ウルトラマンレオ全話解説

第15話 くらやみ殺法!闘魂の一撃

監督:外山徹
脚本:田口成光
分身宇宙人フリップ星人登場
 冒頭、闇夜の東京に分身宇宙人フリップ星人が現れ、肩書通りに分身したり、ビルを壊したりしていたが、出撃したMACの攻撃を受けるやすぐに姿を消した。一体何の為に出て来たのか全く不可解である。

 そして場面は替わってスポーツセンター。そこでは昭和も中期だというのにたらいと洗濯板で百子が空手着を洗っていた。
 てっきり自分の空手着を洗ってくれていると勘違いしたゲンは嬉し気に、自分の道着は自分で洗うと言ったのだが、百子から返って来た台詞は「おヽとりさんのも洗いましょうか?」というもの。
 となると、洗われている道着は「自分のものではない」=「他の男の道着」となるのは馬鹿でも分ることで、ゲンの表情は目に見えて曇ったが、そこにアイスクリームを食べに行く約束をしていたトオルとカオルがやって来た。
 トオルが百子も一緒に行こうと誘い、ゲンもそれに同意したが、百子は洗濯が残っていることを理由に辞退。どこか幸せそうに道着を洗う百子に後ろ髪を引かれつつもトオル達とその場を去らざるを得なかったゲンだった。

 場面は替わって喫茶店。トオル・カオルとアイスクリームを食していたゲンは、カオルに自分を見つめる青年がいることを知らされた。言われて見てみた成年(潮哲也)はチラ見ではなく、明らかにゲンを凝視しており、現代なら間違いなく、「何見てんだよ?」と言われかねない凝視振りだった。
 ゲンが視線を向けても黙って見ているだけで、ウェイトレスが落としそうになったお盆を見事なタイミングでキャッチするなど、何とも不思議な青年だったが、そこに青年を訪ねて百子がやって来たことでゲンの表情は一変した(苦笑)。
 津山と呼ばれた青年と嬉しそうに店を出る百子。そのことにトオルとカオルは気付かず、百子もゲン達に気付いていなかったゆえ、ゲンが嫉妬で表情を曇らせていることに周囲は気付かなかったが、見られていれば原因バレバレだったな(苦笑)。

 そうして心ここにあらずな感じのゲンだったが、そこへ東京200地区に宇宙人が現れたとの通信が入り、さすがにゲンは戦闘モードにスイッチして(私服のまま)現場に急行した。
 現場に駆け付けるとそこには巨大化時と若干だけ容姿の異なるフリップ星人が百子と津山を襲わんとしていた。慌てて両者の間に割って入り、逃げるよう促したゲンだったが、百子から突如現れた男がMAC隊員だと聞かされた津山は、  「MACには無理だ。星人は倒せない。」
 という、初対面の人間に言われるにはあんまりな台詞を飛ばした。ただ、この台詞、星人と対峙しているのがゲンじゃなかったら説得力有りまくりなんだよなぁ………(泣笑)

 ともあれ、職務上からも「馬鹿なことを言うな。」と反論してフリップ星人と対峙するゲンだったが、通常の格闘では互角以上でもフリップ星人が分身の術を使うや手も足も出ず、気絶に追いやられた。
 すると、ゲンの身を案じる百子を制して、今度は津山がフリップ星人と対峙した。ゲン同様に空手技を駆使する津山にフリップ星人は即座に分身の術を使い、バイブ星人ほどではないがかなりウザい高笑い(←かの有名なバルタン星人の声を加工したもの)を発しながら津山を取り囲んだ。
 だが津山は複数の存在に翻弄されず、飛び蹴りを放つや本体に炸裂させ、その瞬間に分身は消え失せた。しばし互角の戦いが続いたが、やがてフリップ星人はその場を遁走した。

 場面は替わってMAC基地。そこでゲンはダンから星人を取り逃がしたことを咎められ、危うく命を奪われるところだったと告げられた。常人としか思えない津山が星人と五分に渡り合ったことが信じられないゲンだったが、津山とフリップ星人の格闘を見ていたダンは、津山の腕なら等身大の星人と互角に渡り合えると太鼓判を押した。
 だが、津山の腕でも必ず勝てるとまでは言えず、場合によっては命を落とすことも考えられると見ていたダンは、星人を倒すのはあくまで自分とゲンの役目とし、津山に必勝法を教えて貰うよう命じた。

 だが、「黒潮流・空手野外道場」の看板を掲げた津山の道場近くまでやって来たゲンは、しかし、嬉しそうな表情で津山の元に向かう百子を見て、そのまま引き返し、一人で訓練に取り組んだ。
 ゲンが津山を訪ねなかったのは明らかに嫉妬である。空手で劣ることへの嫉妬か、百子を奪われていることへの嫉妬か、はてまたその両方か。いずれにしても女性のチョットしたジェラシーは可愛らしくもあるが、男の嫉妬はみっともないだけである。うちの道場主を見ていても良く分かるのだが………特に惚れた女が男とラブホテルから出て来たのを偶然見てしまった時の道場主の嫉妬に歪んだ表情ときたら………ぐええええええええっっっっっっ‥‥……(←道場主のデモリッション・アーサナーを食らっている)。

 結局、この嫉妬による命令不服従は裏目に出た。
 東京A20地区に現れたフリップ星人の前にMACは惨敗した。分身の術に翻弄されて実体を見誤って飛び蹴りを敢行したゲンはそのまま川の中へどっぽーん(苦笑)。平山・青島も川の中へ投げ飛ばされ、名もない隊員は大木に向かって投げ飛ばされたことで殉職した(恐らく首の骨を折ったと思われる)。
 杖に仕込んだ特殊な銃でフリップ星人を追い払ったダン(←殉職者が出る前にやらんかい)は、ゲンを厳しく咎めた。
 例によって杖でゲンを殴りつけ、逃げ出す態度が気に食わないというダンに対し、ゲンは逃げていないと抗弁した。だがダンは(理由ははっきり言わなかったが)ゲンが津山に教えを乞うことを恥じて彼に技を教わらず、それが為に殉職者を出し、逃げたフリップ星人がまた誰かを襲うかも知れない状態にあることを挙げてゲンを詰った。

 ダンの怒りはもっともである。
 津山の格闘能力を見て、ゲンに適切なアドバイスをしたのに、ゲンは嫉妬からそれを守らず、それがために技を身に着けることなく、犠牲者まで出したのだから。
 ダンは、一連のゲンの動きに対して、「人の命を救う為にお前が津山君から技を教わることが恥ずかしい事か?それより身勝手な理由で教わろうともしないで逃げ出す事の方が遥かに恥ずべき事じゃないのか?」と正論過ぎる正論を展開した。
 これに対して、地面に這いつくばったままぐうの音も出ないゲンだったが、ダンは続けて、「百子さんも、スポーツセンターの子供達も皆、お前がそんな男ではないと信じている。」ともしていた。
 鬼コーチ振りが目立ったダン隊長だったが、この第15話での隊長振りは正に名演だった。「鬼」は時と場合によって神にも悪魔にもなる。ゲンのくだらないプライドを悪魔の様に粉々に打ち砕きつつ、本当のゲンはそんな人物ではないと神の如き慧眼を見せるダンは最高な意味での鬼コーチだった。

 かくしてダンの叱責と激励を受け、心から反省したゲンは改めて津山の元を尋ねた。目を閉じたままゲンに相対する津山は、教えを乞うゲンにダンから教授を頼まれていたこと、自分がMACに好意的ではないこと、それでも百子の口添えを受けて引き受けたことを口にした。
 さすがに面白からぬ台詞の連発を受けて気分良い筈のないゲンだったが、それでも教えを請い、それに対して津山は何を教えればいい?と問うた。
 ゲンの目的はフリップ星人の分身の術に惑わされない術の会得だった。ところがここでしばし会話が噛み合わなくなる。星人が何体にもなったことを「不思議なことを言う。」と言って否定した津山は、星人は一人しかいなかったと言い張った。
 しばらくして、ゲンの言いたいことを悟った津山は一笑いすると、「成程、あなた方は不便だ。」と宣った。

 まだ不可解状態だったゲンに津山はその辺りにあるボールを自分にぶつけるよう促した。それに言われるがまま次々とボールを投げつけるゲンだったが、津山は目を閉じたままそれらを次々と躱した。だがそんな津山が今度は自分が投げる番だとして、ゲンにその辺りにあるボールを取ってくれと言い出した。
 その台詞で津山が盲目であることが明らかになり、これにより話は一本の線に繋がった。

 つまり最初から見えていなかったから、分身に惑わされなかったと云う話である。
 作中明言されていなかったが、恐らく盲目の津山は視覚以外の四感を総動員して周囲の事物を捉えているのだろう。それゆえフリップ星人が残像にせよ、幻術にせよ、視覚を惑わしても津山には関係のない話となっていた。
 ともあれ、津山に目を閉じてボールを避けるよう指示されたゲンは初め為す術べなくボールを当てられまくっていた。痛い思いをしながら視覚に頼らず実体を追うことの重要性を思い知ったゲンは、次は猛を特訓パートナーに訓練を続けた。

 ただ、当然のことながら、聴覚による気配察知にせよ、心眼開眼にせよ、そう簡単に出来たら誰も苦労はしない。ゲンはボールを当てられまくっていたのだが、後年『ウルトラマンレオ』のビデオに収録された真夏氏へのインタビューによると、このときゲンにボールをぶつけていたのは撮影スタッフ達で、スタッフ達の様子を「笑いながら(怒)。」と宣っていた(苦笑)。
 だが、津山のような鋭い感覚を身に着けるまでは何があっても目を開くまいとした強い決意が功を奏したのか、程なくゲンは猛の投げるボールを受け、逆にそれを猛に投げ返すのに成功し、ついで突然投げつけられたダンの杖をも掴み取ったことで、ダンから「免許皆伝」を告げられた。

 直後、丸で特訓成功を見計らった様なタイミングで(笑)、東京A20地区にフリップ星人が現れたとの通信がダンの元に寄せられた。
 現場に先行していた平山・青島・赤石は、さすがに格闘は不利と見たのかMACガンを一斉射撃。それを受けたフリップ星人は高笑いしつつ巨大化した。
遅れて駆け付けたゲンはこれを見て即座にレオに変身。普段分身の術に頼り過ぎているためかフリップ星人は数々の宇宙人達に比べて純粋な格闘能力は然程でもなく、レオはやや優勢に戦いを進め、ダンによるマッキー3号からの攻撃も文字通り追い打ちを掛けた。

 こうなるともうフリップ星人のとるべき手段は見え見えで、等身大時同様分身の術を発動した。初め、丸で特訓成果を忘れたかのように分身の術に翻弄されるレオだったが、これに対してダンがマッキー3号から攻撃し、特殊な泡を噴き付けてレオの視界を封じたことで(その後少し時間が掛かったものの)心眼が開眼された。
 そうなると以後の戦いは全くのレオペースだった。投げ技でフリップ星人をダウンさせたレオはエネルギー光球を放ち、フリップ星人を木端微塵に粉砕して勝利した。これにより、フリップ星人はレオの光線技に倒れた第1号となった(笑)。

 戦いを終えたゲンは病床にいた。どうもダンによって非常(非情?)の手段として噴出された泡攻撃はしばらくゲンの視力を奪っていたようで、病院ではようやく目に巻いた包帯が取られるところだった。
 包帯を取ってくれた百子、自分を見守るトオルとカオルに相好を崩したゲンは、百子の背後にいた津山を見て一瞬表情を曇らせたが、その津山から出たのは謝罪の言葉だった。
 直後の津山と百子の言ですべてが繋がったのだったが、津山は第2話にてマグマ星人ブラックギラスレッドギラスによって黒潮島が沈められた際に唯一人生き残った人物で、つまり百子とは同郷だった。
おまけに津山はその際に命は助かったものの負傷により失明し、故郷を守り切れなかったMACを不甲斐ない組織と見做して嫌悪していたとのことだった。
 だがゲンの活躍を知り、MACを見直した津山はゲンに和解の握手を求め、それに応じつつも、隊長のおかげと言い掛けたゲンはそこについさっきまでいたダンの姿が消えていることに気付いた。

 ゲンの回復を見届けたダンは隊員が殉職した現場の大木に花を手向けており、後から来たゲンとともに隊員の死を悼み、今後も襲い来るであろう宇宙人との戦いに犠牲者を出さずに戦おうという事を改めて誓い合ったのだった。
 かくして、これまでの中でもダンが様々な意味で最も隊長らしい様々な面を見せた第15話は終結したのだった。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新