仮面ライダーOOO全話解説

第38話 事情と別れと涙のバース

監督:諸田敏
脚本:小林靖子
 前回の「3つの出来事」は「1つ、復活したメズールガメルは真木博士の元へ集結。2つ、メズールガメルのヤミーが大量のセルメダルを獲得。そして3つ、伊達明は1億円の為に真木博士と手を組んだ。」というものだった。

 バースバスターを構えたバースが敵にいるのもやばいが、更にやばいことが起ころうとした。Dr.真木の眼が紫の光を帯びると、同じく紫のコアメダルを体内に持つOOOの意識が飛びそうになった。気をしっかり持てと叱咤するアンクにはそんな余裕ないだろとばかりにカザリが襲い掛かり、メズールガメルはOOOに襲い掛かった。
 何とかOOOを援護しようとする後藤だが、それにバースが妨害の手を伸ばした。事もあろうに、勝ち目が無くて危険だから引っ込んでいた方がいいなどという。勿論後藤にとって信じられないし、信じたくない事態だが、「嘘ですよね!?」と叫ぶ後藤にバースは「俺、今まで後藤ちゃんに嘘ついたことないでしょ?」というや、当身を食らわせてしまった。

 後藤を気絶させたバースは、メズールガメルと交戦中のOOOにも攻撃を仕掛けた。後藤同様、伊達の裏切りなんて信じられない、信じたくないOOOは取っ組み合いながら「俺、上手く合わせますから!」と耳打ちしてバースの本音を聞き出さんとするも、バースの返事は「2人とも俺を買いかぶってくれちゃって。」と「正真正銘のお仕事なのよね。」だった。つまりは「仕事」の前に「情」はないということだった。
 ともあれ、伊達の台詞じゃないが、勝ち目のある状態ではなかった。OOOは3対1の不利な戦いを強いられ、アンクはカザリの攻撃をかわすのが精一杯。終いにはメズールガメルのダブル攻撃を受け、変身が解けた上にコアメダルまで飛び出してしまった。だがそこへ気絶から覚めた後藤がライドベンダーを突入させ、大破したライドベンダーから大量のカンドロイド群がグリード達を襲ったため、その隙を突いて何とか映司達は撤収に成功した。

 場面は替わってクスクシエ。伊達が裏切ったとの報に比奈も驚愕する中、後藤は何とか伊達のことを冷静に分析しようとしていた。アンクは伊達の目的が最初から1億円だったことが明言されていたことからも、裏切りは特段不思議な事でもないとした。如何にもグリードらしい台詞だが、後藤の「だから、事情が…!」という反論に、「どんな事情だ!?」と激昂していたので、裏切りそのものはアンクにとっても腹立たしいのだろう(←こいつの場合、単純に2枚のコアメダルを失ったことで怒っている可能性が高いが)。
 2人をなだめる映司は、伊達に「事情」があるとしたら当初の目的通り1億円ではないか?とし、後藤も前話で映司と推測した伊達の夢からも1億に対する執着には理解を示した。だが、夢を叶えるの為の金を汚い手段で稼ごうとしているとは思えなかった。
 それに対しアンクは、「『夢』なんてのは、お前等人間が『欲望』を都合よく云い換えただけだ。綺麗も汚いもあるか。」と鼻で笑った。アンクの意見に全面的には賛同しかねるが、夢と欲望が背中合わせであることや、立場や視点で綺麗にも、汚くもなるものだとはシルバータイタンも思う。
 ともあれ、後藤は伊達が変節したとすれば、体のことからくる焦り、と推測した。

 場面は替わって旧真木邸。そこでは今回の戦果であるコアメダルをDr.真木が封印していた。現在団結しているグリード達が分裂した時に所有者を決めればいい、という不可解な理由をカザリは、いつか誰かが暴走することで世界を終わらせるため、と述べた。それを聞いて余計不可解に陥るメズール。難しい話は苦手とばかりにアンク(ロスト)に遊ぼうと持ち掛けたガメル。だが次の瞬間、アンク(ロスト)は「邪魔だよ!」と(初めて)叫ぶや、左翼を伸ばしてガメルをぶっ飛ばした。やはり暴走しそうなのはこいつかな?
 そんな仲間割れがいつ起きてもおかしくないグリード達を呆れて見つめる伊達。そして彼を襲う激しい頭痛は彼の予測よりも早いものだった。やはり後藤が推測した様に焦っているのか?

 場面は替わって鴻上ファウンデーション会長室。そこでは後藤が伊達の為に1億円(それが無理なら可能な最大限度の額)を前借させて欲しい、と鴻上会長に願い出ていた。
 鴻上会長は後藤の熱意を素晴らしい、としながらも、前借可能な額は「(後藤の)年棒と、今後何年働けるか、財団への貢献諸々と欲望の大きさを考慮して算出される。」と告げた。そして鴻上会長が里中に出させたその算出額は…………7万8千円(苦笑)。
 後藤でなくても愕然とするし、アンクなら即座に掴みかかりかねない低額で、恐らくは上場企業であるか、それに負けない勢力を持つ「鴻上ファウンデーションの社員」という肩書を考えれば、サラ金に走った方が早い額である(安く見ても50万円は借りられるだろう)。
 鴻上会長に云わせると、そこまで低額ならしめたマイナス要因は、後藤の欲望とのこと。数々の経験を経て「つまらないプライド」は捨てたが、同時に欲望も小さくなってしまった、と後藤を分析する鴻上会長は、「伊達君のサポート」という位置に安住し過ぎた後藤が、以前バースになりたがっていたことを忘れているようだ、と評した。
 後藤は今でもバースになる意志は有り、その為の訓練も積んでいると訴えたが、鴻上会長は欲望を頭に留めず、ハートで感じろ!と助言した。確かにこれまでのストーリーを見れば、怪しげなハイテンションが胡散臭いとはいえ(笑)、鴻上会長の指摘に間違ったものはなかった。少なくとも後藤に関しては親身でもあった。このシーンは今後へのどんなヒントになるやら……。
 ともあれ目的ならず引き上げる後藤は、鴻上会長の、「伊達君がいなくなったらどーする?」という台詞と、伊達の「俺を死なせないって云ってたの、そういう意味かと思ってさ。」という言葉の意味を探るのだった。

 場面は替わって旧真木邸。そこでは伊達とDr.真木が奇妙な会話を交わしていた。伊達は世界の終末を目指すDr.真木に、「世界はずっと続くからいいんじゃない?自分が死んでも何かが残る」からと問い掛けたが、それに対するDr.真木の答えは、「残れば醜い残骸です。美しい内に終わらせなければ。」だった。その「美しい内」とはDr.真木が姉の人生を終末に導いた際の動機と同じもので、自分がグリードになっているとしたらその時であった、と告げた。そして研究所にいたときから伊達とは分かり合えると思っていなかったとし、明日、自分と伊達だけでOOOを襲撃すると告げて、自室に引っ込んだ。
 そんな会話の中、「止めるのは無理か…。」と小さく呟いた伊達。会話の終わりに「俺は結構好きだったよ。アンタのことも、その人形も。」と声掛けしていたコイツの価値観はよく分からんが、意外と作中、1,2を争う人間好きかも知れない。

 翌日、映司は互いの体に埋まっている紫メダルを通じてDr.真木に廃工場に呼び出された。紫のメダルを巡って映司&アンクが伊達と対峙し、一触即発となったところに後藤が駆け付けた。
 1億円作ろうとしたけど無理だったと告げる後藤に、「えっ?そうなの?!」的な顔をする伊達。前借成功していたら本当に再買収出来ていたかも(笑)。だが後藤は伊達説得を諦めず、発展途上国に医療機関を作るのにこんな方法で入手した金でいいのか?と詰め寄った。
 だが後藤と映司の推論は大外れで、伊達が1億円を目指したのは己が頭に埋め込まれた弾丸的手術手術を執刀する闇医者への治療費を稼がんがため。自分のことを「最初っから欲望塗れ」とする伊達は、「まだ生きたい」と述べ、その為には映司達と戦うことも辞さないと告げた。まあ「死にたくない…。」という欲求は生物として凄く自然なものではあるが。

 この伊達のカミングアウト受け、それ見たことかと云わんばかりのアンク。だが後藤はバースバスターを構えながら、「だったら、俺が伊達さんを止めます。」と宣戦布告。そして、「やっと分かりました。「伊達さんを死なせない。」ってことは、ただ命の心配をするんじゃない。俺が、俺の知っている伊達さんのバースを引き継ぐ!それが「伊達さんを死なせない。」ってことです!その為なら、その為なら俺も戦います!」と宣言した。
 なるほど、自分が死んでも自分の残したものが生き続ければ、それは生物としての死を超越し、自分の生きた対象が残されて生き続けることとなる………そしてそれは伊達が紛争地で念じた、「俺がいなくなっても残る支援」にも通じる………。前の晩、伊達がDr.真木に説いたことにも……。

 後藤が開いた一種の悟りに、静かに満足したらしく伊達は「上等…。」と呟くやバースに変身。対峙する両者に、力が違い過ぎるとして加勢せんとした映司だが、後藤はバースバスターの出力は上げて来たと云い、バースも男と男の勝負を邪魔するな的な拒絶を示した。バースを託された者とバースを目指した者の宿命の対決になるかと思われた次の瞬間、何とバースは銃口をDr.真木に向けた!
 曰く、「悪いなドクター。こんな仕事は俺にしか出来ねえ。アンタをグリードにするなってよぉ!会長がぁ!」とのこと。何と伊達の裏切りは鴻上会長の密命による敵陣営潜入!やはり伊達は映司・後藤を裏切ってなかった……確かに裏切者の振りをしての潜入なんて、御人好しの映司や真面目人間の後藤には無理だ(笑)。

 バースと戦うことは避けられた。だが会長の密命は、逆を云えば、バースがDr.真木を攻撃できないことを意味していた。Dr.真木は自分に近づいて来たのは姉以外では伊達だけで、謀略的接触でなければ本当に協力して欲しかったと、幾許かの惜別を見せたが、バースに埋め込んである自爆装置を発動させる、と宣言した。
 確かにバースシステムはDr.真木による開発だから、そんな仕掛けがあっても全くおかしくない。マッドサイエンティストの作品には自爆装置が付き物なのは今も昔も変わらない。
 ペンシル型の起爆スイッチを構え、「マニュアルに書いてあった筈ですが?」と述べるDr.真木。伊達のマニュアル嫌いがこんなところで祟ろうとは…………ところが、「良き終わりを。」というDr.真木の台詞とともに起爆スイッチが押されたにもかかわらず、ほんの少し左胸部の赤ランプが点滅しただけで、爆発は怒らなかった。
 何故、爆発が起こらなかったのか?その答えは後藤だった。「悪かったな。俺はマニュアルが大好きなんだ!」とのことで(大笑)、自爆装置はDr.真木が研究所を出た後すぐに後藤によって外されていたとのことだった。
 伊達のマニュアル嫌いが祟るかと思いきや、後藤の生真面目がこれをフォロー……如何にも2人らしくて、恒例の「後藤ちゃん、ナイス!」もいつもの倍はオモロかった!!(笑)

 ただ、戦況は笑ってばかりもいられなかった。次の瞬間カザリメズールガメルのグリード3体が疾風の様にバースに攻撃を仕掛けた。「私は用心深いんです。」と称するDr.真木が伊達の裏切り(?)に備えていたのだろう。グリード達は三位一体攻撃を加え、バースは変身を解除された。
 すかさず映司はOOO・サゴーゾコンボに変身し、グリード達に突っかかった。血を吐いて倒れ伏す伊達に、戦闘も忘れて駆け寄る後藤だったが、伊達はそんな後藤に「俺を死なせないってやつ…シビれた…。」と力なく呟いた。今病院に連れて行くと半狂乱で告げる後藤に「医者ならここにいるっつーの。」と伊達らしい返しをするものの、声の力は低下する一方だった。そして「後藤ちゃんが受け継いでくれれば俺は死なないってことだ…そうだろ?」と確認するよう問いかけると、まだ彼が必要だと必死に叫ぶ後藤に「自分を…信じろ…。」と告げて両眼を閉じた……………果たして、本当に力尽きたのか………?

 その頃、廃工場外でグリード3体を相手に戦っていたOOOだったが、タジャドル並みに強力なサゴーゾコンボをもってしても、1対3では徐々に劣勢に、そして変身解除にまで追い込まれた。
 するとそこにゆらりと現れたのはバースシステムを引っ提げた後藤。無表情ながらも勇壮な仮面ライダーバースの戦闘テーマ曲・『Reverse / Re:birth』(作詞:藤林聖子/作曲・編曲:Tatsuo / 歌:伊達明&後藤慎太郎(C.V.岩永洋昭&君嶋麻耶))をBGMに歩む後藤は、伊達に一緒に戦ってくれと呼び掛けるように呟き、仮面ライダーバースに変身した!
 マニュアル好きを自称していただけあって、二代目バースはカッターウィングを広げてグリード達に飛び掛かると、男塾張りの上段優位とヒット&アウェイでグリード達に次々と打撃を加えた。
 その攻撃は戦闘支援用ユニットだけでなく、ショベルアームによって破壊された瓦礫の雨を食らわす方法まで混じり、アンクをして、「伊達よりひどい…。」と云わしめるラフファイトまで駆使したものだった。
 これまでオーソドックス一辺倒だった後藤の意外な一面を駆使したラフな攻撃と、マニュアル熟読者らしいユニット応用にグリード達は手も足も出ず、フル装備したバース・デイによるブレストキャノンシュートを食らい、何枚ものコアメダルを吐き出してしまった(勿論漁夫の利を得たのはアンク(笑))。
 結局、アンク(ロスト)の助け(翼による起こされた赤い、巨大つむじ風)を受けて撤退したのだった。

 戦いを終え、ようやく伊達の異変を知った映司。後藤ほどでもないが半狂乱になってその体を揺り動かすと、伊達は眼を開けた。生きていたのは良いが、吐いた台詞が「あ、云い忘れた。退職金、俺の口座に振り込んどいて。」だから、アンクならずとも「バカか。」と云いたくなる、人を食った話だった(苦笑)。
 ともあれ、伊達は鴻上会長から、「(Dr.真木説得に)失敗はしたが最初の約束した通り危険手当」「後継者後藤君を育ててくれた報酬」「退職金」で計5000万円を支給された。勿論これだけでは届かないのだが、伊達には Dr.真木から貰った前金5000万があったので、目標の1億円は到達したのだった!
 この伊達の抜け目なさは鴻上会長好みだろう。「素晴らしいッ!君の欲望ミッションコンプリートだ!おめでとう!」と伊達の手を取って祝福。何故か一緒に両手を握らされていた里中が本気で嫌そうな顔をしていたのが笑えた(笑)。

 ラストシーンは成田空港。目標とした手術代を獲得し、バース後継者も育て得た伊達明は手術の為、海外いる闇医師の元へ旅立った。見送りに来たのは映司、比奈、アンク(後藤はバース後継者として特訓の時間を惜しんだことと、必ず生きて再会することを誓う意味で敢えて見送りに来なかった)。
 映司と比奈の励ましに「生き残らなきゃ学校も作れないからな。」と返した伊達は映司にかつての欲を思い出す為にもいつかは海外に来い、と告げた。そしてアンクには、「おいアンコ、別れの言葉くらいないのか?」と呼び掛けた。
 それに対する返事は、「俺はアンクだ。」(←正しい(笑))で、実に彼等らしい挨拶(?)を交わして、伊達は機上の人となった。
 OOOと二代目バースの今後の戦いや如何に?といった緊張を秘め、以下次週へ。


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令和三(2021)年五月五日 最終更新