ウルトラマンレオ全話解説

第50話 恐怖の円盤生物シリーズ! レオの命よ! キングの奇跡!

監督:山際永三
脚本:石堂淑朗
円盤生物ブニョ登場
 前話のラストでは、円盤生物シリーズのそれまでの例に漏れ、ブラック指令による新たな円盤生物の召還シーンが無かった。それに準拠したのか、冒頭でブラック指令はブラックスターが新たな円盤生物を送ってこないことに苛立っていた。
 誰も来ないのはレオに勝つ自信がないからか?とブラック指令が揶揄めいた問いを投げ掛けるとそれに答えるかのように新たな円盤生物が地球に降り立った。

 円盤は上空で二足歩行形態になった後、地球人と変わらぬ姿で地面に降り立った。緑色の服に身を包み、妙に体をくねらせる男(蟹江敬三)をブラック指令は見知らぬらしく、何者か?と問われた相手は「宇宙人なんだ。ブニョっていうんだ。」と名乗った。と云うことは、同じ円盤生物に在っても、「円盤」カラーの強いものと、「生物」カラーの強いものがいて、「生物」としてのカラーが強いものの中にはヒューマノイドカラーの強いものもいるということだろうか?

 ブラック指令ブニョを見知らなかったものの、その存在は知っていた様で、力のない奴が来ても役に立たんと揶揄し、「帰れ!」とまで言った。それに対してブニョは「力はないが、知恵は有る。」と言い返した。
 フィクションでもリアルでも、かかる物言いは概ねまともに相手されない。何者かを打倒する話になった時、知恵を武器に戦うと主張しても、そこそこの膂力か、それまでの実績がないとかなり軽視される。『三国志』で有名な諸葛孔明(諸葛亮)でさえ、初陣時に関羽・張飛はまともに命令に従おうとせず、主君である劉備の権威を必要とした。
 勿論孔明の場合、初陣で大勝利を収め、即座の信頼を勝ち取った訳だが、学生の社会でとんでもなく暴力的な生徒が大暴れするのに対し、青ビョウタンのがり勉級長が「知恵で何とかする。」と云っても、多くの物は一笑に付すだろう。
 ただ、数多くの円盤生物が連戦連敗し、じりじりしているブラック指令にしてみれば、レオを騙し討ちにするというブニョの台詞は多少なりとも心惹かれた様だった。だが、どうやって?と問いたい気なブラック指令に答えることなく、ブニョはその場を去ってしまった。

 山中の車道をほっつき歩いている様にしか見えなかったブニョだったが、どうやら索敵行為に勤しんでいたらしく、体内にある何がしかのレーダーが宇宙人探知機になっているようで、宇宙人反応を補足すると両耳から触角のようなものがせり出して来た。
 ブニョはその反応をレオのそれに違いないと断じ、トレーニング中のゲンに対して腹痛に苦しむ病人の振りをして不意を討たんと目論んだが、至近距離まで来たところでゲンは相手が地球人でないことを察知し、「宇宙人だな?」と投げ掛けた。
 いきおい、等身大人間体同士の格闘戦となった。ブニョはアクロバティックな動きも駆使し、前評判程には非力な感じではなかったが、さすがに数多くの怪獣・宇宙人・円盤生物との激戦を経て来たゲンの方が勝っていた。
 勝負は駆け付けたトオルにゲンが気を取られた隙にブニョが逃げ出すことで水入りとなったが、完全に逃げた訳ではなく、少し離れた場(何故か焼却炉の中)に潜んだブニョは何がしかの手応えを掴んだかのように不気味にほくそ笑むのだった。

 その夜、美山家ではウルトラマンレオの存在に関わる一つの議題が上っていた(と言う程大袈裟に意識したものではなかったのだが)。
 いずみは、ブラックスターがレオを狙うから次々と変な事件が起きるのでは?との疑問から、レオがいない方が地球は平和なのではないか?との考えを示した。
 子供特有の純真さでレオをヒーロー視するトオルとあゆみは、ブラックスターの狙いは地球で、それを侵略するのに障害となるレオをまず標的としているのだとして、襲撃続発はレオのせいではなく、レオがいなければ地球と地球人はブラックスターに蹂躙されている筈だとした。

 勿論、いずみもあゆみもトオルも、ゲンがレオであることを知らない上で口にしていたのだが、地球に帰化したつもりでいるレオ=ゲンにとっては何とも居た堪れない話である。
 いずみの人となりからもレオに悪意がある訳ではないのは明らかだが、実際にブラックスターがゲンを狙うことで周囲の人間に被害が及んだ例はこれまでにも何度もあり、中にはデモスの様に露骨にゲンの周囲の人々を巻き込まんとしたものまでいた。
 後年、『DRAGONBALL』にて、人造人間セル編のラストで命を落とした孫悟空が、自分がいない方が地球は平和な気がするとしてドラゴンボールにより生き返りを拒否した背景と、何となくダブる。

 勿論、だからと云ってブラックスターからの侵略・襲撃を放置しておく訳にはいかない。議論に対してどう思うかとトオルに問われたゲンは鶏が先か、卵が先かに断言できない風な態度で言葉を濁した。
 それに続いて咲子は、こればかりは「ブラックスターに聞かないと分からない。」とした。いずれにせよ、トオルは丸で見て来たかのように、レオは地球が好きで、レオに感謝しなければならないとし、それは全くゲンの気持ちを代弁したもので、ゲンは心からの笑みを浮かべるのだった。

 するとそこへ美山家の黒電話が鳴り響いた。電話は咲子の勤める病院からの物で、病院に何者かが侵入し、院内が荒らされたとのことだった。
 咲子はすぐに病院に向かったが、これはゲン=レオをおびき寄せる為のブニョの罠。咲子が病院に到着すると荒らされた院内には当直の医師が倒れていた…………と思ったらこれがブニョ
 咲子をベッドに拘束したブニョは、咲子の帰宅が遅いことを訝しがる美山家のテレビにその状況を映し出した。ただでさえ母親が縛られていれば娘二人が驚愕しない筈がない。加えて、白衣を着た怪しい男が妙な金具を両手に持ってニヤニヤしているのである
 映像はすぐに消えたが、今度はラジオが勝手に動き出し、咲子を取り戻しに来いと挑発してきた(勿論周囲に話したら、咲子を殺すとの脅迫付きで)。

 かかる事態を受け、ゲンは咲子を助けるべく病院に急行。最前の推測通り、レオが身近にいる為にこの家が狙われたとぼやくいずみだったが、さすがに母の危機とあっては居ても立ってもいられず、結局トオル・あゆみと共に陽光会第二病院に向かった。
 夜の病院に潜入せんとする三人だったが、ゲンはこれを止め、トオルの同行申し出も断り、いずみ達にこの場を動かないよう命じて単身潜入した。そして程なく気絶している咲子とブニョを発見したが、さすがに咲子を人質に取られては手が出せない。
 ブニョはゲンに「人間に味方・ウルトラマンレオ」と呼び掛け、人間を巻き添えにしてまで戦えない筈、とレオの立場を嫌味たっぷりに述べて咲子の身柄と引き換えに縛に付くことを命じ、ゲンは言われるままに宇宙光線で編まれたロープにて「お縄頂戴」状態にされ、引っ立てられた。

 咲子自身は後から入って来たいずみ達(←結局ゲンの待機命令には従わなかったのね)によって解放されたが、今度はゲンが行方不明となっていた。タッチの差でゲンがブニョに連行されるのを目撃したトオル達だったが、追跡は叶わず、二人が歩いた後には咲子が証言した様なぶにょぶにょした液体が足跡の様に残されていた。

 場面は替わってブラック指令の潜伏先。何度かゲンの顔を見ていた筈だが、ブニョのことを信用していなかったのか、連行された男が本当にゲンなのか?と訝しがった。何とも立場のないブニョだったが、宇宙人探知のアンテナを出すとあっさり信用したのだから、よく分からん信頼関係だ(苦笑)。
 ともあれ、ゲンをレオと認めたブラック指令は青龍刀の様な刀を取り出してゲンを一刀両断にせんとしたが、ゲンは太刀が触れる寸前にレオに変身し、難を逃れた。レオの体はブラック指令の刀を刃毀れさせたが、宇宙ロープに拘束された状態では巨大化が叶わず、等身大にて依然「お縄頂戴」状態だった。
 ブニョは拘束状態のレオは簡単に殺せるとして、身体処理場に連れて行こう、とブラック指令に申し出たのだった。

 身体処理場とは、氷室の様なところで、見るからに寒そうな空間でレオの体は徐々に凍り付いた。コートを着込んだブニョ(←意外とファッショナブルな奴だ(笑))によると零下100度あるとのことで、ボコボコにされたレオはやがて行動不能となり、ブラック指令は長大な鋸を取り出した。
 過去にもウルトラマンが(一時的に)命を落とすシーンは幾度か描かれたが、意識がある状態で五体を徐々にバラバラにされたこのシーンは、本作は勿論、長いウルトラシリーズに在っても屈指の残酷シーンと云えた。

 この間、咲子の帰還した美山家では入れ替わりに行方不明となったゲンの身を案じて皆、気が気でなかった。特にすべての肉親を亡くし、長く兄貴分と慕っていたトオルの落胆は大きく、いずみに対しても暗に彼女がレオ疫病神論(←チョット言い過ぎと思うが)を説いたからだとこぼしてもいた(←さすがにそれを否定しつつも、いずみも気まずそうだった)。
 そして眠れずにいたトオルの耳にレオからのテレパシーが届いた。その思念は自分の存在が地球に迷惑を掛けたかも知れないことを詫び、それでも自分は地球が好きで、地球で永遠に眠りたいから翌朝東の丘に来て欲しいと告げていた。
 これを感じ取って半狂乱になったトオルをやさしく抱きしめる咲子だったが、さすがに状況的に夢を見ていたとされた。だがレオの身を案じて泣くトオルの姿に咲子が呟いたのはゲンの名だった。

 そして翌朝、トオルは一人東の丘に向かい、そこに氷結され、五体をバラバラにされたレオの体を見つけた。普通ならいつも巨人として万人の目の前に現れるレオが等身大のバラバラ状態では本物と認識され辛い気がするのだが、深夜のテレパシーもあってか、トオルは遺体をレオと疑わず、(現場が墓地だったこともあり)穴を掘ってレオを埋葬せんとした。
 後から追ってきたあゆみはレオが一戦もせずに死体となっていることを訝しがったが、トオルはいずみの言がレオの戦意喪失と死を招いたとこぼした。さすがにこれは妹の立場もあってかあゆみは否定したが、そこに巨大化したブニョが現れた。

 ブラック指令はウルトラマンレオの死とブラックスターによる地球掌握を宣言し、ブニョに思う存分暴れるよう命じた。ブニョは全身から不気味な液体を滴らせつつ、触覚から閃光、口吻からは火花を噴いて街々を破壊・炎上させていった。
 レオが現れないことを確信してか、その暴れ振りは「傍若無人」や「我が物顔」と云った言葉がピタリとくるもので、人々は逃げ惑うしかなかった。トオルとあゆみも美山家に戻り、トオルはゲンもレオもいない状態では逃げても仕方ないとの諦観を示した。
 美山邸の周囲にもブニョがもたらした破壊の煙が充満し、多くの人々が逃げ惑う状態だったが、咲子は自分の為に行方を絶ったゲンを待つべく、トオルと子供達を伴って自宅に戻った。

 勿論墓場にてバラバラ死体で眠るレオに為す術はなく、その顔面からは哀しみとも悔しさともつかぬ涙が流れていた。涙を流す以上、バラバラになってもレオは死んでおらず、意識も有る様に思われたが、ともあれ次の瞬間その瞳にはウルトラマンキングの姿が映っていた。キングは、

 「レオよ、お前はまだ死ねない。地球の人間が一人でもお前を欲している間は死ねない。辛くともまだ戦わなければいけないのだ。」

 と告げると、キングビームを照射した。
 これを受けたレオのバラバラだった五体は個々に生気を取り戻すと互いにくっつき合い、元の姿を取り戻したレオは墓場から飛び出すとともに巨大化してブニョに挑み掛かった。
 治療・蘇生のエキスパートであるウルトラの母でさえ、然るべき設備にて時間を掛けてウルトラマンタロウを蘇生させていたことを思えば、一瞬でバラバラ死体を五体満足の臨戦態勢に復活せしめたウルトラマンキングの能力はかなり凶悪である(笑)
 ただ、前述した様に五体バラバラ状態でも涙を流していたことからレオが本当に死んでいたかは疑問で、『帰ってきたウルトラマン』でも凍結され、五体バラバラにされた帰ってきたウルトラマンがウルトラブレスレットの能力でバラバラ状態を結合させて蘇生した例も有ることから、五体バラバラでも凍結状態のウルトラ一族は完全死状態になく、キングビームの蘇生能力もそこまで凶悪ではないのかも知れない(現実でも、水中に一時間近く沈んでいた人が、極度の低水温が体を冷凍保存した形となり、奇跡的に蘇生に成功した例がある)。

 まあ、蘇生要因はどうあれ、ブラック指令ブニョにしてみれば、「そんなん有り、か〜!?!」と叫びたくなる強引復活劇に違いは無かった(笑)。既に怪獣体となっていたブニョは僅かにリアクションで驚きを示すだけだったが、ブラック指令はさすがに全身で驚きを示していた(笑)。
 ともあれ、ここにレオVSブニョの最終決戦の火蓋が切って落とされた。元より知恵で勝負するタイプのブニョは格闘に自信のある方ではなく、体から滴らせる液体を地面にも流してレオを転倒させたところに口吻から火花を放ち、ロープ状の舌を伸ばしてレオの両足を縛り上げるなどして、特殊能力や小技で善戦したが、抵抗もそこまでだった。

 レオがシューティングビームを発して触角を破壊するとブニョは完全に弱体化。頭部を覆っていたフード上部部分が頭全体を隠し、傍目にも戦意喪失状態で、そこに久々のレオキックが炸裂し、戦いはレオの勝利に終わった。
 戦いを終え、レオはゲンの姿に戻ると美山家に戻った。普通なら(不可抗力とはいえ)長く行方を絶っていたことを詰ったり、問うたりする声が発せられそうなところだが、レオ・ゲンが無事生きていた喜びの方が遥かに大きかったのか、咲子が僅かにこの間の行方を訝しがったことを除けば全員が満面の笑みでゲンを迎えたのだった。
 そしてその頃、ブラックスターからは最強にして最後の円盤生物ブラックエンドが地球に向かっており、『ウルトラマンレオ』もいよいよ次回最終回を迎えるのだった!


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新