ウルトラマンレオ全話解説

第25話 かぶと虫は宇宙の侵略者!

監督:前田勲
脚本:若槻文三
宇宙昆虫サタンビートル登場
 冒頭、トオルの友達の家で何人かで観賞魚を見ていたところ、ジロウ(高橋仁)なる少年が癇癪を起こして飛び出した。ちなみにジロウを演じる高橋仁氏は当時の特撮にいくつも出演していた有名子役なのだが、どうも陰のある役が多い。
 そしてそんな薄幸色を反映させるかのように歩道橋の上で咳き込みだし、通りがかった百子とカオル(←トオル同様、カオルとも顔見知りだった)が心配して声を掛けると毒の粉が降りかかった夢を見て、それは現実で自分は死ぬ、という何とも身も蓋もない予言ともつかぬ、悲観的観測ともつかぬ話を述べてその場を走り去った。

 その場を去ったジロウは途中で遭遇したMACロディーの前に立って、強引に停車させた。MACロディーを運転していたのはゲンなのだが、ジロウはマッキー3号が宇宙に行けるかを問うてきた。
 ゲンがその質問を肯定すると、ジロウは自分をマッキー3号で綺麗な星に連れて行ってくれという。現実にいたら「何言ってんだ、コイツ?」で片付けられそうな申し出だが、けんもほろろな対応をしないのがゲンの良いところ。一先ずゲンが事情を聴くと、ジロウはカオルに話したの同じ話をし、毒の粉を受けてミドリガメも死んだと云う。
 命の危機の出処が夢と聞いてゲンも笑うが、ゲンは次に毒粉が舞い降りたら宇宙に連れて行くが、今は大丈夫としたが、ジロウは「でも…僕ぅ…。」を繰り返すばかり(←現実でこんな反応されたら、マジウザい)。

 結局、ジロウは肩を落としたままその場を去り、ゲンはMACステーションに戻った後もジロウの様子が気に掛かっていた。その頃MACステーション内では他の隊員達が明るく談笑していたので、ダンも佐藤もゲンの様子を訝しがっていた。
 そこへ梶田が、トオル経由でジロウが熱を出して寝込み、しきりにゲンの名を呼んでいることを伝えて来た。その背後では大槻美也子隊員(大原みどり)がダンに地球防衛委員会からの報告を伝えていた。
 内容はクリーン星にて明朝6時に新型CS137ロケット弾の実験を行うと云うもので、地球への影響はないという伝達にダンは頷いていて、これが伏線になっているのは分かるのだが、ダンはウルトラ警備隊時代の超兵器R1号の話『ウルトラセブン』第26話)を忘れていたのだろうか?

 ともあれ、この時点ではゲンの意識はジロウに向いていた。ゲンは即座にジロウを見舞った。ジロウの母(夏海千佳子)は医者の説明を受けて只の風邪と見ていたが、肝心のジロウはすっかり気弱になっていた。
 ジロウに促されて、机の引き出しを開けるとそこにはジロウが口にしていたミドリガメの死体があり、驚くゲンの眼前でジロウはしきりにのどの痛みを訴えた。とはいえ、ゲン的にはジロウの懇願に後ろ髪惹かれつつもジロウ宅を辞する他なかった。

 ゲンが帰った後、病床に伏すジロウの夢にマントを羽織った紫衣の男(花房徹)が現れた。男は幻想宇宙人クリーン星人で、綺麗な星に行きたがるジロウの願いを叶えるとした。
 粉が降りしきる空間をクリーン星人に抱えられて飛び出したジロウが辿り着いたのは色取り取りの花が満開に咲く美しき場だが、背景は灰色で、相変わらず妙な粉が降り注いでいた。
 そんな場を何故かジロウは綺麗だと感嘆していた。花の間にはジロウが失ったミドリガメとカブトムシがいて、人語を話し、毒の粉も目に沁みる雨も降らないこの星に生きればジロウも忽ち元気になると誘った。

 だがジロウが気付くとそこは病床だった。
 早い話夢だったのだが、ジロウはすっかり現実と思い込み、毒の粉を恐れて母親が換気の為に窓を開けることすら頑なに拒んだ。

 そしてその頃、MACステーションにはUFOが接近しているとの緊急情報が寄せられた。次いで宇宙ステーションV9から何者かの襲撃を受けており、救助を求めるとの声が伝えられた。
 やがてV9からの通信は途絶え、ダンは白土に出動を命じた。そして更に宇宙ステーションAからはUFOを迎撃に出た戦闘機が全機撃墜された旨がもたらされ、MACステーションのレーダーもUFOの存在を捕捉した。
 レーダー見ていた佐藤は、出撃した白土のマッキー3号が後5分で遭遇すると分析し、ダンはゲンに共に出撃する旨を告げた。そして連絡を受けた白土はUFO=未確認飛行物体を視認したが、その正体は宇宙昆虫サタンビートルだった。

 サタンビートルの存在は一般市民にも知らされた様で、40mある体躯の恐るべき存在で、市民には外出しないよう通達されていた。
 白土のマッキー3号に続いて、ゲンとダンの搭乗するマッキー2号も駆け付け、両機は迎撃に出た。しかし只でさえ外骨格の頑丈さに定評のあるカブトムシ型怪獣とあっては然したるダメージが与えられる筈もなく、逆にサタンビートルは脇腹にある6つの穴からロケット弾を放って地上を空爆する始末だった。
 数多くの建物が爆破・炎上し、多数の人々が逃げ惑うという状況に対し、最前の夢を現実と思い込むジロウはクリーン星に行ったカブトムシが自分を迎えに来たものと思い込んで家を飛び出した。
 マッキー2号機内からジロウが危険地帯に立ち入っていることを視認したゲンは着陸してジロウを追い、戻るよう促したがジロウには聞こえない。満面の笑みで自分に近づくサタンビートルを迎えるジロウだったが、当然傍目には踏み潰されようとしている様にしか見えず、ゲンはレオに変身して乱入した。

 サタンビートルは虫にしては頭が良い方の様で、レオとの接近を避けて空中に飛び上るとヒット&アウェイ攻撃でレオを翻弄した。更にレオが地面に倒れ伏すとそれを押さえ込むようにして角による刺突攻撃を繰り返した。
 だが、サタンビートルの攻撃は体躯を活かしてはいたが単調で、やがてそれに慣れたレオは立ち上がるやローキックを連打し、投げ技を駆使して形勢を盛り返し、終には左の羽根をもぎ取った。
 これに業を煮やしたサタンビートルは腹部からのロケット砲攻撃に切り換えた。レオはこれをバク転でかわし続けたが、やがてこの攻撃の巻き添えでがれきの下敷きになりかけたジロウは再び夢の世界に陥った。

 夢の中でまたも毒の粉に曝されたジロウはクリーン星人の呼び掛けでブランコに乗って避難し、そのクリーン星人からレオと戦っているのが自分のカブトムシであることを知らされた。
 サタンビートルがジロウを迎えに来たのか?という問いを肯定したクリーン星人は「嫌な奴が来た…。」と呟くと、ジロウに決してブランコから降りないこと、従わなければ綺麗な星には連れて行かないことを告げてその場を去った。
 程なく、ジロウを探してゲンがやって来た。ゲン(←何故か半透明で、背番号も鏡に映った様に逆向きだった)はジロウに帰宅を促すが、ジロウは毒の粉に襲われない綺麗な星に行くと答える。そんなジロウにゲンはジロウの体が弱く、心はもっと弱いことを指摘した。

 結局、ジロウはゲンに従わなかったのだが、そのやり取りをこっそり見ていたクリーン星人は満足した様に再び姿を現すとクリーン星に行こう、とジロウを唆し、ジロウはサタンビートルの背に飛び乗った。
 だが、最初は綺麗な星に行けると満足気だったジロウだったが、猛スピードで飛ぶサタンビートルに捕まっていられず、すぐに振り落とされ、そこで夢から覚めた。
 ジロウの眼前には必死にジロウに呼び掛けるダンがいて、サタンビートルはまだレオと戦っていた。そしてサタンビートルがレオを攻撃するために紫色の毒霧を噴出したのを見て、自分を散々苦しめていた「毒のゴミ」が、自分が信頼していたカブトムシが吐き出している姿に愕然とした。
 ダンにその事を指摘されたジロウは自分のカブトムシが悪の手先にされていることを泣いて悔しがり、ようやく他人の忠告に耳を貸す様になり、ダンに促されて避難した。

 ジロウが避難したことで周囲を気にせずに戦えるようになったためか、勝負は一気にレオ優勢に転じ、レオはシューティングビームを放ち、直後に少し劣勢になったことを除けば無難に戦いを進め、ジャイアントスイングで投げ飛ばした後にレオキックをその胸部に決めた。サタンビートルは二か所の砲口から激しく火花を吹き、悶絶した果てに絶命したのだった。

 ラストシーン。一連の出来事受けて吹っ切れたジロウはまだ病床にあったものの、心を完全に回復させていた。トオルに相撲を挑んだり、腹話術でゲンをからかったり、といったほのぼのシーンで夢を脱して明るい日常を取り戻した終わり方には全く異論はない。
 ただ、クリーン星人はジロウの夢の中にしか登場せず、地球人から母星を(断りもなく)ロケット弾の実験台にされたことに対する星人の想いや、それが生んだ報復に対する地球人側の反省や悔悟が皆無だったのは、『ウルトラセブン』の名作「超兵器R1号」を知る身としては大いに不満が残った。
 ゲンはサタンビートルクリーン星人によって繰り出されたことを推測していたことから、姿は見せずともクリーン星人の存在を知っていた訳だから、ゲン以上に宇宙人に詳しいダンもその存在を周知して言ことだろう。
 血を吐きながら続ける悲しいマラソンがまたも不毛な復讐劇をもたらしたことが完全黙殺に近いスルーをされていたことは『ウルトラセブン』『ウルトラマンレオ』の両方を愛する身として異を唱えずにはいられない。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新