ウルトラマンレオ全話解説

第9話 宇宙にかける友情の橋

監督:深沢清澄
脚本:土門鉄郎
宇宙星獣ギロ登場
 冒頭、舞台は遊園地から始まった。MAC隊員として多忙な日々を送るゲンが久々の休暇を得て百子、トオル、カオルと共にやってきた訳だが、一ヶ月前(第5話)にも遠足に来てたし、一週間前にセンター長が「パチンコに行けない。」という理由で(笑)、ゲンを呼び戻していた状況(第7話)を考えると、然程休みが少ない様に思えんのだが(苦笑)。

 ともあれ、前回の遠足では父を失った直後の傷心状態を残していたトオルも休暇を満喫していた。そして美味しそうにアイスクリームを嘗めるトオルを見つめる一体の怪獣がいた。
 そうこうする内に怪獣軍団ショーが行われている場に着いた。特撮においてこういうショーに登場するのは本物であることも多いのだが(笑)、着ぐるみ造型から本物でないのは丸分かり。それにしても雁首を並べていたのはヘルツに、ゼットンに、ベロン…………超有名宇宙恐竜ゼットンは別格として、ヘルツやベロンは『ウルトラマンタロウ』放映終了直後のこの時期で無ければマイナー極まりないな(苦笑)。

 ともあれ、そんな怪獣達の中に最前トオルを見つめていた怪獣がいた。宇宙星獣ギロである。程なくギロが奇妙な鳴き声と供に目を光らせるとトオルは忽ち引き付けられ、穏やかな、子守歌の様なBGMが流れる中、ギロはアイスクリームを求め、トオルはそれに応じ、やがて両者は心を通わせあった。
 やがて、トオルがいないことに気付いたゲンは百子からトオルと一緒にいる怪獣が変であることを告げられ、目を緑色に光らせるとギロが本物の怪獣であることを看破した(宇宙人としての能力らしく、以後もゲンは何度かこの能力で地球人になりすました地球外生命体を看破している)。
 ゲンはトオルの身の危険を案じてギロから離れるよう呼び掛けたが、ギロに友情を感じるトオルは応じず、一緒に逃げ出してしまった。
 気が気でないゲンは傍らにあった遊園地所有と思われる軽トラックを無断で)拝借してトオルとギロを追い、トオルに呼び掛けるが、トオルはギロを良い奴だとして逃げ続けた。

 だが、執拗に追うゲンに対し、ギロの方が身に危険を感じたものか、触角から白泡を軽トラの窓ガラスに噴出すると巨大化し、トラックを持ち上げて反撃して来た。
 突如の怪獣出現に観客は逃げ惑ったが、ギロの攻撃対象は車外に脱出したゲンのみで、再度白泡を噴くと気絶したトオルを胸に推し抱いて立ち去らんとした。勿論指を咥えて見ている訳にはいかないし、かといって非番ゆえに武装もない。それゆえゲンは即座にレオに変身した。
 だが、変身したのは良いものの、ギロの右手の中にはトオルがいる。特に言及は無かったが、レオの攻撃は明らかに精彩を欠き、攻撃は7割がたギロが行っていた。何とか隙を見て一気に決着をつけたいところだったが、意を決したレオが飛び掛かるとギロは十数個の星柄状に身を変じ、その場から姿を消した。勿論トオルも一緒に………。

 場面は替わってMACステーション。そこでゲンはダンに軽はずみに変身したことを咎められていた。
 このときの会話によると、ダンは前々からゲンに対して確たる作戦も無いまま変身していることを禁じていたとのことだった。ゲンはトオルの身を案じた、場合が場合だったことを訴えてダンの理解を求めたが、ダンはそれ自体には理解を示したが、結局トオルを取り戻せなかったことを責めた。
 ダンがゲンに軽々しい変身を禁じたのは、怪獣や宇宙人を追い込むことで、進退窮まった相手が形振り構わぬ行動に出てることを案じたもので、今回のトオル連れ去りは正にそれだと指摘した。
 結局、トオルが宇宙に連れ去られることまで想定していなかった認識の甘さを指摘されたゲンは反論の術を失ったのだった。

 そして夜。MACロディーでパトロールをしていたゲンの元に怪獣出現の通報が入り、ダン以下、MAC隊員達も遊園地に集結した。ギロの姿を目撃した今話初登場の二代目副隊長格・平山(平沢信夫)は色めき立ち、それを指差すや隊員達もMACガンを抜いたが、これはダン隊長が即座に止めた。
 それからしばらくして遅れて到着したゲンに対して、ダンが指した先にはメリーゴーランドで仲睦まじくするトオルとギロの姿が在った。ダンはトオルがギロの作り出した世界にいると断じ、ゲンにはトオルとギロの引き離しを、他の隊員達には散開と、合図があるまで決して攻撃してはならない旨を命じた。

 ゲンはトオルに対して自分も仲間に入れて欲しい、と呼び掛け、その為にトオルがメリーゴーランドを止めるべく僅かにギロから離れた隙にギロを撃った。そしてそれが合図であったかのようにMAC隊員達も一斉射撃するとギロは先にレオと戦った時と同様にして姿を消した。
 後に残されたのは意識を失ったトオルだった。

 人事不省となり、病院に担ぎ込まれたトオルは、夢と思しき中で宙を泳ぐようにしてギロと遊び、脳波を初め、健康状態に異常は見られないながらも意識を取り戻さなかった。
 寝言にもギロの無害を訴えるトオルに、ゲンはギロを自分が変身したことで巨大化しただけの無害な存在ではないか?とダンに投げ掛けた。が、ダンは夢の国に引き籠るトオルの現状を指して彼を「被害者」とし、ギロも数多く存在する怪獣の例に漏れず、破壊的存在と断じて、二本の触角から発する泡を防ぐ特訓に入ることをゲンに命じた。

 特訓は、スポーツセンター体育館の中に設えられたガラス張りの密閉空間に天井から発する白泡をギロの攻撃に見立てて躱す訓練を行うものだった。数あるゲンの特訓シーンに比べれば過酷さは格段に低いのだが、ダンはギロの発する泡は即座に凝固するため、それに固められたらジ・エンドだとした。
 特訓内容は過酷でなくても、仮想対象は危険極まりないと云う訳で、ダンは今のゲンのスピードでは泡攻撃に抗し得ないので、泡が固まる前に弾き飛ばすべき、とした。その助言を受けたゲンは空気抵抗を軽減するため、体を丸くし、回転させることで遠心力にて泡を弾き飛ばせばいいと云うことを悟った。

 方法論ではすぐに意見の一致を見たゲンとダンだったが、ギロを危険と見做すか否かについては尚も衝突が続いた。しかしそこへ百子が駆け付け、トオルが病院から姿を消したと告げたことで意見衝突は沙汰止みとなった。
 ギロは三度遊園地に現れ、それをレーダーで捕捉したMACも、マッキー2号、3号、MACロディーが駆け付けた。既に巨大化していたギロはトオルを海中に抱えて暴れ、トオルはMACを詰った。
 MACでも、そのトオルがギロと共にあること、トオルの救出が重要であることを認識しており、MACシーバーから流れる通信内容を耳にしつつも、ゲンは一心不乱に回転力を身に着ける特訓に励んでいた。過酷な描写の多い名物特訓シーンだが、何かのヒントを得た上で挑むシーンの場合、過酷さがかなり軽減されていることが分る。
 そしてゲンがその動きをマスターすると、それまでゲンの体にまとわりついていた白泡は完全に弾き飛ばされていた。丸で泡を浴びせる前の姿を撮影したみたいだった(笑)。

 特訓シーンを受けてゲンはレオに変身(←いつもの拳を突き出すパターンではなく、第1話で行った飛び出し、両手を広げるタイプの物)。既に街々を破壊する程凶暴化したギロに挑みかかり、両者はしばし互角に戦った。
 トオルの身を案じ、それが為に掌中への攻撃を優先したことで幾度となく泡を浴びせられたレオだったが、程なく戦いの煽りを受けて空中に飛び出したトオルをキャッチし、ようやくその身柄を確保した。
 ハンディキャップ無しの状態なったことで激闘が始まるかと思われたが、何故かBGMはトオルとギロが仲良くしていた時のオルゴール風のものに変わり、空中に無数のシャボン玉が降り注ぐ中、戦闘もスローモーションで展開された。  地表が泡に覆われる中、やがてレオはジャンプ一番、ギロの双角をクロスチョップで叩き降り、勝負は決した。

 自らの泡に埋もれたギロはやがてその泡にと共にその身を縮小させ、等身大で大地に倒れ込んだ。そこに駆け付けたトオルが滂沱に暮れていると、ゲン、ダン、カオルと百子に大村、そしてMACの面々もやって来た(←何故か話中ずっとステーションで通信を担っていた白川もいた(笑))。
 ギロの亡骸に取り縋って泣くトオルに大村はMACの使命を理解している筈だとして宥めんとしたが、トオルはどんな怪獣も敵視しているとしてダンにも敵意を向けた。そしてその敵意はMACとレオにも向いた。
 完全に理よりもギロを失った悲しみに突き動かされている状態のトオルに、大村は平和な怪獣がいて、そんな怪獣とトオルが心を通わせたことを発見しただけでも素晴らしい、大人達も大切なことを学んだとしてトオルを元気付けんとした。

 程なく出番が殆ど無くなる大村だが、この時の大村正司は実にいい味を出している。
 トオルとMACのどちらにも偏った味方をせず、どちらも貶さず、心の尊さを説いて何とかトオルを励まさんとする大人の対応は生半可な演技力では出せないだろう。
 そんな大村の説得に、それ自体に理解は示しつつも、それでもギロを失った事への穴埋めにはならないと泣き続けるトオルに対して百子も、カオルも、MACも掛ける言葉が見つからなかった。

 そんな中、ゲンとダンがアイコンタクトを交わすと、ダンはトオルにギロを生き返らせることでMACを許して欲しいと申し出た。ギロが生き返るかも知れないとの提言に涙の乾かぬ顔のまま期待と興奮に瞳を輝かせたトオルに、ダンは生き返らせる条件として、ギロに宇宙に帰って貰うとした。
 そして両者が会話する間にその場を去ったゲンはこっそりレオに変身。レオは両眼からリライブ光線を発し、ギロの角を復元することでギロは蘇生した。
 ギロは立ち上がるやトオルに対して半ば強引に握手を求め、トオルがそれに応じると丸で最前のトオルとダンのやり取りを承知しているかの様に自らレオの元に行き、レオから緑色の光線を浴びると笑い声も取り戻した。

 ギロの完全復活に驚喜したトオルはギロに降りて来い、と呼び掛けたが、ダンはそれを止めた。ダンはトオルに地球人が怪獣を愛し、怪獣もまた地球人を愛した好例を示したことへの賛辞を贈りつつ、ギロにはこの美しい心を持ったまま宇宙に帰って貰おうじゃないか、として暗に約束の履行を求めた。
 それに対して幾許かの未練を見せたトオルだったが、今度は百子がギロに別れを告げるよう促し、レオに連れられて宇宙へ去ったギロに何度も別れの言葉を送り、重き命題を投げ掛けた第9話は終結した。

 それにしても‥‥……重い……凄く重い
 人間と怪獣(及び宇宙人)が心を通わせた例は以前にもあり、正義のチームが怪獣・宇宙人を存在自体が悪と言わんばかりに問答無用で抹殺に掛かることへの非難は『ウルトラマン』の第30話(ウー)や『帰ってきたウルトラマン』の第33話(メイツ星人)や、『ウルトラマンタロウ』の第4話・第5話(キングトータス&クイーントータス)でも為された例がある。
 現実の世界で人間同士にあっても様々な法律・権威・学説で否定・非難されてもなかなか差別や偏見が無くならないのと同様に、「怪獣=悪」と脊髄反射で為される傾向もまた根強い。
 ダン自身、作中にてギロが例外的存在ではなく、必ず破壊を起こすとしていた。ウルトラセブンである彼がカプセル怪獣を使役している例を考えると怪獣に対する断言口調は眉を顰めたくなるが、一方でギロとトオルが交わした友情に対する「この世はお菓子の国ではない。」という発言も分からないでもないし、MAC隊長として不測の事態に対する警戒も有ろう(人間同士だって互いを完全に無害と信頼し切れないのだから)。

 少なくとも、トオルとギロが友情を交わしたことを事実として受け入れ、それを尊重する心と、不測の事態に備えることへの大切さを併存させることが考え得る最善ではないかと思われる。
 勿論、現実の人種間・民族間の例を見ても簡単ではないから尚、この第9話は重くのしかかる訳だが…………。

蘇生について この第9話でレオはリライブ光線を放ちギロを、第2話でもレオマスクパワーで百子を蘇生させている。
 これらの能力がどれほどの力を持っているのか不詳だが、正直、シルバータイタンはフィクションであっても完全に絶命した者を生き返らせる手段の存在を感心しない。

 その理由は二つ。
 一つは整合性・平等性の問題である。ジャンルを問わず人が死なない話はまずない。大切な家族・親友・師弟を失った人々の悲しみや、還って来て欲しい想いは古今東西、万国共通だろう。
 そんな中、死んだものがほいほいと生き返る手段があれば、同作において命を落とした他の存在に対して、「何故生き返らせないのか?」との疑問の声が挙がる。実際、『ウルトラマンレオ』は長いウルトラシリーズにあって、屈指と言っていいほど多くの名前のある存在が命を落とす。

 もう一つは命に対する尊厳の問題である。
 命とは一度失われたら決して元に戻らないからこそ、尊く、かけがえのないもので、誰もがこれを重んじる(戦闘、処罰、医療など)。
 実際、この第9話でもトオルが痛々しいほどの悲しみや、MACに対する怒りを示したのも、「死んだものは決して生き返らない。」という大前提があればで、視聴者も重く受け止めた。
 だが、「簡単に生き返る」となると、ここまで重く考えるだろうか?
 ジャンルは異なるが、生き返り手段が幾つも存在するファンタジーRPGの世界ではレベルが上がるほど慎重さを欠き、漫画『DRAGON BALL』においても、ドラゴンボールがすっかり生き返らせアイテムとして定着すると、「どうせ生き返らせられるから。」と云った描写も散見された。

 勿論、フィクションゆえに、生き返り手段があることを全面否定はしない。フィクションぐらい不死身や、二度と逢えない筈の存在との再会に夢も持ちたい。
 しかし命の大切さを考えると軽々しくあって欲しくはない。従って、レオマスクパワーにしても、リライブ光線にしても、特定条件(例・仮死状態や死亡直後)下のみ有効な限定手段であると考えたいところである。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新