ウルトラマンレオ全話解説

第11話 泥まみれの男ひとり

監督:筧正典
脚本:田口成光
怪異宇宙人ケットル星人登場
 冒頭、スポーツセンターにて子供達が懸垂の訓練中だった。老若男女問わず懸垂はなかなか厳しいのだが、その中で松本一郎(大山正明)という少年が30回という、大人でもなかなかそこまで出来ない回数に挑んでいた。
 周囲の会話によると一郎の両親はアメリカで仕事をしている関係から叔父夫婦宅にて暮らしているとのことで、叔父はマイティ松本というプロボクシングのヘビー級チャンピオンとして有名な人物だった。
 そんな屈強な叔父を尊敬し、その叔父に気に入られんとして、誕生日までに30回を達成せんと頑張る一郎に大村も感心すること頻りだった。

 場面は替わってとある郊外。
 そこでは怪異宇宙人ケットル星人を相手に平山、青島、赤石の三隊員が対峙していた。腰まで届く長い白髪を振り乱してジャンプ力と腕力でMAC隊員達を翻弄するケットル星人
 設定によると『ウルトラセブン』に登場したワイルド星人の様に、長命種族ながら種としては滅びようとしている老衰した星人で、それゆえ種としてはまだ若い地球人を妬みから逆恨みし、通り魔的に地球人を襲っているとのことだが、作中では語られなかった。
 ともあれ、戦意・殺意ともに充分で、赤石から取り上げた鉄パイプをひん曲げたり、ストレートパンチでコンクリートの土管に穴を空けたり、でMAC隊員達を驚愕・恐怖させ、次々に叩きのめした。
 その一方で、ゲンが加勢に駆け付けると踵を返して逃走に掛かった。どうも不利な勝負を避ける狡猾さも持ち合わせている様だったが、俑道状の通路をゲンに追われるケットル星人の眼前にロードワーク中の赤心少林拳・弁慶………じゃなかった(苦笑)、マイティ松本(西山健二)が現れた。
 ゲンは反射的に「そいつを捕まえてくれ!」と叫んだのだが、いくらプロボクシング・チャンピオンとはいえ、民間人に協力を依頼したのは悪しき結果となった(←しかも声を掛けた段階でゲンは相手が誰か分かっていなかった!)。
 鉄パイプを曲げ、コンクリートをも穿つケットル星人の腕力はチャンピオンの格闘能力をも凌駕し、マイティ松本はワンハンド・ネックハンギングツリーで吊し上げられた挙句、頭部をコンクリートの壁に叩き付けられ、苦しんだ挙句、搬送先に病院で息を引き取った。

 病院にて松本の最期を看取った婦人(高島雅羅)は号泣し、傷心の一郎はマイティ松本の勝利を讃える新聞記事にまで八つ当たりする始末だった。
 協力を求めたがために死に至らしめてしまった相手への罪悪感、そしてそれが自分の教え子の身内とあってはゲンも力なく仇討ちを誓うのだが、チャンピオンである叔父より強い人間などいないと云う一郎はゲンの宣言も聞き入れず、何より仇を討てたとしても戻ってこない叔父を想って滂沱に暮れ、その悲しみを前にゲンも閉口するしかなかった。

 そんなゲンはMACステーションにて、例によってダン(←何故かドアを開けず、すり抜けて入って来た)の叱責を受けた。民間人に協力を求めて、応じてくれた相手を死に至らしめた迂闊さも叱責対象だったが、一郎の悲しみにただただ同情して戦意喪失している様には杖による殴打が飛んだ。
 ともあれダンは、一郎への同情は肯定しつつも、責任問題からもケットル星人打倒を優先するよう命じた。

 場面は替わってスポーツセンター。門前で一郎がぼんやりしていると一台の車が停まり、中からトオル、カオル、そしてアキラという少年が出て来た。
 どうやら運転手を抱えるほど裕福なアキラの父が送ってくれたようで、梅田兄妹が礼を述べる横でアキラは懸垂10回出来たら自転車を買ってくれとねだり、父親もそれに応じていた。

 そんなアキラの父をカオルは「優しい」とし、トオルは「甘い」としたが、離れたところにいた一郎はいきなり話に割って入って来てそんな父親は「最低だ!」と怒鳴りつけた。
 褒美に自転車を買うことへの賛否はともかくとして、いきなり自慢の優しい父を「最低」と呼ばれてアキラが怒らない筈がなく、両者は忽ち取っ組み合いの喧嘩となった。
 先に手を出したのはアキラだが、一郎の暴言も充分に責められて然るべきものだ。視聴者はストーリー上、一郎が心情的に哀しみと羨ましさから八つ当たり的に発露したものというのは分かるが、同様に星人に父を殺された経験を持っていても時を経て、感情の暴走を咎められた経緯を持つ梅田兄妹の方が幾分冷静で、兄妹はマウント・ポジションで何度もアキラに平手を見舞う一郎を必死に止めた。

 結局、ゲンと百子が駆け付けて喧嘩は止められ、両者は互いの云い分を責め合ったが、ゲンは人の事とより己の目標に向かうべき、と一郎を窘めた(←この辺りゲンにも成長が見られる)。
 ただ、何を云われても一郎の根底にあるのは叔父を失った悲しみで、MACに協力したことで命を失った叔父を想って涙を流す一郎に、MAC隊員として星人を倒さなくては、との使命感からゲンは空手の修行に精を出すのだった。
 ただ、一般ピープル相手の組み手特訓で、対星人戦への訓練になるのかなぁ?(苦笑)

 そうこうする内にゲンのMACシーバーに、東京684地区にケットル星人が現れたとの報が入り、ゲンは急行した。現場では既に平山、青島、赤石が前戦に懲りたのか、MACガンを駆使してケットル星人を射殺せんとしていたが、ケットル星人はジャンプ力を利して縦横無尽に飛び跳ねては銃撃を次々と躱していた。
 そして隙を見ては平山達を接近戦で叩きのめしたケットル星人だったが、遅れて駆け付けたゲンには何故か前戦同様、まともに戦おうとはせずに逃走に掛かった。ところが、まんの悪過ぎることに、逃げ続けるケットル星人が遭遇したのはマイティ松本の墓参りから返ろうとしていた松本夫人と一郎!
 ケットル星人はストレートパンチで夫人を撲殺してしまい、ゲンは他の隊員達に夫人を託すと単身ケットル星人を追った。ゲンとの勝負には消極的だったケットル星人だったが、いざ竹林にて追い付かれるとその身体能力をフルに発揮し、得意のジャンプ力でゲンを翻弄した後、叩き伏せたゲンの背後を取るとプロレスで云うところのキャメル・クラッチに捉え、さしものゲンも苦悶の声を挙げた。

 辛うじてケットル星人を投げ飛ばすことで危地を脱したゲン。一方、投げ飛ばされたケットル星人は着地の瞬間を何処からともなく飛んできた杖に足を払われ、斜面を転げ落ちた上、立ち上がった瞬間に胸部に弾丸を二発受けて撤収した。ふむ、滅多に当たらんが、等身大相手だとMACガンもそこそこの効果はあるようだ。

 書くまでもないとは思うが、済んでのところを加勢したのはダンである。ケットル星人を倒せなかった体たらくを責めるかと思いきや、出て来た台詞は「命を無駄にするな。失くしたら元も子もない」というもの。この辺り、『ウルトラセブン』にてケットル星人同様の老衰種族であるワイルド星人に一度命を奪われたダンの経験がどこかで通じているような気がする。
 一方で、叔父に次いで叔母も殺された一郎の閉ざされた心を想うダンは、改めてそこに光を当てられるのはゲンしかないと断言し、それを命じた。

 云われるまでもなく一郎への様々な想いを背負い込んでいたゲンは泣きながら懸垂する一郎を励ますのだが、度重なる不幸への悲しみから努力することの意味を見失っていた一郎には励ませば励ます程逆効果になるかに見えた。
 だが、ゲンが、一郎にはまだ両親がいること、ゲンもまた両親と兄弟を星人に殺された過去があることに言及すると一郎は少しずつ心を開いた。余りいい話ではないが、同じ心の傷を持つ者同士で無いと語り合えないことは確かにあるようだ。
 ゲンは星人が手強い存在ではあるが、それでも倒さなければならない相手であることを説き、そこにようやく一郎もゲンの本気を信じた。そして二人の男は片方が星人を倒すことを、片方が懸垂30回を達成することを誓って笑顔を取り戻した。

 そして一郎が懸垂に励む途中、落下しかけた一郎を受け止めた際に、最前着地時にダンの杖にケットル星人が足を払われたのを思い出し、ジャンプした者は必ず落下してくるという当たり前のことに気付いた
 まあ、チョット酷な書き方をしたな(苦笑)。要はそこにヒントを得た訳で、ゲンはサンドバックを空中に放り投げ、落ちてくるところをケットル星人の着地に見立てて、攻略する訓練に入った。

 幾度かの失敗の後、落ちてくるサンドバックを上手くキャッチしたゲンはそれをそのままバック・ドロップに決めることで成功を収め、ほぼ時を同じくして一郎も懸垂30回を達成した。
 直後、三度ケットル星人が現れたとの方が入った。前回、前々回同様平山達三名が対峙していたのだが、過去二戦に懲りたところがあるのか今度のケットル星人は刀を引っ提げて現れていた。ただこの等身大戦は短時間で終結した。
 平山達は刀を用いるまでもなく叩きのめされ(苦笑)、直後に駆け付けたゲンはケットル星人を一本背負いで投げ飛ばすと着地した両足を掴んでバック・ドロップでその後頭部を強かに地面に叩き付けた。

 ダメージの程は不明だったが、このまま戦い続けるのは不利と見たケットル星人は即座に巨大化した。これまで登場した宇宙人に比べるとケットル星人は等身大時と巨大化時の容姿の相違が少ない方だったが、手にはアトミックランスと呼ばれる万能槍を持ち、刺突攻撃を繰り返し、その石突からマシンガンの如く発射される銃撃で等身大のゲンを攻め立てた。
 ほんのしばらくMACガンで応戦したゲンだったが、さすがにこれでは勝負にならず、レオに変身。そして徒手空拳で槍持ちを相手にするのは不利と見たか、レオは工場の煙突をもぎ取ると念力でこれをヌンチャクに変化させ(レオヌンチャク)て対峙した。
 しばしレオヌンチャクを振りかざして敵の鋭鋒を凌いでいたレオだったが、「ヌンチャクに抗するは棍」という拳法の定石(参考文献:『魁!!男塾』第9巻)からもこれで優位に立ったとはならず、レオヌンチャクは一度もケットル星人の身を打つことなく、万能槍によって叩き砕かれてしまった。
 直後、しばし仰向け状態に追い込まれて刺突攻撃を躱す一方のレオだったが、一郎から懸垂30回に成功した(だからレオも頑張れ)との声掛けを受け、ケットル星人の攻撃を巧みにかわすと、業を煮やしたケットル星人が万能槍を投げつけて失ったことで勝負は徐々にレオ優勢に転じた。

 殴り合いは互角で、時に腰投げなどを駆使ししていたレオはやがてカラータイマーが赤となったが、それを狙いすましたようなケットル星人のジャンプ攻撃を躱すとその隙を突く様にレオキックをその背中に決めて激闘に勝利した。

 そして最終場面。一郎はアメリカの両親の元へ発ち、ゲンと梅田兄妹とアキラ(←恐らく和解したのだろう)がこれを見送った。
 次会う時には懸垂50回を達成せよ、とするゲンに100回達成するとのファイトを見せる、すっかり元気を取り戻した一郎を微笑ましく見送りつつ第11話は終結した。


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令和五(2023)年二月二〇日 最終更新