ウルトラマンレオ全話解説

第40話 恐怖の円盤生物シリーズ! MAC全滅!円盤は生物だった!

監督:深沢清澄
脚本:田口成光
円盤生物シルバーブルーメ登場
 さて………この第40話から新シリーズに入る訳だが‥……気が重いのう………『ウルトラマンレオ』は今でこそ大人が見ても見応えやリアリティがあることから評価の高い作品だが、放映当初は隊員達の殉職やレギュラーに近しい人々の死が暗く、辛いシリーズとしてのイメージを強くもたらし、その人気をいまいちなものにしていたが、その陰惨さの側面が最も凝縮されたのがこの第40話で、さすがにこの話の解説は気が重い………。

 ぼやいていても仕方がないので、解説に入るが、この全話解説で初めて『ウルトラマンレオ』に接するという方(拙サイトの様なページを閲覧される方にそんな人いないと思われるが(笑))は悲惨な展開を覚悟してから下記を閲覧して欲しい。
 冒頭の舞台は宇宙で、地球を離れること1000万kmにあるブラックスターから円盤生物シルバーブルーメが飛び立ったことから物語は始まった。ちなみに地球から太陽の距離が約1億5000万km、隣り合う星である金星との距離が2860万km(最接近時)、同じく隣り合う火星との距離が5600万km(同じく最接近時)‥‥……本作解説冒頭でも触れたが、ブラックスターって、実に地球に身近な星だったんだなぁ(笑)

 ともあれ、宇宙空間を光より早く移動出来るシルバーブルーメにとって地球までの距離は本当に目と鼻の先と言って良かった。
 そしてその頃、MACステーション内では迫りくる脅威を知る由もなく、MAC隊員達は松木隊員の誕生日を祝っていた。恐らくは公務中の休憩時間を利用したと思われるのでさすがにアルコールではなく、ジュースが並べられ、大き目のケーキに松木の年齢と同じ本数と思われるローソクが並べられていた(正確な本数は黙視確認出来ず)。
 口髭を生やしたダンが祝いの言葉を述べたのを皮切りに次々に祝いの言葉を述べる多員達は実にいい笑顔をしており、直後の悲劇を知る身としては本当に遣り切れない。
 松木も隊員達に笑顔で御礼を述べ、ジュースで乾杯が為されたのだが、その直後に警報が鳴り響いた。佐藤が計器に駆け寄ったときにはレーダーに感知された飛行物体は既にステーションに肉薄しており、佐藤も「ぶつかります!」と叫ぶのが精一杯で、実際にその直後にステーションは衝突による激しい衝撃に襲われ、室内は暗転し、隊員達はもんどりうって転倒した。

 2話前にウルトラの星接近による影響を察知したのが8分前だったことと、この第40話でシルバーブルーメ襲撃を手遅れと云えるほど直前まで感知し得なかったことでMACのレーダーシステムを酷評する人も多いが、これは仕方ないと云えよう。
 前述した様に、地球とブラックスターの距離は1000万kmとナレーションでも明言されており、シルバーブルーメが光速で飛んできたとしても約33秒で到達するし、設定によるとシルバーブルーメの飛行速度は光よりも速いのである。ブラックスター発進直後に捕捉したとしても同じような展開を辿ったことだろう。

 ともあれ激しい揺れの中、ステーション内は立ち上がることすら困難な状態に陥り、その間にステーション頭頂部に張り付いたシルバーブルーメは触手を伸ばしてステーション全体を覆い始めた。
 触手の一本が窓を破ってステーション内に侵入し、他にも黄色い溶解液を流し込んだことでステーション内は黄色い薄霧が掛かった状態となった。隊員達は狼狽しながらもMACガンを一斉に掃射して触手が一時怯んだ隙を見てダンは全員マッキーで脱出するよう命じた。
 隊員達は先を争うようにマッキーに向かい、ゲンはダンに襲撃がブラックスターの円盤生物によるものであることを告げ、自分に構わずゲンも脱出するよう命じた。
 勿論、だからといってダンを置いて一人逃げられるようなゲンではなかった。だがダンはブラックスターの襲撃から地球を守る為にもゲンは生き続けなければならないとし、何故か自らはその場を離れようとしなかった。
 その間にも、佐藤・梶田・白土・白川・松木はマッキー2号・3号で脱出せんとしたが、両機は別の触手に絡め取られ、口腔部と思しき場所に放り込まれたことで彼等は絶叫を残して殉職した…………(殊に松木は誕生日が命日となった………)。

 事態の急展開を受け、ダンは「MACの最期は俺が見届ける。」としてゲンに脱出を促した。ゲンは尚もダンに同道を促したが、ダンは「馬鹿!言うことを聞け!」と叫んでゲンを突き放し、「ウルトラセブン」のBGMが流れる中、落下物が降りしきる中に姿を消し、「お前はレオだ。すべての命を持ったウルトラマンレオだ。お前の命はお前一人のものでないことを忘れるな。行けー!!」との台詞を最後に完全に行方を断った。
 直後、シルバーブルーメはMACステーションを完全に呑み込み、それと入れ替わる様にレオが飛び出してその虎口を逃れた。レオは大勢の仲間を殺したシルバーブルーメに組み付くも、シルバーブルーメはレオを振り回すように飛び続け、やがてレオは振り解かれてしまった。

 かくして哀しい程呆気なくMACは全滅した。令和2(2020)年10月5日現在、長いウルトラシリーズの歴史にあって、一人を除く全隊員が敵の襲撃のために落命する形で組織が全滅・壊滅したのはMACのみである(『ウルトラマンA』第1話の地球防衛軍は除外しています)。
 結論から書くとこの第40話Bパート以降、ゲンがMACの制服を着ることはなく、高倉長官を初めとするMAC関係者も遂に登場することはなく、ダン隊長もその生存が確認されるまでリアルタイムで18年の歳月を要し、彼がこの時ウルトラの母に救われたことが公式設定となったのはMAC全滅の31年後の事だった…………。
 MAC全滅後、ゲンもダンのことを死んだと周囲に話しており、ウルトラセブンすら命を落としたとしか思えない描写が長く維持されたこともまたこの悲劇の陰惨さを強固なものにし続けた。

 そして陰惨な展開は尚も収まらなかった。
 レオを振り切ったシルバーブルーメはそのまま地球に飛来。そして地球では帽子・マント・衣服のすべてが黒づくめで杖を携行したブラック指令 (大林丈史)が闊歩していた。
 そのブラック指令に召喚された風でも無かったが、街中上空に現れたシルバーブルーメは巨大化すると様々な建物を上から圧し掛かって破壊して廻り、その中には百子・タケシ・カオルのショッピングするデパートもあった………。
 一般ピープルが逃げ惑う中、ブラック指令は何事も無かったように歩き回り、その動きはさながらシルバーブルーメに更に破壊して廻るように指示しているようだった。そして崩れるデパートの一角で身動き取れなくなった百子達に瓦礫が容赦なく降り注いだのだった…………。
 そして完膚なきまでに崩壊したデパートの中で一体の人形が喋っていた………「ワタシ眠クナッチャッタ。オ兄チャン、子守唄歌ッテ。ウフフ……」と。後々の展開とトオルとカオルの別れを思えば悲惨を通り越してえげつないとさえ言えた………。

 破壊の限りを尽くしたシルバーブルーメブラック指令が停止を命じると、シルバーブルーメは黄色い煙を発して体を回転させてその中に姿を消した。街中にはサイレンが鳴り響き、一人MACステーションを脱したゲンがやって来たのは応急救護所で、そこにはシルバーブルーメの襲撃から辛くも命を永らえた多くの負傷者と警察・医師・看護師でごった返していた。
 肉親の安否を求める声が飛び交う中、半ば茫然自失としていたゲンは、百子・タケシ・カオルの名を呼ぶトオルの声を聞き付けた。姿を見つけ、呼び止めたトオルが言うには、三人が買い物に出たまま帰らないとのことだった。
 ゲンはトオルと共に三人の名を呼び、横たわる負傷者の顔を確認しながら探して回ったが、その行方は杳として知れなかった。二人はこれ程探して見つからないと云うことは無事に帰宅したのかも知れない、との希望的観測を抱いて帰宅しようとした。
 だが、その場にいたのは重傷でも生きている人達で、直後にその希望的観測を打ち砕くかのように死亡者の発表が為された。それに気付いたプレス関係者の後を追って死亡者名簿を見に行ったゲンとトオルは、肉親の名を見つけて泣き叫ぶ声が飛び交う中、固唾を飲んで一人一人の名前を見ていったのだが、到頭そこに「野村タケシ」、」「ヤマグチ百子」、そして「ウメダカオル」の名を見つけてしまったのだった…………。

 最後の肉親であるカオルを失ったトオルは驚き、茫然とし、最後には壁に両手をついて痛哭し、第3話で父を惨殺された時とはまた違った悲しみを見せるその姿は(1年近い時間による演技力のUPもあって)何とも言えぬものがあり、ゲンも力なくその肩に無言で手を置くしか出来なかった。そしてその背後にはゲンと旧知らしき看護師(春川ますみ)がいて、悲しむ二人を静かに見守っていた。
 かくしてゲンはMACとスポーツセンターという仲間の居た拠り所の場を失い、否応なしに新たな生活に入るとともに、ダンの最期の言葉を胸に新しい敵に対する戦意を高めてAパートは終わった。

 ここで少し余談をば。
 特撮番組では時々多くの人々が命を落とすシーンが描かれることがある。そんな中、数多くの犠牲を嘆き悲しむシーンが屈指なのがこの第40話と云える。
 死亡者名簿発表後の、ゲン・トオルの背後で大切な身内の名を見つけ、その場で号泣する人々の姿はとても名もなき俳優やエキストラによるそれとは思えないほど迫真で、そのことが余計に悲惨さを際立たせていた。

 ここで私情が入るのだが、「身内が巻き込まれているかも知れない………。」との不安を抱きながら名簿の名を一人一人追っていく作業は腸千切れる思いである
 道場主は残念ながらそれを経験している。
 昭和60(1985)年8月12日の日航ジャンボジェット機墜落事故で道場主の叔父(母方の叔母の旦那)が犠牲になった。義理とはいえ、凄く可愛がってくれた叔父の安否が確認出来ず、当時は携帯も無く、死亡が確認されるまでの時間は血も凍る様だった。
 事故発生から数時間してTV画面上に搭乗者名簿が発表され、一人一人の名前が出る度に叔父の名が出ないのを祈りつつ、それを何十回と繰り返した時の辛さは35年を経た今でも昨日の事の様に覚えている………。

 今思えば、東京―大阪の距離からして、叔父が無事だったなら名簿発表前に帰宅していた筈で、この時点で状況的に叔父が事故に巻き込まれたのは確定的だった。
しかしながら身内全員気が動転し、一人一人の名を見る度に叔父の名前ではないのを見て、安堵する間もなく次の名を確認する作業に入らざるを得ず、終に叔父の名を見つけてしまってTVの前にいた全員が絶望の叫び声をあげた記憶は忘れ様がなく、二度と味わいたくないし、誰にも味わって欲しくないと思われてならない。

 特撮の世界に犠牲者の存在はつきもので、その犠牲を嘆く声もまたストーリーの重要なファクターだから、かかるシーンを描くなとは言わないし、自らのトラウマをもってそんな展開を責めるつもりも無いが、現実もフィクションも人の死を軽く捉えたなくない(というか捉えられない)ものである。
 閑話休題。Bパートに入り、ゲンとトオルの新たな生活は二人が起居する美山家から始まった。美山家の主人は救護所でゲンとトオルを見守っていた看護師・美山咲子で、夫を失いながらも女手一つで女子大生の長女・いずみ(奈良富士子)と次女・あゆみ(杉田かおる)を育てていた。次女がいつかの白い花の精にそっくりなのは気のせいだろう(笑)。
 小田急線沿いの閑静な住宅街の二階が新たな生活の場となったゲンとトオル。女しかないない家庭に加わった男二人はがさつな階段の上り下りや、歯磨き・洗顔の怠りを指摘されるなど、女主人に頭の上がらない日常の中、それでも新たに得た一家団欒に等しい時間にそれなりの幸福を得ていた。
 団欒中の会話から、いずみが女子大生であり、あゆみがトオルと同じクラスであり、成績もトオルとどっこいどっこいであることが触れられていたが、わざとらしい人物紹介になっていなかったのは見事だった(笑)。

 ともあれ、血縁ではないながらも新たな家庭を得たゲンとトオルの日常は丸で円盤生物の脅威と無縁のような雰囲気だったが、当然脅威は去っていなかった。
 シルバーブルーメは生物とも玩具とも言えない小さな姿で木の根に佇み、その生態(僅かに鼓動の様なものが聴いて取れた)を訝しんだ小学生達に拾われた。下駄箱にしまい込まれたシルバーブルーメだったが、理科の授業で生物の呼吸についての説明を受けた児童達がその身を案じ、同時にシルバーブルーメ自体が抜け出して来たことで、その姿はクラス一同−トオルとあゆみも一緒−の注目を集めることとなった。
 カブトガニの出来損ないみたいな容姿をしたシルバーブルーメを一目見たトオルはこれを円盤生物と断じたが、これを見つけた当の児童三人はフリスビー程の大きさを指して円盤であることを否定し、トオルがそう思うのも円盤恐怖症だからと決めつけた(←ということは、トオルが円盤生物の為に悲惨な目に遭ったのを知っているのね)。

 その正体を巡って児童間の言い争いがエスカレートしそうになったが、これは担任の中本先生(石丸博也)が仲裁した。中本先生は宿直中に自分が調べるとして授業を再開した。だがその夜、理科室に置かれたシルバーブルーメは中本先生その実態を調べようとして、金槌で叩いたり、ガスバーナーで焙られたりしたところで正体を現し、黄色い煙を吐きながら中本先生を襲い、捕食してしまったのだった。うーん、ウルトラマンタロウの声はどうなるんだろうか……………って、それは後の世の、別の話か(苦笑)。
 直後、中本先生の怒声を聞き付けた用務員(磯野秋雄)が理科室に駆け付け、残された惨状に悲鳴を上げた。そしてそこへトオルの通報を受けたゲンも訪れたのだが、正しくその時、ブラック指令の水晶球による指示を受けたシルバーブルーメが新たな破壊活動を始めんとしていた。

 降り頻る豪雨が辺りを暗くしていたので正確な時間は不明だが、児童も数多くいたことから恐らく朝一と思われるが、シルバーブルーメはMACステーションにしたように校舎に張り付き、窓から触手を刺し入れて学校を襲った。
 当然の様に校内はパニックに陥り、トオルを案じて駆け付けたゲンは円盤生物によって中本先生が食い殺されたことを用務員から告げられた。
 校舎から次々と児童達が飛び出すのを掻き分けつつ校内に入ったゲンはトオルとあゆみを見つけると彼等の避難誘導を行った。その間もシルバーブルーメの吐く黄色い溶解液、それらによって破壊された瓦礫が降り注いだ。しかも溶解液は引火性が有る様で、校舎の所々から炎が吹き上げる中、何とか子供達を庇いつつ避難させたゲンだったが、負傷者も少なくなかった。
 MAC、スポーツセンターの仲間に続く惨劇に怒り心頭のゲンはその場を離れるとレオに変身し、シルバーブルーメに対峙した。

 開戦直後、レオは空中に浮遊し、触手と溶解液で上段からの攻撃を仕掛けるシルバーブルーメに攻められるがままに見えた。ただこれは時間稼ぎで、レオは戦いを見守る学童達に身振りで合図を送ると用務員がレオの意を解し、周囲の人々を率いて負傷者達の救援に向かった(←偉いぞ!用務員さん!)。
 うんうん、ヒーローのあるべき姿である。怪獣や宇宙人を倒すことも大切だが、まずは死傷者をそれ以上出さないことの方が大切だもんな。そしてその間レオは触手に絡め取られたと見せてシルバーブルーメの動きを封じていたのだが、用務員さんが無事負傷児童達を避難させたのを告げるとそれに頷いて反撃を開始した。

 といっても、その後の展開は勝負と云えるものではなかった。レオはシルバーブルーメの口腔部に両腕を突っ込むや、先の襲撃で餌食となっていたマッキー2号・マッキー3号を引きずり出し、シルバーブルーメを鎮座させるとスパーク光線でこれを抹殺した。
 光線を受けたシルバーブルーメはまず外観から丸分かりな程の爆発・発光を体内で起こし、程なく体全体が爆発・四散した。
 かくしてゲンは仇討ちを為し、勝利を収めたのだが、ブラック指令は既に円盤生物二番手のブラックドームを地球に向けて召還していた。

 ラストに少々所感を(といってもこの全話解説自体が「所感」の塊だが(苦笑))。
 MACの全滅、スポーツセンターの仲間の非業の最期、そして恨んでも恨み切れぬ仇であるシルバーブルーメの死、いずれもが呆気なかった。
 第30話でマグマ星人を討ち取った時にも言えることだが、レオ=ゲンはあれほど憎んだ怨敵の討滅に何の感慨も示さず、無念の死を遂げた仲間に対する餞も見せない。只でさえ円盤生物はその形態から見応えのある肉弾戦を期待し難い(少しネタバラしになるが、レオは円盤生物の大半を光線技で討ち取った)ので、前後の感情はしっかり示して欲しかった気もする。
 ただ、よくよく考えれば全く分からない話でもない。30分枠でそこまで描写するのは時間的に困難だろうし、所謂、「復讐」という概念はヒーローが戦い始める動機としては認められても、本懐としては否定される傾向にある(帰ってきたウルトラマン然り、仮面ライダーV3然り、ライダーマン然り、仮面ライダーZX然り)。
 後年、『ウルトラマンメビウス』にてゲンが黒潮島の犠牲者に思いを馳せ、ダンがヒビノ・ミライに多くの仲間(←MAC隊員達のことと思われる)を失ったことに触れていた例からも、想いが無いとは思わないが、もう少し分かる形で表現して欲しかったと思われてならない。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新