ウルトラマンレオ全話解説

第49話 恐怖の円盤生物シリーズ! 死を呼ぶ赤い暗殺者

監督:山本正孝
脚本:阿井文瓶
円盤生物ノーバ登場
 『ウルトラマンレオ』も残すところ3話となり、ブラックスターとの決着が佳境に入るとともに、失った故郷L77星から地球に帰化せんとするおヽとりゲンの地球人としての在り様も問われんとしていた。
 例によって冒頭で次なる円盤生物を召喚していたブラック指令は10番目の刺客・ノーバに対してこれが持つ猛毒ガスが今こそ必要と呼び掛けていた。

 そして夜の東京にノーバが到達・潜伏した頃、美山家ではトオルが暗い顔をしていた。翌日は授業参観日で、父兄の前で宿題の絵画を発表することになっており、あゆみは咲子に綺麗な服を着て来て欲しいと半ばはしゃぎ気味に語りかけていたが、両親を失っているトオルにとって実父実母が来ることのない授業参観が辛いものであるのは想像に難くなく、眼前であゆみと咲子が交わす会話がそのことを増幅していたのだろう。

 実際、翌日提出の宿題を仕上げる名目で部屋に戻ったトオルはあゆみの前でそのことを明言しており、絵画を前に筆(正確にはクレヨン)が進まなかった。
 同室で母の絵を描くあゆみが「参観に間に合わないよ。」と促すと、自分には参観に来る母がいないとぼやき、そこから一転して画用紙に勢いよく描き込み始めたのだが、「自画像」と称するその絵は、赤いテルテル坊主だった(←勿論ノーバと酷似している)。
 二人の宿題の進み具合を見に来たいずみが、トオルの描く絵とトオル自身の態度に異様を感じ、トオルを止めるもトオルは聞かず、騒ぎを察知して入って来たゲンと入れ替わるように美山邸を飛び出してしまった。

 確かにトオルの辛さは分からないでもないが、赤いテルテル坊主を「自画像」とした心理は理解不能である。寂しさや孤独感に打ちひしがれる自己を不気味な存在と捉えて異形の姿に描くのは何とか理解可能だし、空虚な気持ちを無表情なテルテル坊主として投影したと考えられなくはないが、色を赤くした理由が分からない(黒の方がまだ理解が出来る)。
 勿論、作品的にはノーバの姿に合わせたのだろうけれど、この時点でノーバの影響下になかったトオルが自己とノーバを重ねたことへの整合性が見当たらない。
 別に普通のテルテル坊主でも良かったと思うが………。

 ともあれ、いずみはゲンにトオルの描いた絵を見せ、「叱るつもりじゃなかったのだけれど。」と述べた。確かにああいう異様な様子を見れば止める方に意識が行くもので、いずみの言はそのまま受け入れられる。
 ただ、厄介なことにこれは理屈ではない。第5話でも見せていたのと同様なトオルの不貞腐れ振りは視聴者的にも眉を顰めたくなるものもあるが、表に出さなかっただけで第10話でもカオルが同じ気持ちを友達に対する態度で示していた。
 夜の街中に飛び出したトオルは流れ星に父母とカオルを返して欲しいと泣きながら願い、それが叶う筈ないことを理解出来ない年齢でもないのだろうけれど、叶わないことを理解している故に即座に願いが叶わないことを愚痴り、街中を彷徨い続けた。

 そうこうする内にトオルは大きめのテルテル坊主が落ち着ているのに気付いた。展開上触れるまでもないが、これはノーバの縮小形態で、時折眼を赤く明滅させた。これによりトオルを一種の催眠状態に陥れたと見え、トオルは最初訝しがっていたこのテルテル坊主を拾い上げると彷徨の道連れとした。
 やがてトオルはテルテル坊主が晴天を願い、託す存在であることから、その逆を願って、公園の立ち木にこれを吊るした。勿論雨天ぐらいで授業参観が中止になる筈もないので、トオルはそれが可能になるレベルの悪天候を祈った。
 直後、トオルを探したゲンがやってきて、不貞腐れていたトオルもゲンの励ましや、父親代理で参観に行くとの提案に機嫌を直し、共に帰宅し、プチ家出は何事もなく解決したかに思われた。

 だがノーバは密かにその凶悪性を増幅させていた。たまたま公園を通りかかった酔っ払い中年サラリーマンがノーバを嫌いな上司・パンチングマシーンに見立てて殴りかかって来るとその身を赤く変じ、赤い毒ガスを吹き掛けた。すると、ガスを吸ったサラリーマンは凶暴化し、公園のベンチを空手チョップで叩き割ったのだった。
 ノーバの毒ガスによって凶暴化させられたのはこのサラリーマンに留まらず、他にも凶暴化させれた人々が続出し、翌朝のニュースでそれを知ったゲンは調査に乗り出した。それを見ていたトオルはゲンが授業参観に来てくれるか不安な表情を示した。
 参観に来てくれるのか?というトオルの問いにゲンは肯定も否定もせず、調査に行かなければいけない旨をトオルに諭し伝え、理解を求めたが、案の定トオルは昨夜の暗い気持ちをぶり返してしまった。
 あゆみの声掛けも無視して一人で登校するかと思いきや、始業ベルが鳴っているのに公園で不貞腐れた表情でブランコ……う〜ん………トオルの心情を充分考慮しても第5話から人間的に成長していないと映りかねんなぁ………。

 あゆみが必死に呼び掛けても相変わらず無言でブランコを漕ぎ続け、終にあゆみは呆れ果てて、「もう!いっちゃうから!」として一人で学校に行ってしまった。当時10歳の美山あゆみ役の杉田かおるさんではなく、20〜30年後の杉田さんにこの台詞を言われたら…………(以下、悶絶&自主規制)。
 いかん、いかん、阿呆なことを書いている場合ではなかった。何せ、この特撮房、小さい子や女性、教職にある人まで見ているらしいからな………ともあれ、あゆみが去った直後、トオルは昨夜吊るしたテルテル坊主=ノーバに気付いた。
 昨夜とは異なってすっかり真っ赤になったそれに対してトオルは、雨を降らしてくれなかったことを罵ったり、(一方的な)願いを叶えなかったことを恥じて赤くなったのかと問いかけたり、終いには「頼みを聞いてくれなかったから」としてテルテル坊主相手に斬首刑を行わんとしたり、様々な感情を考慮しても正気とは思えなかった。

 鋏でもってノーバを「斬首」せんとしたトオルだが、勿論生きているノーバがミスミス首を斬られる筈もなく、体を揺らしてトオルの攻撃をかわし、トオルの鋏がその首を捉えると赤色ガスを噴出した。
 ガスを浴びたトオルの顔からは表情が消え、トオルは赤ん坊サイズ程に大きくなったノーバを肩に載せると、本当に両親に合わせてくれるのか?と問いかけつつ歩き出した。
 どうやらノーバはテレパシーでトオルに両親に会わせることを条件に自分に従うよう暗示したようだが、亡き両親に会えることへの期待や喜びが表情に現れていない様は信用0で、視聴者的には「両親に会わせる」=「両親の元(=あの世)へ送る」としか取れなかった。

 Bパートに入り、ノーバを肩に載せて無表情で歩き続けるトオル。ノーバは触手や衣をトオルの首に巻き付けており、とても両者の関係は対等に見えなかった。
 どうもノーバにはテレパシー以外にも幻覚を見せる能力も有る様で、トオルはノーバを載せたまま老人を突き転ばしても平然としてガン無視し、それを咎めた警官にはノーバが毒ガスを吐きかけたのだが、そんな状況が丸で目に入っていないかのようにトオルはノーバに礼を言い、両親とカオルが目の前にいる(=トオルにはそう見えている)ことに相好を崩していた。
 まあ、トオルの状況もやばかったが、毒ガスの影響で「全員逮捕だ!」と叫びながら拳銃を撃ちまくる、『元祖天才バカボン』のポリ公と化していた警官の方がやばかったが

 詰まる所、ノーバはすべての肉親を失って悲しみ・孤独感に打ちひしがれるトオルの心につけ込み、家族の幻影を見せることで彼に自分を運ばせ、方々に毒ガスを撒き散らす目的で、トオルとノーバの通るところ、そこにいた人々は暴徒と化して誰彼なく暴れ回るのだった。
 勿論この惨状は警察の知るところとなった。トオルが元凶と見た警察官は、無表情でノーバを載せて線路上を歩くトオルに一斉射撃を加えんとしたが、そこにゲンが現れて警官達を止めんとした。
 だが、警察官と見せた態度は「一般人は引っ込んでいろ。」的なものだった。まあ、分からなくはない。トオル(正確には彼の方の上に乗ったノーバ)の行くところ、人々が次々に暴徒化するのだから、まずはこれ以上の惨劇を止める為にも、子供相手でも強硬手段を取らざるを得ないとの判断は全くの暴論とは言えない。

 ゲンが言うように、怪しいのは赤いテルテル坊主で、トオルの状況を知る視聴者的にも、まずは警棒か何かでトオルを取り押さえるか、撃つにしても「赤いテルテル坊主を狙え。」と言いたくはなる。
 そしてそこへ咲子といずみも駆け付け、二人はトオルを「私の息子」、「私の弟」といって、警察官に制止を求め、ゲンと警察官がもみ合う間隙を縫ってトオルの元へ駆け寄った。

 ノーバは咲子といずみにもガスを吐き掛け、一瞬怯んで倒れた咲子だったが、「トオル君!お母さんの言うことが聞けないの!?」と投げ掛けること、一瞬トオルに正気が蘇った。恐らく家族を失った心の衰弱をつけ込まれてノーバに支配されているトオルにとって、失った筈の「お母さん」からの声は何より響くものだったのだろう。例えそれが義理でも。
 そんな咲子の決死の呼び掛けに一筋の涙を流すトオルだったが、彼を己の支配から逃すまいとしてか、ノーバはトオルを締め上げ、トオルは苦悶した。
 トオルを助けんとして駆け寄る咲子だったが、ノーバはまたも毒ガスを噴出。さすがに生身の人間である咲子がこれに耐えて駆け付けることは叶わなかったが、ゲンがともに駆けよらんとしたいずみに咲子を託し、トオルの背後に回り込むとノーバを殴りつけて引っぺがすことに成功した。
 成り行きを見ていた警官隊も、この状況で何者が敵であるかが分からないほど馬鹿ではなく(笑)、宙に浮くノーバ目掛けて今度こそ一斉射撃を敢行したが、それに対してはノーバは巨大化して抗ってきた。

 巨大化したことでノーバの噴出するガス量もそれに比例して増大し、警官隊も退避せざるを得なかったが、まあこれは仕方ないか(苦笑)。
 退避する警官隊とは逆にゲンは突進し、その間、ノーバは毒ガスに加えて鞭上の右手と鎌状の左手を駆使して直接的破壊行動まで始めた。街中の暴徒は過激化し、ノーバを迎え撃った防衛軍の戦闘機や戦車は次々に撃墜・炎上に追いやられ、街中の被害は目を覆わんばかりの物だった。
 それからしばらくしてようやくゲンはレオに変身し、ノーバの前に立ちはだかったのだが、ノーバは体を回転させると空を真っ赤に染め、豪雨を降らせた。これらの環境変化にどんな効果があったのかはさっぱり分からんが(苦笑)、ノーバは毒ガス・鎌・鞭に加え、目から怪光線を放ってレオに抵抗した。おまけにテルテル坊主然とした体躯は殴っても、蹴っても、投げ飛ばしてもそれらが効いているかどうかも不鮮明で、何かと捉えどころのない奴だったが、最期は呆気無かった。

 早い話、レオのシューティングビームエネルギー光球のダブルパンチの前に戦死したのである。ノーバが死ぬと空は晴天に復し、気を失っていたトオルも目を覚ました。
 トオルはノーバに操られていた時の記憶は無かった様だが、それでも自分が何かいけないことをしていたと云う感覚は有った様で、咲子に泣いて詫び、安堵した咲子も涙を流してトオルを抱きしめるのだった。

 そしてラストシーン。美山家では雨が降る中、トオルとあゆみがピクニックを控えた翌日の晴天を祈ってテルテル坊主をつくり、無事晴れた翌朝、笑顔で出かけ、一連の事件におけるトラウマを吹っ飛ばしたかのように見せてストーリーは終結したのだった。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新