ウルトラマンレオ全話解説

第14話 必殺拳!嵐を呼ぶ少年

監督:前田勲
脚本:阿井文瓶
さそり怪獣アンタレス登場
 第2クールに入り、この第14話から主題歌が変わった。それはともかく、冒頭、既にウルトラマンレオとさそり怪獣アンタレスが対峙しているという珍しい始まり方をした。
 天文学かギリシャ神話に少々の知識があれば、「アンタレス」の名がさそり座の一等星アンタレス(「火星の敵(Anti Ares)」の意)に由来し、それゆえのさそり怪獣であるのはているのは一目瞭然だろう。

 珍しくマッキー2号に搭乗していたダンは隣席に赤石にレオ対アンタレスのヒット&アウェイの間隙を縫って攻撃するよう命じていた。
 レオ&MACの波状攻撃が続く中、一進一退の攻防が続いていたが、アンタレスは両腕でレオの両腕を押え込むと、同様に両脚でレオの両足を踏み、更には目を光らせてレオの視力を攪乱させた。
 当然、レオの両手・両脚を封じている以上、アンタレスもまた両手・両脚が使えないのだが、さそり怪獣であるアンタレスには蠍の毒尾があった。尾は肩越しにレオを狙ったのだが、アンタレスの意図に気付いたダンはマッキー2号からベイルアウトし、パラシュートで降下しながら何かを装着した杖をアンタレスの尾に投げつけた。
 これによってレオは致命的な一撃こそ免れたものの、左肩に攻撃を受け、一方のアンタレスはMACの猛攻を受けて赤い煙を発するとその姿を消した。

 場面は替わって城南スポーツセンターの空手道場。
 そこでは成年とも少年ともつかぬ年頃の男性(川代家継)が数多くの道場生を薙ぎ倒していた。10人前後の道場生(白帯)を殴り、投げ飛ばし、不敵な笑みを浮かべるのにいよいよ黒帯をつけた有段者らしき人物が対峙した。
 だが、有段者も男の敵ではなく、攻撃はすべて躱され、何発も相手の反撃を食らった。そして男は有段者の両腕を掴むとその容姿に似合わぬ低音で気合の声を挙げるとその背後から黒い何かが放物線を描いて肩越しに有段者の背中を打った。
 視聴者には丸分かりだが、それは最前アンタレスがレオに見舞わんとした攻撃と同一のものだった。

 有段者を倒され、とうとう道場生達は棒を持ち出して多勢で掛からんとしたが、それを止めたのダンだった。言い分としてはスポーツセンターの道場が他流試合を禁じているゆえで、大村の留守中(←第22話まで出て来ない!)にそれは許されないとしたものだった。
 とはいえ、突如殴り込みを掛けられたら応戦しない訳にはいかないだろう。闘争を止められた男はダンの「君は?」という誰何に不敵な笑みを浮かべただけだったので、コイツが何か大義名分を持ち出して戦いが始まったとは思えなかった。
 そして去り際、ダンと男は互いを一瞥し、ダンの目は男が地球人でないことを捉えた(男がダンの正体に気付いたか否かは不詳)。

 道場破り(梅田トオル談)が去り、負傷者の介抱に努める中、肩を負傷したゲンもやって来た。道場のただならぬ様子に驚いたゲンは入室前にすれ違った男が道場破りであることを猛・トオルから知らされた。そんな中、カオルが二度に渡って男を「カッコ良い。」と場違いなことを言っていたが、女の子にはそれが重要なのね(苦笑)。
 慌てて男を追わんとしたゲンだったが、ダンに止められ、件の人物に怪獣反応があることを知らされた。

 ダンはアンタレスが少年の姿でレオを探りに来て、尻尾による攻撃への対処を身に着ける前に倒しに来たとの推測を述べ、猛には大村に道場貸与の許可を取って欲しいと要請し、MAC隊員達を道場に召集した。
 集まった隊員達に空手着に着替えるよう命じたダンは、アンタレス人間体から尻尾攻撃を受けた有段者(←幸い、大事には至らなかったのね)からの証言をヒントにゲンに対アンタレスを想定した訓練を積ませた。
 それは、青島と平山にアンタレスを模した攻撃を行わせ、ゲンにその対応策を体得させんとするものだった。ダンの指示を受けた二人は、まずゲンと対峙した青島が互いの両腕が組み合ったところで、平山が青島の肩越しに飛び蹴りを繰り出すと云うものだった。
 有段者が道場破りの一撃と、青島&平山の攻撃が似た感じと証言したことで、ダンは二人に同じ攻撃を繰り返させたのだが、両腕を封じられた無防備状態で突如陰から繰り出される飛び蹴りはかなりきつい攻撃で、まともに食らったゲンはもんどりうって倒れるしかなかった。

 激しい特訓―まあ、激しくないと特訓にならないが―が続く中、青島のMACシーバーにアンタレス出現の報が入った。即座に一同は出撃せんとしたが、ダンはゲン・青島・赤石に特訓継続を命じた。
 この命令に青島と赤石は驚き、明らかな不服の表情を浮かべた。無理もない………暴れる怪獣を倒すのがMACの使命なのに、対道場破り訓練の方を優先しろというのだから、不可解極まりなかったことだろう。
 それでも隊長命令には逆らえず、青島・赤石は出撃出来ない鬱憤をぶつけるようにゲンとの特訓に従事したのだが、その間為されたMACの攻撃は相手にろくなダメージも与えられず、8名の犠牲者(!)を出すという惨憺たる結果に終わった。

 訓練中、青島と赤石は納得がいかず、ダンに無言の抗議を行い掛けたが、ダンは「続けろ!」と言って二人を突き飛ばし、引き揚げてきた平山からの惨状を聞いて尚、継続を命じた。
 とうとう青島は堪りかね、何の為の特訓か?何故MACが道場破り迎撃に力を貸さねばならないのか?をダンに取り縋って尋ねた。普段無表情・無口の赤石も仲間の仇を取らせてくれと懇願したが、ダンの返事と態度は変わらなかった。
 不可解を通り越して呆然とするしかない青島・赤石を見かねて、ゲンもダンを追いかけた。ゲンが何故に隊員達に事情を話さないのかを疑問に感じていることを察知していたダンは、その疑問に対して「言ってどうなる?」と返した。
 ダンの考えでは、アンタレスの正体を教えれば隊員達は意地になって少年を攻撃するだろうけれど、アンタレスが元の姿に戻ればMACでは太刀打ち出来ないと踏んでおり、技の会得までレオに変身させず特訓に従事させておく方が、アンタレスが安心して暴れられない分ベターだと考えての事だった。

 一応、ゲン自身はダンの考えを理解出来たのだが、事情を伏せられ続けたMAC隊員達はそうはいかなかった。
 ゲンとダンの双方に不信を抱くも、隊長であるダンには逆らえないからゲンに対する悪意は頂点に達した。道場に戻ったゲンが特訓の継続を願い出ても、青島は目を背け、赤石も「うるさい!」と怒鳴りつける始末だった。
 それならば他の隊員達にと土下座して懇願しても、気持ちは他の隊員達も同様でゲンが懇願すれば懇願する程かれらの心と対応はゲンから離れていった……………前話の思いやり溢れるシーン、ぶち壊しじゃんかよ!!(怒)
 否、ストーリーの都合上、ゲンが一時的に不信による村八分状態に陥る展開を非とする訳じゃないが、無実証明の為に奔走し、謎解明直後に隊長の悲観を振り払ってでもゲンに連絡していた第13話の直後にこんな話を持ってこなくても………と思ってしまうのである。

 ともあれ、青島達の怒りには、隊長命令への納得の出来なさに加え、ゲンが特別扱いされていることへの納得の出来なさも大きかった。結局隊員達はダンがいないのをいいことに特訓継続の命令に服さず、ゲンを黙殺して道場から退出。その痛々しさは百子・トオル・カオル・猛達も見ていられない程で、珍しく百子までもがダンの言動に抗議の声を挙げていた。
 ただ、ダンの真意と苦しい胸の内を理解していたゲンはそれを否定し、今度は猛を相手に猛特訓に挑んだ。

 屋外にて、ゲンはアンタレスに両腕を封じられた状態を想定して一本の棒の両端に両腕を縛り付け、猛に竹刀で攻撃させた。
 激しく打ち据える猛に、棒を頭上に翳して防ぎつつ対アンタレス戦のヒントを得んとするゲンだったが、そう簡単には出て来ず、遂には猛の方が音を上げる始末だった。
 それでもゲンの督戦を受けて猛は夕方近くまで打ち続け、それを百子はハラハラし通しの表情で見守り、特訓の過酷さが理解出来ているのかどうかも分からない無邪気さで声援を送るトオルとカオルだった(笑)が、応援に夢中になっていたトオルが土管から転落したことが怪我の功名的なヒントになった。  落下してくるトオルを受け止めようにも、両腕は広げた状態で封じられている。とっさの判断でゲンは両腕を地面につけて倒立すると、両足でもって蟹挟みでトオルの体をキャッチした。かくして偶然の賜物ながらアンタレスの尻尾攻撃を防ぐ術は確立された。

 場面は替わってスポーツセンター道場。
 場内には既に少年体のアンタレスが着座してゲンを待ち受けていた。青島は着座しているのが道場破りであることと、彼がゲンとしか戦わないとしていることを告げると、激励するように裏拳でゲンの腹を軽く叩いた。
 青島も、その様子を無言で見守る他のMAC隊員達も、ダンの命令やゲンへの特別扱いに不信を抱きつつも、だからこそ問題を早く解決して欲しくもあり、嫌々ながら協力させられた特訓の成果が上がって欲しくもあり、といったところだろうか?
 やがてゲン対少年の格闘が始まった。格闘は一進一退の互角の攻防が展開され、『ウルトラマンレオ』における対人格闘の中でも屈指の好勝負が展開された。

 少し話は逸れるが、この第14話でアンタレスの人間体を演じた川代家継氏をシルバータイタンは他作品で客演しているのを一度だけ見たことがある。それは『特捜最前線』でのことで、極度の恥ずかしがり屋且つ小心の冴えない腹話術師役で、気の弱さにつけ込まれて泥酔させられたところに殺人の濡れ衣を着せられるという、本作における大胆不敵且つ見事な体裁きが信じられない程弱々しい人物を演じていた。
 残念ながらそれ以外の作品で川代氏が登場しているのを見たことが無いので、川代氏の演技力や俳優としての資質に早計な判断は下せないのだが、これ程のアクションを展開出来る人物の活躍が極少なのは誠に惜しまれる。

 無数の拳撃、繰り出される足技とそれを躱す体裁き、間隙を縫う投げ技に驚異的な跳躍力を基調としたアクロバットの数々‥……それらの応酬をダン・MAC隊員達・猛が見守る中、遂にアンタレスはゲンの両腕を掴むと三度目の尻尾攻撃に出た。
 だが、ゲンを特訓の成果を発揮し、素早い倒立から繰り出す両脚蹴りで尻尾を跳ね上げ、狼狽するアンタレスのどてっ腹に正拳を決めた!
 その一撃にダウンしたかに見えたアンタレスだったが、これはゲンの目を欺かんとする擬態で、様子見に近づいたゲンの腕を払うと逃走に掛かり、一連の動きを見ていたMAC隊員達も遂に少年の正体が怪獣であることを知った。

 屋外に逃れた少年はゲン以下MAC隊員達の追跡を受け、遂にその正体を見せた。それによってすべての事情を知った青島はゲンへの謝罪を口にし、隊員達はMACガンを抜いて応戦に出た。
 隊員達が応戦する中、一人空手着姿で銃を携行していなかったゲンは退くと見せかけて物陰に潜むとレオに変身し、レオ対アンタレスの、互いの正体においての第二戦が始まった。この戦いは明らかにレオが優勢に運んだ。恐らくは相手の必殺技を破った精神的優位(アンタレスにしてみれば精神的不利)もあったことだろう。レオは格闘での優勢に加えて珍しい頭突き攻撃も繰り出し、堪りかねたアンタレスは前戦同様両腕と両脚でレオの両腕両脚を押さえつけると両眼を発光させ、尻尾攻撃を繰り出した。

 だが、もはやこれは愚策でしかなかった。等身大での格闘時に既に破られていた技がレオに通じる筈もなく、レオはトオルを助けた時同様に両足でアンタレスの尻尾を挟み込んだ。しかもこの時レオの両足はレオキック時と同様に赤く発光しており、挟み込んだ脚はアンタレスの尻尾を切断した(レオキックスライサー)。
 そしてバク転で間合いを取ったレオは斬り落とされ、落下して来たアンタレスの尻尾を受け止めるとそれをアンタレスに投げつけた。結局尻尾によってアンタレスは首チョンパされ、自らの武器を逆用されて絶命することとなった。
 瞬時に首を斬り落とされたアンタレスには自分の死が理解出来なかったのか、両腕に首を持ったまま10歩ほどレオに歩み寄ったが、やがて力尽きたのか、両腕から転げ落ちた首が木端微塵に砕け散ると、首から下の胴体も地面に横倒しになるや爆発・炎上したのだった。

 ラストシーン、そこではゲンと共に青島以下MAC隊員達も道場の練習生達と共に空手の練習に励んでいた。ゲンがMACでの信用を取り戻し、ほのぼのした日常が帰って来たことを描写したものであるのは分かるのだが、何処か蛇足なんだよな………。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新