仮面ライダーOOO全話解説

第26話 アンクとリングと全部のせ

監督:柴崎貴行
脚本:小林靖子
 前回の「3つの出来事」は「1つ、引退を決めたボクサー・岡村一稀の欲望からヤミーが生まれる。2つ、ヤミーはアンクの属性の鳥のヤミーだった。そして3つ、アンクはOOO達からヤミーを守り、姿を消してしまった。」というものだった。

 場面はクスクシエから始まった。伊達に依頼された手当て用の道具を購入した比奈が戻ると、そこでは映司が伊達の荒療治に悲鳴を上げていた。だが荒療治以上に後藤のアンク疑惑の方が辛辣だった。アンクも所詮グリードとして、敵であると云いたい気な後藤に、映司はそれでもヤミーは作っていない、と云い張った。
 復活や生態から他のグリードと異なるとも。映司はアンクが自分達の邪魔をしたのは、鳥系の他の存在の手掛かりを失わないため、と推測したが、後藤は犠牲者が増えている事実を差して、ヤミーを守っていい理由にならないとした。
 そこから3人は、議題をオウムヤミーの行動パターンにシフトしたのだが、ボクサーを襲って、岡村の元に戻るオウムヤミーの行動を「鳥の子育て」と見た伊達は、ニワトリヤミー?とボケたが、すかさず後藤が「どう見てもオウムでした。」とツッコみ(笑)。こんなところで名コンビ振りを発揮しなくても(苦笑)。

 その頃、監禁中の岡村は激しく葛藤していた。オウムヤミーに言わせると、岡村の腕は完治しているのだが、それでも岡村がグローブを取ろうとしなかった。リングに立てなくなった苦しみを知るゆえに、自分の為にオウムヤミーに襲われ、ボクシングの出来ない状態にされた他のボクサーの気持ちを想い、欲望に抵抗していたのだった。それでも前話の武田に言われた「リングを下りたらもっとボロボロ。」との台詞がリフレインし、その相反する想いが岡村を苦しめていた。
 だが、ついにオウムヤミーの唆しもあって、リング復帰への欲望が勝り、岡村はグローブに手を伸ばした………

 ここでOPに入ったのだが、その直後少しショッキングだった。摩季ネェの歌う「Anything Goes!」が終わると、提供が紹介されるのだが、今回それが無かった。それというのもこの第26話放映の9日前、平成24(2011)年3月11日に東日本大震災が発生したからだった。その16年前に起きた阪神大震災以上の大惨害をもたらした大災害を前に、日本社会は戦後最大の痛手を被り、連日被災地の状況を伝える報道が締め、この第26話も本来放映される予定だった3月13日から流れて3月20日に放映された。
 この時点では企業もCMを自粛し、公共広告機構のCMばかりが流れていた。ストーリーに直接関係なくても、未曽有の大災害であったことが思われてならなかった。

 ともあれ、ストーリーの続き。伊達は重症の映司に少なくとも今日一日は安静にしろ、と「医者として」つたえ、後藤とともにクスクシエを出た。一連の流れを見ていた比奈は店を出る直前の伊達に映司が変身後に倒れることが多いのを心配していると告げた。
 とはいえ、医者の伊達もOOOのことまでは分からない。質問を振られた後藤もコンボへの多段変身後に映司が辛そうにしていることがぐらいしか思い当たらなかった。
 帰路、比奈の質問が引っかかっていたのか、一億稼ぐ為に深入りしたくない、と云いつつもOOOのことを機に掛けずにはいられない旨を呟くと、後藤は自分もそうだったと返答。特に鴻上会長やDr.真木と云った事情をよく知るであろう人物達の傍にいながらOOOについて何も調べてなかったことに後藤は思うところ大きく、伊達に鴻上ファウンデーションに戻る、と宣言した。
 頭下げることになる、と告げる伊達に必要とあらば土下座も辞さないとの決意を述べる後藤。凝り固まったプライドがほぐれた大きな成長と云えた。映司がマイペースを崩さない分、後藤の人間的成長は実に微笑ましい。

 その頃、Dr.真木は車中にてカザリと連絡を取り合っていた。両者ともにオウムヤミーを生み出す元となったグリードが思い当たらない。簡単な情報交換を終え、通話を終えたDr.真木が車を止めていたのはクスクシエの近く。そう、彼は知世子さんをストーキング中だったのである!
 とはいえ、スケベな感情によるものではない。店頭を掃き掃除する知世子さんを見て、「似ている…生き返ったかと思うほど…。」と呟くDr.真木が懐から出したパスケースには知世子さんと瓜二つの女性の写真が入っており、幼少の頃の回想シーンから、Dr.真木の姉と知世子さんが激似の人物であることが判明した。
 回想シーンから類推するに、Dr.真木と亡き姉はかなり歳の離れた姉弟だったようで、姉と遊んでいたときの真木は屈託のない笑顔で笑っていたが、1986年に28歳の若さで亡くなった仁美姉さんの墓前に立つ時には現在の暗い表情で、例の人形をその手にしていた。どうも破綻的な性格は大好きだった姉の死が影響している模様。果たしてこの2人が顔を合わせたらどうなるのか?

 場面替わってボクシングジム。と言っても、岡村のそれではなく、武田のそれである。そこでは岡村との防衛線をドタキャンされた武田が後輩達が恐れるほどの荒れ様でスパーリングに没頭していた。するとそこへオウムヤミーが現れた。オウムヤミーは再びリングに上がる喜びの方を優先した岡村と戦わせるべく、武田を拉致しに来たのだ。直後、これを予測していた伊達と後藤が駆け付け、伊達はオウムヤミーに対峙し、後藤は門下生の避難誘導に掛かった。
 相変わらず炎を吐くオウムヤミーに苦戦した伊達はキャタピラレッグとドリルアームを駆使して対抗したが、その戦いに何と武田が割って入ってきてしまった!
 曰く、「待っているのが岡村さんなら…俺を連れて行け!」としてオウムヤミーとともに飛び去ってしまった。どうやら、武田の「岡村と戦いたい。」という欲望は、岡村の「1ラウンドでいいからリングに戻りたい。」という欲望に負けず劣らず強いらしい。

 飛んで逃げられては追いようがなく、手掛かりを亡くして項垂れる伊達と後藤の前に重傷の映司がふらつきながら現れた。医者の忠告を無視か、と激昂しかける伊達を制し、映司は重要な手がかりを伝えた。
 映司がジムの人から聞いた情報によると、岡村にはデビューするまで練習していた場所があり、思い出があるゆえにリングもそのまま残しているという。それを聞いて伊達は「幻のタイトルマッチにはピッタリ。」と納得。映司も伊達も岡村のパンチドランカーを悪化させないためにも試合を止めなくてはならないことに同意した。
 だが、情報を得て、後は任せて休んでいろ、という伊達の勧めを映司は頑として聞き容れない。伊達は映司を止める別の理由として、「またアンコが邪魔をしたらどうする?俺は後藤ちゃんの云うことも一理あると思うぜ?奴だってグリードの1人なんだ。戦うことになってもいいのか?」と切り出した。
 だが映司はそれに対しても、アンクとは初めから利用し合う関係で、必要とあらば戦うことにあるとした会話を回想した。もっとも、「でも今はその時じゃないですけど。」と付け加えてはいたが。ともあれこうなると伊達達には止める言葉はなかった。

 「お前の言う通りだ。俺はリングの上でしか生きられない。」(岡村)
 「ボクサーはみんなそうですよ。」(武田)
 岡村と武田が開口一番に交わした会話だが、何とも複雑だ。男塾マニアとして武士道を初めとする男道を信奉する者としては、シルバータイタンはこの2人の生き様を大いに絶賛したい。
 だが『菜根譚』を重んじる道場主の分身としては、刹那的な生き方に目を奪われ、未来を見ようとしない2人に、「引退したボクサーには価値が無いとでもいうつもりか!通常は引退後の人生の方が長いんだぞ!!」との非難を浴びせたい気持ちになる。

 ともあれ、オウムヤミーは2人をけしかけると、「ゴング代わり」と称して、天井に火炎弾を放った。天井を破った火炎弾は様子をうかがっていたアンクを直撃。オウムヤミーはアンクの尾行に気付いていた。やはりオウムヤミーの誕生にアンクは関与しておらず、アンクはいずれセルメダルを持ち帰るオウムヤミーを尾行して、オウムヤミーの本当の親を探すつもりだったが、オウムヤミーはアンクのコアメダルを奪わんとして襲い掛かって来た。
 勿論、普通に考えるなら勝負にならず、アンク絶体絶命のところだが、そこへ映司が駆け付けた。「あいつからメダルの在り処を探るのはどうやら無理っぽいな。」と諭す映司。暗にこれからの戦いを邪魔するなというのだろう。続けて、映司はアンクに彼の考えは分かると云った筈だと述べ、もしアンクが本気で邪魔をする気なら最も大切な赤コアメダルを渡す筈がないとし、自分をアンクとメダルを守る保険だろ?と締め括った。
 すべてを見透かされて尚、「持つべきものは『使えるバカ』だな。」とひねたボケをかますアンクと、「使い過ぎ。」とツッコむ映司の掛け合いが笑える(笑)。

 かくして映司は改めてアンクからコアメダルを受け取り、通常のOOOコンボに変身。程なく、伊達と後藤も駆け付け、2人のボクサーを止めんとしたが、勿論聞く耳を持つ2人ではなかった。
 死んでもこの試合だけは、とする岡村に伊達が本当に死にかねない体であることを認識しているのか、と問えば、「リングを降りる方が身体に悪いんでね!」と、最前の制止を拒んだときの映司と同じ台詞を吐いた。直後、外で戦っていたOOOとオウムヤミーが天井を破って転落して来たのを見た伊達の云った、
 「ったくどういつもこいつも…人間てのは自分の命よりも大切なモノがあんだから始末が悪い。行くよ後藤ちゃん。あっちのドランカーも助けるないと。」
 という台詞はこの第26話端的に表していたと云えよう。伊達と後藤はボクサー達を止めるより、オウムヤミーを退治した方が早いと思ったのか、屋外に向かい、後藤は出る直前に「逃げて下さい!」と云ったが、やはり2人のボクサーはこれを無視し、クロスカウンターでお互いの顔面を打ち合った………。

 CMが終わると、その頃のOOOは劣勢に立たされていた。OOO云うところの「誰かさん」のせいで重傷を負っていたからである。そこに伊達と後藤が加勢するとOOOは一計を案じ、アンクにコンボ攻撃を打診。青のコアメダル3枚を渡すアンクに長くはもたないと言われると、今度はバースに一撃で決めるから隙を作って欲しい、と申し出た。
 バースは簡単に云うな、と呆れつつも、こっちも「とっておきを使うか。」と呟いた。ところがそこへクレーンアームで投げ飛ばされた筈のオウムヤミーが急襲し、バースは瓦礫の山に埋まってしまった………。
 と思いきや、「ドリルアーム・クレーンアーム・ショベルアーム・キャタピラレッグ・ブレストキャノン・カッターウイング」と瓦礫の中から、電子音声6連発が流れるや、仮面ライダーバース・最終形態がその姿を現した!
 「覚悟しなニワトリちゃん!」(←まだ云うか?)と言いながら凄まじいパワーで突進したバースはドリルアーム一閃。オウムヤミーを大きく弾き飛ばした。そしてその間隙を逃さず、OOOもシャウタコンボに多段変身、オクトバニッシュでこの強敵を粉砕したのだった。

 そしてリングでは2人のボクサーがダブルノックダウンしていた。意識を取り戻した岡崎の左腕は、オウムヤミーが死したことでその影響を亡くし、「魔法切れ」としながらも、リハビリしてもう一度リングに立ち、今度は本当の自分の拳で戦うと宣言した。
 「死ぬならリングの上だぁーっ!」と絶叫する岡崎に対し、「それまで…タイトル守っときます。」と告げる武田………2人ともカッコ良過ぎ………。

 そしてその外では、案の定、重症の身でコンボを発動させた映司がひっくり返っていた。しっかり映司の面倒を見ろ、とアンクに告げる伊達、そして「ヤミーを作ったと疑ったのは悪かった。」と謝罪する後藤。プライドの塊だった後藤が素直に謝罪したことに拍子抜けするアンク(笑)。ともあれ、伊達と後藤は撤収した。
 一方映司は、アンクに彼以外に鳥のヤミーを作れる者の存在がいて、それがためにアンクは他のグリードと異なるのでは?と尋ねた。相変わらずそれにはまともに答えず、「完全復活…いやそれ以上の身体を手に入れる。」という目的だけをぶっきらぼうに告げ、「それまでOOOは必要だ。」と云った台詞を証明するかのように、アンクが映司を助け起こした。

 そしてラスト。鴻上ファウンデーション会長室では鴻上会長が赤い鳥の羽を対象としたバースデーケーキを作り、現場を引き上げる映司とアンクの背後では「アンクの左腕」が赤羽を撒き散らしながら2人を注視していた、というところで以下次週へ。


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令和三(2021)年五月五日 最終更新