仮面ライダーOOO全話解説

第30話 王とパンダと炎の記憶

監督:田崎竜太
脚本:小林靖子
 前回の「3つの出来事」は「1つ、真木の欲望からヤミーが生まれる。2つ、ヤミーは真木の亡き姉にそっくりな知世子を狙う。そして3つ、アンクの前にアンクと同じ腕を持つ鳥のグリードが現れた。」というものだった。

 んでもって前回の吸収合戦の続きから始まった訳だが、この応酬は映司が阻止し、アンクからメダルホルダーを借りるとOOO・シャウに変身し、放水でアンク(ロスト)が怯んだ隙にバッタレッグを駆使して撤退した。
 現場に残されたアンク(ロスト)だったが、そこにカザリが接触。短い会話から、体の大部分を持つアンク(ロスト)が記憶はないことが判明。いずれにせよ、カザリとしては800年前の記憶と敵意を持つアンクより、記憶のないアンク(ロスト)の方を当座の仲間と認識した。

 その頃、前回知世子さんの手当てを受けたDr.真木は、知世子さんの運転で帰途についていた。相変わらずの無表情なのだが、微妙に普段より穏やかで、剣呑さが失せている。表情に頼らず雰囲気だけでそんな相違を感じさせるのだから、Dr.真木を演じる神尾佑氏の演技力は卓越している……。
 この文章を綴っているのは平成27年11月7日なのだが、この時点で神尾氏は『新ウルトラマン列伝』の『ウルトラマンX』でXioの上木正太郎隊長役で出演中なのだが、放映が始まってしばらく、シルバータイタンは両者が同一人物であるのに気付かなかった。勿論、シルバータイタンの観察力の無さもあるのだが、「役柄になり切る」という役者に最も大切な要素に、神尾氏が優れているからというのもあると信じたい(苦笑)。

 OPが終わると、クスクシエではアンクが映司に連れて来られ、伊達も手掛かりを求めてやって来たが、一先ず休止状態。その頃カザリはヤミーを作ることは覚えていても、丸で子供みたいに手を繋ごうとしたり、「僕はどこ?」ばかり口にしたりするアンク(ロスト)を親鳥を求める雛鳥みたいとしていた。

 その頃、「こっちの方が距離が近いので。」としてDr.真木は知世子さんをかつて自分が住んでいた邸宅に案内した。そこは大きな洋館で、救急箱を取りに行った知世子さんを見て、Dr.真木はかつてことあるごとに自分を励ましてくれた在りし日の姉を思い浮かべるのだったが、時折、その洋館は回想の中で倒れた燭台の火から起きた火災に見舞われていた。どうも仁美姉さんの死因はここにありそうだ。
 そしてその仁美姉さんの写真を偶然見かけた知世子さん。さすがに驚いたようだった。果たして自分の瓜二つの存在を知った知世子さんは何を思うのか?

 場面は替わって鴻上ファウンデーション会長室。そこでは鴻上会長が里中に、研究所に戻らないDr.真木のことを尋ね、依然不明と知るや、鼻で笑うような姿を見せた。一方で雑用を厭わずこなし、「本当に別人みたいです。」と里中に評された後藤に関しては満面の笑みを浮かべ、「すべてが面白い!」と絶叫した。だが、本当に変わった後藤は単純に命令に服するだけの珠ではなく、データ入力の合間を縫って、OOOやメダルに関する機密情報を得ようとしていたが、さすがにガードは堅かった。

 場面は戻って旧真木邸。そこでは仁美姉さんの写真に関してDr.真木と知世子さんの会話が交わされていた。その会話から、仁美姉さんは両親が早くに亡くなったこともあって、実質Dr.真木の母親に等しかったこと、亡くなった原因はやはり火事で、しかもそれは結婚式の前日という悲惨な話だったことが分かった。
 仁美姉さんが故人と知り、悪いことを聞いた、と気まずそうな知世子さんをDr.真木が責める筈もなく、「随分経ちましたので。」とし、それ続けて「今日ここに来たのは貴女に会ったせいかも知れません。」と意外な素直さを発露していた。

 場面は替わってクスクシエ。そこでは映司達の一部始終を聞いた伊達が、元は1人のアンコ(アンク)が「右腕だけ」と「右腕以外」に分離した、との結論を出していた。素体を見透かされたことを気に入らなさそうにするアンクだったが、そんな表情を示すだけで痛みが走るほどの重症。普段の態度から「ざま見ろ。」と云いたくなるところだが、比奈が本気で心配しているのだから、かなり辛いのだろう。
 ともあれこれでは行動がままならない。背に腹は代えられない、と映司は伊達にセルメダルの借入を申し入れた。余計なことするなというアンクだったが、伊達は貸しても良いという。但し、彼の知るグリード、メダルに関する情報をすべて出した上でとのことだった(←妥当と云えなくもない)。
 だがアンクは「お前達が知る必要はない!」と拒否的。しかし伊達が知りたがっていることは映司が知りたがっていることでもあるので(笑)、「借りた方がいい!」から、すぐに「もう借りたもんね〜。」といって手に一杯のメダルを握っていたのだから映司もいい性格している(笑)。

 場面は替わって鴻上ファウンデーション。引き続き後藤がデータ検索をしていたのだが、突如ルームの画面という画面に鴻上会長のドアップが映り(笑)、データが見たければ25階に来い、と宣った。相変わらず部下の極秘行動もしっかり把握する人物である。
 後藤が当該階に行くとそこには鴻上会長と、数々の資料が待っていた。それ等の資料は彼が長年かけて収集した800年前のグリードの誕生から封印までに関する物だった。そしてそこから800年前が語られ出した。またクスクシエでは映司や伊達に求められたアンクが同じことを語り始めていた。

 歴史を紐解くと、グリードの誕生は800年前にある王が世界を支配する力を欲したことがきっかけだった。800年前のOOOとはその王のことだと云う。王は様々な生物の力をその体に取り組むことで神にも等しい存在になろうとした。
 そしてOOOとグリード達が対立する中、当時もOOO側に立ったグリードがただ1体………それがアンク(もちろん完全体)だった。
 だがその王は欲望の塊故に暴走。唯一自分に味方したアンクさえ貫き、グリード達の肉体ごとすべてのコアメダルを吸収した。が、膨大な力に王の体は耐え切れず、収縮した巨大なエネルギーによって瞬時に石化すると大爆発。吹き飛んだその肉体はメダルを収めた石棺となって再構成された。
 メズールガメルウヴァカザリ達は普通に封印されたが、アンクはコアを取り戻そうとして右腕だけを切り離し、その状態で封印されてしまった。アンクのの意識は封印された方のコアにあったので、アンクは当然残った肉体はメダルに戻ったものだとばかり思っていた。だが皮肉にもアンクの肉体は確固たる存在として現代まで残っていた。その肉体を年末年始におけるヨーロッパ旅行で鴻上会長が入手していた。
 そしてその体から会長がコアメダルを抜いた途端開放された。つまりは鴻上会長が要らんことをしたので、右腕を除くアンク(ロスト)が生まれ、鴻上会長の元にコンドルのコアメダルが握られたという訳だった。
 要らんことしぃの張本人はアンク(ロスト)の誕生も祝福し、「ハッピー・バースデー!」と叫ぶ…………さすがにこの傍迷惑をえ誇らしげに語るハイテンションには後藤も呆然としていた(苦笑)。

 その頃、カザリアンク(ロスト)に人間体への変身を促していた。「このままのカッコじゃ色々と面倒だからね。」としていたが、まあ腹黒いコイツのこと、手懐けて後々利用する魂胆なのは見え見えである。ともあれ、アンク(ロスト)はたまたま近くを通りすがった小学生低学年ほどの少年(飛田光里)の姿を真似た。アンク(ロスト)を手懐けたいカザリとしては好ましい展開だった様だ。

 グリードの過去が紐解かれている頃、旧真木邸ではDr.真木の過去が紐解かれていた。Dr.真木と知世子さんの会話から、彼が常に携行させ、依存している人形は姉が結婚に際して自分の替わりとしたもので、また彼に「終わりをもって完成」という概念を吹き込んだのもまた姉だった(そんな回想シーンの中には一部、幼少のDr.真木を邪魔者として邪険に扱う仁美姉さんも混じっていた)。
 そしてそんなDr.真木の手に自分の手を重ね、姉は優しいままの姉で彼の心の中にいるという知世子さんに、Dr.真木は戸惑いとも、喜びともつかない表情で「姉さん…。」と呟くのだった。

 その頃、アンクとゴリラカンドロイドがパンダシャチヤミーの気配を察知し、まず伊達が話の報酬としてセルメダルをアンクに手渡すと出陣。アンクも無言のままセルメダルを食って映司と出陣。ただ比奈だけがアンクの過去話におけるOOOの暴走を思い出して不安気に見送るのだった。
 現場に向かう途上、映司は思い出した様にアンクに尋ねた。もし2人のアンクが1つになったら、どうなるのかを。それに対するアンクの答えは、「多分弱い方が消える。当然、消える気はないがな。」というもの。だが、右腕だけのアンクの方が不利なのは誰の目にも明らかで、映司ならずとも不安を覚えるところだった。

 場面は戻って旧真木邸。知世子さんの温かさに触れたDr.真木は自分のもう片方の手を重ねようとして、強烈な違和感を覚えた。Dr.真木の思うところによると、仁美姉さんは知世子さんの様な女性ではない、とのことで、記憶の中の優しい仁美姉さんが冷酷女に塗り替えられ、件の火事は真木少年が倒した燭台(それも意図的に)から発生したものであることも視聴者には分かり、半ば錯乱状態に陥ったDr.真木は知世子さんを邪険に追い返してしまったのだった………。
 気まずそうに知世子さんが帰った後、Dr.真木は板を打ち付けて封印されていた部屋を開けると、そこは姉の寝室で、中ではウェディングドレスを初めとした室内が業火に包まれていた(勿論幻覚なのは分かるが)。そして慌てて扉を閉めたDr.真木は子供の様に座り込んで号泣した………。

 場面は替わってとある路上。そこではパンダシャチヤミーが知世子さんに迫ろうとしていたが、まず伊達がダイビングアタックでこれを阻止(知世子さんはそのまま気付かず)。
 次いでOOOも加勢したが、相変わらずバランスの悪さで鈍重な動きを見せるパンダシャチヤミー。なかなかつかない勝負に業を煮やしたOOOがコンボを発動しようとしたが、バースがこれを止めた。バース曰く、「あんな話を聞いておいて気概になるな。暴走したいか?」とのことで、自分が決着を付ける、しかしOOOはタジャに多段変身。その格闘でパンダシャチヤミーが地面に倒れ伏したところにバースがブレストキャノンを決めたことで勝負はついた。
 決着後、伊達にメダルを返さなければ、と拾い集めるOOOを、「律儀と云おうか……。」というバースに、「バカなだけだ。」と重ねるアンク。どちらが正しいかは人それぞれということで(笑)。

 場面は戻って旧真木邸。扉前に座り込むDr.真木は姉の結婚が許せなかったことを独り呟いていた。否、正確には姉に捨てられたと感じたこと、姉が変わっていくことが許せなかった様だ。例の人形は姉の代わりとして渡されたものだったが、手渡す際に、自分がいなくても大丈夫、貴方は優秀だからというウェディングドレス姿の仁美姉さんの笑顔は悪女のそれだった。
 ほぼ万人に予想のついていたことだったが、仁美姉さんの死は真木少年による放火殺人。その死により、仁美姉さんは優しい笑顔の記憶として固定され、同時に「人は死んで完成する。」というDr.真木の終末思想もここに固定されていたのだった。
 直後、そこにアンク(ロスト)を伴ったカザリが現れた。自分と組むか否かのファイナルアンサーを求めて。それに対して、Dr.真木は最初から答えは出ていたという。そして「世界は早く終わらせなければならない。美しく、優しい内に。いずれその人を醜く変える前に。」という姉殺害の時と同じ持論を述べた。これまでやったことが許せないので同情する気は全くないが、取り敢えずDr.真木の歪んだ思想の根源は分かった。ただ、良心を完全に失ったとも思わない(でなければ知世子さんに姉の面影を追ったり、墓に花を手向けたりしないだろうから)。
 ともあれ、Dr.真木が「良き終わりを。」と云いながら手にしたスイッチを押すと、鴻上生体工学研究所研究室の機材が次々と爆発。カンドロイドも研究室からすべて飛び去った。

 そしてラストシーン。帰宅途中の映司とアンクの前に、カザリと真木、そしてアンク(ロスト)の3人が対峙した。カザリは「アンク、キミがアンクでいられるのも長くないかもね。」と彼らしい台詞を吐き、3人の背後には膨大な数のカンドロイドが終末の絵を掲げていた。かくして3者が無言の宣戦布告をしたところで第30話終了、以下次週へ。


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令和三(2021)年五月五日 最終更新