ウルトラマンレオ全話解説
第35話 おいらは怪獣大将だ!
監督:前田勲
脚本:田口成光
わんぱく怪獣タイショー登場
冒頭、宇宙空間を不思議な壺が漂い、その中からは許しを乞う声が漏れ聞こえた。やがてその壺は地球に、当たり前のように日本の東京に(笑)落下した。
落下地点では偶然トオルとカオルが友達と遊んでいた場所だった。正体不明の物体に皆が訝しがる中、皆を代表するようにトオルが地中に埋まって首だけ出していた壺を引き抜いた。
危険物化と思いきや、壺であることに一同が拍子抜けしていると、典型的ガキ大将である宮坂黒彦(斉藤健夫)―通称「怪獣くん」、但し本人はそう呼ばれることを嫌う−がジャイアニズムを発揮してその壺を自分の物として持ち帰った。
宮坂の体格は普通でやや長身気味の少年だが、その性格及び能力は典型的なジャイアンで、学業は芳しくなかった(←何せトオルに宿題を教えて貰うぐらいだった)。だが宿題をしなくてはならない程度の真面目さはあるようで、難解な宿題に頭を痛めていた彼は、やがて壺の中の声に気付いた。
恐る恐る壺の中を除いた宮坂はその中にわんぱく怪獣タイショー(声:白石冬美)がいるのを見つけた。壺から出してくれと懇願するタイショーをさすがに初めは自分達を食べかねない危険な存在と訝しがっていた宮坂だったが、哀訴するタイショーを見るに忍びなかったのか、「代わりに宿題をやる」という条件と引き換えに、タイショーの指示に従って壺のダイヤルを回してタイショーを救い出した。
やっとの思いで壺の外に出られたタイショーは明らかに子供で、宮坂に宿題をやるよう促されると、長く壺にいて凝った体をほぐしつつ机に向かったが、忽ち問題の難しさに音を上げた。
約束が違うと詰る宮坂は、タイショーが怪獣小学校の四年生と知って、自分とタメであることを知ると、自分と同じ四年生の問題が出来ないタイショーを小馬鹿にし出したが、その四年生の宿題が出来ない自分自身は思い切り棚に上げていた(しかもタイショーは地球外生命体で、地球の学問が全く分からなくても不思議ではない)。
結局宿題が出来る出来ないで醜い良い争いを繰り広げていた二人は、騒ぎを訝しがった宮坂の母(町田祥子)が部屋に入ってきたため、タイショーは再び壺の中に戻り、その場をやり過ごした二人は以後行動を共にすることとなった。
タイショーは一応壺から出してくれた宮坂に恩義を感じているようで、結局は宿題を引き受けたのだが、翌日学校で答え合わせを行ってみると、「0.6×7」を「28」と算出するオ馬鹿振りで、担任の松丸先生(桂木美加)が「(問題を解く)ページを間違えたのでは?」と訝しがる程だった(ちなみに決して成績優秀ではないトオルは正解していた(笑))。
恥をかかされたと憤った宮坂は報復に壺を足で揺らし、それが為にタイショーが壺の外に失禁すると、尿を拭いた雑巾を絞って壺の中に滴らせるという醜い争いが続いた。
余談だが、トオルと宮坂の担任である松丸先生を演じたのは桂木美加さん。
言うまでもなく『帰ってきたウルトラマン』で女性隊員・丘ゆり子を演じた女優さんである。『ウルトラマンタロウ』第16話でも女性教員を演じた彼女は、この第35話では髪をアップにし、チョット濃い目の紅を指した唇がかつてとは違った魅力を醸し出していた(『帰ってきたウルトラマン』出演時は化粧も薄く、初期はストレートロングヘアーで、途中からはショートカットなっていた)。
そして当時まだ25歳だった桂木さんは、この第35話を最後にTV出演が確認されていない。その後の動向は全く不明で、Wikipediaにおける団時朗氏の証言でも、結婚による引退が推測されているだけだった。
確かに男尊女卑の気風がまだまだ強かった昭和中期のこと、結婚共に仕事を止めて家庭に専念することを強要される女性も多かったことは想像に難くない。来年(2021年)には『帰ってきたウルトラマン』が50周年を迎えるので、何らかの形で健在な姿を見せて欲しいものだが、2021年時点で72歳となると出辛いかなぁ………?
話は戻って場面は宮坂宅。
宿題全問不正解で大恥をかいた上、宿題のやり直しを命じられた宮坂はタイショーを詰り、そもそもタイショーが壺に閉じ込められた理由が勉強もせずに遊んでばかりいたところを父親によって折檻されたものであることを知って、益々タイショーのお馬鹿ぶりに呆れ果てたのだった…………なあ、宮坂よ、「人の振り見て我が振り直せ」という格言を知らないのか?
その後も二人のお馬鹿発想は続き、宮坂が「学校がなくなればいいのに……。」とぼやいたのをタイショーが本気で受け止め、二人はこれを実行に移したのだから恐ろしい。
タイショーは巨大化(設定によると身長53m)して学校を壊しに掛かり、驚きながらも宮坂もこれを応援した。こうなるとタイショーは度々地球に現れては暴れ回った凶悪怪獣と何ら変わらない(と衆人には映る)。
当然の様にMACが出撃した。白土共にマッキー2号に搭乗した佐藤が攻撃開始命令を出し、マッキー3号に搭乗する梶田がこれを応諾した。ゲンもMACロディーで地上から加勢したが、悪ガキでも怪獣は怪獣。機銃掃射はそれなりの痛みは与えたようだが、タイショーに然したるダメージを与えるには及ばず、マッキー2号・3号はタイショーの張り手で撃墜に追いやられ、ゲンはレオに変身した。
レオのタイショーへの攻撃は、悪ガキに対する折檻に等しかった。
校舎を壊そうとして背後から肩を叩かれたタイショーはレオの顔を見て驚愕。どうやらレオの知名度も宇宙的に高くなっていたようだ。
レオにお仕置き的にぽてくり回されたタイショーはレオにローキックを入れるも、自分の足を痛める有様で、自信があるとしていた腕っぷしもガキの喧嘩の域を出てなかったようだった。
タイショーがレオに丸で叶わないことに呆れた宮坂だったが、学校破壊という(とんでもない)目的を果たせば充分と見て、壺のダイヤルを回すことでタイショーを壺の中に避難させた。
一方のゲンは、タイショーを取り逃がしたことをダンに叱責されたのだから堪ったものではなかった。ゲンもダンもタイショーが姿を消したメカニズムを知らないから取り逃がしはゲンの過失にされ、学校を破壊した怪獣の目的に疑問を呈すれば、「何を言ってやがんだ?」とダンに詰られる始末だった。
ともあれ、宮坂達に一片の良心があったのか、タイショーによる破壊は人のいない時間に行われたので、人的被害はなく、学校は(宮坂の狙い通り)休校となった。
宿題をやらなくていい状況になったものの、退屈に倦んだ宮坂は仲間達と怪獣ごっこに興じ、ガキ大将の特権で自分がレオ役、仲間達をMAC隊員役とし、本物の怪獣であるタイショーに怪獣役を命じた。
余談だが、幼少の頃から喧嘩に弱かった道場主は近所でも幼稚園でも怪獣ごっこをする度に怪獣役を強要された苦い思い出があり、宮坂の配役には眉を顰めずにいられなかった(←道場主は寛容そうに見えて実は根に持つタイプである)。
勿論タイショーが本物の怪獣であることが世間に知られたらパニックになるので、ぬいぐるみということにしたのだが、ゲンと供に何度も本物の怪獣を見て来た梅田兄妹には即行で本物であることが看破された。
トオルとカオルはパトロール中のダンと佐藤にこれを知らせ、一方的な袋叩きに遭う怪獣ごっこから逃げ出したタイショーは宮坂演じる芝居のMACと、ゲン&佐藤の本物MACとに追われる羽目になった。
道行く人々を驚かせながら、逃げ惑うタイショーは最終的に銭湯の煙突によじ登り、途中で身動きが取れなくなったため、(ゲン、佐藤、梶田、白土の)MACガン一斉射撃による格好の標的となった。
さすがにこれで死ぬことは無かったが、等身大のタイショーにはかなりの苦痛で、彼は前非を悔い、真面目になることを誓って母親に助けを求める程だった。そんなタイショーを救わんとして宮坂はダイヤルを回すもそれは壊れ、進退窮まったタイショーは煙突が壊れたことで地面に転落してしまった(←これって、MACが悪いんじゃあ………??)。
ともあれ、転落したタイショーは巨大化。とはいえ、現状にすっかり懲り懲りしており、マッキー2号・3号からの機銃掃射に対しても「おうちに帰りたいよぉ〜!!」と泣き出す有様だった。
タイショーが煙突から落ちる直前にレオへの助けを求める声を聞いていたゲンだったが、その気持ちを察した様にダンが「早くあいつを(宇宙に)送ってやれ。」と声を掛けると満面の笑みでこれに応じてレオに変身した。
突如再登場したレオに(自分で呼んでおきながら)怯えるタイショーだったが、レオがマッキー2号・3号から庇うのを見せるとようやく安心して、改めてお家に帰りたい旨を(文字通り)泣いてレオに懇願し、レオもこれに応じた。
レオはタイショーを背負って飛び、宮坂とタイショーは互いに頑張る様声を掛け合って別れの挨拶を交わした。ただ、ナレーションが心配するように、一念発起する気持ちはあってもなかなか能力がついて行かず、宮坂は苦悶。
彼はタイショーとの時間を懐かしみ、母親が「花瓶に丁度良い。」として花を飾ったタイショーの壺に入った水を窓から捨て、その水を被ったゲン(苦笑)に「宮坂君」と声を掛けられると、あれ程嫌った「怪獣くん」で良いと言い放った。
まあ、気持ちを入れ替えたぐらいですぐに勉強が出来るようになるなら誰も苦労は要らない訳で、傍目にはタイショーを忘れられない分、タイショーとの励まし合いも忘れず頑張って欲しいところである。
最後にまた余談だが、タイショーの声を当てたのは声優・白石冬美さん。特撮では馴染みは薄いが、アニメの世界における存在は大きく、『パタリロ!』のパタリロ8世、『怪物くん』の怪物くん、『巨人の星』の星明子訳は特に有名。
パタリロや怪物くんに代表される様に、子供ながら高い地位に就き、それゆえにアクの強さと抱え込んだ苦労に東奔西走する役所が似合うようで、シルバータイタンはこのタイショーと『CITY HUNNTER2』でナリオ王子(←性格はパタリロに近い)の声を当てたのが印象に残っている。
誠に惜しくも、平成31(2019)年3月26日に虚血性心不全のために享年82歳で逝去。合掌。
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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新