ウルトラマンレオ全話解説

第5話 泣くな!おまえは男の子

監督:東條昭平
脚本:阿井文瓶
凶剣怪獣カネドラス登場
 冒頭はバスの中から始まった。この日、城南スポーツセンターの遠足で一同は相模湖ピクニックランドにやって来たのだが、車内で皆が「静かな湖畔の森」を歌う中、トオルの表情は明らかに暗い。
 その理由は前々話で父を殺されたショックが抜け切っていないゆえであることがすぐにナレーションで語られたが、本話はこのトオルのトラウマが胆となる。

 ピクニックには練習生だけではなく、その親も同伴しており、そのこともトオルには苦痛となっていた。練習生の中には『仮面ライダーアマゾン』の岡村マサヒコ役で有名な松田洋二氏が演じる子供もいたのだが、岡村氏の子役とは思えない演技力の高さが仲の良い親子の雰囲気を見事に醸し出していた(その日は母の日の二日前だったが、カーネーションが枯れない内に、と言って渡していた団欒風景は不自然さが全くなかった)。
 その描写的に、彼を客演させた制作陣の人選はナイスチョイスだったが、作中のトオルの立場に立てばさぞ辛かったことだろう(苦笑)。

 冒頭ではまだカオルの呼び掛けに応えていたトオルだったが、この時点では岡村父子(←違うって!)を木陰から凝視してカオルの呼び掛けにもダンマリ状態。さすがに百子とゲンも捨て置けず、(本来なら全員の引率を務めなければならないのだろうけれど)この日一日、トオルだけの父母替わりを務めるとした(前話のラストから、トオルは百子と暮らしていることが明らかなのだが、年齢的に同性であるゲンの方が取っ付き易いのだろう)。

 この申し出にトオルも喜びを露わにし(←この辺りの表情変化における新井つねひろ氏の演技力は松田氏のそれに勝るとも劣らない)、大村も「これはまた若いお父さんとお母さんだなぁ。」と目を細めていたが、そこにトオルの束の間の喜びを打ち壊すかのように、MAC本部から怪獣襲来・本部帰還を伝える通信がゲンの元に寄せられた。
 大人であり、MAC隊員任務の重要性を充分承知している大村はすぐにゲンにMACに戻るよう促したが、MAC隊員としての使命を重んずるゲンに「僕だけのお父さん」とのイメージの崩れたトオルはまたも不貞腐れてしまった。
 ストーリー的には充分理解出来るし、「まだまだお子様」と言えばそれまでだが、やはり本作におけるこう云う描写の多発が『ウルトラマンレオ』を暗い作品としてしまっている面は否定出来ないだろう。

 場面は替わって怪獣襲来現場。山里の工事資材置き場と思しき場所で鉄塔を壊し、資材をまき散らして暴れる凶剣怪獣カネドラスにマッキー2号、3号に搭乗したMAC隊員達が機銃掃射を浴びせ続けたが、当然の様に然したる効果は上げられなかった。
 効かずとも攻撃を続けるしかないMACだったが、カネドラスは頭の一本角(設定上の名前はドラス・カッター)を丸でウルトラセブンのアイ・スラッガーの様にして飛ばすとマッキー2号、3号を撃墜し、それに満足したかのように上空へと去って行った。

 場面は替わってMACステーション。
 そこではゲンがダンの叱責を受けていた。結局、トオルの悲しみを振り切るように戻ったゲンだったのだが、現場に間に合わなかった。ダンがゲンのトオルに対する気持ちは分かるとしながらも、ゲンが遅れたことで「何百人もの「トオル」が生れたかも知れない。」としていた。
 直後、カネドラスが月の裏側にいることが突き止められ、休息後また襲ってくるに違いないと見たダンは容易ならざる相手であることをゲンに告げ、ゲンは特訓に入った。
 数ある本作の特訓シーンでも一番大掛かりともいえる仮想カネドラス装置(←シルバータイタンの仮称。ナレーションによると「ダンが考案し、大村が作った奇妙な装置」とのこと)を前に、相手の両腕と角による攻撃を想定した特訓に入った訳だが、ここから想像すると、ダンも既にMACの力ではカネドラスに勝てないと踏んでいるようである。そうなると、ウルトラマンレオとして現場に早く来てくれなかったことを悔しがるダンの気持ちは分かるが、地球人としてのおヽとりゲンが早く来ても遅参しても変わりなかったことになる。
 いずれにしても多くの人々が指摘済みだが、MACは様々な意味で不遇の組織である。

 ゲンは真夜中から孤独な特訓に勤しみ、昼となって、練習生達が練習を始めても機械相手に特訓を続けていた。
 そこにはトオルとカオルもいたのだが、トオルはまだ傷心状態に囚われていた。跳び箱を前に丸でやる気がなく、ようやく挑んでもとろとろした動きで跳び切らず、温厚な猛が「何だ、その様は!」と声を荒げる程だった。
 一方、それを見ていたゲンはゲンで、怪獣攻略以前に一人の傷心少年を救えないことに苛立ちを感じていた。様子を見に来たダンに「こんなことして何の意味があるんです?!」と食って掛かる始末。
 それに対してダンは何も言わなかったが、怪獣が月を発ったと報せを受け、ゲンに「30分後には地球に着く。」と告げた。自分も出撃すると云うゲンにダンは「体で覚え込まなければならないことを口や頭を使って逃げ回る様な奴は足手まといだ!」と云う辛辣な台詞を浴びせ、前話同様特訓が完成するまで残るよう命じた。

 去り際のダンから怪獣襲来を知らされた大村と猛は練習生達の避難誘導に掛かったのだが、それに対してトオルは最前猛に「(跳び箱を)出来るまでやるんだ!」と言われたことを根に持つ様に練習を続けるとして避難を拒否した。
 勿論餓鬼の感傷・意固地なのだが、ゲンは猛にトオルを自分に任せて他の練習生を避難させるよう命じた。その中にはカオルも含まれるのだが、勿論カオルは兄の身を案じて気が気ではない。猛に抱きかかえられ、連れ去れる際に泣きだし、「お兄ちゃんの馬鹿―!」と叫び富永美子(現・富永みーな)氏の演技力もまた子役離れした迫真さがあった。声優としての富永氏の活躍は今や数え切れないが、俳優としての演技ももっともっと見たかったものである。

 マッキー2号に搭乗したダンは隣席の青島にカネドラスの到着予想地点をエリア20と告げた。それを聞いた青島は即座に城南スポーツセンター付近であることを悟り、その旨をマッキー3号に伝えた。つまりMACにとってもスポーツセンターは馴染みなのね(笑)。  既に練習生達の避難誘導を終えた大村だったが、怪獣が近くにやって来ると知り、いまだ留まるゲンとトオルの身を案じてスポーツセンターに戻って来た。だが(理由は各々異なるが)二人は頑としてその場を去らない。
 「二人とも命令だ!」と言っても聞かない二人にどうすればいいのか周章狼狽する大村だったが、次の瞬間ゲンの蹴り飛ばした機械の腕が大村の頭上を襲った。突然の惨劇かと思いきや、大村は襲って来た腕を、両手を合わせて発止と受け止めた。
 突如見せた大村の神業に驚いたゲンはそれが何なのかを尋ねると、大村はそれを彼が昔剣道をやっていた頃に学んだ真剣白刃取りであることを告げた。ただ、彼は昔何度これを練習しても一度も成功しなかったとのことで、恐らくは火事場のクソ力的に開眼したのだろう。

 余談だが、道場主も昔(中学校の部活で)剣道をやったことがある。はっきり言おう剣道で真剣白刃取りを教えたりはしていません(苦笑)。そもそも試合において竹刀を落とせば減点対象である(苦笑)。
 実は一度だけ道場主は真剣白刃取りに成功したことがある(もっとも、相手は竹刀だったが)。剣道の授業に際して悪ふざけで掛かって来た同級生相手に、失敗したなら失敗したでウケると思った真剣白刃取りがまぐれで成功し、驚愕した同級生達は「さすが剣道部!」、「剣道部ではそんなことも教えているのか!?」と大騒ぎになったが、部でそんなことを教えているとの事実はなく、全くのまぐれである(苦笑)。
 ついでに閲覧者諸兄に強く申し上げるが、真剣を初めとする凶器相手の真剣白刃取りの失敗は勿論死を意味し、成功したとしてもすぐに凶器を横に逸らさないと命の危機に曝され続けるので、決して真似しないで下さい! (柳生新陰流が演武などで「無刀取り」なる技を披露することがあるが、襲撃を待ち受けるのではなく、こちらからかかっていて、機先を制するように相手の刀を奪いに掛かる技である。本来素手で剣撃を待つ時点で自殺行為である)。

 ともあれ、その間もセンターのすぐ外ではカネドラスが暴れ、MACが激しい攻撃を加えていた。その様子を見た大村は避難した筈のカオルが兄の身を案じて戻って来たのを見つけた。勿論怪獣が暴れ、掃射が飛び交う危険な中を、である。  だが、そんなことを知る由もなく、すっかり自暴自棄になったトオルは、「馬鹿野郎!俺なんか、俺なんか怪獣にやられて死んじまえば良いんだ!」と叫び出した。
 勿論これにはゲンのビンタが飛び出した。しばし茫然とゲンを見上げていたトオルは痛みを実感したかのようにひっぱたかれた左頬をさすり出した。単純なシーンだが、おヽとりゲンというキャラクターが置かれた位置を考えるとこれは相当に卓越した新人俳優でないと演じられない。ウルトラマンレオにして、おヽとりゲンを演じる真夏氏は、ウルトラ戦士としてまだまだ未熟で、自身復讐心を捨てきれないキャラクターを演じながら、一方で傷心のトオルを時に優しく、時に厳しく導くキャラクターと云う、相反する立場を演じ分けなければならなかったのだから。

 そしてその沈黙を破る様に大村が飛び込んで来た。大村からカオルが自分を心配して戻って来たことを知らされたトオルは即座にセンター外へ飛び出した。意固地になっていたとはいえ、妹の危機を指咥えて見ている男ではなく、当然ゲンと大村もこれを追った。
 一方、上空では赤石がゲンの存在に気付いて、これをダンに通報し、ダンも攻撃中止を命じた。面と向かっては対立するシーンの多い初期MACだが、仲間の身の安全を気遣う心はあったのね(←当たり前だ!)。

 その間に合流した兄妹だったが、カネドラスはすぐ側で暴れており、角・鎌状の両手に加えて口から炎まで吐き出し、周囲を火の海とした。兄妹は炎に囲まれ、ゲン・大村も容易には近付けなかった(直後に大村は爆発の衝撃を受けて気絶)。そんな中、トオルは自分の為にカオル迄危険に曝したことを詫び、避難に掛かった。
 だが、カネドラスは地上で唯二人動いている梅田兄妹を目標と定め、追ってきた。トオルはカオルを連れて廃車の中に逃げ込んだが、直接攻撃は避け得たもののカネドラスに追い付かれ、完全に逃げ場を失っていた。う〜ん……前話のツルク星人もそうだったが、体格差的に言って何て目の良い奴等だ(笑)。

 ともあれ、これを見たゲンはウルトラマンレオに変身。だが、カネドラスは兄妹の側にぴったり張り付いており、MAC同様レオも安直には攻撃が出来ず、しばし格闘の後、兄妹の避難した廃車に覆いかぶさるようにして二人を庇う体勢となった。だが、それは敵に背中を見せるものに他ならず、カネドラスはあたかもレオをいたぶるかのように、何度も頭角をその背中に突き立てた。

 激しいシーンにもかかわらずBGMも消え、不気味に静かな中、トオルの脳裏に亡父の声が響いた。その声にトオルは実際に声を出して会話した。梅田はトオルに自分の子だろう?と問い掛け、同時にカオルの兄ではなかったのか?と投げ掛けた。
 在りし日の父との思い出が脳裏に浮かぶ中、父を亡くしたことを寂しがったり、すねたりする前に、カオルの兄であることを思い出すよう告げた。そしてその回想シーンに浮かぶ梅田の笑顔は誠に温かく、とてもこの声でイカデビルを演じていたとは思えない程だった(笑)
 冗談はさておき、トオルが父と会話していることを気付き得ないカオルは怪訝な表情を見せたが、トオルは改めてカオルに詫び、兄として妹を守ることを誓い、レオへのエールを送り始めた。

 すると、トオルの復活を見届けたのに満足した様にそれまでただ耐えていたレオは応戦に転じた。ここにウルトラマンレオ対カネドラスの初戦にして最終戦が始まった。
 特訓が効いていたのか、トオルの復活に平常心があったゆえか、レオは優勢に勝負を運んだ。カネドラス放映時間が残り少なかったことも有ってか早々とドラスカッターを連発したが、レオはジャンプ一番第一撃をかわし、第二撃は空転しながら真剣白刃取りでドラスカッターを掴み取り、その動きを反転するようにドラスカッターを投げ返した。丸でフィルムの逆回しを見ているようだった(笑)。
 そして投げ返した武器のお約束でドラスカッターはカネドラスの顔面に命中(笑)。そのために両眼が潰れて戦闘不能に陥ったカネドラスにレオはハンドスライサー (要するにベル●ンの赤い■)を食らわせ、その身を縦真っ二つに両断して勝利したのだった。

 終盤、川原で丸太を跳び箱代わりにトオルは練習に励んでいた。
 どうも元々跳び箱は苦手だった様で、失敗時に脚を怪我する始末だったが、以前とは意欲が異なり、別の意味で意固地になって介抱するゲンにあかんべえを返し、足を引き摺りもっても練習を続けた。
 カオルのゲンによると、捨身になれば何でも出来ることを学んだとのことで、そんな意固地振りを兄に変わって謝るカオルだったが、勿論ゲンが責める筈もなく、離れた場で見ていたダン・大村もエールを送り、最後には負傷した脚で跳ぶのに成功したトオルに皆が心からの祝福を送ったのだった。


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令和二(2020)年一〇月五日 最終更新