ウルトラマンレオ全話解説

第36話 飛べ!レオ兄弟 宇宙基地を救え!

監督:岡村精
脚本:田口成光
変身怪人アトランタ星人登場
 冒頭舞台はMACステーションで、そこに第13話以来の再登場となる高倉長官が来訪した。地球侵略を狙う数多の宇宙人に対抗する為、その第1弾として強力なエネルギーを持つMACウランを用いることとなり、その運搬パイロットにゲンが任命された。
 これはダン隊長の推挙であろうことは想像に難くないが、第13話を思うと、二度殺人犯の汚名を着せられ、ダンに対しても暗にその紹介を批判されたゲンが高倉長官に激励されているシーンを見ると、この長官の懐の広さが伺える。
 拙房で幾度か触れたが、時代劇などで悪役の多い神田隆氏が善人役をやっても様になっているのが嬉しく、感心させられる。流石は東大卒の貫禄俳優である。

 ともあれ、重大任務への緊張感を漲らせるMAC一同だったが、そこへ未確認飛行物体が地球に接近しているとの報が入り、ダンと高倉以外の全員が出動した。
 マッキー2号に搭乗していた佐藤は未確認飛行物体が地球産の宇宙船であることを確認し、隣席の梶田は通信を試みた。だが宇宙船からの応答はなく、佐藤は突撃体制を命じ、分離したマッキー2号とマッキー3号の三機が追う中、怪しい宇宙船は機体から煙を吐きながら大気圏内に突入すると墜落に等しい不時着を遂げた。
 幸い、墜落地点は人里離れた採石場っぽい山中で地上に被害はなかった。後を追って着陸したMACの面々は残された残骸の惨状を検分していたが、程なく背中を燃え上がらせながら苦しむ宇宙飛行士の存在に気付いた。
 佐藤は梶田に救急車の手配を命じ、ゲンと共に宇宙飛行士の火を消し止め、介抱に努めると、外されたヘルメットの中から現れたのは地球人だった。

 場面は替わって病院。ゲン・佐藤・梶田は宇宙飛行士の身元について話し合っていた。
 佐藤が現場検証から聞いた報告によると、宇宙船は3年前にアトランタ星を調査に行って行方不明になっていたものとのことだった。アトランタ星の名前を聞いたゲンはその名を知っており、彼の地には凶悪な変身怪人アトランタ星人が住んでおり、かかる星から無事に帰って来ることは人間技では不可能だと訝しがっていた(←早い話、宇宙飛行士の正体を疑っていた)。
 するとそこへ松木が現れ、助けた宇宙飛行士はかすり傷一つ追っていないことが知らされ、ゲンは益々疑念を深めた。確かに背中を激しく燃え上がらせながら傷一つないというのは怪しい。

 直後、病院―医師がMACの紋章を着けていたところから、専属病院と思われる―の屋上にいたゲン達は高倉長官とその娘・あや子(大井小夜子)が来院したのに気付いた。一人の宇宙飛行士のために長官が自ら足を運ぶのも只事ではないが、それに娘が同行しているのは更に異例であることは誰の目にも明らかだった。
 診察室に向かった父娘は尋常ならざる緊張感を漲らせていたが、部屋から出て来た男−内田三郎(五代勝也)の姿を見せると長官は満面の笑みで生還・再会を喜び、あや子は父の肩に取り縋って感泣した。

 愛娘のフィアンセ・内田の帰還、そして彼の体に異常がないことを知って上機嫌の高倉長官は眼前に現れたゲン以下のMAC隊員達を「我がMACの優秀な隊員達」として一人一人を紹介した(←ゲンと佐藤の紹介には「君を助けてくれた」との一言を付け加えていた)。
 紹介された梶田・松木・佐藤は口々に内田の生還を祝ったが、端からその正体を疑っていたゲンはテレパシーで内田の正体がアトランタ星人であることを誰何した。それに対して内田=アトランタ星人はテレパシーで「ようこそレオ。」と返した。
 やって来たのは自分なのに、「ようこそ。」とは陰謀家の割には語学力の無い宇宙人である(苦笑)。まあ、この際宇宙人の日本語能力はどうでもいいのだが、内田に化けたアトランタ星人はテレパシーでレオの名を告げながら、白々しくも「よろしく、おヽとり君。」と言って、握手を求めた。
 状況的にアトランタ星人の正体を声高に叫ぶ訳にもいかず、無表情のまま握手に応じたゲンの立ち居振る舞いも異様だったが、それを見ていて、「君達は気が合いそうだな。」と言っていた高倉長官の観察力はもっと異様だった(苦笑)。
 理由はどうあれ、ゲンだけ生還を祝っておらず、普段感情を露わにし易いゲンがここまで無表情だとそれだけで異常を察知出来そうなものだったのだが(苦笑)。

 まあ、内田の正体を知る由もなく、一人娘のフィアンセ=遠くない将来の義理の息子がいの一番に友好を示した相手を好意的に見たくなる気持ちは分からないでもないが、高倉長官はゲンに内田を頼むと託した。
 長官の要請に抑揚のない声で応じたゲンだったが、腹の内では、内田に成り済まして地球及びMACの中枢に潜入するアトランタ星人の卑劣さに怒り心頭だった。テレパシーでその怒りを受けたアトランタ星人は平気の平左で、もし自分の正体をばらせばゲンの正体も、そしてダン隊長の正体もばらす、としてゲンの口を封じた。
 確かに高倉長官が懐の広い人物でも、ゲン=レオ、ダン=セブンであることが一度に暴露されてはどう転んでも今まで通りのMACではいられなくなる。ゲンは引き揚げていく内田の背中を無表情で、それでも腸煮えくりかえる思いで見守るしかなかった。

 MACステーションに戻ったゲンは、生還宇宙飛行士の正体がアトランタ星人で、そいつがゲンとダンの正体を知っていることを告げた。
 ゲンが知っているぐらい悪名高い宇宙人をダンが知らない筈なく、信じられない気持ちを抱きつつもダンはまずい状況に陥ったことを吐露した。というのも、タイミング悪く、直前にダンは高倉長官の推薦で内田(=アトランタ星人)をMACに入隊させることを決めたばかりだった。
 こうなると内田に化けたアトランタ星人を遠ざけるのは容易ではない。ゲン・ダン・内田三者の正体をばらすことなく内田をMACや地球から追放するにはかなり無茶な理由付けが必要となるのは誰の目にも明らかだった。

 結局、そんな都合の良い理由付けが一日で出来る筈もなく、ゲンとダンは地球に悪意的なアトランタ星人を、その正体を知りながらMACの重要任務に近侍させる羽目に陥った。
 ゲンは周囲の隙を見て内田と会話し、何を企んでいるのかを詰問するが、偽内田は胡散臭さ満載のフレンドリーな笑顔で「君と喧嘩をしに来たん訳じゃないよ。」、「君と同じように宇宙の平和を守りに来たのさ。」と信じ難い台詞を連発した。
 平然と「仲良く頼むよ。」と嘯く偽内田に激昂し、掴みかからんとしたゲンだったが、さすがにそれはダンに止められた。何事も無かった様に笑みを浮かべる偽内田を睨みながら切歯扼腕するゲンの気持ちを察した様に軽く肩を叩いたダンは他の隊員達に準備完了を確認し、ゲンを予定任務(=MACウランの運搬)に従事させた。

 ダンは内田にマッキー2号に同乗してゲンを護衛することを、他の男性隊員達には周辺警備を、松木にはレーダー監視を命じた。よりによって偽内田をゲンに同行させたのは、側に置いた方が警戒し易いとの考えだろうか?
 ともあれ、任務は開始され、ゲンはマッキー2号で内田と共に飛んだ。途中、マッキー2号は分離し、内田はβ号に乗り換えたが、その操縦席からα号目掛けて目から怪しい光線を発した。
 怪光線の正体は機能停止光線で、これにより操縦桿が動かなくなり、マッキー2号αは制御不能となった。ゲンのみならず、ダンや高倉長官も周章狼狽する中、偽内田はβ号を巧みに操縦してα号とドッキングさせると無事地上に着陸させた。
 当然これによりゲンはエースパイロットとしての周囲の信頼を失い、危機的状況を救った(ように見せかけた)偽内田は周囲の信頼を得た。

 MACステーションにて、操縦桿が本当に動かなくなった−自分のミスではないことを抗弁したゲンだったが、事後の調査で異常が検出されなかったこともあって高倉長官はこれを認めず、万一街中に墜落していれば大惨事も有り得たことを指し、ゲンに一ヶ月の謹慎を命じた。
 周囲の隊員達もゲンの言を信じたいものの、状況的に庇える余地がなく、一様に気まずい表情を浮かべて沈黙していた。そしてダンも(ゲンの潔白は信じつつも)内田に礼を述べるよう命じざるを得なかった。

 ゲンが不承不承ながらも礼を述べ、内田が「当然のことをしたまでです。」と述べたことで任務失敗の件は一段落したが、予定の任務を次は誰に命じるかが問題となった。
 高倉長官は、ダンが「MAC一番の腕前と折り紙を付けた」と云うゲンが操縦ミスを犯した状況にあって、次に誰を任命するかに頭を悩ました。愚痴ではあるが、高倉長官がダンを深く信頼していることが伺えているのが嬉しい台詞だったりする(笑)。

 そしてそのタイミングで内田が自分を任命して欲しいと申し出た。地球に生還するまでの間にも何度も危機に陥り、その都度操縦能力を駆使して危地を脱したことをもって自薦した訳だが、これに対して高倉は喜び、翌日の任務に内田を起用することをダンに勧めた。
 翌日の任務とは、飛行訓練に託けて当初の目的だったMACウランをMACステーションに運び込んでしまおうと云うもので、宇宙人の目を欺く為に、最高司令部にてMACにも内密に進めていた計画だった。

 文字通り「敵を欺くにはまず味方から」という戦略眼は定石と言って良かったが、欺く筈の宇宙人が眼前に地球人に成り済ましているのをゲンとダンしか知らなかったのが何とも痛かったが、事情を話せないダンは命令に従わざるを得ず、佐藤達も翌日の準備に掛かった。
 その場に残ったダンはゲンに、アトランタ星人の目的がMACウランを使ったMACステーションの破壊にあることを断じ、これを阻止するために「最後の手段」を取るとした。それはアトランタ星人を殺害するというものだった。
 勿論、ウルトラマンとして、MAC隊員として、ダンやゲンが宇宙人を殺害するのは珍しい話でも、おかしい話でもない。だがそれは相手が明らかに地球に対して敵対的な存在であることを衆目が一致して認識しているケースばかりで、自分達の正体を漏らさない為に密かに相手を殺すという行為はおおよそヒーローに似つかわしくない「暗殺」を意味し、静かながらも衝撃的なワンシーンを経てAパートは終わった。

 Bパートは高倉邸から始まった。
 自宅ではあや子の薬指にエンゲージ・リングが填められ、長官は一人娘の幸福を心から祝し、内田に娘を託すと、三者は乾杯を交わした。それは若い夫婦が新たに誕生することを祝う幸せな家庭の一コマで、内田を殺しに来たはずのゲンもとてもそこに踏み込めなかった。
 ゲンはアトランタ星人を殺すことで、あや子が傷つくことを懸念し、すっかり矛先を鈍らせ、公園のブランコに座して佇んでいた。するとそこへ百子が通りかかり、塞ぎ込むゲンに声を掛けて来た。
 ゲンは百子にもし自分が宇宙人だったらどうする?と問い掛けた。作中の流れから百子が「ゲン=レオ」に気付いている節は無いのだが、百子は一笑すると平気だとした。
 続けてゲンは、「それが人間を滅ぼすような凶悪な宇宙人だとしたら?」と問うたのに対しても百子は「私のことを愛してくれているのなら、例え悪い宇宙人でも平気だわ。」と答えた。
 『ウルトラマンレオ』全話を通じて、おヽとりゲンと山口百子の関係は、所謂「友達以上、恋人未満」的なものに終止していたが、この会話(及び第39話の百子)を見ると二人は物凄く自然な形で恋人同士になっていたように見える。
 第15話を見ればゲンが一方的に百子に惚れていたように見えるが、第19話ではゲンはかなり百子をからかっており、過剰な気遣いは見受けられなかった。
 第22話の百子の誕生日では、大山不在に対してトオルは、百子はゲンさえいれば大丈夫とからかい、それに対して百子はかなり痛いところを突かれた風を見せ、直後に緊急出動したゲンに対して不服を示していた。
 つまり両者は極めて自然に、そして少しずつ接近していたのだろう。この時の百子の台詞は例題に出た「宇宙人」をゲンに置き換えているとしか思えない。

 ともあれ、このときの百子の台詞はゲンを大いに勇気付けた。意を決したゲンは翌朝早くにダンを呼出し、あや子の内田への想いを告げた。最初は一人の女性の気持ちよりもMACの浮沈の方が大事として取り合わない様に見えたダンだったが、ゲンの眼光に決意の強さを見て取ったものか、自分に考えがあるとして、ゲンにはアトランタ星人から目を離さないように命じた。
 そしてその足で高倉邸に向かったダンは、自宅から出て来たあや子にウルトラ念力を発動。あや子は忽ち意識を失って昏倒した。

 その後、現場にて松木からあや子が危篤との報が為された…………宇宙人・怪獣相手だと補助的な能力しか発揮しないが、地球人相手には凶悪だな、ウルトラ念力よ(苦笑)。まあ、命に別状はない程度にセーブされているとは思うが。
 ともあれ、一人娘に急遽命の危機が訪れたとあっては、高倉長官は気が気ではない。松木に状況を問うても原因不明で、しきりに内田の名を呼んでいるという。これを受けてダンは偽内田に高倉長官と共にすぐに病院に向かうよう促した。
 解説するまでもないが、これはあや子を疑似危篤として内田を任務から外すというダンの悪計で、それを知ってか知らずか、偽内田はダンの好意を謝しつつも、任務の重大性を口にして病院行きをやんわりと拒絶した。

 勿論、偽内田は正体であるアトランタ星人としての目的を果たす為にもMACの任務から外れる訳にはいかなかった。私情よりも公務を優先しなければならないのは現実の世界の政治家・軍人・公僕・大企業の立場ある者にも見られる話である。
 だが腹に一物あるダンは(笑)、「MACは人の心を無視する組織ではない。」と諭した。これに対しても偽内田は、おヽとり隊員ですら失敗したMACウラン運搬任務を誰が行う?として任務離脱を渋ったが、ダンは自らが運ぶとして内田の反論を封じた。
 かくまで言われては内田も反論ならず、高倉長官に促されて供にあや子の元に向かった。そしてこれをゲンが追尾したのだった。

 マッキー2号に搭載されたMACウランを奪いたい気持ちと、追尾するゲンを撒きたい気持ちから偽内田はかなり荒っぽい運転をした。そして業を煮やした偽内田は遂に車を急停止・急発進させてゲンを轢かんとし、返す刀で高倉長官を殴り飛ばした。
 長官が気絶した上は、様々な意味でゲンに遠慮はなくなり(笑)、ゲンと偽内田は格闘を展開したが、これは明らかにゲンに分があった。殴り飛ばされた偽内田は、もう時間の猶予はないとばかりに、アトランタ星人の正体を現して巨大化するとマッキー2号目掛けて飛び、ゲンもレオに変身してこれを追った。

 アトランタ星人の格闘能力は大したことなくても飛行能力は優れていたようで、忽ちマッキー2号に追い付くとこれを捕捉した。レオもアトランタ星人の両足を掴み攻撃を加えたが、MACステーション爆破を目的とするアトランタ星人は頑としてマッキー2号を離さず、これを手にマッキー2号とMACステーションを破壊せんと試みた。
 やがてマッキー2号の機体からは炎が噴き出し、機内のダンはMACステーションを守る為にも自分はアトランタ星人とともに自爆すると宣してレオに離れるよう命じた。
 勿論それにレオが従う筈もなく、炎を噴出するマッキー2号はMACステーションに肉薄したが、そこにアストラが現れた!
 アストラは両手からアストラシャワーを発してマッキー2号を消火するとこれをアトランタ星人から奪ってMACステーションに護送した。これによりダンとMACステーションの危機は回避された。

 その間もレオはアトランタ星人の体から手を放さず、顔面を殴られたアトランタ星人が逃げ出そうとするとレオはウルトラマントを取り出して、アトランタ星人の上半身に巻き付かせた。
 これにより、アトランタ星人は視界を遮られ、飛行も叶わなくなり、MACステーションの位置する上空400kmの高度から地上に向かって、何も見えない状態で脳天から叩き付けられた。過去作にも書いたことあるけど、これ相当怖い状況だよなぁ………。初めてこの第36話を見たとき、道場主は性悪な筈のアトランタ星人にチョットだけ同情してしまった。

 地上激突後、生きていたアトランタ星人だったが、どう見ても戦意喪失状態で、追い付いて来たレオを見るなり逃げ出そうとした。すぐにレオに追い付かれて止む無く戦うも明らかに劣勢で、再度逃走に掛かったアトランタ星人だったが、今度はダンを助け終わって地上に降りて来たアストラが上空から降り立つと通せんぼした。
 もはやアトランタ星人に抵抗する術はなく、アトランタ星人はレオ兄弟に交互にボコボコにされ、グロッキーに陥ったところにウルトラダブルフラッシャーを食らって絶命した。

 かくしてMACステーションを破壊せんとしたアトランタ星人の悪巧みは完全に阻止され、アストラは何処ともなく去っていった。
 だが高倉父娘には問題が残った。MACロディーを運転していたゲンはダンにあや子を危篤にしたのは隊長の仕業であることを問い、ダンはすっとぼけたが、両者の表情から互いに完全に状況を把握しているのは明らかだった。その直後、二人は夕暮れの川辺に佇む高倉長官とあや子に気付いた。
 MACと地球を守るためとはいえ、アトランタ星人の陰謀を暴いたことがあや子に二度も婚約者を失う悲哀を味わわせる羽目となり、慰めの一言も掛けたいゲンは車外に出んとしたが、ダンがこれを止めた。
 時間による癒しに二人を委ねるべきと考えたダンはゲンとその場を去らんとした訳だが、長官の方で二人に気付いた。こうなるとその場を去る訳にはいかず、ダンも共に長官の下に駆け寄った。
 高倉長官は、一連の流れに辛さを引き摺っている風は漂わせながらも迷いのない表情で、事件解決に尽力したゲンの両手を取って厚く御礼を述べた。確かに今回の事件で高倉長官もあや子も深く傷ついた訳だが、すべては悪辣なアトランタ星人の姦計によって始まったことで、ゲンに罪も責任も無いのは明白だった。
 また、冷静に考えれば偽内田の正体に気付かないまま彼を婿として迎え、地球が侵略されていれば筆舌に尽くし難い屈辱を父娘は食らっていたであろうことは想像に難くなく、それを未然に阻止してくれたゲンは恩人にも等しかった。
 だが、理屈でそうと分かっていてもなかなか素直になれないのが人間である。婚約者生還が一時の偽りであったことへの衝撃も決して小さいものではない。だがこれらに伴う複雑な想いを可能な限り排してゲンに心からの謝意を示す父と娘にゲンとダンも思わず叩頭する流れは高倉長官の大度量を改めて鮮明にしていた。

 直後、ダンは長官父娘を自宅まで送ることを申し出たが、長官を娘と共にもう少しここにいたいとして丁寧に辞退した。この一コマからも父娘の受けた心の傷が甚大なものであることが見て取れ、それでありながら気丈に振る舞って礼には礼で応える姿がどんな凶悪宇宙人にも踏み躙れない人間の強さを示して第36話は終結したのだった。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新