ウルトラマンレオ全話解説

第30話 日本名作民話シリーズ! 怪獣の恩返し

監督:筧正典
脚本:田口成光
サーベル暴君マグマ星人再登
 冒頭、舞台は岩山が林立し、草木はまばらにしか生えない荒涼とした星だった。そこでは第2話以来の登場となる、ウルトラマンレオの宿敵・サーベル暴君マグマ星人宇宙鶴ローランを追い回していた。普通「追い回す」と云えば殺害を目的とした追跡を想像するが、今回のマグマ星人のそれは求愛行動(笑)。
 「宇宙で一番美しい(ナレーション談)」とされるローランを妻に迎えんとしていた訳だが、はっきり言って異様だった
 漫画『ウルトラマンSTORY0』に登場したマグマ星人は異星を侵略するに際しても「俺は美しいものしか認めん!」、「無駄に傷つけてこの星の価値を下げたくない。」等の「美」にこだわる台詞を連発しており、ローランへの求愛もローランを美の対象としてのものであることは想像に難くないが、「宇宙で一番美しい」と形容されるローランの容姿は羽根を生やした恐竜然としたもので、見た目的に「美しい」とは映らなかったし、それにヒューマノイドタイプの宇宙人が強引な求愛をしていたのだから、恋愛ものとしてはドン引きである。

 ともあれローランの反応は明らかに拒絶だった。フィクションで、宇宙人や怪獣の恋愛観も詳らかにされていない故、異種族間の恋愛や婚姻についてはコメントし辛いのだが、いずれにせよマグマ星人はその性格からして嫌われてもおかしくない。
 ナレーションは「不幸なことにローランマグマ星人が大嫌いだった。」とどこかマグマ星人に同情的に論じていたが、まあ嫌われたのは自業自得だろう。実際、求めに応じないローランに業を煮やしたマグマ星人は逃げるローランに手から針を放って攻撃し、その針を受けて苦しそうにするローランを見て悦に入っていたのだから相変わらずの悪役振りである。

 足に刺さった針のために深手を負ったローランは飛ぶことも儘ならず、マグマ星人は強引に思いを遂げんとしたが、そこに付近パトロールの為にゲンの搭乗していたマッキー3号が飛来した。
 ゲンはマグマ星人に攻撃を仕掛け、その間隙を縫ってローランは逃亡に成功した。例によってマッキー3号の機銃ではマグマ星人を倒すには至らなかったのだが、ローランが逃げる一助としては充分だった。
 今更解説するまでもないが、故郷L77星を滅ぼし、数多くの同胞を死に追いやったマグマ星人はゲン=レオにとって、八つ裂きにしても飽き足りない相手である。だがさすがにマッキー3号からの機銃掃射でマグマ星人を倒せると思っていた訳ではないだろう。むしろ目的を逸して遁走したマグマ星人に「ざまぁ見ろ!」と悪態をついていたことからも、この場ではこれで充分、との想いだったのかも知れない。

 その後、ゲンは傷ついたローランを上空から探索するもその姿を見つけることは出来なかった。実の所、ローランは地球のとある山中に避難しており、傷に苦しんでいたところを自転車屋の大熊シンジ(黒部進)・ケンジ(亀田秀紀)父子に目撃された。
 大熊を演じた黒部進氏がウルトラシリーズとどうかかわってきた人なのかは、このようなサイトを見る人にいちいち解説したりしないが(笑)、この大熊はハヤタとは全くの別人の一般ピープル。彼から見れば初見のローランは恐ろしい怪獣でしかなく、即座に逃走に掛かった。その迷走振りは遅れて逃げるケンジが「冷たい親だなぁ。」とぼやくほどだった。
 だが、ローランに追われる二人は自転車を乗り捨て、必死に神仏に祈りながら逃げ惑い、逃げ切れないと判断するや、ケンジのアイデアに従って死んだ振りをした。

 ここで話は思いっ切り逸れるが「死んだ振り」に関するシルバータイタンの個人研究見解を述べたい。
 『イソップ童話』の話が有名過ぎてから「熊には死んだ振り。」を誰もが一度は聞いたことがあると思われるが、同時に「現実には熊相手に死んだ振りをしても無駄。」との論も多くの人々が耳にしていることだろう。

 結論を先に言えば、「確実に有効とは言えず。効果が有るか否かはその時次第」ということになる。

 人間と熊が遭遇するのは出会い頭か、食害目的かに別れ、多くは前者である。ただ、聴覚・嗅覚に優れる熊は多くの場合人間よりも先に相手の存在に気付いている。それゆえそれでも近づいてくるケースには、若熊の好奇心や、警戒心である場合が多い。
 その場合は、死んだ振りをすることで熊の方で、「自分に危害を加えない存在」または「動かないつまらない存在」と判断すれば去っていくことになる。
実際に死んだ振りで助かったケースは間違いなく存在する

 逆に食害目的の場合は何をしても襲ってくる。イチかバチか戦った方がまだ助かる可能性は高まる。
 熊に限らず雑食・肉食の動物には動物の死体を食する物も多く、熊に取って殺した相手は「皆、死体」である。故に食害目的で近づいてくる熊相手に「死んだ振り」は「食べて下さい。」と言っているに等しい

 結果、熊との遭遇で確実にこれ、といった方法は存在しない。人間が十人十色であるように、熊も十匹十色なのである。
 考え得る方法としては、
・視線を逸らさず睨みつける(背を見せて逃げれば本能で追ってきます)。
・敵意が無いことを示す為、下手に動かず、落ち着いた声で歌でも歌う。
・熊の方を向いたまま少しずつ後退りで距離を取る。
・何か荷物を置き、それに熊の好奇心を向けさせる(←注:この時の物を決して取り戻そうと思ってはならない
・最悪、既に押し倒された場合、相手が匂いを嗅ぐ程度の動きしかしないなら、首筋を庇って動かない(好奇心や様子見が目的ならやがて熊は去る)。
・どう見ても食うのが目的と見たら、何か棒状のものを得物に急所である鼻面を殴る。

 等々が挙げられるが、いずれも道場主の個人研究の域を出ない、生兵法なので、まずは熊に遭遇しないことを心掛けて下さい。

 さて話を戻すが、いつまで経っても襲われる様子が無いので大熊が恐る恐る目を開けると、ローランがすぐそこまで迫っており、彼は気絶してしまった。だが程なくケンジはローランが何かを懇願しているのに気付き、やがてローランの脚に刺さっているマグマ星人の針と、それを抜いて欲しいと願っているのを察した。
 ケンジは父を起こし、起こされた大熊はまだ恐怖が拭えない様子だったが、両手を合わせて懇願するローランと、「弱気を助け、強きを挫くのが男の道だって、いつも父ちゃん言ってたじゃないか。」と息子に言われては大熊も男気を発揮しない訳にはいかなかった。

 ローランの脚に乗った大熊父子は二人掛かりで針(と言っても大人の身長ほどもあるが)を抜きに掛かった。痛みによるものか感謝によるものか涙を流すローランにこれぐらいで泣くなと諭す大熊のべらんめぇ口調が笑えた(笑)。
 そこにMACカーでのパトロールで通りかかったゲンも加勢した。かくして三人掛かりでようやく針は抜けた訳だが、抜けた途端に勢い余って三人は土手下に転落。その時の衝撃で大熊は首を負傷してしまった。
 それに対して申し訳なさそうにするローランだったが、大熊は「なあに良いってことよ、困ったときは御互い様だ。」と返していた。つまりは古き良き江戸っ子って訳ね(笑)。

 ローランは飛び去り、場面は替わってスポーツセンター。ケンジもまたスポーツセンターの練習生で(ローランを助ける際にもゲンと顔見知りであることが描写されていた)、子役を出し易く、設定し易い番組である(笑)。
 そこではレギュラーメンバーが、ケンジ父子が良い事をしたと褒め称え、同時に『鶴の恩返し』みたいだ、とも話していた。
 そして場面は大熊自転車店。首の怪我で生業に支障を来たしていた大熊は「技術者募集」の張り紙を店前に掲げていた。それを見て早速一人の女性(桜井浩子)が応募して来た。
 大熊は女性の体力ではきつい仕事で、給料も安いとして暗に断ろうとしたが、女性はお金なんか要らないと云って半ば強引に押し掛け店員となった。
 直後、ゲンはケンジを連れてMACカーで大熊自転車店に現れた。恐らくスポーツセンターの仕事を終え、MACに戻る前に見舞いがてら訪れたのだろう。てっきり休業しているものと思っていたケンジは驚いて宅内に入り、そこでゲンは押し掛け女性店員と遭遇した。
 ゲンと女性店員は一目見て互いにレオとローランが人間体であることを察知した。ゲンはローランを(大熊父子の耳に入らない様に)店外に連れ出すと何故ここにいるのか?正体がバレたら大変なことになりはしないか?を詰問した。
 勿論ローランの行動は怪我から助けられたことへの恩返しで、自分を助けたために負傷休業に追いやられた父子を放っておけなくてのもので、アキ子がハヤタを慕った訳ではない(笑)。
 ゲンはローランの正体から賛同しかねていたが、結局彼女の父子への想いに押し切られる形で渋々黙認せざるを得なかった。

 そして夜。住み込み店員となったローランは父子が寝静まったのを見計らうと秘かに元の姿に戻って自分の羽根を取っては、それで風車を作り始めた。風車は不思議な力を持ち、それを自転車に装着すると非力なカオルが自転車競走でトオルや他の男児たちを軽く追い抜くという効果を発揮した。
 勿論子供達は競ってその風車を欲しがり、それを求めて大熊自転車店は大繁盛した。かくしてローランは彼女なりの恩返しを為した訳だが、皮肉なことにこの事が多くの子供達を危険に曝した。
 つまり、風車にローランの気配を感じとったマグマ星人が次々と風車を持つ子供の前に(等身大で)現れ、襲い掛かって来たのである。

 幸いと云っては何だが、マグマ星人の関心はあくまでローランにあり、風車を奪う際に自転車から突き落とされる以外に子供達の身に危害はなく、マグマ星人は次々と風車をサーベルで叩き切っていった。
 俗に云う「可愛さ余って憎さ百倍」状態に陥っていたと思われるが、「ウルトラマンレオの宿敵」転じて、「獣姦趣味のストーカー」に成り下がっていた有様は、敵キャラながらその情けなさに涙を禁じ得なかった(苦笑)。ま、子供番組に獣姦描写の意図は無いだろうし、『ウルトラマンレオ』放映時に「ストーカー」という言葉はなかったが、令和の世には作れんな、こんな話(苦笑)。

 ともあれ、マグマ星人出現の報を受けてMAC隊員達が駆け付けた。
 MACガンを一斉掃射し、採石場にマグマ星人を追いこんだMAC隊員達はMACガンやMACナイフを駆使して久々に等身大宇宙人との格闘戦を展開した。
 ゲンが背後からの手刀打ちで砂山から叩き落したのを皮切りに梶田と白土が立ち向かうも二人とも秒殺で叩きのめされてしまった(泣)。「星人は強い」という印象付けの為か、MACの「噛ませ犬」としての役割によるものかは定かではないが、ダンに鍛えられる以前のレオに格闘で苦戦し、多くの書籍で「然程強くない。」とされているマグマ星人に全く敵わなかったMACの立場にも涙を禁じ得ない。
 実際、直後にゲンと拳を交えるやマグマ星人は僅かに抵抗しただけですぐに逃げてしまった。まあ第1話時点のレオに劣勢に立たされていた訳だから、その後幾多の死闘・いじめ特訓で鍛えられたレオ相手ではマグマ星人がろくな抵抗を出来なかったのも分からない話ではないが。

 マグマ星人が逃亡すると入れ替わりに風車をもってダンが現れた。ダンは風車がローランの羽根で出来ており、それを持っていた子供達がマグマ星人に襲われたことを言及した。
 既に風車をすべて回収したダンはゲンがローランの居場所を知っていることを察知しており、ダンはゲンに、彼の責任において彼女を宇宙へ送り返すよう命じ、ゲンもそれを了承した。以前ならローランのことを知らせなかったゲンを叱責し、かなりきつい口調で強制送還を命じていたことだろうから、この辺りゲンとダンの関係も大人なものになっていることが伺えるのが嬉しい。

 ともあれ、ゲンはローランに一部始終を伝え、彼女に宇宙への帰還を促した。自身の身の振り方以前に、自分の好意が子供達を危険に曝したことに項垂れるローランだったが、これに対してはさすがにゲンも同情を示し、「悪いのは皆、あのマグマ星人だ。」とした(←間違ってはいない)。
 しかし、ローランは自分の存在が周囲に災厄をもたらしている結果を踏まえて帰還に同意。そんな彼女に対し、ゲンはすべての元凶であるマグマ星人を誘き寄せる為として、風車を作って欲しいと申し出た。
 ゲンはマグマ星人が自分にとって仇であることを告げ、ローランも協力に同意した。

 その夜、完治の目途がった大熊はケンジと、ゲンや星村(←ローランの人間名)も誘って快気祝いしようと云いながら帰宅したのだが、店は閉まっていた。状況を訝しがりつつ裏口から宅内に入ろうとした二人は家の中から先日助けた怪獣の声と星村の泣き声がするのを聞き付けた。
 恐る恐る父子が扉を開けると障子に映っていた影は風車を作るローラン。脅えつつも障子を開けた二人だったが、そこに居たのは星村だった。だが星村はすぐに自分が先日助けられた怪獣であることをカミングアウトし、「星村=ローラン」が信じられずにいる大熊に対し、ローランは出来たばかりの風車をゲンに渡して欲しいと託して涙ながらに大熊邸を辞し、その後ろ姿はかき消すように消えていったのだった。

 そして満月の荒野に元の姿で立つローランの元にマグマ星人が降り立った。マグマ星人は末期ストーカー宜しく、自らの求めに応じないローランを殺すことを決意していた。我が物にならないなら他者のものになることを避けるべく殺してしまおうという歪んだ独占欲だろうか?
 だがこのことを予期していたゲンはすぐにMACロディーで風車を持って駆け付けた。この間もマグマ星人は何度もサーベルでローランを斬り付け、それに対してローランも時に噛み付いたりして抵抗していたが、根が心優しく、どう見ても好戦的に見えないローランは、戦いは不得手の様だった。
 勿論とどめの前にレオが乱入し、宿敵同士の一騎打ちとなった。とはいっても前述した様にマグマ星人は数多く存在する宇宙人にあって決して強い方ではない。ましてパワーアップを重ねたレオ相手には明らかに劣っており、自慢のサーベルを駆使しても優勢に立てず、初登場時よりは幾分アクロバティックな動きも見せたが、レオがローラン譲りの風車を投げつけるとそれを心臓に受け、地面に倒れ伏すと絶命・消滅した。

 かくしてレオはローランの身を守り、L77星の同胞達の無念を晴らした。勿論マグマ星人は一人しか存在しない訳ではなく(平成以降のウルトラ作品に別個体が何体も登場している)、書籍によってはこの第30話に登場したマグマ星人を「二代目」と付記し、第1話・第2話に登場した者とは別人とする向きもあるが、ゲンが「仇」と言及していたことや、令和2(2020)年10月5日現在レオとマグマ星人との新たな戦いが描かれていないことを鑑みればこの第30話で倒された個体を同一人物(?)と見たいところである。
 ただ、レオ自身はようやく仇を討てたことに何の感慨も見せなかった。レオは即座にローランの介抱にかかり、それを見ていた大熊は「本当に心優しい怪獣」とし、ケンジは「怪獣なんかじゃないよ。星村さんだったんだよ。」と返し、大熊もそれに同意した。
 月並みな表現だが、大熊父子にとっては間違いなく星村だったと云えよう。

 かくして風車を残し、ローランはレオに先導されて地球を去った。風車を手に笑顔で走り回る子供達にゲンは目を細めつつ第30話は終結した訳だが、個人的には仇が討てたことへの言及が欲しかったように思われるし、故内山まもる氏の漫画版の様に宿敵として、敵役レギュラーとして何度となく登場するマグマ星人を見たかった気もする。
 ま、仮面ライダーシリーズにも言えることだが、ヒーローには復讐を契機に戦い始めても、復讐に捉われ続ける存在であって欲しくないと云ったところだろう。復讐はエネルギーを生んでも、決して好ましい感情ではない故に。


次話へ進む
前話へ戻る
『ウルトラマンレオ全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る

令和二(2020)年一〇月五日 最終更新