ウルトラマンレオ全話解説

第10話 かなしみのさすらい怪獣

監督:深沢清澄
脚本:阿井文瓶
さすらい怪獣ロン登場
 冒頭の舞台はMACステーションだった。地球目掛けて飛来する火の玉をステーション内から目視していたMAC隊員達は、白川から流星と見ていたそれに生物反応が見られると伝えられると色めき立ち、ダンは出動準備を命じた。
 程なく、流星は地表に衝突。マッキー2号・3号が到着し、2号に搭乗していたゲンは地面から怪獣の尾が伸びているのを目撃した。接近したところで地表からは炎も浴びせかけられたが、ゲンはこの程度なら更に接近しての攻撃が可能、として、隣席の青島もマッキー3号の赤石に接近攻撃を命じた。
 両機は尻尾への執拗な攻撃を続け、青島は今に怪獣が顔を出す、としてその気を外さず攻撃するようゲンに命じた。程なく、青島の推測通り地上に顔を出した怪獣はマッキー3号に激しく炎を吐き、背後から接近した青島は振り向いた瞬間に攻撃せんとした。
 だが、怪獣がその素顔を見せたその刹那、ゲンは即座に戦意を喪失した。ゲンが攻撃しないことに激昂した青島は自らミサイルを放たんとしたが、ゲンは発射レバーを放さず、そうこうする内に絶好の攻撃チャンスを逸したマッキーは次々と撃墜された。

 ゲンが戦意を喪失したのは、顔を見せたさいらい怪獣ロンが彼のかつてのペットだったからである。L77星に生きた時代に生活を共にした友でもあり、懐かしさと生きてくれた嬉しさからもゲンには攻撃出来なかったのだが、当然青島にそれを知る由は無く、ゲンも自らの正体が明かせないため、心ならずも命令違反したゲンは前々話とは違った形で仲間達の信頼を失った。
 マッキーを全機撃墜させたロンはそれに満足したかのように地下に潜った。一方で、泥塗れの状態でMACステーションに帰投した隊員達をダンは温かく迎えたのだが、青島は激しく激昂して、ゲンの胸倉を掴み、ダンに止められて尚、「こいつと一緒に戦うのはもう嫌です!」とまで宣した。口には出していなかったが、恐らくその場にいた赤石、平山、桃井も同じ想いだったと思われる。そして前々話では言い訳をかましまくったゲンも、私情で命令違反した負い目もあってか、終始黙りこくっていた。

 青島を宥め、隊員達に次の出撃に備えてマッキーを整備するよう命じたダンは、茫然自失状態のゲンに、「L77星の生き残りはお前だけは無かったということだな。」と言って、ゲンの心情を把握している旨を告げた。
 自分しかそのことを知らないと思っていたゲンは僅かに驚きを見せた(ダンがこのことを知ったのもつい先ほどだった)が、次いで口から出て来たのはロンへの想いだった。L77星では大人しい、可愛いペットであり、大切な友でもあったのが、L77星の滅亡によって宇宙に放り出され、行く宛ても帰るところもなく放浪する中ですっかり性格を凶暴にしてしまった事に同情と悲しみを覚えたことを自分にはロンを撃てなかった理由としてダンに告げた。

 だが、その撃てなかった理由をダンは「甘えだ。」とし、ゲンに対して「撃つべきだった。」とした。
 非情とも取れるダンの言い様に、ゲンは静かに激昂し、「故郷の星を失った悲しみは誰にも分りっこありません!」と反論した。直後のダンとゲンの会話から、帰る故郷も、親兄弟もなく、孤独に宇宙を彷徨うことは性格を凶暴させる要因にもなりかねないことが仄めかされたが、ダンが最後に行ったのは、「MAC隊員失格だな!」との叱責だった。

 難しい問題でこれは双方に理があるから厄介だ。
 現実の世界には「故郷の星を失った」という地球人は一人も存在しないから、レオやロンの立場に立つことは非常に難しい。またL77星が健在で、帰ることが出来るなら、ロンを攻撃することは非情極まりない話である。
 とはいえ、地球に帰化(?)し、地球を唯一の故郷と自認するなら、例え失われた故郷の出身者が相手でも地球に仇為す者とは戦わざるを得ないのが筋だろうし、まして「MAC隊員」に徹するなら、隊長であるダンもウィンダム(M78星雲メタル製出身)、ミクラス(M78星雲バッファロー星出身)、アギラ(M78星雲アニマル星出身)が地球を襲ったら攻撃しなければいけないだろう。
 加えて、ダン以外の隊員達はゲンがレオであることも、L77星の事も一切知らないのだから、ゲンが訳も分からず命令に従わなかった様にしか見えない。ゲンをレオとして見るなら同情出来ても、MAC隊員おヽとりゲンとして見るなら、ロンを攻撃しない合理的な理由は見当たらないと云ったところだろうか?

 場面は替わって地上。とある公園で私服姿のゲンは木にもたれて「星空のバラード」をギターにて寂しく弾き語っていた。第1話で歌詞入りで流れたこの歌がこの第10話では当の歌い手が直に歌った。
 元々故郷を失った者がそれを懐かしみ、寂しい気持ちを謳ったこの曲を、無表情且つ抑揚の極めて乏しい調子で歌うものだから、暗いことこの下無い(?)ワンシーンだった。それでも一頻り歌い終わった後で、傍らで元気に遊ぶカオルたちを見て微笑みを取り戻したゲンだったが、ここで小さな事件が起きた。

 一緒に遊んでいた友達の一人、ミコと云う名前の子の母親がやって来て、彼女におやつを渡した。一緒に遊ぼうと懇願するミコに母親は多忙だからとして、友達にもおやつを渡すよう告げて去って行った。
 ミコは母親に言われたままに友達にもお菓子を分けて回ったのだが、突如カオルはミコの手を打ち据えてお菓子を叩き落とし、それを踏み躙った。何の非もなく、ただおやつを分けただけでかかる仕打ちを受けたことにミコは泣き出し、ゲンも驚いて駆け付け、カオルを叱ったが、カオルは不貞腐れるだけだった。
 カオルの変貌は明らかに嫉妬である(実際、後にそう明言していた)。トオルの陰に隠れて目立たなかったが、トオルより幼い身で突然父に無惨な死に方をされた衝撃と、父を失った寂しさは当然のことながらカオルにも深く残っており、母に甘えるミコへの羨ましさ、自らへの境遇に対する憤りからミコに対する攻撃的な言動に出たものだった。
 勿論、だからと言ってカオルの境遇に何の非もないミコに対してこんなことを許していい訳ではなく、ゲンはそれを叱ろうとしたが、彼自身両親や兄弟を失っている境遇からカオルに誤った同情をしてしまい、叱るべきを叱れずに固まってしまった。

 結局百子がやって来て、カオルにミコへの謝罪を命じ、尚も不貞腐れるカオルに平手を打ったことでカオルは鬱屈していた想いを流し出し、号泣して自らの想いを吐露して、寂しさ・羨ましさからあんなことをしたことをミコに詫びたのだった。
 百子が上手く取り成したことで、カオルとミコは仲直りしたのだが、子供は良いとして、大人に問題が残った。百子は(結果として)傍観していたゲンを咎めた。
 百子曰く、

「寂しいからと言って、悲しいからと言って、何をしても良い事にはならないわ。甘えさせちゃいけないのよ!そんなのは同情にもならないわ。まして本当の愛情があったら絶対知らん顔なんて出来ない筈よ!」

 とのことで完全な正論である。加えて、山口百子役の丘野かおりさんが(主に山田圭子名義で)演じた客演での役所には歪んだ寂しさからこの時のカオルの様な理不尽な言動に出るものが多かっただけに正論以上の説得力があり、本作における幾度かの名シーンでも屈指のものとなっていた。そんな丘野さんの名演が昭和50(1975)年を最後に途絶えているのは誠に勿体ない話である。

 ともあれ、百子の正論にぐうの音も出なかったゲンの脳裏には宿所に戻った後も「甘え」を咎める百子やダンの言葉がリフレインしていた。
 そしてラジオの放送から宇宙からやって来たロンが地下を潜行した為にその影響で火山活動が活発化し、地震が増えていることを知ったゲンは、居た堪れなくなってラジオを消すも、直後に地震が起きたことに意を決したのか、ロンを迎撃せんとして待機していたMACの元に駆け付けた。

 ゲンが現場に駆け付けると作戦会議が終わったところで、ゲンは自分も同行したいとダンに申し出た。それに対して青島は、一緒に戦いたくないとした先の言を持ち出して、共闘を拒否する旨を述べた。青島一郎付け加えて曰く、「個人的な感情で言うんじゃない。任務を果たす為だ。怪獣を倒す為なんだ。」とのことで、これも正論である。
 青島の立場に立てば、先のゲンの命令違反に関してその理由がはっきりしておらず、また繰り返されないとの保証は無いのである。
 隊長であるダンにしても、問題は同じことが起きないか否かで、ダンはゲンにロンを攻撃出来るか?と念を押し、「出来ます。」としたゲンに「他の隊員の信用を取り戻したら連れて行こう。」として今回はレーダーの番をするよう命じた。
 要するにベースキャンプでの居残りを命じた訳で、出撃同行願いは却下されたことになる。「他の隊員の信用を取り戻したら。」と言いながら、それが為に出撃できなければどうやって「取り戻」すの?との疑問を感じないでもないが、これは隊長として、レオの正体を知るセブンとしての、様々な意味での気遣いだろう。
 シルバータイタンの推測でしかないが、命令違反の理由をはっきりさせられていない以上、言葉だけでしかないゲンの宣言を容れて同行させても他の隊員達は納得しないだろう。また組織の隊長として私情を挟むことを禁じはしても、個人としてはゲンにロンと戦わせたくない気持ちをダンが抱いていたとしても不思議はない。
 ならばレーダー番という後方任務でも重要な任務を卒なくこなさせたところで隊員達の信頼回復を図るのは妥当な命令と云えなくもない。
 これまた難しい問題である。

 とまれ、程なくMAC対ロンの第2ラウンドが始まった。
 前回同様口からの炎と尻尾からの光線を駆使して暴れるロンに最初の内こそ何とかそれらを躱して波状攻撃を続けていたマッキー2号・3号だったが、やはりロンにこれといったダメージを与えられないまま、次々と撃墜され、ダンもパラシュートで脱出した。丸でTACだな(苦笑)。
 そしてロンの攻撃は執拗で、落下するダンのパラシュートにも火を放つほどだった。

 全くの余談だが、太平洋戦争末期、敗色濃厚の日本にあって、軍隊は一般ピープルに竹槍訓練を施していたのを知る人も多いだろう。
 核兵器すら駆使する相手に竹槍を如何にして用いるのか甚だ疑問だったのだが、かつて学生時代の恩師に聞いた話によると、輸送機からパラシュートで降下して上陸を計る敵兵に対して、竹槍を投げつけてパラシュートを破ることで墜落死させるのが狙いだったそうだ

 もし、本土決戦が実際に行われ、輸送機から敵の落下傘部隊が襲来していたとしたら、竹槍を上手くパラシュートに当てられるより、敵兵の銃火器に討たれる可能性の方が遥かに高かったことだろう

 こんな発想している状態で勝てる訳ないよな…………。

 パラシュートに着火し、狼狽えるダンだったが、何とか不時着には成功し、それを見届けたゲンはMACロディーを走らせてロンに向かって行った。
 ロンの放つ炎を掻い潜り、車載砲や地雷を駆使して戦うゲンだったが、やはり致命傷には程遠く、そうこうする内にロンは目からも光線を発し、遂には全体重を掛けてMACロディーをボディープレスの下敷きにした。

 下敷きになったゲンの身を案じたダンだったが、ゲンは潰される前にレオへの変身を遂げており、かつての主人が眼前に現れたことにロンは明らかに動揺していた。
 これにより、長い孤独な放浪でロンが性格を豹変させていても、記憶を失っていた訳ではないことが分る。無言で上空を指差すレオの「宇宙へ帰れ。」とのジェスチャーに首肯して背を向けたロン。それを見てロンがかつてのL77星での友情を忘れず、我が意に従ってくれたことに安堵しかけたレオだったが、その隙を見計らった様にロンは尻尾をレオの足に絡め取るとの反撃に掛かった。

 かつての友情も踏み躙る程心をひねくれさせたロンとの戦いは、直後こそ、不意を突いたことも有ってロンが怒涛のラッシュを掛けたが、元々レオの方が主人で、過去を知っていたためか、程なくレオ優勢に転じ、結果として然程の苦戦もせずにレオによってとどめが刺されるかと思われた。
 だが、ロンは戦意を喪失させ、今度こそ本当に降伏すると云わんばかりに平身低頭状態で無抵抗を示した。そして完全降伏したロンの額にレオが手を当てるとロンはそのまま抵抗せず、レオの縮小光線を受け入れ、L77星にいたときのような大きさにされた。
 ナレーションによると、それはロンをかつての様に平和に過ごさせたいとするレオの最後の友情とのことで、小さくなったロンを掌に載せたままレオは何処かへ飛び去った。

 そしてラストシーン。
 ゲンは百子と共に公園に遊ぶカオルの元に「新しいお友達」として一匹の子犬を連れて来た。その愛くるしい姿にカオルは大喜びし、百子もそれを愛でたが、ただ一つ、百子は「ロン」という名前を気にしていた。
 既にロンの名前は世に知られており(←誰が教えたのだろう?)、百子は可愛い子犬が最近まで大暴れしていた怪獣と同じ名前であることに違和感を覚え、「もっと他にいい名前は無かったの?」とゲンに投げ掛けた。
 それに対してゲンは、「でも本当は良い奴なんだ。」と少し寂し気にしていた……………って、視聴者にはゲンの気持ちは良く分かるが、そんな説明じゃあ、百子には意味不明だって(苦笑)

 そして「星空のバラード」2番をフルコーラスにBGMが流れる中、ゲンはカオル・百子らと共に子犬と戯れつつロンとの平和だった日々に思いを馳せるのだった。
 ちなみに子犬のロンが、ロンを変身させたものなのか、それともただの子犬にロンへの想いを託したものなのかは詳らかではない。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新