仮面ライダーOOO全話解説
第13話 シャムネコとストレスと天才外科医
監督:石田秀範
脚本:小林靖子
今回の冒頭は2話1セットの前半いつもの冒頭で、ダイジェスト映像はサゴーゾコンボ誕生だった。
そして始まりの場所はクスクシエ。恒例となった多国籍料理の原産地に扮したコスプレは知世子さんがカーウボーイで、映司は牛、比奈はネイティブ・アメリカンで、店内にはサボテンのオブジェが立てられていた。
いつの物様にノリノリの知世子さんは2挺の水鉄砲を構えながら、例によって仏頂面でステーキをつついていたアンクにもコスプレを勧め、その故郷を尋ねた。
勿論、不機嫌極まりないアンクは「『欲望の渦』って言ったらどうする!?」と問い返した。それを聞いた知世子さんは以前に映司から聞いたアンクの設定(笑)を思い出し、悪いことを聞いたとばかりに謝罪したのだが、憐れむような眼で見られたことは結果としてアンクの燻る憤りは更に鬱積した(知世子さんは100%の善意で接しているから、アンクとしても怒るに怒れず、余計に質が悪いことになっている)。
映司の分析によると、何だかんだ言ってクスクシエが気に入っているアンクは離れたくないばかりに知世子に対して加害的になれない。それゆえ必死に憤りに耐えるのだが、そんなアンクの様をチョット離れたところで見て笑っている映司と比奈も趣味が悪い(苦笑)。
場面は替わって、とある山間部と思しき空き地。そこでは後藤が射撃訓練(流鏑馬をバイクとショットガンで行っていた)に励んでいた。そこへやって来たのは里中。
要件は、「私、今日の午後から休暇なんです。これから一週間会長のお世話をお願いします。」とのこと。「何で俺が?」と問う後藤に、似てない物まねで鴻上会長の後藤評を理由として告げた。
後藤は自分のやりたいこと仕事はそんなことじゃない、とするのを遮って、「世界を守る、でしたっけ?どっちも同じことですよ。お給料出るんですから。」と如何にも割り切り女である里中らしい台詞が飛び出した。
里中の思想・価値観はどうあれ、一連の物言いは上から目線で、やはり好感抱けんこの女…………やはり、俺は知世子さんだな………(←道場主「何の話だ!?)。
場面は替わって武蔵川総合病院なるそこそこ規模の病院。その中で一人の女医・田村ケイ(松本京子)が手術室に向かおうとして、周囲の医師達に止められた。執刀担当は自分だ、とする医師に「私の患者よ。」と言い返した田村女医だったが、「院長先生のご指示ですので。」という正論に封じ込められた。
ただ、その正論に伴って医師の吐いた台詞が、嫌味満載の「最近人気だそうですねぇ〜。へへっ!天才外科医って!」というもの。随行する医師達の態度も口には出さないが同様で、お世辞にも田村女医は周囲に好かれているとは思えない。
1人取り残された田村女医はもう一ヶ月もメスを握らせてもらえていないとのことを呟き、ドアを殴りつけるほどの苛立ち振り。そんな彼女を物陰からターゲット・ロックオンのカザリ。そしてオープニングに入ったのだが、それは多くの特撮ファンを、特にシルバータイタンを驚愕させるものだった。
OPには当然キャストが紹介されるのだが、そこには「院長 浜田晃」と……………タイタン!
タイタンじゃないか!!
『仮面ライダーストロンガー』第23話以来、35年3ヶ月振りに浜田氏がマスカーワールドに帰ってきたんだ!!!まあ、単発の客演であったが(苦笑)、それでも嬉しかった!!
衝撃のOPが終わり、場面はクスクシエにあるアンク控室。そこで荒れるアンクは何もかもが気に入らなかった。
メダルを集めたり、iPhoneを操作したりするためにも泉刑事の体を確保する都合上、知世子さんや比奈の言うことに耐えることでストレスが溜まっている訳だが、やはり根本にあることは人間への見下しである(ただの少女である筈の比奈の怪力も気に入らない)。
加えて、着々と集まるコアメダルに、アンクが最も欲している自分のコア…すなわち赤色=鳥系のコアメダルが一向に増えないことが拍車を掛けていた。
「なぜ俺のコアメダルは1枚もないんだ!」と叫ぶアンク。そのストレスは最早限界間近といった状態に(←映司曰く、「よく我慢している。」とのことなのだが)。
場面は替わって武蔵川総合病院。そこでは田村女医が1人の女性に父親の手術執刀を強く懇願されていた。何でも田村女医の手術の腕に関する評判を聞き、わざわざ転院したというのだから、確かに腕は凄くいいのだろう。
だが前述した様に一ヶ月も手術をさせて貰えずにいる彼女は患者家族に応じたい意志は示せても確約出来ない苛立ちを抱えて院長室に飛び込んだ。手術の執刀医を任命するのは院長(浜田晃)の権限だからである。そして登場した武蔵川総合病院の院長。さすがに貫禄あるね、この人(笑)。
患者がわざわざ転院して頼ってくるほどの技術を持ちながら、それでもオペをさせてもらえないのに納得のいかない彼女は「どうして私の患者の手術を私にさせないんです?院長!?」と詰め寄った。だが院長は動じることなく、
「「私の患者」じゃない。「この病院の患者」だ。」とした。
だが田村女医は「私を頼って入院した患者」を「私の患者」として譲らない。
私事だが、以前勤めた会社であるお客様に特別信頼を寄せられたことに思い上がって、「私のお客様」と言って、「お前のお客様じゃない!会社のお客様だ!会社の名前無くしてお前の力だけでこのお客様からここまでの御信頼を頂けたと思っているのか!?」と叱られたことが有るので、田村女医の気持ちも凄く分かるし、院長の言っていることの方が正論なのも分かる。
ともあれ、田村女医は「他の先生は面白く思っていないことも知っています。彼等が何を言ったのか知りませんけども、それを真に受けるなんて!」と抗議を続けた。
確かに誹謗中傷によって、田村女医が今の境遇にあるなら彼女の怒りも分かる。ただ、院長も他の医師も彼女の腕を悪く言っている訳ではない。故に誹謗中傷ではなく、原因は彼女自身にあると見える。
だが院長は具体的な説明もせず、「執刀には適任者を選ぶ。それが気に入らなければ今後は手術だけでなく患者自体請け負う必要はない。行きなさい。」と穏やかながら断固・冷厳として言い切った。
直後、ナースステーションは(田村女医が立ち聞きしているのも知らず)田村女医が手術から外された噂で持ち切りになっていた。「出る杭は打たれる。」との評で、ここでも腕は認められこそすれ、否定されてはいない。多くの患者に慕われ、確かな腕があるということは、人格にも技量にも問題が無さそうなのに、その理由を明白にしないということは、彼女の思考に問題があり、それに1人で気付かなくては解決しないということだろうか?
ただ、個人的にはドラマの世界にも、フィクションの世界にも理由を言わないまま個人の苛立ちを募らせるケースがあまりにも多くて、シルバータイタンまで苛つく(苦笑)。結果論的に見ても「あの時一言言っていれば……。」というケースが本当に多い……。
ともあれ、田村女医の苛立ちはますます募るのだった。そして手術をしたい、手術させないなんて認めない、という思いが禁断症状レベルにまで昂じている田村女医はグリードにとって格好の餌食対象。案の定、彼女の前にカザリが現れ、メダルが埋め込みまれたのだった。
その夜、ヤミーの巣として欲望暴走マシーンと化した田村女医は就寝している患者を勝手に手術室に搬送し、1人で手術するという暴挙を敢行(それも何人も!)。結果、カザリが期待した通り、セルメダルはどしどし生み出された。
それをアンクが察知し、アンクと映司は明け方近くの武蔵川総合病院に向かって走るのだった。
少し話が横道に逸れるが、院長の許可なしに執刀するのは完全な違法行為である。例えばシルバータイタンが治療目的にメスを振るって誰かの体から血を流せばこれは立派な傷害罪となり、医師が医刀でもって人の体から血を流す行為も例外ではない。
ただ、刑法第35条に「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」とあり、外科医による手術での出血や、プロレスラー・プロボクサーが試合で対戦相手を怪我させると言った行為は「正当業務」とみなされ、処罰対象にならないのである。
つまり、病院の責任者である院長が認めていない手術は「正当業務」に入らず、この田村女医の行為は立派な違法行為なのである。
ただ、実際にそれで重病患者の命が救われたとあれば、擁護する人は多いだろうし、ブラックジャックじゃないが、違法を承知の上でも助かりたい、家族を助けたい人も多いだろう。なかなか難しい命題である。
場面は替わって鴻上生体工学研究所。
そこではDr.真木とカザリが密談していた。両者の間には密約があり、「メダルを集中させる器」を求めるDr.真木はカザリを研究の為の観察対象とし、カザリは配下のヤミーが勝とうが、OOOが勝とうが、その戦いによって動くメダルを(一部なりとも)入手出来ることになっていた(配下のヤミーが勝てばそれでよし。OOOが勝った場合も鴻上会長に支払われるメダルの一部を横流ししてもらえることになっていた)。
その上でDr.真木には、「メダルを集中させる器」をOOOにするのか、グリードにするのか、それとも新たなドライバーの装着車とするのかを決断するという目的があった。
場面は替わってクスクシエから武蔵川総合病院への途上。
アンクの案内で現地に急ぐ映司とアンクの前に(ヤミーより更に下の)屑ヤミー達が立ちはだかった。雑魚なのだが手応えがなく、ゾンビの如くすぐに立ち上がり、とにかく数が多い。OOOはアンクの助言に従い、ガタトラバによる触覚からの電撃でこれらを蹴散らした。
だが、その攻撃は映司が頭から煙を吐くほどの苦痛を伴うもの。そうなることを分かっていただろ?と詰問する映司にアンクは「コンボ(によるダメージ)よりましだろ。」と返した。そしてアンクは現場に残った割れたセルメダルを見て、屑ヤミーを放つ相手を「落ちぶれた」と見るや、苦しむ映司を本命のヤミーが待つ現場へ追随させた。
そしてその背後ではウヴァが割れたセルメダルを拾い上げていた………。
隠れ家に戻ったウヴァはメズールとガメルに一つの意見を具申していた。曰く、「俺達の状況が変わらないのは俺達自身が変わらないせいだと思わないか?アンクやカザリみたいに新しい人間の世界にもっと馴染むべきだ。むかつくがまずは力を蓄え、頭を使う。」とのことで、1つの考えに固執しないところは一味ある悪である。
先程屑ヤミーで映司・アンクの邪魔をしたのも敵の出方を学ぼうとする観察行為だったのだろうか?
場面は替わって武蔵川総合病院。そこには、マスコミによって田村女医が助手スタッフ一切無しで、難度の高い手術を次々に成功させたことを知った診察希望者が大挙して押し寄せ、その為にキャパを越えていると見た病院側では「初診の方は他の病院をご紹介します!再診の方のみお入り下さい。」との処置を取っていた。
病院にヤミーがいることが分かっていても、これでは潜入出来ない。勿論周囲への迷惑など考えないアンクは強行突入も辞さないのだが、それは映司が気にする(苦笑)。
幸いと言っては変だが、アンクが体を間借りしている泉刑事が以前この武蔵川総合病院に盲腸で入院したことが有ったため、泉刑事の記憶と身体と経歴を共有するアンクが「再診」の態で診察を受けることとなった。
場面は移って院長室。そこでは医師達が院長を前に頭を悩ませていた。
ある医師の言によると、殺到した患者たちは田村女医でないと手術を受けない、というのだ。医師の一人・野村医師(田宮五郎)も非常識な行為に対する非難の気持ちと、独力で難手術を次々と成功させた手際への驚きに複雑な表情を見せていた。
そして当の本人である田村女医は、自分の欲望と、技術への確信と、患者達の要望から手術は自分が取り仕切ると勝手に決めてかかっていた。
場面は替わって鴻上ファウンデーション会長室。
そこでは鴻上会長が後藤の再度の単独行動に思いを馳せていた。後藤は里中から伝えられた会長命令を部下に丸投げし、自らはヤミーの姿を求めて、カンドロイド達に映司を尾行させ、武蔵川総合病院にヤミーがいることを突き止め、その対峙に臨まんとしていた。
鴻上会長の呟きに対し、代替を振られて必死にケーキを食していた部下(藤田慧)は(笑)、後藤を庇うような口調で彼がグリードとの戦いを優先させたがっていることを告げた。
それに対して鴻上会長は「結構!」と叫んだ。前回の独断専行時同様、心情的には欲望に素直になっている後藤の動きを一つの成長開始と見てそれを喜んでいた。
ともあれ、延々とケーキを食べさせられることで里中が高給もらっているのなら、大食らいのシルバータイタンとしては少し羨ましいかも(笑)。
場面は戻って武蔵川総合病院。比奈の協力を得て泉刑事の診察受付をパスしたアンクだったが、「盲腸の再診」の筈なのにアンクが扮した病態は、「車椅子に乗せられて包帯ぐるぐる巻き」というもの(笑)。どこが「盲腸」だ?(笑)。
アンクの「ここまでやらせてヤミー逃したら分かってんだろうな?」という台詞と気持ちも少しだけ理解出来る(苦笑)。
それに対して映司は、「今一番大事なのはヤミーをここで暴れさせないこと。速やかーに発見して速やーかに連れ出す。」とした。
受付を済ませた比奈は、自分がヤミー退治の一助になれたことに満足したのだが、アンク=泉刑事の体が半ミイラ男状態になっていることに憤慨し、車椅子ごとアンクを持ち上げて移動させ、今度は相変わらずの比奈の怪力にアンクの方が憤慨するのだった。
場面は移って、院内のある一角。そこでは手術に向かおうとした田村女医を捕まえた院長が彼女を詰問していた。
「どういうつもりだ!勝手に手術を始めるとは!?」(院長)
「こうでもしないと2度とメスを握れませんから。」(田村女医)
「失敗したらどうするんだ?」(院長)
「自信があります!手術は私の天職なんです!」(田村女医)
「思い上がるのもいい加減にしなさい!手術をさせないのはお前にその資格がないからだ!」(院長)
「資格私の患者達が証明してくれています。それを妬んで私を手術室から遠ざけるなんて卑怯です!」(田村女医)
「馬鹿者!もう二度とお前にはメスは握らせない!いいな!」(院長)
という口論が為されていたのだが、院長の訳も言わない頑なさ(命令不服従を責めるのはいいのだが、それしか口にしない)も、そこそこ社会的地位のある人間が部下の女性相手に感情的になって、「お前」という二人称を使うのも少し変だ。
その間に、ウナギカンドロイドの伝達から口論を知って駆け付けた映司の眼前で突如院長は左胸を押さえ出した。
そしてそんな状況が目に入っているのか、いないのか「そんなこと許さない……手術します……したいんです……手術したい……お前を手術させろぉ〜!!」と、手術に対する欲望の権化と化し、その五指がメスに変化し、院長に襲かかった!
勿論映司が助けに入ったおかげで、矛先は院長じゃら映司に替わったが、2人が去った直後、院長はただただ呆然と立ち尽くすのだった……。
映司はカンドロイドにヤミー確認を告げたが、車椅子に座したアンクは反応を示さない。「聞こえた?」と比奈に言われてもそれに応えず、「随分とマヌケな変装だなぁ〜。」と視線の先に向けて言い放った。
視線の先にいた者とは、アンク同様仮病で潜入していた包帯グルグル巻で松葉杖の後藤(笑)はいつも同様、アンクの憎まれ口に「それはお前だろ。それともコアメダルが見つからなくて本気で医者頼みか?」と同レベルで返していた(苦笑)。やっぱ、どこか似た者同士なところあるな、この2人……。
仮病の筈なのにともに身動きに制限できるギプスや包帯をしていた2人は些か間抜け過ぎ(←いざという時ヤミーと戦えんだろう!)だが、その状態で取っ組み合いを始めようとしたのはもっと間抜けだった。挙句、慌てて止めに入った比奈の怪力に握り締められたアンクは泉刑事の体を離れて後藤の顔面にロケットパンチをかますのだった。
泉刑事と後藤のダブルノックダウンとなり、兄を心配する比奈を尻目にアンクは屋外に飛び出すのだった。
場面は替わって武蔵川総合病院屋外。暴走した田村女医を武蔵川総合病院から連れ出すことに成功した映司は彼女を取り押さえたが、体内からはシャムネコヤミーが飛び出した。
映司は駆け付けたアンクからメダルを受けてOOOに変身してシャムネコヤミーと対峙していたが、猫科特有の俊敏さに翻弄されていた。
それゆえOOOは負荷を克服したサゴーゾコンボで対抗。忽ちシャムネコヤミーを圧倒的なパワーの差で追い込んだが、シャムネコヤミーが田村女医の体内に戻ったため、とどめへの矛先が鈍った。
結局これがためにシャムネコヤミーには逃げられ、この事態にアンクがブチ切れた。「お前は早く刑事さんのトコに戻れ!」という映司に「知るか!もう何もかもウンザリなんだよ!」と言い捨てて、どこぞへ飛んで行ってしまった。
勿論、アンクが泉刑事の体を長く離れることはその命を危うくすることを意味する。この背景を久々に思い出させるかのようにアンクを失った泉刑事が危篤状態に陥っていた。その運命や如何に?!というところで以下次週へ。
次話へ進む
前話に戻る
『仮面ライダーOOO全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る
平成二七(2015)年一一月二二日 最終更新