ウルトラマンレオ全話解説

第18話 見よ!ウルトラ怪奇シリーズ 吸血鬼!こうもり少女

監督:山本正孝
脚本:阿井文瓶
こうもり怪獣バットン登場
 前話から始まった「見よ!ウルトラ怪奇シリーズ」の第2弾で、前回が狼男なら今回は吸血鬼である。
 冒頭、マッキー2号でパトロール中に夜明けを迎えたゲンと白土は朝焼けの美しさを愛でていた。こういうシーンを見ると第6話の悲劇を例外として元々ゲンと白土は対等且つ昵懇だったことが分る(非番を共に過ごすぐらいだからね)。
 ともあれ、朝焼けの晴天から暑くなるとした白土の推測に反し、その日気温は上がらず、異常気象としてMACが解決に乗り出した。宇宙人の侵略や怪獣出現でもないのにMACに依頼されたという事は、異常気象にあっても地球外要因によるものと見られたからだろうか?

 白川が提出したデータによると、東京上空にフィルターの様な物が出来ていて、それが太陽光を弱めているとのことで、ダンは即座に梶田にマッキー3号にて東京上空を調べるよう命じた。余談だが、作中直接の言及は無いが梶田はマッキーの操縦に優れ、単独搭乗機であるマッキー3号にダンに次いでよく搭乗する。
 現地上空で梶田はマッキー2号に登場するゲン・白土と合流。調査中にゲンは太陽光を遮る蝙蝠の大群を発見した。それ等を一匹として地上に来さすまいと戦意を燃やす3人だったが、対象が蝙蝠であると確認した途端に、「吸血コウモリだ!」と断じた梶田短絡過ぎ(苦笑)

 少し真面目に論じると、「コウモリ型モンスター」=「吸血モンスター」との図式が極めて根強いという事だろうか?実際、世界に分布する蝙蝠約980種の中で吸血(厳密には舐め取る方式での摂取)を行うのは中南米に生息するチスイコモウリのみで、人間を襲うことはまずない上(体格的にも人間に敵わず、他の動物に対する採血にしても睡眠中にこっそり行うものである)に、目一杯血を採ったしたとしても死に至る程の量ではない。
 要はブラム・ストーカーが著した『吸血鬼ドラキュラ』の影響が現実でもフィクションでも強いという事だろう。ま、稀に狂犬病を媒介することがあるので充分恐ろしい生き物ではあるのだが

 ともあれ、梶田の号令一下、ゲン・白土も機銃掃射で次々とコウモリ群を撃墜し、やがてコウモリ群は全滅し、それと共に東京には太陽の光と熱が戻って来た。
 梶田はマッキー2号に日没までの現場警戒を命じ、自分は一先ず事の顛末を伝える為に本部に戻るとしてその場を飛び去った。隊員同士の対人関係においてゲン・白土・梶田はほぼ対等(会話においても互いにタメ口を聞いている)なのだが、このシーンでは明らかに梶田が二人の上に立っていた。
 恐らく、任務上、ダンから一時的な現場指揮権を委ねられていたと思われる。だとすれば、梶田は空中戦指揮においてゲン・白土に勝ると見られているということだろうか?まあ、情報伝達の過程から状況に応じてたまたま梶田が命じられたという見方も出来るが、梶田の操縦技術によるものだとすれば興味深い。
 一方、現場に残ったゲンと白土だが、ゲンは一匹の討ち漏らしもないかと警戒色を保持していたのに対し、白土はこれと云った根拠もないのに討ち漏らし無し、とし、仮に一匹ぐらい逃したところで大きな影響はないという能天気振りを見せていた。
 数々の戦いを経てゲンが油断しない性格に育っているなら喜ばしいが、白土の楽天振りが些か気になる一コマだった。

 場面は替わって郊外の河原(←多分、多摩川だと思う)。
 夕飯の話をしながら歩いていた百子・トオル・カオルは草叢から妙な呻き声が聞こえるの聞き付けた。「男なんだから。」を理由に女二人から圧力を受けて探りに行かされたトオルが些か哀れだったが(苦笑)、草叢に伏していたのが若い女性(坂本智子)と分かると百子は即座に介抱にかかった。
 派手な紫色のドレスっぽいいで立ちが何とも怪しく、「救急車を呼びましょうか?」という百子の問い掛けに、「人を呼ばないで下さい。」と答えるのだから増々怪しい。一応、悪人に追われており、バレれば殺されかねないという理由を述べていたが、それをそのまま受け入れて自宅に連れ帰る百子、現実離れし過ぎ(苦笑)。

 一連の展開に対してトオルは懐疑的で、彼女の傷が火傷であること、MACによる蝙蝠群撃滅の直後であることから、その正体を怪しむ旨を百子に述べたが、百子は彼女が蝙蝠とは思えず、彼女の言をすべて受け入れ、トオルに対しても人を疑ってかかるのは良くなく、人間は互いが信じ合って、支え合うことが大切だと諭し返した。
 一個人としての百子の信念は素晴らしいのだが、現実の世界においても悲しいことにここまで見ず知らずの人間を丸で警戒しないというのは難しいし、諸手を挙げての賛成は出来ない。悪人に追われているのが本当なら、それこそ警察かMACに通報するのが現実的だと思うのだがなぁ………。

 結局百子は彼女を丸で疑わず、献身的に看護を続けた(いい人だ…)。スポーツセンターに出勤してきたゲンにトオルが伝えようとしたときにもそれを止めた。口止めされ、不満を露わにするトオルに対しても、怪我をして悪人に脅える少女をMACに調査に曝すのが可哀想であることや、一怪我人のために多忙なゲンの手を煩わすのが不適切であることを諭していた(本当にいい人だ……)。
 だが、正体を露わにしないとはいえ、少女は百子が出勤するや怪しい行動を取り始めた。百子が用意した食事は捨てて犬の餌にし、「うるさいわねぇ。」というだけの理由で息を吹きかけるやカナリアを殺してしまった。

 果せるかな、少女の正体はこうもり怪獣バットンで、夜になってトオル達が眠ったのを見計らうと牙を生やし、上衣を皮膜の如く広げると夜空に飛び出し、怪獣体となっては老若男女問わず人々を襲ってはその生き血を啜った。
 バットンによる被害は直接的な傷害に留まらなかった。伝説のヴァンパイア宜しく、バットンに血を吸われた人々もまた吸血鬼と化して人を襲うようになり、世の人々は、夜は屋内に身を潜め、昼になると吸血鬼化したと見られる人々に私刑を加えるようになった。
 これに対し、MACも捜査に乗り出した。というのも、吸血鬼化した人々を治すには元となった吸血鬼の血清を注射するしかないという事がナレーションによって語られていた。詰まる所、最前の出撃時に蝙蝠群に対する討ち漏らしがあって、逃げおおせた一匹が百子宅に潜入した訳だが、個人的にMACによる討ち漏らしを批判する気にはなれない。
 あれだけの大群を機上の目視で追うのはきわめて困難で、たった一匹の打ち漏らしがバットンとなって大きな被害を出したことを思えば、一匹以外を撃滅した成果の方が大きいとシルバータイタンは考える(もし何十匹と逃がしていれば、何十体ものバットンが暴れ回ったことになる)。
 また、撃滅直後は能天気な見解を述懐していた白土の、「徹夜の警戒が無駄になってよかった、てとこだよ。」の台詞からも、事後を含めて任務にはしっかり取り組み、最善を尽くしていたことが見て取れる。

 まあ、残念ながらと云うべきか、ストーリー的必然と云うべきか、MACとして最善を尽くしたものの、只一匹打ち漏らした蝙蝠がバットンとして人々を襲うことになってしまった訳で、トオルとカオルも百子も血を吸われ、バットンの下僕にされてしまった(ちなみに子供の血はまずいらしい)。
 直後、偶然MACロディーでパトロールしていたゲンと白土だったが、白土はそこが百子のマンションの近くと気付くと、「様子見を見て来てやれよ、心細いだろうからな。」とゲンに言っていた。
 第6話でゲンが自宅まで送る途中でカーリー星人に恋人を殺された過去を思うと、白土が元来人間の出来た男で、当時こそ悲しみと怒りからゲンに対して完全に心を閉ざしていたのを時間と共に克服したことが良く分かる。
 そしてその様子見が結果として事件解決に向かわしめた。バットンの手先と化した百子達の顔色や無口・無表情に異常を感じないゲンの鈍感ぶりは問題だったが(苦笑)、さすがに襲い掛かられて尚異常を察知しない訳ではなく、百子達に当て身を入れると部屋から逃げ出すバットンに気付いた。
 屋外に出たところで白土とゲンの挟撃に遭ったバットンは巨大化して怪獣としての正体を現すと翼を大きく羽ばたかせて強風を巻き起こした。強風の前に白土は立っていることも辛い状態に陥り、それを見たゲンはレオに変身した。
 バットンの翼は強風を起こす他にも縁に刃を持ち、空中攻撃と強風攻撃で殆どレオと組み合うことなく勝負を優勢に進めた。だがレオがエネルギー光球を放つことで翼がもげ落ちると勝負は徐々にレオ優勢にシフトした。
 一時、バットンは長大な耳から放つ破壊光線でレオに一撃与え、マウント・ポジションを取って牙攻撃でレオを刺殺せんとしたが、その牙をもぎ取られ、更には耳に投げつけられて怪光線を放てなくなると完全に勝機は失われた。

 もっとも、レオにとっても勝負は簡単には運べなかった。バットンを倒すこと以上に、バットンによって吸血鬼化した人々を救わなくてはならないのである。と思っていたら、ナレーションがこの難題を告げた次の瞬間には何の脈絡もなく注射器を取り出してバットンから血液を採取した(漫画的に言えば、話のノリで空中から出て来たに等しい(笑))。
 ともあれ、こうなるともう人類にとって害悪でしかないバットンを倒すのみで、程なくバットンをグロッキーに追い込んだレオは両足で放つレオキックでもってこれを倒した。

 怪獣を倒し、血清から吸血鬼にされた人達も元に戻り、ゲンは百子、トオル、カオルの隊員を出迎えた。その帰り道、バットンを見つけたのと同じ場所で拾った子犬を可愛がる百子を見て、あんな目に遭って懲りない百子に呆れるトオルと、そんな百子をゲンが微笑ましく見つめて第18話は終結した。
 確かに現実に即するなら百子のお人よし振りは少々眉を顰めたくなるが、疑り深い百子を見たくない気もするから少し複雑だ。

 ここで少し制作陣に酷な言及をするが、前話に始まる「見よ!ウルトラ怪奇シリーズ」という一種の梃入れだが、超有名モンスターである狼男・ヴァンパイアを宇宙怪獣に置き換えただけのストーリーは滑ったと言わざるを得ない。
 本作冒頭でも触れているが、『ウルトラマンレオ』は時代背景的にも制作当初から苦戦を強いられ、制作陣も前作の『ウルトラマンタロウ』を上回れないと端から思っていた有様だった。
 作風の暗さもあってか、1クール目の視聴率は14.1%と低迷。前17話の視聴率は8.9%で、ウルトラシリーズにおいて初めて10%を割ってしまった。
 結果論から言えば最終的な年間平均視聴率は10.9%で、10%を越えた話は健闘した方と言えるのだが、この第18話の視聴率は8.2%、続く第19話に至っては全51話中最低の6.2%にまで落ち込んだ。
 勿論視聴率の増減はそれまでの展開が大きくものをいうし、裏番組や宣伝との兼ね合いもあるから、とある話の視聴率が低いからと言ってその話を面白くないとするのは早計である。ただ、「見よ!ウルトラ怪奇シリーズ」から落ち込んだ視聴率が再度10%を越えるにはレオの弟アストラが登場する(と言う前評判もあった)第22話まで待たなかればならなかった。
 狼男やヴァンパイアをモチーフにした宇宙人や怪獣がいけないとは言わないし、猛の恋愛事情や、梶田の敏腕指揮官振り、白土の思い遣り復活という見所があるだけに、第17話と第18話に関しては、もう少しモチーフに+αされたものが無かったのかと惜しまれてならない。
 後、この第18話をもって二代目副隊長格・平山あつし隊員を演じた平沢信夫氏が降板したのだが、何ら言及がなかった上に少し歩く姿が(背中から)映っていただけというのも痛かった。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新