ウルトラマンレオ全話解説

第37話 怪奇!悪魔のすむ鏡

監督:岡村精
脚本:田口成光
鬼女マザラス星人、異次元獣スペクター登場
 冒頭、ゲン・百子・猛・トオル・カオルはとある公園で模型飛行機を飛ばす遊びに興じていた。やがて模型飛行機は一本の大木に当たって落ちたのだが、その陰から和服を着た中年女性(原知佐子)が現れた。
 女性は拾い上げた駆け寄って来たカオルを見て、亡くなった娘に似た可愛らしさに感じ入っていた。一方でカオルもそこに亡き母の面影を重ね、二人は笑顔を交わし、互いに手と手を取り合う時間を夢想(何故か一時だけ、女性はゲンに入れ替わっていた)した後、トオルに呼ばれて白昼夢から覚めた。

 だが、遅れてやってきたゲンは例によって宇宙人の正体を看破する能力で女性の面に隠れた鬼女マザラス星人の姿を見出し、女性はそれを避けるように立ち去った。
 カオルは彼女について行かんとし、それを止めるゲンにも悪態をついたが、ゲンは百子達にカオルを託してマザラス星人の後を追った。そしてつかず離れずの尾行を続けたのだが、その姿は地下道と思しき場に掲げられた大きな鏡の中に消えたのだった。

 一方、失意のカオルはロケットの中にある亡き母の写真を見ていた。梅田兄妹の亡母は最前の女性と偶然瓜二つで、亡き母の想い出に浸っていたカオルだったが、しばらくして自分を呼ぶ声に気付き、それを母の物と感じ、やがて鏡の中にいる最前の女性が自分を招いていることに気付いた。
 さすがに現実的には有り得ないシチュエーションに幾許かの不安をカオルも感じていたが、亡き母の影を追いたいとの想いが勝った様で、カオルの体は鏡の中の世界に引き込まれた。
 鏡の中でマザラス星人に触れたカオルは彼女を「お母さん」と呼び、失った筈の母娘の時間に身を投じた。こうなるとカオルが鏡の向こうから帰ることはなく、残されたロケットからカオルの亡母とマザラス星人が瓜二つであることを知って、カオルの気持ちを察するもゲンにもどうにもならず、翌朝鏡の世界で戯れるカオルとマザラス星人を見て驚愕したトオルも鏡の中に入ることはままならなかった(ちなみにトオルは亡母そっくりなマザラス星人の容姿に対して何も言及しなかった)。

 同様の事件は他所でも怒っているらしく、同じ内容の通報がMACに寄せられ、ダンはこれをマザラス星人の所業と断定した。いつものダンの博識だが、鏡の中に住居し、子供を攫うなんて特徴的過ぎる特徴を持つ星人なら少しでも記録があればすぐに記憶されることだろう。
 実際、ダンは記録があることを口にし、それゆえ(彼にしては珍しく)カオルの救出は不可能と言い切った。

 勿論、出来ないことは出来ないと云われたところでゲンが納得出来る筈なく、意気消沈状態のトオルは鏡を叩き割る程に精神状態を乱し、ゲンもまた戯れるカオルとマザラス星人を見て鏡の世界に飛び込まんとしたが、ダンに止められた。
 ダンはマザラス星人がカオルを返す筈がなく、また鏡の世界から戻れる保証もないことを告げてゲンを諭さんとしたが、ゲンが聞き入れる筈もなく、やってみなければ分からないとばかりに鏡の世界に飛び込んだのだった。本当に、聞かん坊が多いよな、この作品(苦笑)

 ともあれ、何とか鏡の世界に入り込むことに成功したゲンだったが、そこは砂漠が広がり、カラスが鳴き喚く、生気の感じられない世界だった。程なく、カオルの歌声を聞き付けたゲンは、その声を追って砂漠を彷徨った。
 やがてカオルとマザラス星人を見つけたゲンは、カオルに帰ろうと促すが、マザラス星人を母と思い込むカオルはこれを拒否し、マザラス星人もまたカオルを自分の娘と言い張り、手鏡を取り出すと、ゲンを追い払うべく手鏡を合図に異次元獣スペクターを召喚した。

 土中から現れたスペクターは全身が鏡の欠片で覆われた怪獣で、MACガンで応戦したゲンだったが、首から下を砂中に埋められた。些か心配気だったカオルも、自分とゲンのどっちが大切かを問われると後ろ髪を引かれつつもマザラス星人について行った。
 幸いスペクターはそれ以上追撃せず、ゲンは鏡によって入り込んだ世界から鏡をもって脱出することを画策。ほどなく、二人の隙を突いて半ば拉致同然にカオルをマザラス星人の元から奪い、その手を引いて逃走した。こんなところはダンに似て来たな(苦笑)

 勿論母(?)と切り離されることを嫌がるカオルだったが、体格的にも体力的にも引きずられるようにゲンに連行された。追いかけて来るマザラス星人に、母を求めて抵抗するカオルだったが、ゲンはロケットを取り出してマザラス星人は本当の母ではないことを力説した。
 眼前の亡母そっくりの実体と、唯一人の存在であるなき実母の写真を見比べ、思案に暮れるカオルだったが、これを見たマザラス星人は手鏡の光でロケットの写真を焼き、カオルを生かして鏡の世界から出さないことを宣して再度スペクターを召喚した。

 スペクターの直接攻撃を受け、ゲンと共に逃げ惑うカオルは尚も母を呼んだが、ゲンはMACガンでマザラス星人の手鏡を弾いてこれを奪い、嫌がるカオルと共に元の世界に戻らんとした。
 だが、マザラス星人はカオルを連れて帰れるものならそうすればいいと嘯き、次いで鏡の中を見るがいいと云われて覗き込んだ鏡の中では現実世界で暴れるスペクターの姿が在った。だが、これはカオルに自身が偽物に過ぎないことを確信させることとなった。
 暴れるスペクターは転倒したトオルを踏み潰さんとした。言うまでもないが、マザラス星人がカオルにとって母親なら、トオルにとっても母親で、トオルに危害を加えることなどあり得なかった。かくしてカオルはマザラス星人を母でないと断じ、それに衝撃を受けたマザラス星人は地面に倒れ伏して痛哭すると、鬼女と云う二つ名通りに鬼の顔(要するに般若面)となって、薙刀を振るって襲い掛かり、亡き娘にそっくりであるカオルを渡さないと宣した。
 こうなるとマザラス星人にはほんの僅かに―勿論ほんの僅かでしかないのだが―同情を禁じ得ない。冒頭の心の声にあったように、マザラス星人が幼くして失くした娘とカオルの容姿がそっくりなのは事実で、これまた偶然ながらもマザラス星人とカオルの亡母が瓜二つのため、カオルは彼女を母として慕った。
 勿論互いに母娘を失い、容姿がそっくりだからと言ってそれで周囲の意向や現実を無視して母子関係を築き、異世界に拉致するなど許される話では無い。ただ、双方に肉親を思う感情と云うものがあるのなら、互いの素性を承知の上でかりそめの母子関係を築けなかったものだろうか?と思われてならない。

 ともあれ、ゲンはレオに変身。マザラス星人はレオを自分の幸せを破壊した敵と宣して攻撃を仕掛けて来た。鼓の音や雅楽による演奏をBGMに少々スローテンポな格闘が展開される中、マザラス星人にはホームレンジで戦っているという優位さがあるようで、左掌中にカオルを庇いながら戦うレオは苦戦を強いられた。
 だが、勝負は意外な形で終結した。マザラス星人から間合いを取っていたレオはウルトラマントを取り出して投げると、それは鏡の扉ウルトラマントミラーと化し、レオはこれを潜って現実の世界に帰還。一方、これを追わんとしたマザラス星人は弾き返され、もんどり打って地面に倒れるとそのまま消滅した…………「最初からそうしろ!」と言いたくなる問答無用決着………さすがはキングの爺さんから贈られた何でもありアイテムだ(苦笑)

 かくして、カオル奪還は達成され、残る問題は現実世界で暴れまわるスペクターの討滅となった。
 マッキー2号・3号がスペクターを迎撃する渦中に割って入ったレオは上空から打点の高いドロップキックをスペクターに食らわすと安堵の声を挙げるダンのすぐそばに気を失ったままのカオルを下ろして、託した。
 一安心のレオは改めてスペクターに立ち向かった。鈍重そうな見た目のスペクターは腕っぷしはそれなりにあるようで、レオを叩き伏せたり、投げ飛ばしたりもしていたが、俊敏性では劣るようで、頭部からの光線も然したる効果は上げられず、マッキー2号・3号からの援護射撃で出来た隙を突く様に放たれたレオのハンドスライサーを食らい、あたかも鏡が砕け散るように体が崩れるとそのまま消滅したのだった。

 そしてラストシーン。梅田兄妹は百子・猛と共に墓参りに来ていた。
 それを遠巻きに見ていたゲンとダンだったが、ダンはマザラス星人の想いに幾許かの同情を示しつつも、彼女の好意を許してはいけないことと述懐していた。
 そして墓前で涙を流し、亡き母への思いを馳せるカオルに声を掛けんとしたゲンだったが、ダンはそれを止めた。それはあたかも、少女が思い出を整理し、一つの悲しみを乗り越えて大人になるのを周囲が手出ししてはいけないとしているかのようだった。

 余談だが(←最近多いな…)、この第37話でマザラス星人の人間体を演じた原知佐子さんは、ウルトラシリーズにて数多くの監督・脚本を手掛けた故実相寺昭雄氏の細君で、大映ドラマの名脇役として名高い女優さんだった。
 特撮番組での活躍は多くは無い(というより、他ジャンルでの活躍の方が圧倒的に多い)が、『シルバー仮面』にて実相寺氏が監督を務めた話に客演し、ウルトラシリーズでも『ウルトラマンティガ』第37話(←監督は実相寺氏)、『ウルトラマンギンガS 』第14話、『ウルトラマンオーブ』第24話にも客演した。
 我を通しつつも、それが愛情に裏打ちされたものである苦悩を浮かべたこの第37話での在り様は並の女優に出せるものではない、とシルバータイタンは見ており、他作品での彼女を殆ど観たことないのが今更ながらに悔やまれる。

 惜しくも夫に先立たれた13年後の令和2(2020)年1月19日、上顎肉腫のために享年84歳で逝去。合掌。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新