ウルトラマンレオ全話解説

第16話 真夜中に消えた女

監督:外山徹
脚本:若槻文三
黒い花の星人アトラー星人登場
 冒頭、いつになくホラーな雰囲気を湛えてトオルと1人の少年が蘭の花咲く温室に侵入していた。温室の中には低めの女性のすすり泣きと思しき声が響いており、トオル達は用意したテープレコーダーの録音ボタンを押した。
 結局、植木鉢の落ちた音に驚いて室外で待っていたカオル共々逃げ帰ったのだが、どうも幽霊出現の噂を聞いてその正体を探りに来たものらしかった。

 話を聞いたMACの男性隊員達(平山・青島・赤石)は大笑い(しかもドアップで)し、それを嗜めていた女性陣の白川・桃井もやはり笑っていた。
 どうも台詞を聞いている限り、幽霊を非科学的存在として、それにビビったトオルを嘲笑とまではいかなくても、その子供っぽさを笑っていた感じだったが、幽霊の存在に対する考えは人それぞれにしても、地球の科学で解明不能な怪獣・宇宙人が毎週のように現れる世界なのだから、正体不明の存在にもう少し警戒感をもっても良さそうなのだが、ここのところウルトラマンシリーズに限らず、特撮全般が子供の証言に対して大人の対応が不可解である。

 ともあれ、一人事態を軽視していなかったゲンは、トオルの学校に駆け付けた。どうもMACステーション内同様に幽霊騒動を笑いの種にされた様で、それを受けてトオルは完全に不貞腐れていた。
 トオルの抱えていた思いは複雑な様で、大人達の対応に収まりが着かず、新たな証拠を求めて近所のお兄さんと件の温室に来ながら、同じことの繰り返しを恐れて帰ってしまった。
 哀れにも、帰るに帰れないお兄さんはそのまま温室に潜入し、声の主を探す内に一人の女性に遭遇した。白いドレスを纏い、顔の左半分が薄い銀色のその女性(星野ユリ)は、怪光線を発し、それを浴びたお兄さんは絶叫してその場に倒れ伏した。

 後刻、(トオルが通報したと思われる)警察とゲンが到着して発見したのは、肌の色を完全に銀色に変えて息絶えたお兄さんの無残な姿だった。そしてその間にも女−(一応、設定上は「黒い蘭の女」と呼ばれる)は別の場所で一人の女性を襲い、その女性もお兄さんと同じ変わり果てた姿となった。

 場面は替わってMACステーション。一連の報告を受けたダンは「恐ろしい奴が地球にきた。」としてゲンに警戒を促した。これまでダンがツルク星人カーリー星人を「容易ならざる相手」、「今のお前では(倒すのは)無理」等として、気を引き締めるよう伝えたことは何度かあったが、頭から恐ろしい存在としたのは初めてだった。
 ダンは敵の正体を黒い花の星人アトラー星人であると述べ、アトラー星人のために全滅した惑星を(恐らくウルトラセブンとして)見たことがあると言及した。
 アトラー星人に襲われた惑星はすべての生き物が蝋細工の様になって死んでいたとのことで、加えてアトラー星人は以前にも地球に接近したことがあり、そのとき星人を追跡した地球防衛隊の隊員達は全員が返り討ちに遭って蝋人形状の死体となって送り返されたとのことだった。

 話を聞いて戦意を燃やすゲン。普段ならゲンの勇み足を戒め、不用意に戦いを仕掛けることを禁じるダンなのだが、これまでのレオの技では倒せないことや、レオが白蝋化して倒される懸念など、悲観的なことを連発しながら止めなかった。勝ち目の薄い相手を前にして、それでも地球を守る為に戦わざるを得ないことへの悲壮感が溢れた場面だった。
 ダンの忠告を受け、普段殆ど抱かない危機感を募らせるゲンを見て、心の中で「頼むぞ。決してお前一人を死なせない。決して。」と呼び掛けていたのもまたかつてない危機感を醸し出していた。

 直後、青島がトオルから借り受けたテープを聞いたダンはそれがアトラー星人の呼吸音に間違いないと断じた。ダンの証言によると、アトラー星には空気が無く、それゆえ空気のある地球では女性がすすり泣くような呼吸音になるとのことだった。
 そしてそうこうする内にMACのレーダーが東京BS105X地区に怪しい存在を捉えた。果たせるかな怪しい存在はアトラー星人で、ツルク星人カーリー星人達同様、通り魔的に人々を襲っては白蝋化させて、死に至らしめていた。

 アトラー星人の魔手はとあるマンションに及んだのだが、そこには友人から旅行中の留守番を頼まれていた百子がベッドに横たわって読書していた。アトラー星人の呼吸音を聞き付け、トオルのテープにあったのと同じ声に危険なものを感じたパジャマ姿の百子(嬉々)は弾かれる様にゲンに通報した。恋愛感情はともかく、頼りにはされているようだ。良かったな、ゲン(笑)。
 ともあれ、声の主がアトラー星人に違いないと断じたゲンは完全な命令形で百子に身を潜めて決して声を出さないよう命じた。幸い、これに従ったお陰か、百子は窓から覗き込んだアトラー星人に見つからず、ゲンが駆け付けるまで難を逃れることに成功した。
 しかし、このシーン、百子の立場に立てば凄い恐怖である。百子の部屋をアトラー星人が覗き込むのに前後して他の住人達の断末魔が何度も聞こえ、相手に気付かれなかったとはいえ、百子自身部屋を覗き込んでいた相手を見ている。アトラー星人は等身大時の容姿が地球人女性と(顔色を除いて)変わらないのだが、それでも幽霊と見紛うような純白ドレスが却って不気味だったことだろう。

 そんな状況に居た堪れなくなってマンションを飛び出そうとした百子だったが、タイミングよく駆け付けて来たゲンと遭遇。ゲンは百子を保護しつつマッキー3号のダンに現場の惨状を報告した。
 そして上空のマッキー3号に気付いた黒い蘭の女は不敵な笑いを浮かべると巨大化して、ヒューマノイドタイプながら、長い白髪と鱗に覆われた全身が不気味なアトラー星人としての本体を露わにした。
 夜間から夜明けまで、我が物顔にビルなどを破壊して練り歩くアトラー星人にマッキー3号と、赤い戦闘機(形状としては第3話終盤にてツルク星人に撃墜されていたものと酷似)が機銃掃射を浴びせたが、アトラー星人は胸部から蝋化光線を次々と発射し、ダンの乗ったマッキー3号も撃墜された。

 パラシュートで地上に降り立ったダンの元に駆け付けたゲンはダンの制止を振り切ってレオに変身し、アトラー星人に挑んだ。アトラー星人の蝋化光線を食らっては一巻の終わりと見たためか、戦いが始まったばかりだというのにダンは三ヶ月振りとなるウルトラ念力を発動した。
 過去二回はマグマ星人ツルク星人達の戦意を殺いだり、意識を攪乱させたりといった効果を見せていたが、今回は相手の特殊能力を封じる効力を発揮し、蝋化光線を封じられたアトラー星人相手にレオは戦いを優勢に進めた。
 だがレオがマウント・ポジションでアトラー星人を殴りつけている間にダンの限界が来た。周知の様にウルトラ念力はダンの寿命を縮める危険な技にして奥の手で、発動後のダンはいつも憔悴しきっていた訳だが、今回は途中でダンの力が尽き、念力は途絶えた。
 これによりアトラー星人は蝋化光線を取り戻し、何とかその照射を躱していたレオも三度目に両脚に食らい、足の自由が利かなくなったところをボコボコにされ、地面に倒れるやゲンの姿に戻って戦線離脱した。

 人間体に戻ったゲンは完全に気を失い、ダンに起こされてようやく意識を取り戻した。気付いたゲンが状況を尋ねると、ダンが閉口してまともに答えられない惨状だった。
 改めてダンが本部の白川に尋ねると、アトラー星人東京BS28地区に移動し、その地の住民達は既に避難を終えていたとのことだった。詳細な描写が無かったとはいえ、ダンが指揮していない状態で住民避難が終わっていたのだから、アトラー星人は形振り構わず即座に逃げ出す程のとんでもない存在と見做されていたのだろう。
 そしてその惨状の中、ゲンはトオルとマサオという少年がいるのに気付いた。何故避難しないのか?と詰問するゲンにトオルが答えたのは、アトラー星人に兄(要するに温室で殺されたお兄さんね)を殺されたマサオが仇討ちを図り、これにトオルが同調したものだった。
 第4話で同様の行動を取ろうとして猛に止められたのを忘れたのか?と言いたくなるトオルの言動だが、これらの展開を受けてゲンもすっかり弱気になっていた。

 MACステーションにて勝算の無さを嘆くゲンに怒りを露わにするダンだったが、いつもと少し異なったのは、だからと言って折檻する訳でもなく、戦意を燃やすにしても「俺がやらなければ誰がやるんだ?」としており、少し前の心での呼び掛け同様ゲン一人の死闘強要は考えていなかった。
 また何か特別な目的や訓練を示した訳でもなく、単なる根性論と取れなくもなかったが、ゲンはダンに同調して戦意を取り戻し、珍しく二人でマッキー2号に搭乗した(普段、ダンはマッキー3号の単独搭乗が圧倒的に多い)。

 一方、殆ど廃墟と化した街中に暴れるアトラー星人はまだ残るビルを壊して回り、人間に対しても蝋化光線を続発して次々に人々を白蝋化していた。
 ゲンとダンの乗るマッキー2号はヒット&アウェイ的にアトラー星人の蝋化光線を躱しながら機銃掃射を繰り返し、何発ものミサイルを放つ内に、ダンは蝋化光線を放つ胸部こそが弱点でもあることを見抜いた。
 それを受けて二人は胸部への波状攻撃を続け、久々にマッキー2号を分離させ、α機を操縦するゲンは錐揉み飛行でアトラー星人の胸部に体当たりするとレオに変身して機内から脱出。地面に降り立つや即座にエネルギー光球を放って、変身後で見れば瞬殺に等しい勝利でアトラー星人を倒し、爆発した後には巨大な黒い蘭の花が残された。
 難敵にしては些か呆気ない最期だったが、特殊能力が凄過ぎる故に、それを封じられた後の弱体化が大きいと考えれば理に適ってはいた。

 かくして難敵を倒したゲンとダンはいつにない満面の笑顔で勝利を祝い合った。かくして危機感溢れる第16話は終結した訳だが、今話をもって青島一郎隊員を演じた柳沢優一氏、赤石清彦隊員を演じた大島健二氏、桃井晴子隊員を演じた新玉恭子氏が降板した。
 設定的にも、背景的にも降板理由は詳らかではない。最後の出番だったと思うと序盤の青島と赤石の大笑いに何処か思う処を感じてしまうのだが、中盤以降完全にゲンとダンの二人舞台になっていたのにも異を唱えたくなってしまうのだった。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新