仮面ライダーW全話解説

第10話 Sな戦慄 / 名探偵の娘

監督:柴崎貴行
脚本:三条陸
 2対1の戦いでWを追い詰めるナスカ・ドーパントスイーツ・ドーパントだったが、スイーツ・ドーパントに共闘の意志は無いらしく、三つ巴の図式で三者睨み合いとなったその時。突然周囲の空間が暗転した。
 形容し難い恐怖と不快感、更に地面から溢れ出すドロドロとした黒い物体を危険と感じたWは、そしてナスカ・ドーパントスイーツ・ドーパントも黒い物体を避けるようにその場を撤収した。

 変身を解除した翔太郎はまだ体の震えが止まらず、フィリップは「敵の根源」ではないか?と推測した。正に琉兵衛はテラー(恐怖)だった。
 一部始終を見ていた琉兵衛は直後に家族の前で使用人の中に「一般ドーパント」が紛れていると推測したが、同時にこれを放置すると宣言した。
 冴子は「消しますか?」と提言したが、組織の秘密を知る使用人は少ない状況で事を荒立てる必要はない、というのが琉兵衛の判断だった。
 琉兵衛の決定に不服の冴子は霧彦に不審者を夫婦で片付けることを持ち掛けた。共に琉兵衛に内密で独自の企みを遂行しそうな気配だった。

 一方、麻衣の身を案じる亜樹子に対し、麻衣は「怪物の正体」が解明することで父や他のパティシエ達が見つかる可能性を見据え、逃げることを拒否した。
 だがそんな展開と亜樹子に対し、翔太郎は烈火の如く怒った。「ドーパントがいることにも気付かないで何が潜入捜査だ!おやっさんは依頼者を危険な目に遭わせることは絶対にしなかったぞ!」と怒鳴り付けた。
 それに対し、亜樹子は意外にも殊勝な態度で謝罪した。
 項垂れながらの「ゴメンなさい…私…羨ましかったのかも…翔太郎君が。私、お父さんとの思い出、あんまりないから。一番長く一緒に居れたのは小さい頃だったし……。」と云う台詞に翔太郎もそれ以上怒れず、自分が功を焦って依頼者を怪我させたときの話を始めた。
 その時翔太郎はおやっさんに殴られ、「依頼者を危険な目に遭わせるなんて探偵以前に人間としてクズだ!自分を頼ってやってきた人間なんだぞ!」と怒られたことと、その姿を怖がりつつも尊敬し、憧れたとのことだった。
 さすがに亜樹子も強く心を打たれ、このタイミングに意を決した翔太郎は、おやっさんの死を亜樹子にカミングアウトしたが、その時には既に亜樹子の姿は麻衣の元に向かっていた。
 真剣に思うところはあったのはいいが、直情的過ぎるところは変わっていなかった(苦笑)。

 自分を頼った麻衣のために何とかしようとし、琉兵衛にスイーツタイムのサプライズに屋敷の使用人の全員参加を取り付ける亜樹子。
 「パティシエ」、「浅川雄三」、「浅川麻衣」に加え、「”舌先を駆け巡る極彩色の甘美”」から容疑者を検索して割り出したフィリップ。
 亜樹子の行動を呆れつつも、風都博物館を探る翔太郎。
 三者三様に自らの行動に専念する中、翔太郎は突如、琉兵衛に話しかけられ、隙を突かれたようなタイミングに驚きを隠せなかった。
 「風都博物館館長・園咲琉兵衛です。」と名乗り、「地球に刻まれた記憶」を称える琉兵衛の台詞に、翔太郎は展示物がTレックス、アノマロカリス、マグマ岩礁……とドーパントの素体となった存在であったことに気付かされた。同時にほんの数秒間に琉兵衛発する底知れぬオーラに気圧されるのであった。

 翌日、琉兵衛は亜樹子との約束通り使用人全員を招いてのスイーツタイムを開催。そこへ亜樹子が遅れて登場する。突如メイド服を脱ぎ捨て、探偵スタイルでパティシエ連続誘拐事件の犯人がこの中にいる、と宣言。
 CMを挟むというベタな引っ張りの後に亜樹子が口にした容疑者はメイドの一人、城塚だったが、その証拠が「なんか丸っこいしお菓子好きだし」というひどいもの
 当然話にもならず、一同が呆然としたり、失笑したりで、白ける中、スイーツのサプライズを期待していた琉兵衛が一際落胆。そこへ亜樹子が「はい、このお菓子は全て私がテキトーに作ったものです」とカミングアウトした途端、使用人の一人が突然皿を落として苦しみだした!
 同時に窓の外から様子を伺っていた翔太郎にも、フィリップからスイーツ・ドーパントの正体を突き止めたとの連絡が入った。
 犯人は先輩メイドのもう片方、佐々木由貴子だった。彼女は雑誌のスイーツランキングを書いていたライターで、「舌先を駆け巡る極彩色の甘美」とは佐々木のお得意のフレーズだった。
 その佐々木は「黄金の舌先」を自負する自分が亜樹子の素人作りのクソ菓子を食べさせられたことに逆上し、スイーツ・ドーパントの正体を現し、亜樹子と麻衣を体内に取り込んで逃走したのだった。

 当然メイド達はパニックに陥ったが、園咲ファミリーは平然(笑)。冴子と霧彦は前約通り、2人してドーパントに変身し、スイーツ・ドーパントを追う翔太郎の前に立ちはだかった。
 ナスカ・ドーパントは再会に驚き、タブー・ドーパントは「お久しぶりね。私のこと忘れてないわよね?」と問いかけた。勿論ビギンズナイトの時のことを言っているのである。
 翔太郎とフィリップはWに変身して、拉致された麻衣と亜樹子を救う為にスイーツ・ドーパントを追いたいところなのだが、夫婦コンビが邪魔をする。
 幹部2人を同時に相手にするのは無理があると見たWはハードボイルダーでその場を逃れたが、タブー・ドーパントはきつい口調で夫に追跡を命じた。
 だが結局逃げられた夫に、「それでもナスカメモリの所持者なの!?この役立たず!」と罵り、攻撃まで加えた。

 その頃、亜樹子達はスイーツ・ドーパントのアジトに連れ込まれていた。そこには他の行方不明となっていたパティシエ達(勿論、麻衣の父も)いて、佐々木はスイーツを味わうことと作ることのギャップに苦しみ、自分だけが究極のスイーツを堪能する為にパティシエ達を拉致していたことをカミングアウトした。
 そして拉致して来た者の中で唯一人パティシエでない亜樹子を邪魔者とばかりに殺害せんとしたが、亜樹子の服には翔太郎が予め発信機をつけていたことで、Wがタイミングよく追いついた。
 狼狽えたスイーツ・ドーパントは麻衣を人質にしようと彼女を抱き寄せようとするが、そこへ近くに在った椅子を持った亜樹子が乱入し、渾身のフルスイングでスイーツ・ドーパント殴り飛ばすと、それをキッと見下ろし「アタシの依頼人に…指一本触れるなぁっ!」と吼えた。

 その鬼気迫る姿に翔太郎が見出したのは在りし日の鳴海荘吉の姿で、翔太郎はドーパントをもビビらす亜樹子の鬼気迫る迫力に、”名探偵の娘”・鳴海亜樹子を見たのだった。
 さすがにこれは現時点で間違いなく本作屈指の名シーンである。
 翔太郎も素直にこれを褒め、後は自分に任せろとヒートジョーカー形態でのマキシマムドライブという、真っ二つに割れた身体で左右から交互に相手をブン殴るという初披露の必殺技でスイーツ・ドーパントを撃破した。

 事務所でのラストシーンにて翔太郎は事務所の親分気取りの亜樹子に「今はこれでいい。」と思い、彼女には彼女の強さがあることを認め、いつかビギンズナイトのことを伝える為にも、自分の方こそ強くあらねばならないと認識した。
 そしてその頃、園咲邸では若菜が冴子に対して彼女の「婿」を嘲笑い、冴子は苦々しい表情で「仕置き済み」と答えた。件の霧彦はシャワー室と思しき場で背中に痛々しい痣を浮かべ、全裸で立ち尽くしていたのだった。


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平成三〇(2018)年六月八日 最終更新