が令和の世にも続出していたから、人間の醜い性は48年経っても変わっていないのかも知れんが(嘆息)。

 ともあれ、「買い占め」て来た果物は爆弾に作り替えることが出来るとのことで、一応はシャドゥにとって一石二鳥の作戦でもあった。最終回も近いとあって、大きな作戦を展開しているようだったが、それでもちゃちに見えてしまうのは何故だろう(苦笑)。

 そんな中、果物屋の息子であるケイタなる少年が果物を取り合っていがみ合いを続ける友達に業を煮やし、残り僅かなミカンを踏み潰したが、これをみた子供達はケイタの親が果物を隠していると決め付け、親を侮辱されたと見たケイタが激昂して殴り合いになったが、マリがこれを止めた。
 一応喧嘩は止められたが、問題は勿論解決していない。同時に果物が買えないからと云ってこれ程までに人間同士の関係が険悪化することにもケイタとマリは疑問を抱いていた。
 するとそこへバイクに乗った峠英介が現れ、「随分探したんだぜ。」と云ってマリに好意を伝えようとしたが、マリは自分がビジンダーであることも告げられず、英介に自分を探してはいけないと云って別れを告げるので精一杯だった。

 直後、英介はなし崩し的にケイタを自宅までバイクで送り、そこで何とか果物を仕入れんとしてあちこちを奔走していたケイタの父・平吉(轟謙二)と出会った(ちなみに「平吉」の名はOPでクレジットされているのみで、作中では呼称されない。それにしても、轟さん、よく客演するな(笑))。
 平吉の話では貨物トラックが襲われたことで果物の流通状況は最悪で、このままでは程なく果物の値段は2倍3倍に跳ね上がりかねないとのことだった。
 英介は、平吉が襲われて助かったトラック運転手から聞いた証言を元に、トラックを襲っているロボットがハカイダーであることを悟り、それが父の仇であることを述べ、復讐の炎を燃やした。

 場面は変わってとある山道。そこではまたも果物を積んだトラックがハカイダー達に襲われていた。だがそこへ英介が駆け付け、父の仇を一年間探していたことを述べ、銃を構えるハカイダーに恐れも見せず、単身挑みかかった。
 元々屈強な上、復讐のため身に着けた空手技もあってシャドゥマン達は英介の敵ではなかった。忽ちシャドゥマン達を全員叩きのめしてハカイダーとの一騎打ちにこぎつけたが、やはり相手が悪かった。前回よりは善戦していたが、明らかに劣勢で……………くどいが、戦闘員は全員倒せてもショッカー怪人・ゲルショッカー怪人には抗し得ない滝和也そのまんまだな(苦笑)
 結局、ゲルショッカー怪人ネズコンドルじゃなくてハカイダーに投げ飛ばされ、間合いが開いたところでハカイダーショットを突き付けられた訳だが、英介はそんなハカイダーを「卑怯者」と罵り、自分の空手が怖いのか?と云って素手での勝負に持ち込まんとして挑発したが、勿論ハカイダーがそんな物云いを気にするイキモノ(?)でないことは周知の通りである。
 当然、ハカイダーショットの構えを崩すことなく英介は撃ち殺されんとしたが、そこに英介同様に襲撃ルートを追っていた01が乱入した。
 久々の01VSハカイダーの一騎打ちは01のやや優勢で運んだが、投げ飛ばされたハカイダーに彼を父の仇と狙う英介が挑み掛ったことで話は悪展開した。腐っても主人公の宿敵であるハカイダーに人間である英介の力では抗し得ず、英介はハカイダーに投げ飛ばされ、ハカイダーはそのまま遁走した。
 英介の名を呼ぶ01に英介を抱えて現れたビジンダーが告げたのは、英介が死んだと云う最悪の結末だった…………。

 Bパートに入ると、英介は頭に電極の様なものを繋いで横臥させられていた。電極はビジンダーの体に繋がれており、ビジンダーは自らの全エネルギーを駆使して英介の停止した心臓にショックを与え、蘇生させんとしていた。
 勿論この方法は下手したら英介を助けられないだけでなく、ビジンダーまで命を落としかねない一か八かの賭けだった。幸い、英介の蘇生には成功し、経過を心配していたイチローにマリは1時間ほどで意識を取り戻すと云って、介抱に利用していたケイタの家を辞した。
 英介蘇生に全エネルギーを使い果たしていたマリは疲労困憊状態で、イチローは少し休むよう促したが、マリはもう英介に会えないとしてそのまま出て行った。

 そんな傷心状態で寂しげに歩くビジンダーの前に、ワルダーが現れ、何故にそうしてまで若者の命を助けたのかを問うた(←前話では「若造」と呼んでいたので、少しは落ち着きを取り戻したようだ(笑))。
 それに対するビジンダーの答えは、「人の命を救うのが人造人間の使命。」と云うものだったが、ワルダーは納得しなかった。ビジンダーが英介を助けたのは好意によるものだと断言し、それを否定するなら自分と立ち合え、と強要し、ビジンダーもこれに応じた。

 だが、英介蘇生にエネルギーを使い果たしていたビジンダーはワルダーのキック一発でダウン。そんなビジンダーを見て、ワルダーはビジンダーに駆け寄ると勝ち目のない状態でも勝負を挑まれるほど自分はビジンダーに嫌われているのか?と苦悩した。
 そして次の瞬間、ワルダーは自分の恋が叶わぬことに踏ん切りをつけ、今度こそビジンダーを正真正銘の敵と見做すと宣言して、次に会うときは容赦しない旨を告げてその場を立ち去った。やはり疲労困憊状態の相手との果し合いを良しとしないのだろう。

 その頃、意識を取り戻した英介は自分が生きていることに気づき、マリによって自分の命が救われたことを(口を滑らした)ケイタから聞くとマリの行方を追わんとしたが、次の瞬間ケイタ宅の窓ガラスが投石によって割られた。
 犯人は冒頭でケイタ一家を果物買い占めをしていると決め付けて槍玉に挙げていたガキどもだったが、窓ガラスを割ると云う暴挙を滝………じゃなかった(苦笑)、英介が見過ごすはずなく、英介はガキどもの前に立ちはだかると云いたいことがあるなら男らしく云え、と叱りつけた。
 相変わらずクソガキどもはケイタの父が果物を買い占めていると決めて掛かり、嘘じゃないなら自宅の冷蔵庫を見せろとまで云ってきた。そんな友の変わり様に悔し泣きするケイタだったが、その様子を見て自分達が云い過ぎたことを悟り、ケイタに謝罪し始めたから、まあまだ腐ってはいなかった。そしてそんな子供達の様子を見ていた英介は仲直りの握手を促した…………本当にくどくて申し訳ないが(苦笑)、少年ライダー隊員達を見守る滝隊長そのものだったな(笑)。いえね、何も、何が何でも千葉治郎氏を滝和也としてしか見ない云う訳じゃないんですよ。ただ、滝和也的キャラクターの千葉氏を見るのが嬉し過ぎて……(苦笑)。

 その夜、突如焚火をしていた平吉の前にハカイダーが現れ、彼が買い占めをして果物の値を吊り上げていることを知っていると告げ、その果物を寄越せと強要したのだが………………「自分がすべての果物を強奪してることに自信が無いのかコイツは?」とこの時疑問に思ったが、その訳は後で分かるのだった。
 狼狽えつつもハカイダーの言を否定する平吉の前に、友に父を侮辱された時同様にそれを否定すべくケイタが立ちはだかったが、ハカイダーは彼を蹴飛ばし、親子ともども殺すと凄んだが、そこにトランペットの音色が鳴り響いた。
 怒りの矛先をイチローに向けたハカイダーは「おのれ01、死ね!」と息巻いたが、それに対してイチローは「その前に貴様が死ぬぞ!」と殺意露わに云い返した。最終回、そしてそれに伴ってハカイダーの最期も近いことの表れだろうか?

 地上に降り立った時には既に01にチェンジ済みで、両者は激しい白兵戦を展開…………第25話、第39話の解説でも触れたが、太陽電池で動く故に夜間は10分の1の戦闘能力に成り下がる設定はもう完全になくなったんだな……………仕方ない、昼間に発電したエネルギーを備蓄する能力を身に着けていたことにしよう(自己完結)。
 いずれにせよ、激しくも短い格闘でハカイダーは勝負を預けたと云って逃げ去った。だが、戦いのどさくさに開け放たれた倉庫の中には大量のミカン箱が積まれていた。
 これを見たケイタは父親が嘘をついていたと取り沙汰してしまった。勿論平吉は否定するのが、大量のミカンを見たケイタは信じず、それを倉庫屋根の上にて逃げた筈のハカイダーが高笑いしながら、ミカンを入れたのは自分だと自慢げに述べていた。誰かに聞かれてしまうと云うことを用心しないのか、コイツは?

 ともあれ、ケイタを探して彷徨う平吉の前にイチローと英介が現れ、大量の果物に身の覚えがないと云う平吉に、英介が平吉を信じる以前にハカイダーの仕業に決まっていると決め付けていたので、余り平吉を嵌める意味は無かった様だ(苦笑)。
 そしてイチローは「良い考えある。」とし、翌日平吉の店は果物の大安売りを敢行した。要するに「売り惜しみで値上げを画策していたこと。」が否定されれば良い訳で、大安売りを見たケイタはあっさり父の元に戻って手伝うと述べ、ケイタの友達までこれに追随した。ハカイダー、ご苦労さん(笑)。

 そして案の定と云うべきか、商売を阻止せんとして黒尽くめの人相悪い男が5人現れたが、脅しの一言を云う暇も与えずイチローと英介が飛び出し、ハカイダー一味が物の見事に誘き出される形となった。
 次のシーンでは場面も荒野に移っており(笑)、イチローと英介はハカイダー及び彼の率いるシャドゥマン達と大立ち回りを演じた。激しい殺陣が展開された後、大暴れしていた英介が3人のシャドゥマン相手にやや劣勢になったところでマリが乱入し、英介は危地を脱した。
 マリの姿を見てほほ笑む英介だったが、シャドゥマン達を蹴散らしたイチローとマリは英介とハカイダーを1対1で対峙させるように自分達は高い崖の上に降り立った。

 その状況に嘲笑をかますハカイダーだったが、勿論英介は怯まずハカイダーに挑み掛った。直後、ハカイダーが手にしたハカイダーショットは何者かに弾かれ、正真正銘の殴り合いとなり、善戦する英介だったが、やはり分が悪かった。
 だが一瞬の隙を突くようにマリは英介にハカイダーショットを投げ渡し、英介はそれでもってハカイダーを撃ち、爆発炎上した。まあ視聴者的には過去何度かハカイダーが遁走した時のケースと酷似しているので死んだとは思えなかったが、英介が勝利を確信した時、イチローの姿もマリの姿も無かった。

 そのまま英介の元から姿を消さんとしたマリだったが、FBIの特命捜査官並みの探索能力でもあるのか(←道場主「そんなわけあるかい!(笑)」)、程なくマリを見つけたが、やはりマリはこれ以上自分を追わないよう求め、自分を英介と「付き合える身分ではない。」とした。
 英介はその言を(多分「身分」と云う単語から)古風な考えと受け止めたようで、それでも自分はマリが好きだと告白したものだから、遂にマリはビジンダーの姿を見せ、それでも自分が好きか?と問うた。マリとビジンダーが同一人物であることを知って驚愕する英介の返事を待たず、ビジンダーはその場から去った。ワンテンポ遅れてマリとビジンダーの名を叫ぶ英介だったが、彼女がそれに応えることは無かった…………。

 そしてラストシーン。自分をマリと云う女性として好意を向けてくれた初めての男性である峠英介の温かさを感じつつ、それに応えることが許されない人造人間の身を悲しみつつ歩き続けるマリにナレーションは胸を張り、笑顔であることを促し、「すぐそこまで来ている春の足音が確実に聞こえる。」と述べ、イチローにも戦意を促していた。
 ちなみに今回は誰もイチローを見送らなかった。



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 最終更新 令和四(2022)年一〇月二一日